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奴隷令嬢、最強への成り上がり  作者: 南蛇井


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40/50

認定と静かな波紋

昇格試験の激動から一夜が明けた。

ギルド本部の大広間は、まるで嵐の後の海のように重く沈んでいた。

高くそびえる天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、朝陽を鈍く反射しながら揺れるたび、

煌めく光の粒が床に散り、まるで何かの儀式を見守るように空間を包み込む。

長い列を成す幹部席。その中央には、ひときわ異質な存在が立っていた。

麗華・ヴァルグレイン。

純白の制服の裾が微かに揺れ、深紅のマントが肩から垂れている。

その瞳は静かに、だが鋭く、前を見据えていた。

恐れも、戸惑いも、そして謙遜もない。

ただ、己の選んだ道を貫く者の確信だけがそこにあった。

「……これをもって、麗華・ヴァルグレインを正式に“特級認定冒険者”として登録する。」

司会役の秘書官が読み上げた言葉が、広間の隅々まで響き渡る。

そして──沈黙の刹那。

次の瞬間、空気が破裂したようにざわめいた。

「特級!? あの新人がか!?」

「試験は中断されたはずだろ!」

「まさか……裏があるんじゃないのか?」

嫉妬と疑念、そして恐怖が入り混じった声が、波紋のように広がっていく。

だが、その中心に立つ麗華は微動だにしない。

ただ、真っ直ぐに壇上の幹部たちを見つめる。

誰に対しても頭を下げず、感謝の言葉も述べない。

──沈黙の反逆。

彼女の姿には、言葉以上の意味が宿っていた。

それは、決して傲慢でも無礼でもない。

“力”を認めさせた者の、静かな誇り。

ざわめく群衆の中、麗華の胸の奥で鼓動が一つ、強く鳴る。

その音に呼応するように、首元にある銀の首輪が一瞬だけ淡く輝いた。

まるで、それ自身が彼女の中の“何か”に反応しているかのように──。

幹部席の最奥で、黒衣の男・バルゼンがその光を見逃さなかった。

彼の目が細められ、唇がわずかに動く。

(……やはり、“血紋”は反応している。覚醒の前兆……か)

麗華の表情には、まだ何の変化もない。

だが、この日を境に、彼女の存在はギルド全体に――いや、王都そのものに――

静かだが確実な波紋を広げていくことになるのだった。

──ギルド本部・大広間──

麗華の“特級認定”が告げられた瞬間、会場は喧噪に包まれた。

しかし、その中心にいるはずの幹部たちは、一様に沈黙を守っていた。

壇上の最上席。

黒曜石のテーブルに肘をつき、鋭い双眸で麗華を見下ろす男がいた。

副団長フェルディナ。銀髪を後ろで束ね、冷徹な理性を象徴するような男。

「……上層部が何を考えているのか、全く理解できん」

低く押し殺した声。

その言葉は、怒りでも驚きでもなく、深い“警戒”の響きを帯びていた。

隣の席で、紅い口紅を引いた女幹部ルシアが、ゆるやかに脚を組み替える。

その表情は、冷ややかで、それでいてどこか愉悦を含んでいた。

「理解しなくていいのよ、フェルディナ。

 あの子は、“そういう枠”に入れられたの。……上の連中にとってね」

フェルディナの眉がわずかに動く。

“そういう枠”──それが何を意味するのか、彼は理解していた。

通常の昇格ではありえない、王国直轄案件。

つまり、麗華の存在はもはや“冒険者”という枠を超え、“国家の駒”として動かされようとしている。

ルシアは紅茶のカップを指先でなぞりながら、ゆっくりと視線を下げた。

「彼女、知らないのでしょうね。

 自分が認定された瞬間から、もう“自由”ではなくなったって」

その声は、まるで哀れみのようでもあり、毒のようでもあった。

――そして、幹部席のさらに奥。

重厚な扉の先、ギルド運営本部の奥室へと続く廊下の陰に、一人の男が立っていた。

黒衣の男、バルゼン。

仮面を半分外し、表情を窺わせないまま、手の中で魔導通信具を起動させる。

「……認定は完了した。例の“血紋”も反応している。覚醒は近い」

通信の向こうから、かすれた声が返る。

『そうか。ならば、計画は“第二段階”へ移行する。王国への報告は我らが行う』

「了解した」

バルゼンは通信具を閉じると、ほんの一瞬だけ視線を麗華のいる方向へ向けた。

彼の瞳に宿るのは、冷たい興味と、わずかな寂寥。

(……君は知らない。自分が、すでに“選ばれた側”に立っていることを)

やがて彼の姿は廊下の闇に溶け、静寂だけが残った。

大広間の喧噪は続く。だが、その裏では――

確かに、何かが“動き始めて”いた。

──ギルド本部・上層通路 深夜──

大広間の喧噪が遠ざかる中、バルゼンは静かに通路を歩いていた。

壁に埋め込まれた魔導灯が、彼の黒衣を淡く照らす。

人影のない廊下。

わずかに響く靴音だけが、その存在を告げている。

やがて、彼は立ち止まり、耳元に埋め込まれた通信具へと指を触れた。

「……こちらバルゼン。対象の認定、完了した」

瞬間、通信具から微かなノイズが走る。

やがて、掠れた声が低く応じた。

『進行状況は?』

「予定通り。……だが、“血紋”が反応している。

 おそらく――覚醒段階に入った」

短い沈黙。

そして、わずかに呼吸を挟んでから、無機質な声が告げる。

『……そうか。ならば次の段階へ進め。

 干渉は不要だ。放置しておけ──自然に“開く”。』

バルゼンの眉が、わずかに動いた。

「放置……だと?」

しかし、返答はなかった。

通信は途切れ、耳元に残るのは静かなノイズだけ。

沈黙の中、彼は深く息を吐き、通信具を閉じる。

魔導灯の明かりが、彼の横顔に陰を落とした。

(……血紋。まさか本当に、伝承の“それ”だというのか)

彼の脳裏に、古びた文献の一節が蘇る。

――“血を受け継ぐ者が覚醒する時、世界の法は一度書き換わる”

数百年前、王国が禁忌として封印した“古代の儀式”。

その中心にあったのが、“血紋の器”と呼ばれる存在。

魂と魔力を同調させ、世界の根幹を再定義する――神の因子。

バルゼンの手が無意識に拳を握る。

「……封印は、まだ終わっていなかったというのか」

通路の先、外の夜風が吹き込む。

遠くで鐘が鳴る。

彼は一歩、また一歩と歩みを進めた。

その背に、ゆらりと黒い影が揺らめく。

(放置など……できるものか。

 この目で確かめる。あの少女が、“器”なのか、“鍵”なのかを)

夜の風が、彼のマントを大きく揺らす。

そして、廊下の奥へとその影は消えていった。

静寂の中、わずかに残響するのは――

古代より受け継がれた、血の囁きだけだった。

昇格式が終わり、喧噪が遠のいたギルド本部。

煌びやかな大広間の扉が閉じられると同時に、

その余韻は、外の世界へと滲み出していった。

──最初のざわめきは、廊下の片隅からだった。

「おい、聞いたか? 麗華が“特級”になったらしい」

「は? 昨日まで試験受けてた新人だろ?」

「それがだ、上層部の特命認定だとよ」

半信半疑の声が飛び交う中、

伝令を兼ねた冒険者たちが次々と話を運んでいく。

やがて、噂はギルドの酒場へと流れ込む。

木の扉が開かれるたびに、熱気とアルコールの香りが混じり、

ざわつく空気の中で、あちこちから名が囁かれた。

「麗華が特級? はっ、どうせ裏口だろ。貴族の後ろ盾でもあるんじゃねえのか?」

「バカ言え。試験場で黒炎を見ただろ? あれを真似できる奴がいるかよ」

「……黒炎? まさか、“血紋”の発現か?」

「しっ! その言葉、軽々しく口にするな。聞かれたら消されるぞ」

一瞬、場の空気が凍る。

だが次の瞬間、誰かが苦笑を漏らし、再び盃が打ち鳴らされた。

しかしその笑いは、どこか張りつめていた。

──噂は留まることを知らなかった。

午前が過ぎ、昼が来る頃には、

街の露店の商人たちまでが、客を相手に囁き合っていた。

「ねえ聞いた? 王都ギルドに、“血紋の娘”が現れたんだってさ」

「嘘だろ。血紋なんて昔話だ」

「でも、夜空が赤く光ったって話もあるぜ。まるで封印が軋んだみたいに」

子供たちは興味本位でその名を繰り返し、

老人たちは眉をひそめながら、古の伝承を思い出す。

──“血紋が再び現れた時、世界の均衡は崩れる”。

夕刻、街を見下ろす高台では、

情報屋たちが密かに報告をまとめていた。

一人の男が羽ペンを走らせながら呟く。

「……面白くなってきたな。王国も、魔王軍も、黙っちゃいないだろう」

遠く、鐘の音が鳴る。

陽が沈み、王都の灯がひとつ、またひとつと灯る。

その光の群れの中で、麗華という名は確かに息づき、

見えぬ糸を手繰るように、

ゆっくりと世界へと波紋を広げていった。

誰もまだ知らない。

その小さな波が、いずれ“歴史”を呑み込む津波となることを――。

昇格式が終わり、喧噪が遠のいたギルド本部。

煌びやかな大広間の扉が閉じられると同時に、

その余韻は、外の世界へと滲み出していった。

──最初のざわめきは、廊下の片隅からだった。

「おい、聞いたか? 麗華が“特級”になったらしい」

「は? 昨日まで試験受けてた新人だろ?」

「それがだ、上層部の特命認定だとよ」

半信半疑の声が飛び交う中、

伝令を兼ねた冒険者たちが次々と話を運んでいく。

やがて、噂はギルドの酒場へと流れ込む。

木の扉が開かれるたびに、熱気とアルコールの香りが混じり、

ざわつく空気の中で、あちこちから名が囁かれた。

「麗華が特級? はっ、どうせ裏口だろ。貴族の後ろ盾でもあるんじゃねえのか?」

「バカ言え。試験場で黒炎を見ただろ? あれを真似できる奴がいるかよ」

「……黒炎? まさか、“血紋”の発現か?」

「しっ! その言葉、軽々しく口にするな。聞かれたら消されるぞ」

一瞬、場の空気が凍る。

だが次の瞬間、誰かが苦笑を漏らし、再び盃が打ち鳴らされた。

しかしその笑いは、どこか張りつめていた。

──噂は留まることを知らなかった。

午前が過ぎ、昼が来る頃には、

街の露店の商人たちまでが、客を相手に囁き合っていた。

「ねえ聞いた? 王都ギルドに、“血紋の娘”が現れたんだってさ」

「嘘だろ。血紋なんて昔話だ」

「でも、夜空が赤く光ったって話もあるぜ。まるで封印が軋んだみたいに」

子供たちは興味本位でその名を繰り返し、

老人たちは眉をひそめながら、古の伝承を思い出す。

──“血紋が再び現れた時、世界の均衡は崩れる”。

夕刻、街を見下ろす高台では、

情報屋たちが密かに報告をまとめていた。

一人の男が羽ペンを走らせながら呟く。

「……面白くなってきたな。王国も、魔王軍も、黙っちゃいないだろう」

遠く、鐘の音が鳴る。

陽が沈み、王都の灯がひとつ、またひとつと灯る。

その光の群れの中で、麗華という名は確かに息づき、

見えぬ糸を手繰るように、

ゆっくりと世界へと波紋を広げていった。

誰もまだ知らない。

その小さな波が、いずれ“歴史”を呑み込む津波となることを――。

ギルド寮・二階。

静まり返った廊下の奥、麗華の部屋の扉がそっと閉まる。

「……ふぅ」

重い式の一日が終わり、ようやく訪れた静寂。

麗華はローブを脱ぎ、机の上のランプを小さく灯した。

淡い灯りが部屋を満たし、壁に小さな影が揺れる。

鏡の前に立ち、銀の首輪にそっと指を添える。

それは、式の最中に“光った”あの首輪。

「……また、これ……」

指先が触れた瞬間、微かな振動が伝わってくる。

チリ……と空気を焦がすような音。

やがて首輪の中央の刻印が、赤黒く脈動を始めた。

──トクン。

心臓の鼓動と同調するように、熱が首筋を走る。

痛み、焦げるような感覚。

思わず膝をつく。

「……う、く……っ」

その瞬間、世界の音が消えた。

静寂の中、どこからともなく声が響く。

──【目覚めよ、継承者】──

低く、重く、そして懐かしい。

誰の声でもないのに、心の奥底を直接叩く。

麗華の瞳がゆっくりと開く。

その瞳は、今までの淡い琥珀色ではなかった。

夜の闇を焼くような紅──まるで封印が解かれたかのような輝き。

「……これが、“血紋”……」

息を呑む。

けれど、次の瞬間には光は消え、痛みも嘘のように引いた。

部屋には、再び静寂だけが残る。

外では、月が雲に隠れようとしていた。

風が一瞬だけ吹き抜け、ランプの炎を揺らす。

麗華はベッドの端に腰を下ろし、静かに呟く。

「……まだ、眠れそうにないな」

その声は、どこか遠くを見つめていた。

まるで、運命の歯車が動き始めたことを、誰よりも早く察しているかのように。

──そして、夜が更けていく。

誰にも知られぬまま、“新たな覚醒”の時が近づいていた。

夕暮れの訓練場跡地。

戦いと式典の余韻がまだ空気に残る中、麗華は寮を出て、ギルド前の石畳を歩いていた。

そこへ――

「おい、遅ぇぞ!」

ロウガの豪快な声が響く。背中には大剣、口には笑み。

「まーた試験場ぶっ壊したって聞いたけど? 何人生き残ったんだ?」

ダリオが肩をすくめながら現れる。

「……まあ、少しだけね」

麗華が苦笑する。

互いの無事を確かめ合うように、三人は笑い合う。

だがその笑いの中には、それぞれに言葉にできない“違和感”があった。

──その上空。

ギルド塔の天辺を越え、夜空に溶けるように広がる黒い翼の影。

巨大な鳥か、それとも……。

誰もその姿を確かに見た者はいなかった。

夜の幕が再び降りる。

だがそれは、次なる“血の契約”の幕開けでもあった――


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