第十九章:炉の火と傷跡(ハース・ファイア・アンド・スカー)-2
盛夏の、ある夕暮れ。
アイリーンが帰還した。
彼女は陽光と血の匂いを纏ったつむじ風のように、沈滞した家に飛び込んできた。
そして、家族全員を驚愕させる、血の滴るような報酬を提示した。
「ジャジャーン! 『巨顎地竜』の牙よ! まるまる二本! ギルドの爺さんたち、目玉が飛び出るくらい驚いてたわ!」
家の空気が、瞬時に蘇生した。
アイリーンの朗らかな笑い声がリビングに反響し、夏の雷鳴のように幾重にも重なった陰鬱な雲を吹き飛ばす。
泥と血にまみれ、髪はボサボサだが、そこには野性的なバイタリティが溢れていた。
それは圧倒的な「生」の気配。
この死に絶えた家が久しく忘れていた熱量だ。
最初に反応したのはブレイクだった。
図面の山から顔を上げ、目に驚きと喜びを点灯させる。
次の瞬間、腹の底からの豪快な笑い声が爆発した。
鉄槌が鉄床を叩くような音だ。
「俺の娘だ! ガハハ! 巨顎地竜だと? あいつは相当厄介な怪物だぞ! どうやって仕留めたんだ!?」
彼はアイリーンの肩をバシバシと叩く。
彼女は少しよろめき、痛みに顔をしかめたが、すぐに笑顔で父の腕を叩き返した。
「パパったら! 私には私のやり方があるのよ!」
サラがキッチンから飛び出してくる。
その目は瞬く間に赤くなった。
彼女は泣きながら娘を抱きしめ、怪我がないか身体中をまさぐる。
「アイリーン! 私の赤ちゃん! 帰ってきたのね……ああ、光明神よ……どこか痛いところはない?」
涙声。だがそれは喜びの涙だ。
アイリーンは優しく母を押し戻し、涙を拭ってやる。
「母さん、平気よ! ほら見て、この牙二本あれば、数ヶ月は楽に暮らせるわ!」
その声は明るかったが、瞳の奥底には、誰にも悟らせない疲労の色が沈んでいた。
トールが工房から出てきた。
手には鉄粉がついている。
「巨顎地竜」という単語を聞いた瞬間、彼の職人としての目が輝いた。
「地竜……。あいつの牙は精鋼並みに硬い。どうやって加工……いや、どうやって抜いたんだ?」
その口調には、珍しく熱がこもっていた。
アイリーンは悪戯っぽくウィンクする。
「へへ、それは企業秘密! でもね、もう少しで腕を持っていかれるところだったわ!」
そう言った時、彼女の左肩が一瞬強張ったが、笑顔は崩れなかった。
アーガスが部屋から出てくる。
その目が輝いた。
彼は一歩引いた場所でその光景を見ていたが、胸の奥に温かい電流が流れるのを感じた。
どれくらいぶりだろう。
この家で、本物の笑い声が響くのは。
アイリーンが彼を見つけ、すぐに歩み寄ってくる。
彼女は絹に包まれた、新しい希少な魔石を彼の手のひらに押し付け、以前よりも伸び放題になった彼の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「弟くん、お土産! 魔力を増幅する『青晶石』よ。あなたの実験にぴったりでしょ?」
アーガスは石を握りしめ、頷いた。
口角が微かに上がる。
それは稀に見る、本物の微笑みだった。
青晶石は掌の中で温かい光を放ち、姉の愛情を伝導しているようだった。
祝勝の晩餐会。
アイリーンは意気揚々と冒険の「武勇伝」を語った。
生死の境をさまよった残酷な詳細は巧みに削除し、勝利の栄光だけを抽出して。
地竜の咆哮、罠による誘導、最後の一撃。
ブレイクは聞き入り、テーブルを叩いて叫ぶ。
「それでこそアイアンソーンだ! 我らは挑戦を恐れん!」
彼は秘蔵のエールを開け、芳醇な香りが部屋を満たす。
サラは次々とご馳走を運んでくる。シチュー、焼き菓子、新鮮な夏の果実。
彼女は笑いながら皆の杯を満たす。その目には光が戻っていた。
料理の一皿一皿が家の温もりを放ち、笑い声の一つ一つが心の陰りを払拭していく。
トールも会話に参加した。
「その牙があれば、最高級の短剣の柄ができる。強度は折り紙付きだ」
アイリーンも興奮して同意する。
アーガスもまた、その輪の中にいた。
時折、技術的な質問を挟む。
彼の問いは常に鋭く、本質を突いており、アイリーンを感心させた。
「弟くん、本当に頭の回転が速いわね!」
その心からの称賛は、アーガスの承認欲求を満たしていく。
宴は深夜まで続いた。
家族全員が喜びに浸っていた。
それは夏の日差しのような、久しぶりの完璧な温もりだった。
ブレイクの笑い、サラの涙、トールの敬意、アーガスの微笑み――すべてが完全に同期していた。
アイリーンは、家族というシステムを支える唯一の柱。
彼女の帰還は特効薬となり、すべての亀裂を一時的に修復したのだ。
蝋燭の火が皆の顔を照らし、時間はあの壊れる前の幸福な時代へと巻き戻ったかのようだった。
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