表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

11話 ラナァ、見つかる


 ラナァは日が暮れるまで人間たちとお話をした。

 アビスの登場で神殿は一時騒然としていたが、今はもう落ち着いている。

 別の小屋で告解をしていた助祭や司祭は緊急会議に出かけたので、話を聞いて欲しい人たちがラナァの小屋の前に列を作った。


 もちろん、ドラゴンに怯えて逃げ帰った人たちもいるので、数はそこまで多くない。

 それはそれとして、ラナァは最後の1人との会話を終えた。

 ラナァと話した全員が満足して小屋を出た。

 出たのだけれど。


「人間の考えること、分かんねぇぇぇぇ!」


 ラナァは葉っぱを2枚、ギュッと握って壁を叩いた。

 壊れないように手加減して叩いたのだけど、壁にヒビが入る。


「あわわ……」


 ラナァは急いで【リペア】魔法で壁を修復。

 サービスで小屋に【クリーン】もかけておく。

 そして「ふぅ」と息を吐き、葉っぱで額の汗を拭う動作をした。

 まぁ、ラナァに額はないし、そもそも汗もかかないけれど。


「いやぁ、人間って本当に複雑だねぇ」


 あるいは、物事を複雑に考える天才。

 人間は研究対象としてはそれなりに面白い、とラナァは思った。


「とりあえず、かーえろっと」


 ラナァは魔法で小屋の札を『クローズ』に変える。

 それからパッと【転移】してイリナの部屋へ移動。

 イリナはスヤスヤと眠っている。


 ラナァはモゾモゾと布団の中に入って、イリナに抱き付いて目を瞑る。

 正しくは、魔力感知による視界を閉じる。

 そして眠りに落ちた。



 王都、中神殿の会議室。


「つまり、ドラゴンは少女を誘拐して去ったのだな?」


 あらゆる報告を受けた大聖女ディアが、確認のために言った。

 司祭が頷く。

 ちなみに、会議室には大きな円卓が置かれている。


 座っているのはディア、イリナではない聖女、司祭、助祭が数名と聖騎士隊の隊長と副長。

 隊長はイリナの護衛を務めた彼だ。

 本来なら聖女イリナもこの会議に参加するはずなのだが、残念ながら彼女は夢の中だ。


「少女について、もう一度聞かせろ」とディア。


「何の変哲もない、孤児の少女です。名前はシエル」


 言ったのは聖騎士隊の副長。

 この副長が、少女について調べたのだ。

 ディアは長い息を吐いた。


「なぜ、ドラゴンが、孤児の少女を、攫うのだ?」


 ディアは短く区切りながら、強い口調で言った。

 みんなが首を横にふる。

 本当に分からないのだ。


「では誰かイリナを知らないかい?」とディア。


 またまたみんなが首を振る。


「念環に応じないのだよ、彼女……」


 ディアは酷く疲れた様子で言った。


「自分が探しましょうか?」隊長が言う。「やはり彼女に何かあったと考える方がいいのでは?」


「例の白い花飾りか……」


 ディアも気になっていたのだ。

 イリナは自分を飾り立てるタイプではない。

 しかし、今日のイリナは胸元に大きな白い花を飾っていた。


「ええ」と隊長が頷く。


「みなにも共有しておこう」


 ディアはイリナの様子がおかしいことを説明。


「バカな……イリナが辞めると言い出すなど」と司祭。

「イリナ様は聖女の中の聖女、辞めるなど……」と助祭。


「聖域の調査中に白い花に取り憑かれた、と考えるのが妥当かねぇ」


 ディアは疲れた様子で言って、円卓に置いていたキセルを手に取った。

 マッチを擦って火を点けて、キセルの煙を吸う。


「まぁ、本当にあの花が原因かは不明です」隊長が言う。「あくまで可能性の1つです。世話係の報告では、イリナ様は胸元の花を愛おしそうに撫でていたとか」


「寄生生物か、そういう魔物の可能性もありますね」と副長。


「イリナの件だけでも頭が痛いというのに」ディアが首を振る。「その上、見たこともない黒いドラゴンの出現……何が起こっているというのだ」


「ひとまず、大神殿にはわたくしが報告しておきますので」司祭が言う。「ディア様はイリナの安否確認を、聖騎士たちでドラゴンの件の調査を進めてください」



 誰かがドアをノックしたので、ラナァは目を――魔力感知による視界を再開した。


「ふぁあ、よく寝た」


 ラナァは別に寝なくても生きていけるので、どれだけ寝ても特に変化はない。

 あくまで睡眠は趣味なので、時間が短かろうが長かろうが関係ない。

 だから全て「よく寝た」となる。

 ラナァはベッドから降りて、サササッとドアの前まで移動する。


 この時のラナァは何も考えていなかった。

 寝ぼけているわけではない。

 なんなら、ラナァは普段から何も考えていない。

 再びノックの音。


「はぁい! 今開けるよぉ!」


 ラナァは根っこを伸ばしてドアノブを動かす。

 開いたドアの向こうに、ディアが立っていた。



 ディアはとりあえず、イリナの部屋へと向かった。

 そしてドアをノック。

 返事はないが、何かが動いたような気配があった。


「寝ていたのか?」


 呟いて、もう一度ノック。

 中から返事が聞こえたが、聞き覚えのない声だった。

 鈴のように美しく、爽やかな森を思わせるような雰囲気の声。

 ドアが開いて、そこに立っていたのは白い花だった。


 花が、立っている?

 え?


 しばらくの間、ディアは白い花と見詰め合う。

 不思議だ。

 花に目はないはずなのに、なぜか見詰め合っていると感じた。

 そして。


「……白い花ぁぁぁああああああああああああ!」


 ディアは仰天して叫んだ。

 やはり魔物か何かだったのか、と。


「ラナァはラナァだよ」

「喋ったぁああああああああああああ!」


 ディアは再び仰天して、大袈裟に飛び上がった。

 ススッと白い花――ラナァが2歩ほど前進。


「動いたぁぁぁぁぁぁああああ!」


 ディアは勢いよくバックステップして、廊下の壁に背中から貼り付いた。

 ちょっと背中が痛かったけれど、気にしている場合ではない。

 最悪、戦闘になるかもしれないとディアは思った。


「ラナァは喋るし動くよ」


 言いながら、ラナァは葉っぱを振った。


「なんか可愛いいいぃぃぃぃぃぃい!!」


 ディアは素直にそう思った。

 思ったのだけれど、警戒は解かなかった。

 まだ正体が分からないのだから当然だ。


「大聖女のディアでしょ?」とラナァ。


「ディア様を知っているのか?」

「うん。イリナと話してたでしょ、今日の昼間」

「……やはり、お前はイリナの胸元の花か」

「そう。ラナァだよ。お前じゃないよ」

「……どういう存在なのだ、ラナァは」

「お花だよ」


 沈黙。

 そんなのは見たら分かる。

 ラナァが花でなければ、何が花なのか。


「魔物なのか?」

「分かんない。でも元気な花だよ」


 確かにとっても元気がいい、とディアは思った。


「なんです、騒がしい……」


 眠そうに目を擦りながら、イリナが歩いて来た。


「ディアが来たよ」とラナァ。


「なんですかディア様。あたくしの進退が決まりましたか?」

「いや、お前、それより、ラナァとどういう関係だ?」


 ディアはイリナを見て、ラナァを見て、またイリナに視線を戻した。


「親子ですが?」とイリナが真面目に言った。


 ディアは一瞬、呆けた。

 イリナが何を言ったのか理解できなかったのだ。

 というか、誰も理解できなくね? とディアは思った。


「あ、てゆーかラナァ、ディア様に見つかっちゃったんですね」

「うん。ダメだった?」


「いいえ」イリナが首を横に振る。「ディア様はアホですけど、非道な方ではありませんので問題ないですよ。説明が面倒ですけど」


「お前、今、ディア様のことアホって言ったのかい?」

「言ってません」


 イリナがキリッとした表情で言った。

 ああ、ディア様の気のせいか、と一瞬だけ思い直してしまう程度にはキリッとしていた。


「お前、辞めるとなったら急に口が悪くなったじゃないか」


 苦笑いのディア。

 肩を竦めるイリナ。


「それで、何の用です?」

「色々と聞きたいことがある」


 ディアはラナァをジィーっと見ながら言った。


「ダメです! ラナァはあげません!」


 イリナは急いでラナァを抱き上げた。


「……別に取らないから……中に入っても?」

「……いいですけど」


 イリナは警戒したままだったが、ディアを室内に入れた。

 さて何から聞くべきか、とディアは思い悩んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ