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第二十二章:砕かれた盾と残響(シャッタード・シールド・アンド・エコー)-3

 アーガスはリビングの影に立ち、この家庭内悲劇の上演を冷徹に観測モニターしていた。


 彼のエンジニアとしての魂は、感情を持たない精密機器のように、目の前の事象を客観的に記録ログしていく。


 父の崩壊クラッシュ――絶望による歩行制御の喪失。打撃音のデシベル数。金属破断の周波数。山が崩れるような座り込みの姿勢。

 母の哀号――音声レベルが人間の苦痛表現の限界値クリティカルに到達。

 兄の心拍――典型的な極度ストレス反応(PTSD)の初期症状。


 彼は止めなかった。声もかけなかった。

 これは最初の支柱の倒壊であり、必然的なプロセス(通過儀礼)であることを知っていたからだ。


 この冷酷な理性による分析と、姉を想う心から来る巨大な悲痛との間で、激しい衝突コンフリクトが発生していた。


 彼は初めて、自分の「異質性」がもたらす苦痛と孤独を深く味わった。

 透明なガラスケースの中に立っているようだ。すべてが見えるのに、決して混ざり合うことができない。


 父の力(鍛造技術)は、鉄屑の山となった。

 母の力(敬虔な祈り)は、絶望の悲鳴へと変わった。

 兄の力(若き誇り)は、自己破壊的な罪悪感へと変質した。


 この世界に属する、すべての伝統的な支柱パワーは、このわずか一時間のうちに轟音を立てて倒壊し、廃墟と化した。


 彼は、先ほどのグレン医師の、専門的でありながら壮絶な失敗を思い返した。


聖光術ヒール……。あれの本質は、粗雑で広範囲な『エネルギーの上書き』に過ぎない。ウイルスに感染した森に、消毒液をぶちまけるようなものだ)


 自己修復と進化を繰り返す「悪性コード」のような複合呪いに対して、そんな旧式レガシーなアプローチが通用するはずがない。


 希望は、高みに座す神の御元にも、千回鍛えた技の中にも、若者の淡いプライドの中にもない。


 彼は背を向けた。

 「家」という名の悲しき廃墟をもう振り返ることはない。


 無言で、一歩一歩、図面と失敗作の山が築かれた自室へと戻っていく。


 部屋の中では、『試作魔導盤V2.1』と名付けられた醜い鉄の箱が、蝋燭の光の下で静かにマスターを待っていた。

 露出した銅線が微光を反射し、原始的だが神秘的な神経網のように輝いている。


 彼はドアを開け、その機械の前へと進んだ。

 その瞳には、年齢を超越した、揺るぎない決意の炎が燃えていた。


「バックアッププラン(予備計画)、実行エグゼキュート。僕の力は、『法則ルール』だ。すべてのエラーコードを削除する。……僕が、デバッグ(DEBUG)する」【注1】


 背後でドアが静かに閉まる。一つの時代の終わりを告げるように。


 窓の外では、アイアンピーク山脈の重苦しい唸りと、無慈悲な暴風雨が続いている。

 だが、その小さな部屋の中で、新しい時代が始動ブートしようとしていた。


 蝋燭の光が、机上の密度の高い設計図を照らす。

 木炭ペンを握りしめる痩せた手を照らす。

 そして、十歳のエンジニアの瞳に宿る、失敗を許さない(フェイル・セーフ)鋼鉄の決意を照らし出していた。


(……僕のターンだ)


 彼は心の中で呟く。その声は小さいが、雷鳴のように響いた。


(僕の力は、論理ロジック。今回は……失敗エラーを禁止する)


 この嵐の夜、誰もが絶望の淵に沈んだ時、彼だけが立っていた。

 彼が強かったからではない。


 彼が、この世界で最も希少なもの――異世界由来の「理性のロジカル・ハート」と、全く異なる問題解決メソッドを持っていたからだ。


 窓の外では、古い世界が音を立てて崩れ落ちていく。

 だが、この狭く薄暗い部屋の中でだけは、確かな『ソリューション』の光が、産声を上げようとしていた。


**


 注1:DEBUGデバッグ

 コンピュータプログラム開発における専門用語。プログラム中の誤り(バグ)を探し出し、修正する工程を指す。ここでアーガスは、現実世界の問題を「修正すべきプログラムのエラー」として捉えており、異世界由来のエンジニア的思考が表れている。

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