表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷令嬢、最強への成り上がり  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/50

……この人なら。生き延びられるかもしれない

酒場の扉を押し開けた瞬間、熱気と笑い声が一気に押し寄せてきた。

夕刻を迎えたその店は、仕事帰りの労働者や旅の傭兵たちでごった返し、木のテーブルには酒瓶や皿が所狭しと並んでいる。

その喧噪のただ中――ひときわ目を引く影があった。

片隅の長椅子に腰を下ろし、背を反らすように豪快に杯をあおる獣人の男。

分厚い腕はまるで丸太のようで、毛並みは荒々しく逆立ち、力強さをそのまま形にしたかのようだった。

しかし、荒くれ者のように見えるその顔には、不思議なほど無邪気な笑みが浮かんでいる。

ランプの灯りが金色の瞳を照らし出し、野性味と童心が同居するかのような輝きを放っていた。

ざわめく客たちの声の中でも、その存在感だけは際立っていて――まるで酒場そのものの空気を一人で支配しているようだった。

麗華は人いきれに満ちた酒場の空気を払いのけるようにして、獣人の男の前へと歩み寄った。

荒々しい毛並み、豪快に笑うその姿――彼が「ロウガ」だと直感する。

意を決して声をかけ、計画の説明を切り出した。

「……だから、私が今求めているのは――」

言葉が終わるより早く、ロウガの耳がピクリと動いた。

ガタン!

長椅子が大きく鳴り、彼は身を乗り出す。

「面白そうじゃねぇか!」

豪快な声が酒場のざわめきを一瞬かき消した。

麗華の話など半分も聞かずに、彼の黄金の瞳は好奇心と闘志で爛々と輝いていた。

「任せろ!そんな危ねぇの、大好物だ!」

麗華は思わず言葉を飲み込む。説明はまだ半分も残っていたのに――彼の答えはもう決まっていた。

「面白そうじゃねぇか!任せろ!」

ロウガの口から放たれたその言葉には、一片の迷いもなかった。

まるで計画の危険性も、報酬の有無も、命のやり取りすらも彼の辞書には存在しないかのように。

交渉も条件もすっ飛ばし、ただ勢いと直感だけで答える――それがロウガという男だった。

豪快な笑い声が酒場の喧騒に重なり、場の空気すら飲み込んでいく。

彼にとっては「面白い」ことこそが唯一の理由であり、何よりも揺るぎない約束のように響いていた。

麗華は思わず言葉を失い、その無鉄砲さに呆れながらも、胸の奥に奇妙な安心感を覚える。

ロウガの態度には、打算も裏表も一切なかった。

豪快に笑い、乱暴に見える仕草の奥には、悪意どころか計算すらない。

「危険だ」とか「成功の確率は」なんて話には、そもそも耳を貸す気がないらしい。

難しい理屈よりも、ただ心が動くかどうか――それだけで彼は行動を決めるのだ。

「面白そうだからやる」

その無邪気さは無鉄砲にすぎるが、同時に妙な清々しさを持っていた。

酒場の喧噪の中、ランプの光に照らされたその笑顔は、危険よりも楽しみを選ぶ獣人傭兵の生き様そのものだった。

麗華は思わずため息をつきそうになった。

(……こんな無計画で大丈夫なの?)

呆れが先に立つのは当然だった。危険な計画を語り終える前に「任せろ」と飛び込んでくるなど、常識的に考えれば正気の沙汰ではない。

だが――。

無邪気に笑うロウガの横顔を見ていると、ふと胸の奥に確かな直感が芽生えた。

(……この人は裏切らない)

計算も、欲もない。ただ「面白そうだから」という理由だけで飛び込んでくる豪快さ。

それは呆れるほどに無鉄砲だが、同時に彼が正直者である証でもあった。

酒場の灯りに浮かぶその笑顔は、危うさよりも、奇妙な安心感を彼女に与えていた。

木製のテーブルに置かれたランプの炎が、ゆらゆらと揺れていた。

その柔らかな灯りに照らされ、ロウガの豪快な笑顔が浮かび上がる。

笑い声と酒場の喧騒の中でも、彼の存在は妙に際立っている。

その無邪気な明るさは、計画の重苦しさや胸の奥にこびりついていた焦燥を、ほんの少しだけ溶かしていった。

(……考えなし。でも、だからこそ信じられる)

自分でも意外な感情が、心の奥で芽を出していた。

無鉄砲さの裏に、打算も裏切りもない。

そんな単純さこそが、今の麗華にとって最も必要なものに思えた。


麗華の脳裏に、これまで出会った男たちの影が次々と浮かんでくる。

──ジーク。

狡猾さを笑みに隠し、協力の名を借りて鎖を奪おうとした男。あれに手を伸ばせば、自由は瞬く間に縛られてしまう。

──ダリオ。

誠実で、真剣に話を聞いてくれた。だが彼はもう剣を抜けない。過去の重さに囚われていて、今は共に歩くことはできなかった。

──カイル。

かつての優等生。だがその整った笑みの奥は打算で満ちていた。協力ではなく利用──未来は裏切りへと繋がるしかない。

思い出すたび、胸に広がるのは孤独だった。

どの選択も、結局は自分をひとりきりに追い込む結末しか見せてくれない。

酒場の喧噪の中で、ただ一人、場を割るように響く豪快な笑い声。

ロウガ──大柄な獣人傭兵は、麗華の計画を聞き終える前に椅子を軋ませ、身を乗り出した。

「面白そうじゃねぇか! 任せろ!」

迷いも、条件も、見返りの話すら一切ない。ただ面白そうだから飛び込む。

その無鉄砲さは確かに危うい。計画を練る者としては頭を抱えざるを得ないだろう。

けれど、そこには打算も策略もなかった。

純粋で、正直で──少なくとも、裏切りの匂いだけは微塵も感じられない。

麗華は、ふと自分の胸に生まれた感情に戸惑った。

──なぜ、この人なら信じられると思ったのだろう。

無鉄砲で、計画性など皆無。まともな作戦会議など望むべくもない。

けれど、ロウガの笑顔を見ていると、胸の奥にほんのわずかな温かさが灯るのを否定できなかった。

不安が消えたわけじゃない。未来は依然として暗く、足元も危うい。

それでも、たったひとつ──“孤独ではない”という確信だけが、彼女を支えていた。

酒場の灯りが、柔らかく揺れながらロウガの豪快な笑顔を照らしていた。

その笑みに、不思議と胸の奥がじんわり温まる。

――こんな荒んだ世界で。

――誰も信じられないと、ずっと思っていたのに。

胸の奥に、小さな光がともる。

頼りないほどかすかなそれは、けれど確かに消えずに瞬いていた。

(……この人なら。生き延びられるかもしれない)

そう思った瞬間、麗華の心は次の行動へと自然に傾いていた。

もはや足を止める理由はない。

彼らの「計画」は、ここから本格的に動き出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ