第二十三章:試作魔導盤(プロトタイプ・マトリクス)V2.5 -1
涙が乾き、悲しみは氷のように冷たい決意へと昇華された。
アーガスはゆっくりと立ち上がった。
先ほどまで涙に濡れていた瞳は、今や氷結した湖面のように深く、静まり返っていた。
その動作は、何か高次な意志によって制御されているかのように、迷いがなく堅固だった。
家族たちは、先ほどの慟哭の衝撃から抜け出せず、ただ呆然と、この痩せた少年が自室へ向かうのを見送るしかなかった。
ドアが開く軋んだ音が、静寂の中で耳障りに響く。
すぐに彼は戻ってきた。
あの醜悪な『試作魔導盤V2.1』を抱えて。
それはまるで、狂った職人の悪ふざけのような物体だった。
廃材と厚紙を継ぎ接ぎしただけの鉄屑の箱。表面は凹凸だらけで、不揃いな銅線が血管のように乱雑に飛び出し、蝋燭の光を受けて歪な影を落としている。
触れれば崩れ落ちそうなほど、脆く見えた。
だが、このガラクタの塊を見た瞬間、家族たちが抱いていた憐憫は、瞬時に驚愕と激怒へと反転した。
室温が一気に数度下がったようだった。
「何をする気だ?」
トールが最初に沈黙を破った。声が震えている。
彼は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。その目には、制御不能になった弟への恐怖が浮かんでいる。
あの機械――あれこそが、かつて家を吹き飛ばしかけた不吉な代物だ!
「こんな時に、まだガラクタ遊びをする気か!?」
トールの声が裏返る。
「気でも狂ったのか!!」
ブレイクの怒りが、火薬庫に引火したように爆発した。
顔を真っ赤にし、額に青筋を浮かべ、手負いの熊のように暖炉の前から飛び出す。
床板をきしませながら、数歩でアーガスに詰め寄った。
ブレイクはアーガスを乱暴に突き飛ばした。岩をも砕く剛腕だ。
アーガスの細い身体はよろめき、後退する。
腕の中から試作機が滑り落ちた。
ガシャンッ!
耳障りな金属音が響き、ただでさえ不安定だった銅線が四方へ飛び散る。
「まだそんな鉄屑に執着しているのか!!」
ブレイクが怒鳴り散らす。唾がアーガスの顔にかかる。濃厚な酒と怒りの臭い。
血走った目は、息子を食い殺さんばかりだ。
「姉さんが死にかけているんだぞ! 目が見えないのか!? 苦しんでいるのが分からないのか!? 失せろ!!」
サラが絶望的な悲鳴を上げた。
彼女はよろよろと駆け寄り、アーガスを引き剥がそうとする。
涙で濡れた顔に、新たな恐怖が張り付いている。
「アーガス、お願い……!」
彼女の声は枯れ葉のように震えていた。
「もうやめて……お願いだから……お姉ちゃんを静かに逝かせてあげて……これ以上かき乱さないで……」
トールも駆けつけ、アーガスの腕を乱暴に掴んだ。骨がきしむほどの力で。
その目には恐怖と怒り、そして絶望が混濁していた。
「分かってるのか? そのふざけたオモチャが、俺たち全員を殺しかけたのを忘れたのか!?」
三人の大人がアーガスを包囲し、突き飛ばし、引きずり、怒鳴りつける。
彼らには理解できない。
さっきあれほど胸を打つ声で泣いていた子が、なぜ舌の根も乾かぬうちに、あの冷淡で訳のわからない奇行種に戻ってしまったのか。
臨終の床に、災いを招く不吉なガラクタを持ち込み、死の厳粛さを冒涜するつもりなのか?
なんという冷酷さ、なんという残酷さか。
アーガスは包囲され、嵐の中の小木のように揺さぶられた。
だが、彼は抵抗しなかった。泣きもしなかった。
ただ必死に、床の上の機械に覆いかぶさり、誰にも触れさせまいとした。
飛び散った部品を自分の体で守る。その目には、悲壮な決意の光が燃えていた。
背水の陣を敷いた、孤独な兵士のように。
「信じてもらえないのは分かってる……」
彼の声は蚊の鳴くようだったが、岩のように硬かった。
「でも……これしか方法がないんだ……」
家族の怒号にかき消され、誰の耳にも届かない。あるいは、誰も聞こうとしない。
彼は最後の力を振り絞り、アイリーンの方へ向かって、魂の底から叫んだ。
「愛してる……姉さん……! 僕を置いていかないで……!」
それは絶望と決意の叫び。
戦場で孤立した兵士の、最後の突撃の雄叫びのように、人の心を震わせる響きを持っていた。
その一瞬。
奇跡が起きた。
彼の悲しみと決意を乗せた魔力が、制御を超えて決壊し、ダムの放流のように溢れ出したのだ。
その魔力波形が、今にも消えそうなアイリーンの生命エネルギーと、神秘的な同期を果たした。
二つの音叉が共鳴するように。
カッッッ!!!
アーガスのポケットに入っていた、あの「青晶石」が、かつてない強烈な青い輝きを放った!
刺すような、しかし温かい光。
同時に。
アイリーンが死に物狂いで握りしめていた「同じ石」もまた、呼応するように爆発的な光を放った!
二つの光源が闇を貫き、生と死の境界線上で、姉と弟の魂を物理的に接続した。
それは神が降ろした啓示のように、神聖で、侵しがたい光景だった。
部屋中が青い光に満たされ、窓外の稲妻さえ霞むほどだった。
家族たちの動きが止まった。
アーガスの襟首を掴んでいたブレイクの手が、錆びついた機械のようにゆっくりと解ける。
サラの泣き声が途絶え、口を半開きにして呆然とする。
トールの目は、怒りから畏敬へ、そして困惑、最後には宗教的な恐れへと変わっていった。
これは遺言でもなければ、最期のあがきでもない。
彼らの理解を超えた、常理を超越した現象。
神の御印を見せつけられたかのように、彼らは圧倒され、手足から力が抜け、もはや止めることも、動くことさえできなくなった。
【あとがき】
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次の章も、全力で鍛えます。




