第二十四章:創世記(ジェネシス)上-2
しかし。
彼自身の心に広がった喜びは、数分もしないうちに、骨髄から染み出すような絶対零度の悪寒によって塗り潰された。
家族の狂喜とは対照的に。
アーガスが精神的視野で見ていたのは、勝利の光景ではなかった。
より深く、救いようのない絶望だった。
彼は正面戦争には勝った。
だが、手に入れたのは、放射能で汚染され、二度と住めなくなった焦土だった。
大量の「黒い蛆虫」は、聖光の浄化によって死滅した。
だが、それらは消えたのではない。
ドロドロとした、悪臭を放つ黒い膿血と化し、血管の曲がり角や組織の隙間に沈殿していた。
それは沼地のヘドロのように、頑固にこびりついている。癌細胞のように。
彼の手持ちの武器――『神恩駆散』は、この「死骸」には効果がない。
『水潤』の水流も弱すぎて、この粘着質の汚泥を洗い流すことはできない。
さらに最悪なことに。
焼き尽くされた魔鋼蠍の毒は、完全には消散していなかった。
残留した毒素成分は、アイリーンの脊髄神経の末端で凝縮し、米粒大の、不吉な紫光を放つ「毒の結晶」へと変質していた。
それらはダイヤモンドのように硬く、神経に突き刺さっている。
この結晶は、最も悪質な棘だ。
聖光という「エネルギーの剣」では破壊できない。
新しく再生した肉は、この棘を避けて歪に癒着するしかない。
それは時限爆弾を埋め込んだまま壁を塗るようなものだ。
戦場は、掃除されなかった。
新しい城塞は、猛毒の瓦礫の上に建てられたのだ。
アイリーンの状態は、最初劇的に改善した後、絶望的な膠着状態に陥った。
顔色は悪化こそしないが、健康な赤みが戻ることもない。薄い死相のような灰色が、彼女の顔に張り付いたままだ。
呼吸は安定しているが、吸気のたびに、毒に阻害されたような微かな摩擦音が混じる。半分詰まったパイプのように。
プロトタイプに搭載した三つの低位魔法は、すでにスペックの限界に達していた。
死を押し留めることはできても、真の「新生」をもたらすことはできない。
大動脈からの出血を絆創膏で止めているようなものだ。延命はできても、根治はできない。
アーガスの心は、再び谷底へと沈んでいった。
彼は痛感した。
自分の知識だけでは――教科書で学んだ、たった三つの初歩的な魔法だけでは、圧倒的に足りないのだと。
(武器が……足りない)
この認識は、冷たい針となって、転生者としての彼の最後のプライドを刺し貫いた。
自分は全能の神ではない。
ただ、少し変わった知識を持っているだけの、怯え、無力に立ち尽くす……ただの弟だ。
時間が砂のように過ぎていく。
アイリーンの容体は窒息しそうなデッドロック(膠着)状態にある。
最初の歓喜は蜃気楼のように消え、家族の顔に再び重い不安の雲が垂れ込め始めた。
「どうしたんだ、アーガス?」
ブレイクが沈黙を破った。その野太い声に、再び焦燥の色が混じる。「なぜ……止まった?」
アーガスは即答できなかった。
彼はベッドサイドに跪き、身動き一つしなかったが、その魂は、誰にも見えない戦場で、誰よりも深い敗北感に打ちのめされていた。
戦争には勝った。だが、敵の死骸が作った毒の沼に溺れかけている。
(僕一人じゃ……無理だ)
この冷徹な自己診断が、彼に一つの決断をさせた。
それは今まで一度も選択肢になかったこと。
転生者としての傲慢な孤独を捨て、本当の意味で、この家族の一員になること。
彼はガバッと顔を上げた。
涙の跡でぐしゃぐしゃになった幼い顔を、家族に向けた。
その声は必死さで掠れていた。
「母さん! 父さん! 兄さん! ……助けてほしい!」
それは彼が初めて、この世界の家族に対して、心からの「救援要請」を出した瞬間だった。
高みから見下ろす天才としてではない。
力不足を認めた、一人の弟、一人の息子として。
家族全員が息を呑んだ。
彼らの知るアーガスは、常に独立独歩で、早熟で、どこか冷めた異物だった。
そんな彼が、これほど無防備に、これほど必死にすがってくる姿を、彼らは見たことがなかった。
その瞬間。
この家の中で、何かが決定的に変わった。
これはもう、たった一人の孤独な戦いではない。
家族全員で挑む、総力戦となったのだ。
【あとがき】
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