表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

10話 アビス、娘を育てる


「比較するとどうして不幸なの?」ラナァが言う。「あーちゃんはあーちゃんだし、ラナァはラナァだし、パメラはパメラだよ? アビスはラナァより大きいけど、ラナァもアビスも不幸じゃないよ?」


「そうだよね。ラナァは全てをフラットに見ているし、そのまま受け取るから、理解できないかも」あーちゃんが少し悩みながら言う。「人間という生物は、比較した上で、どちらが良いかを判断するのね。そして自分が良い方じゃなければ、不幸だと感じる」


 ラナァはグールグルと首(茎)を捻った。


「それ故に、人間は覇権を取れたんだけどね」あーちゃんが肩を竦める。「場合によってはその比較が、もっともっと、という向上心として働くの」


 それはラナァにはないものだ。

 ラナァは今に満足していて、今以上これ以上を求めることはない。


「人間って複雑なんだね」

「そう。あーちゃんは世界をシンプルに創ったけど、人間たちが勝手に複雑にしちゃったってわけ。自分たちの思考すらもね」


 やれやれ、とあーちゃんが両手を広げて首を振った。


「あ、本体ラナァたちが解決策を見つけたみたい。ばいばい」


 ラナァは葉っぱを振って姿を消した。


「ああ! なんてアッサリしてるのラナァ! あーちゃんは寂しいよ!」



 少し前。


「そんな感じで、ラナァ悩んでるの」


 本体ラナァが言った。


「ラナァを悩ませる人間など、ワシが滅ぼすか?」とアビス。

「妾も手伝うのじゃ! お気楽なラナァが悩むなんて! 人間死すべし!」とパメラ。


 アビスはラナァの近くに伏せていて、パメラはラナァの周囲を飛び回っていた。


「ん? ラナァは悩んだことないから、悩むの楽しいよ?」


 キョトンとした様子でラナァが言った。


「ラナァを喜ばせるとは、人間は繁栄するべきだな」とアビス。

「その通りじゃ! ラナァが楽しいなら妾は何でもいい!」とパメラ。

「それで女の子へのアドバイスどうしたらいい?」とラナァ。


「ふむ。ここはワシに任せよ」アビスが胸を張って言う。「要するに、その子は親が欲しいのだろう。で、あるならば、このワシが親になっても良い。ラナァを楽しませた人間だから、ワシが後ろ楯になってやろう。そうすれば、いじめられることもあるまい」


「ついでにここで暮らせるようにすればさぁ」パメラが人差し指を立てて言う。「そのうち幸せであることの意味、理解できると妾は思うのじゃ」


「分かった。一緒に暮らすか聞いてみるね!」


 ラナァが活き活きとして言った。


「では迎えに行くか」


 アビスは背伸びがてら翼を広げ、そして大空へと羽ばたく。


「まだ相手の了承、貰ってないのじゃ……」とパメラが呟いた。


 しかしアビスはすでに飛び去っていた。



 同じ頃。

 ラナァたちから少し離れた場所で、妖精たちにリンゴを与えられたグリフォン2匹が感動の涙を流していた。

 ラナァの悩みとは関係のないことだが、グリフォンたちが食べたリンゴは、ラナァの魔力を吸収して神物と化した奇跡のリンゴだったのだ。


(魔力が増えるぅぅぅ!)

(リンゴを食べただけで、レベルが上昇した……)


 グリフォンたちはしばらくここにいれば、超強くなれるのでは? と思った。

 なんせ、呼吸するだけで身体中に魔力が満ちるのだ。

 小川の水はまるで聖水のようだし、草木の1本までもが活力に満ちている。

 ここは聖域の中の聖域。

 いや、神域と呼ぶに相応しい場所だ、とグリフォンたちは思った。



「お花の聖女様……?」


 ラナァが沈黙していたので、少女は少しビクビクした様子で言った。


「うん。アビスがお父さんになってくれるって」

「え?」

「アビスじゃダメ?」

「あ、いえ、その、アビス様とは一体……」


 少女は酷く困惑していた。


「アビスはドラゴンだよ」

「ドラゴン!?」


 少女はビクッと身を竦める。


「親がいないのが嫌なんでしょ?」ラナァが言う。「だからアビスが親になるって言ってるけど、どうする?」


「あ、あたしはドラゴンになるんですか……?」

「んーん、あなたは人間でしょ? ドラゴンにはなれないよ?」


 ラナァは淡々と事実を述べた。


「あの、えっと、お花の聖女様は、ドラゴンとお友達なのでしょうか?」

「そうだよー。一緒に住んでる」

「一緒に!?」


 少女は目を丸くした。


「あなたも一緒に住む予定」

「ええ!?」

「嫌なら別にいいよ。ただ、ラナァはこれ以上あなたに助言できないかも。人間は複雑すぎて、ラナァちょっと理解できない」


 分からないものは分からないのだ。

 それはいつか、ラナァの成長とともに理解できるかもしれないし、永遠に納得できないかもしれない。

 でも、そんなのはラナァにとってはどっちでもいいことなのだ。

 どっちにしてもラナァは幸せなのだから。


「聖女様は、まるで自分が人間じゃないみたいに言うんですね……」

「ラナァ人間じゃないよ? お花だよ?」


「……はぁ……」と少女。


 小部屋は仕切られているので、ラナァと少女はお互いの姿を確認できない。

 まぁ、ラナァは魔力感知で少女の容姿を認識しているけれど。

 と、外が騒がしくなった。


「アビスが来たよ」ラナァが言う。「外に出て手を振って」


「え? 本当にドラゴンが来たんですか!?」

「うん。どうする? 帰ってもらう?」


 ラナァが言うと、少女は目を瞑って少し考えた。

 それから、小さく息を吸って、吐いて、そして目を開く。


「行きます。どうせあたしは、今のままじゃ不幸ですから」


 言って、少女は小屋の外へと出た。

 そうすると、空に巨大な黒いドラゴンが滞空していた。

 ぶっちゃけオシッコ漏れるぐらい怖い、と少女は思った。

 周囲の人間たちも、座り込んでガクガクと震えていた。

 聖騎士たちが集まってきたけれど、みんな武器を持つ手が震えている。


(こ、怖すぎるんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)


 少女は心の中で叫んだ。

 黒いドラゴンは本当に、本当に凶悪な見た目をしているのだ。

 パッと見て感じたのは、「こいつ人類とか平気で滅ぼしそう」である。

 ドラゴンは下を見ながらキョロキョロしている。


(あたしを探してるんだ……手を振らなきゃ……)


 ビビりながらも、少女は右手を上げて大きく振った。

 それを見たドラゴンが満足そうに頷き、前足の指を少女に向けた。

 そうすると、少女の身体が宙に浮く。


(ひぃぃぃぃぃ!)


 少女は心から怖いと思ったけれど、不幸から脱却するためなら耐えてみせると拳を握った。


「お主がラナァの言っていた少女か?」


 少女がドラゴンの顔の前まで浮くと、ドラゴンが言った。

 少女はコクコクと頷いた。


「いいか、今日からワシがパパだ」


 ドラゴンは真剣な様子で言った。


「どうした? パパと呼ばんか」

「……パ、パパ?」

「うむ。我が娘よ、よろしく頼むぞ。まずはお前をいじめた連中を滅ぼしに行くか?」


 ドラゴンが邪悪な笑みを浮かべる。

 少女は超高速で首を横に振った。

 そんな恐ろしいことは望んでいない。

 これっぽっちも望んでいない。


「ふむ。では早速、レアに戻るぞ」

「……あ、あの……レアって何ですか?」

「ワシの住んでいる場所のことだ。竜の巣のことをレアと呼ぶのだ」


 ドラゴンが言うと、少女はドラゴンの背中へと移動。

 少女の意思ではなく、ドラゴンが移動させたのだ。


「ゆっくり飛ぶが、しっかり掴まっていろ」


 言って、ドラゴンが飛翔。

 少女は泡をふきながら気絶したいぐらい怖いと思ったけど、耐えた。

 でも漏れた。

 それは仕方ない。

 そして。


「やっほー! ラナァだよぉ!」


 ドラゴンの住処に到着すると、グラサンをかけた白い花が葉っぱを振っていた。


「ラナァ様!?」


 少女は酷く驚いた。

 だって、その白い花の声は聖女ラナァの声とまったく同じだったから。

 ああ、もう何がなんだか分からない、と少女は思った。


「まずは【クリーン】じゃ」生意気そうな妖精が言う。「この子は薄汚れておるし、漏らしておるのじゃ」


(ノンデリ!)と少女は思った。


 生意気そうなノンデリ妖精が【クリーン】魔法を少女にかける。

 そうすると、少女はあっという間に綺麗になった。

 全ての汚れが落ちて、ボロボロだった肌がツヤツヤになって、ボサボサだった髪がしっとりなめらかに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ