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【累計9000PV達成!】半ドワーフに転生〜揺り籠の中で壊れた戦斧の声を聴いた俺は、家族を壊した罪を背負い、姉を救うため工匠になる〜  作者: 鳳梨酥
『前日譚』:赤ん坊の俺には魔法が「バグ」にしか見えない —物理学で異世界の法則をデバッグし、魔導産業革命の「準備」をしておく
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第四章:代価(コスト)

 弾むような高揚感が、アーガスの意識を無理やり浮上させていた。

 心の中は、まるで超難解なパズルを解き明かした天才のような全能感で満たされていた。


(簡単じゃないか? 基礎知識ベーシックさえ理解していれば、造作もないことだ!)


 彼は脳内で、ある光景を描き出す。

 前世のトップエンジニアとしての論理、そして優越感に満ちた口調で、家族に向かって高らかに宣言する自分を。


 だが、いざ口を開こうとすると、喉から絞り出されたのは情けない「あー、うー」という鳴き声だけだった。

 失敗だ。

 この乳児という身体は、完全に彼の意志を裏切っていた。


 アーガスはこの理不尽な無力さを笑い飛ばしたかったが、笑い声さえも心の中で反響するのみ。

 まるで膨大な知識を持ちながら、言葉を奪われた学者のように。

 すべての知恵は、無言の叫びとなって消えていく。


 その直後、重く濃密な倦怠感が再び襲ってきた。

 まるで電源の切れた機械のように、意識が深い泥沼へと引きずり込まれていく。


 瞼が重い。

 先ほどの「神の御業ミラクル」と呼べるほどの操作が、この幼く未熟な身体の微弱な魔力を、一滴残らず搾り取っていたのだ。

 抗おうとしたが、身体は言うことを聞かない。

 母サラの温かい腕の中で、意識は純粋な闇へと落ちていく。


「あっ! どうしたの!?」


 姉アイリーンの悲鳴。

 そして家族たちの呼びかける声が遠ざかっていく。


 これは通常の眠りではない。

 彼の魂は理解していた。

 これは魔力の過剰消費による、身体を守るための強制的な休止状態だ。

 自身の無謀な行いが招いた反動を、この脆弱な身体が黙って引き受けているのだ。

 子供が身の丈に合わない大荷物を持ち上げようとして、ベッドに倒れ込むように。


 嵐。

 荒れ狂う戦場の光景が、夢の中に広がった。


 鼓膜を引き裂くような暴風音。

 空気中にはオゾンと、焦げた金属の刺激臭が充満している。

 戦場の中央に、ぼやけた人影が立っていた。


 その手には、《風暴雷霆戦斧ストーム・サンダーアックス》。


 斧刃が空を切り裂くたび、青白い風のウィンド・ブレードが生まれる。

 それは鉄塔のような鋼鉄の巨人と、血肉が融合したグロテスクな怪物を無慈悲に両断していく。

 怪物は人ならざる断末魔を上げ、血と鉄の破片が風に乗って飛び散る。


 戦斧に埋め込まれた青い宝石サファイアは虹色の光を放ち、斧身のルーン文字は白昼のように輝いていた。

 その影が戦斧を振るう動作は、迅速かつ優雅。

 一撃一撃が、世界を破壊するほどの威力を秘めている。


 アーガスはその顔を見ようと目を凝らしたが、捉えられたのは不屈の意志を燃やす瞳だけだった。


 やがて夢の景色が乱れ始める。

 壊れかけた映写機のように明滅する世界。

 夢の奥底で、低い声が未知の言語を呟いた。

 彼を呼んでいるようでもあり、警告を発しているようでもあった。


 青い宝石の回路図が脳裏に焼き付く。

 それは欠けた楽譜のように、彼による完成を待っていた。


 だが、夢の最深部で、何かがアーガスを待っている。

 それは古の意志。

 温かくも危険な、眠れる巨龍が片目を開いたような気配――。


 ……どれほどの時間が過ぎたのだろう。

 アーガスはゆっくりと目を開けた。


 揺りかごの羊毛の毛布が、温かく彼を包んでいる。

 暖炉の炎はまだ揺らめいているが、部屋の空気は以前とは決定的に異なっていた。

 鼻を突くのは濃厚で苦い薬草の匂いと、布が湿ったようなカビ臭さ。


 そして何より、いつもの心音のような鍛冶仕事の鎚音つちおとが消えている。

 鍛冶場の方角は、完全な静寂に包まれていた。

 この家はまるで凍りついた花のようだ。外見は形を保っているが、中身はすでに枯れてしまっている。


 父、ブレイクは木製の椅子に腰掛けていた。

 その手には《風暴雷霆戦斧》が握られているが、彼はただ光を失った青い宝石を見つめていた。

 背中は見えない重圧によって押し潰されそうだ。

 かつて鋼鉄を従えた太い手は力なく斧柄に置かれ、爪の間には石炭の粉ではなく、乾いた薬のかすが詰まっている。

 油で汚れ、白髪の混じった髭。

 その姿は、かつて雄大だった山が、歳月と苦痛によって削り取られ、瓦礫の山と化したようだった。


 母、サラは揺りかごの傍らに座り、湿った布でアーガスの額を拭っていた。

 その顔はやつれ、頬骨が浮き出し、唇は乾いている。眼窩は深く窪んでいた。


 彼女がアーガスの目覚めに気づいた瞬間、その疲れ切った瞳が限界まで見開かれた。

 死刑囚が赦免の鐘を聞いたかのような狂喜が、その目から溢れ出す。


「ブレ……ブ、ブレイク! アーガスが……目が覚めたわ! 光明神に感謝を……! あなた……やっと……!」


 サラの声は歓喜で震え、窪んだ瞳から涙が決壊した。

 熱い雫がアーガスの頬に落ちる。


「アイリーン、急いで! お医者様を!」


 サラの叫びに応じ、アイリーンが木の棒を放り出して矢のように部屋を飛び出して行った。

 入り口に立つ兄、トール。

 手の中で握りしめられた鉄片が、ギチギチと悲鳴を上げている。

 その粗野な顔には、複雑で読み取れない感情が走っていた。


(これが……家族……)


 その瞬間、アーガスは理解した。

 血縁や義務ではない。互いのために全てを捧げること。

 それが、この世界における「愛」の形なのだと。


 扉が荒々しく開かれ、アイリーンが白髭の老ドワーフ医師を連れて飛び込んできた。

 医師は重そうな薬箱を提げ、サラに引かれるように揺りかごへ。

 彼はアーガスの瞳を確認し、心音を聞く。

 古井戸のように感情のなかった医師の顔に、驚愕の色が浮かんだ。


 彼は顔を上げ、ブレイクとサラを見て、しわがれた声で告げた。


「奇跡だ……まさに神の御業(奇跡)だ! 丸一ヶ月もの『魔力枯渇症』による昏睡から目覚めるなど……!」


 一ヶ月。

 その言葉は、重いハンマーのようにアーガスの胸を打ち砕いた。


(一ヶ月も……?)


『簡単じゃないか? 基礎知識さえあれば』


 あの時の得意げな思考が脳内で再生され、目の前の惨状と強烈な対比を描く。

 父の白髪、母のやつれ、兄姉の瞳に宿る恐怖。

 自分の「技術的な見栄」が、この家にどれほどの代償を支払わせたのか。


 医師が去った後、部屋には重苦しい沈黙が降りた。

 助かったという安堵は、あまりにも重い現実によって押し潰された。


 ブレイクが立ち上がり、暖炉のそばへ。

 湯気を立てる土鍋から、強烈な苦味を放つ薬湯を椀に注ぐ。

 彼はそれを持って近づいてきた。その声は太く荒いが、どこか力がない。


「ふん、悪ガキめ。起きたならさっさと飲め。お前の命を繋ぐために……本来なら王へ納めるはずだった『竜の税』は、ほとんどお前が飲み干しちまったんだぞ!」

「……っ」

「来月、あの金を納められなきゃ、この工房ごと没収されるかもしれんのにな」


 トールが歩み寄り、部屋の隅に置かれた、死んだように動かない戦斧へ視線をやった。

 その目には恐怖の色が混じっている。


「あいつだ……お前が倒れてから、徐々に光が消えていった……」


 独り言のように呟くトールの手の中で、鉄片がさらに強く握りしめられる。


「俺たちは思ったよ……あの斧が、お前の魂ごと吸い尽くしちまったんじゃないかって……」

「毎日、弟に話しかけてたの……怖かった……。もう二度と目が覚めないんじゃないかって……」


 アイリーンの目が赤く染まり、鼻声が混じる。

 彼女はアーガスに顔を寄せ、その頬を恐る恐るつついた。


 その時だ。

 アイリーンが深く息を吸い込み、立ち上がった。

 まだ十歳の、細く小さな体。

 顔には涙の跡が残っているが、その瞳は異常なほど静まり返っていた。


 彼女は懐から木製のバッジを取り出した。

 そこに刻まれているのは、《冒険者予備校》の新入生を示す紋章。

 彼女はそれを、そっとテーブルの上に置いた。


「父さん、母さん。ギルドへの登録、済ませてきたわ」


 彼女の声は大人びて見せようとしていたが、震えは隠せない。


「明日から、私は見習い。学費は……返金してもらえるから」


 サラが息を呑んだ。

 次の瞬間、彼女は泣き叫ぶように娘を抱きしめた。


「だめよ! あなたはまだ十歳なのよ! まだ子供じゃないの!」


 サラの嗚咽が、アイリーンの長い髪を濡らしていく。

 ドンッ、と鈍い音が響いた。

 ブレイクが拳を壁に叩きつけた音だ。だが、彼は何も言えない。

 その視線はテーブルの上のバッジに釘付けになっている。無力感が津波のように彼を飲み込んでいた。

 誇り高きドワーフの心を折ったのは、最後の一本の藁――この経済的な行き詰まりだった。


 トールはそのバッジを凝視し、やがてアーガスへと視線を転じた。

 その瞳から、かつての温情は完全に消え去っていた。

 あるのは、裏切られた盟友に向けるような冷徹な光。


「……その価値があるんだろうな、弟よ」


 アイリーンがバッジを置いた、まさにその瞬間だった。

 壁際で沈黙していた《風暴雷霆戦斧》。

 その青い宝石に残っていた最後の微光が、パチリ、と音を立てて完全に消えた。


 奇跡の光と、姉の未来。

 その二つが、同時に失われたのだ。


 アーガスはただ、静かにその光景を目に焼き付けていた。

 罪悪感がナイフのように心臓へ突き刺さる。

 あの時の得意げな「簡単じゃないか」。

 その言葉が、今は強烈な平手打ちとなって彼を打ちのめしていた。


(僕の「神の御業」が……父の白髪を増やし、母をやつれさせ、兄の瞳を凍らせ……姉の夢を奪った)


 これは知恵の勝利ではない。

 家族を犠牲にした、敗北だ。


 彼はようやく一つの真理へと到達した。

 本当の力とは、見せびらかすことではない。

 背負うことだ。

 自分がどれほど賢いかを証明することではなく、その知恵を使って、大切な人々を守ることなのだ。


 サラが再び彼を抱き上げる。

 優しく胸を叩きながら、彼女はあの古い子守唄を口ずさみ始めた。


「眠りなさい、眠りなさい、小さな灯火ともしびよ……夢の世界こそが、あなたの帰る場所……」


 その声は震え、限りない疲労を引きずっていたが、それでも変わらず優しかった。


 アーガスは目を閉じた。

 脳裏には、青い宝石の回路図がまだ明滅している。

 だが今、彼はこの温もりに沈み込み、その重すぎる代償を受け入れた。


(償わなければならない。この人生の残りの時間すべてを使ってでも)


 この夜。

 異世界から来たエンジニアの魂は、初めて「責任」と「家族」、そして「愛」の意味を書き換えた。

 彼の本当の成長は、この致命的な過ちを認めることから始まったのだ。

【読者の皆様へ】

もし、私の紡ぐ文章を好ましく思っていただけたなら。

どうかこの静かな旅路を、もう少しだけ共に歩んでくれませんか。


現在の息苦しさや、微かな違和感。

それはすべて、魂を揺さぶる「嵐」を迎えるための準備期間です。


深い沈黙と抑圧の先にある、極上の感情の解放。

暗闇を抜けた先にある光は、必ずあなたの心を震わせるはずです。


最高の読書体験をお約束します。

どうか最後までお付き合いください。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。 台湾出身の作者です。 職人が伝説級の道具(アイテム)を鍛え上げるためには、 技術だけでなく、赤々と燃える「炉の火」が不可欠です。 私にとって、皆様からの応援と☆☆☆☆☆評価こそが、 この物語(アイアンソーン工房)を燃え上がらせる最高の燃料となります。 ぜひ下にある【★★★★★】をタップして、 アイアンソーン工房に火をくべてやってください! それでは、次の章でお会いしましょう!
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