第二十章:障壁と触媒(バリア・アンド・カタリスト)-1
秋風が吹き荒れ、アイアンソーン家の居間は、見えない寒霜に覆われていた。
窓の外では、枯れ葉が枝から剥がれ落ち、風に巻かれて古びた石畳へと舞い降りていく。
一枚一枚の落葉が、過ぎ去った時間への無言の告発のようだった。
アーガスの部屋は、とっくの昔に彼の要塞であり、同時に牢獄となっていた。
壁には羊皮紙が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、複雑怪奇な魔力回路図で埋め尽くされている。
その一つ一つに、数えきれない失敗と執念が刻まれていた。
床にはねじ曲がった金属クズが山のように積まれ、戦場の跡地のように微かな焦げ臭さと、挫折の苦い匂いを放っている。
試行錯誤の末、彼はついに『試作魔導盤V1.9.4869』を極秘裏に完成させていた。
それは前世の古いゲーム機を彷彿とさせた。
溶接跡だらけの醜い黒鉄の箱。粗雑だが、希望に満ちている。
側面には、硬い紙板を差し込める「カートリッジ・スロット」がいくつも口を開けており、その穴の一つ一つが無限の可能性を示していた。
春が過ぎ、秋が来て、瞬く間に四年が過ぎ去った。
アーガスは子供から、無口な十四歳の少年へと成長していた。
その瞳からは無邪気さが消え、代わりに研究者特有の静かな炎が燃えている。
部屋の隅のゴミ山は記憶の墓標のように高くなり、壁の図面は何度も貼り替えられた。
単純な並列回路から、迷宮のようなマトリクス構造へと進化していた。
失敗するたびに、自信という壁がハンマーで叩かれるような衝撃を受けた。
だが、彼は止まらなかった。
創らなければならない。
「役に立ち」、「安全で」、そして絶対に「誰も傷つけない」ものを。
それが家族への贖罪であり、彼がここに存在する意味を証明する唯一の方法だったからだ。
深夜。
彼は『V2.0.5』の起動テストを開始した。
『微光』のルーンランプだけが部屋を照らし、壁に揺らめく影が、亡霊のように古の秘密を囁いている。
彼はまず、『強靭化』のルーンを描いたカードをスロットに差し込んだ。
息を止め、慎重に魔力を注ぐ。
マトリクスが低く唸りを上げる。
眠れる巨龍のいびきのような音と共に、目に見えない光の輪が、傍らに置いたただの鉄片を安定して包み込んだ。
アーガスは小槌を取り、鉄片を叩いた。
カィィン!
甲高い音が響く。鉄片は無傷だ。
その硬度は伝説の金属にも匹敵していた。
彼は身震いした。瞳に久々の狂喜が宿る。
成功だ!
ハードウェアは「無指向性」の範囲効果を完璧に処理しきった!
この瞬間、四年の苦闘がついに実を結んだのだ。
喜びは強い酒のように理性を焼き、彼を次なる実験へと駆り立てた。
彼は間髪入れずに二枚目のカードを装填した。
――『火矢』。
彼は正確な炎の矢が生成されることを期待した。
だが、降臨したのは災厄だった。
シュバババババッ!!
十数本の燃え盛る矢が、酔っ払ったスズメバチのように、部屋中をデタラメに飛び回ったのだ!
一本が天井に突き刺さり、黒い焦げ跡を残して木屑を散らす。
一本が彼の頬をかすめ、髪を数本焼き、鼻をつく焦げ臭さを残す。
そして別の一本が、部屋の隅の羊皮紙の山に着火した。
ボッ!
四年の結晶が一瞬にして焚き火と化す。
突き刺さるような風切り音と、爆ぜる音。
充満する濃煙に咳き込み、涙が止まらない。
彼は慌てて火を消し止め、惨状の中心にへたり込んだ。
顔は煤だらけ。敗走した将軍のような姿だ。
だが、彼は癇癪を起こさなかった。落ち込みもしなかった。
冷徹で、経験豊富な刑事のように、彼は自らが作り出したこの「事件現場」の検証を開始した。
壁に近づき、火矢が穿った弾痕を調べる。入射角と深さを計測する。
床に這いつくばり、紙の灰を指で捻り、燃焼温度から瞬間のエネルギー放出量を逆算する。
炭を手に取り、焦げた床の上に複雑な幾何学図形を描き、矢の乱雑な飛行軌跡を数学的に再現していく。
データが集まり、パズルのピースが埋まっていく。
だが、彼の心は鉛のように沈んでいった。
羊皮紙に、彼は冷たい結論を記した。
『目標固定原理の欠如』。
計算がいかに精密でも、指向性魔法がマトリクスを離れた瞬間、制御を失い拡散してしまう。
これは努力や試行錯誤で解決できる問題ではない。
根本的な知識の欠落だ。
彼は痛感した。
これは、発電の方法しか知らない技師が、CPUを作ろうとするようなものだ。
基礎理論の欠如。その努力は徒労に終わる運命にあった。
この欠落は偶然ではない。
彼がこれまで得てきた魔法知識は、極めて偏っており、歪な土台の上に築かれていた。
トールの教科書は「鍛造」と「基礎ルーン」に特化していた。
家にあるのは時代遅れの古書ばかり。
アイリーンが持ち帰る本も、脈絡のない冒険譚の切れ端に過ぎない。
トールが弟のために、自分の将来に関係のない高等魔法理論の授業を取ってくれるはずがない。
アイリーンの本は、夜空の星のように散発的だ。
彼はこれまで一度たりとも、正規の、体系化された魔法教育を受けたことがないのだ。
彼は、数冊の説明書とガラクタだけで、独力でロケットを作ろうとしている辺境の天才児のようなものだ。
エンジンの点火まではいける。
だが、星の海へ飛び立つために不可欠な、空気力学も天体物理学も、彼は何一つ知らない。
部屋が燃えた時よりも深い「絶望」が、寒波のように彼を飲み込んだ。
彼は焼け跡に座り込み、虚空を見つめた。
初めて感じる、真の無力感。
その時、一つの種子が心に芽吹いた。
(……学校へ……行く必要があるのかもしれない)
【あとがき】
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次の章も、全力で鍛えます。




