第十八章:魔力母線と安全弁(マナ・バス・アンド・ヒューズ)-2
冬の最初の雪が、音もなく降り始めた頃。
アイリーンの帰還は、凍りついた家に投げ込まれた一握りの暖炉の火のようだった。
彼女だけが、ノックもせずにアーガスの部屋を開けることができ、唯一、彼の心の防壁を解除できる存在だった。
「アーガス、帰ったわよー!」
春の鳥のような軽やかな声。死に絶えた部屋に、一瞬で生気が吹き込まれる。
だが、部屋の惨状を見た瞬間、彼女の笑顔は霜に当たった花のように凍りついた。
そこは廃墟だった。
壁には、他人には狂人の落書きにしか見えない魔力回路図がびっしりと貼られ、床には焦げた魔晶石と金属の残骸が散乱している。空気は焦げ臭くて息苦しい。
そしてアーガスは、その瓦礫の中心に座っていた。
体はひと回り小さくなり、顔色は窓の外の枯れ葉よりも悪い。
かつて輝いていた瞳は、干上がった井戸のように疲れと孤独だけを湛えていた。
アイリーンの胸が締め付けられる。
何かを言おうとして、彼女は言葉を飲み込んだ。
言葉で癒せない傷があることを、彼女は知っていたからだ。
彼女は何も聞かず、笑顔を作って、油紙に包まれた包みを机の唯一きれいな場所に置いた。
「お土産よ。冒険の途中で拾ったの。勝手に光る不思議な石。幸運を呼ぶんですって!」
アーガスは石を受け取った。
指先から不思議な温かさが伝わってくる。姉の手のひらの温度のようだ。
「ありがとう、姉さん」
声は錆びついたようにしゃがれていたが、そこには真実の感謝があった。
アイリーンは彼を食事に連れ出そうとして、複雑な図面に視線を走らせた。一瞬、憂いの色が浮かぶ。
だが結局、彼女は彼の肩を優しく叩いただけだった。
「あまり自分を追い詰めないでね。一日や二日で解決しないこともあるんだから」
深夜。研究は再び壁にぶつかっていた。
アーガスは苛立ちに髪をかきむしり、虚ろな目で部屋を彷徨った。
ふと、窓辺に置いたアイリーンからの石が目に入った。
雲間から射す冷たい月光を浴びて、それらは静かに、安定した、優しい青い光を放っていた。
すべての石が同時に輝き、互いに照らし合っている。まるで呼吸を合わせているかのように、あるいは神秘的な対話をしているかのように。
アーガスは呆然とした。心臓が高鳴り始める。
彼は吸い寄せられるように近づき、石を一つ手に取った。精密機械のような感覚で魔力の波長を探る。
驚いたことに、魔力をわずかに注ぐと、エネルギーがすべての石の間を水のように均等に流れ、分配されたのだ。
金属片で二つの石を遮ってみると、奇跡が起きた――魔力の流れは自動的に障害物を迂回し、再び均衡を取り戻したのだ。
これらの石は、天然の魔力分配網だ。
彼が夢見ていた「安定供給」を、完璧に実現している!
ドクン!
心臓が跳ねた。長い間脳を覆っていた霧が、一閃の稲妻によって切り裂かれた。
視界が晴れる。
やっと、分かった!
(問題は「重ね合わせ」じゃなかった……どうやって「複数の魔法陣に、同時に、安定してエネルギーを配るか」だったんだ!)
これまでの失敗はすべて、一本の細いパイプから出る魔力を、無理やり複数のルーンに分けようとしたせいだ。だから干渉し合い、弱まってしまったのだ。
一本のホースで十個の鉢植えに同時に水をやろうとするようなものだ。水圧は安定せず、ある鉢は水浸し、ある鉢は枯れてしまう。
必要なのは、「水圧調整」と「分流」を同時に行う土台――すなわち、『魔力母線』だ!
彼の視線が、部屋の隅にある失敗作の山――黒鉄の破片に向けられた。
ドワーフの溶鉱炉から出る安物の廃材。構造は粗いが、魔力の伝導率は極めて高い。
他人にはゴミに見えても、今のアーガスには宝の山に見えた。これこそが「魔力母線」の最適な素材じゃないか!
アイリーンの贈り物。家族からの関心。
それが偶然にも、彼の道を照らした。感情的にも、技術的にも。
これは偶然ではない。運命の導きだ。
彼は風のように机にかじりつき、木炭ペンで羊皮紙に猛然と設計図を描き始めた。
線が走る。
黒鉄のプレートを基盤とし、数十個の『微光』ルーンを接続したエネルギー供給の基盤。
瞳に、久しぶりに希望の火が宿る。それはどんな魔法よりも明るかった。
今度の試みは、絶望的なあがきではない。世界を変えるための設計だ。
冬の終わりの夜。
窓の外では吹雪が荒れ狂い、白い精霊たちが夜空で踊っていた。
だがアーガスの部屋の空気は、ドワーフの溶鉱炉よりも熱かった。
数え切れない不眠の夜を経て、ついにプロトタイプが完成した。
手のひらサイズの黒鉄のプレート。そこには数十本の導魔銅線が接続され、その先には百個近い『微光』ルーンを描いた厚紙が繋がっている。
見た目は醜悪だ。ゴミ捨て場から拾ってきたガラクタの寄せ集めにしか見えない。
だがアーガスにとって、それは宝石よりも美しかった。彼の希望と夢のすべてが詰まっているからだ。
彼はこの醜くも可能性に満ちた鉄片に名を与えた。
『プロトタイプ・マトリクス V1.0』。
彼は深く息を吸い込んだ。運命の瞬間だ。
百個のルーンを見つめる。これらすべての「電球」を同時に灯すには、極めて強大な魔力が必要だ。
前例のない、大胆な挑戦。
これは初めての、「役に立つ」ための創造だ。
これが贖罪の始まりであり、自分の価値を証明する時だと信じて。
迷いはなかった。
彼は体内の魔力の半分近くを、ダムの水門を開くように、一気に、容赦なくマトリクスの核へと流し込んだ。
そして――。
音のない、純白の、絶対的な光の爆発が起きた。
太陽より眩しく、雪より純粋な光。
視界からすべての色と形が一瞬で消え去り、目眩がするほどの白だけが残った。
部屋全体が太陽の核に放り込まれたようだった。アーガスは自分の魂ごと飲み込まれると感じた。
直後、絶対的な暗闇が訪れる。
ドォォォォォン!!
部屋のドアが衝撃波で吹き飛び、向かいの壁に激突する轟音が響いた。
「なんだこの臭いは! 何の騒ぎだ!」
ブレイクの怒鳴り声が最初に響いた。彼は強烈なオゾンと焦げ臭さを手で払いながら飛び込んできた。
「まるで三流の錬金術師が鍋を爆発させたみたいじゃねぇか!」
サラの悲鳴が続く。彼女は煤だらけの息子に駆け寄ろうとしたが、ブレイクに止められた。
彼は妻を庇い、まだ煙を上げている残骸を警戒して睨みつけている。
トールの驚く声が、耳鳴り越しに遠く聞こえた。
「あいつ、また何かやらかしたのか?」
家族が見たのは、床にへたり込み、顔中煤だらけで、髪をチリチリに焦がしたアーガスの姿だった。
だが、その瞳だけは、異常なほど冷静だった。
床には焦げた厚紙の破片が散らばり、黒鉄のプレートは青い煙を上げ、銅線は溶けてねじれた金属の塊になっていた。
この混乱と暗闇の中で、アーガスはかつてないほど冷静だった。
鼻をつく焦げ臭さを嗅ぎながら、彼の口元には自嘲気味な笑みさえ浮かんでいた。
一時的な失明の中で、彼は手探りで木炭ペンと新しい羊皮紙を掴んだ。
そして記憶を頼りに、設計図の上に二つの新しい機能を描き加えた。
『再使用待機時間』と『同時起動上限』。
これは絶望の落書きではない。理性的な分析結果だ。
彼は震える手で、図面の端にメモを走らせた。
『……なるほど。「魔力ダンベルV0.1」の失敗は、理論のミスだった。だが「V1.0」の失敗は、工学的なミスだ。どうやらこの世界では、出力よりも「安全弁」と「ヒューズ」の方が重要らしい』
これは単なる機械の改良ではない。
彼が、かつて暴走させた自分の力に対し、初めて自発的に「手綱」と「枷」をかけた瞬間だった。
幼き日の魔法災害から、彼は学んだのだ。
力は制御されて初めて、本当の力になるのだと。
彼の思考は、焼けた残骸をスキャンしていく。
そこにあるのは自己否定の渦ではない。冷徹な、職人としての「原因究明」の思考だ。
すべての失敗は貴重なデータであり、すべてのミスは成功への階段だ。
彼はこの派手な失敗から、最も価値ある経験を抽出した。
これは終わりではない。本当の始まりだ。
これこそが、彼の真の成長だった。
煙の充満する部屋で、家族の驚愕の視線を浴びながら。
一人の本物の「魔導工匠」が、今、産声を上げた。
窓の外の吹雪はまだ続いている。
だが部屋の中には、新しい温度が生まれていた。
それは魔法の熱ではない。十歳の少年の不屈の心に灯った、希望の火だった。
明日はまた日が昇る。
アーガスは、次の挑戦への準備をすでに始めていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
台湾出身の作者です。
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