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§第06話後篇 漁師松伝説(2)

 動かなくなった潤をまじまじと見つめる二人。


ゴウウ  終わっ……たか?

潤  その天女はの

二人  まだか~

潤  その天女は三神山に帰る時に松の木に堅く約束したそうじゃ。「たま~に!ひょっとしたら!気が向いたら!会いに来るかもね~わかんないけど」と

ゴウウ  来る気ゼロだな

ライウ  絶対来ないヤツの捨て台詞です

潤  それ以来何十年に一度――満月の宵に大量の 膨大な とてつもない数のアイツが上がってくるんじゃこの浜にヒッヒヒ

ライウ  え 天女が?

ゴウウ  違うぞ。そんなに来たら暴走(スタンピード)だ 天女の。蟹に決まっている。この浜の由来だ

ライウ  なるほど!蟹!さすがであります!

潤  ヒッヒヒヒ。ヤドカリが

ライウ  蟹じゃねぇし!カニライハマにならねぇ!

ゴウウ  地名詐称だな

潤  ヒッヒヒヒヒ蟹は


 潤はススス、とライウに近寄り顔を覗き込んだ。ライウは思わず息をのむ。


潤  単価が高いでな

ライウ  世知辛すぎる

潤  その時わしらの村ではな。『あぁ~あぁ~天女さまが漁師松に会いに来なさったぁ~』と言うてな。とれたての 旬の ピチピチの供物を捧げるのじゃ

ゴウウ  今度こそ蟹か

潤  野菜をどっさりな

ライウ  魚類ですらねぇ!漁師のくせに

潤  とっぴんぱらりのぷう


 間。終わったか。今度こそ。


潤  ところがじゃ

二人  まだかぁ~


 間。


 潤が俯いたまま動かない。間。二人も動かない。どうしていいかわからんか。そりゃそうだ。


 間。


 背中を丸めていたがスッと背を立てた。伝説の国から帰ってきたか。


潤  とまあこの近くのお年寄りが寄ってたかって語り尽くしてくれました。三日三晩不眠不休で。その後は……


 潤は無言になりにっこり微笑んだ。


ライウ  え 眠った?ねえ眠ったのかその爺さん達?


 微笑仏(みしょうぶつ)の様に。永遠を言祝ぐように。


ゴウウ  永く眠ったのか?


 さらに。無言で相手の意図を理解する言葉に「拈華微笑(ねんげみしょう)」というのがあるが、まさしく今それだ。もう輪廻解脱する勢いの微笑だ。


 ゴウウ・ライウは一瞬顔を見合わせた。タイミングだろう。ライウが胸を――おそらく録音装置のスイッチを押した。


ライウ  あの。微妙な いえ貴重なお話をありがとうございます。それでは私たちはあちらの岩場に。では


 二人は行きかけた。潤は構わず話し続ける。


潤  そうなんですね。僕は自転車なんで磯だとちょっと。あ じゃあ担いで行きますね

ライウ  え 来るの?え なんで?そんなに無理しなくても

ゴウウ  それに磯の魚は人影に敏感だからな


 潤は二人を見つめた。


潤  あ~そうですよね!敏感でよすね!自転車担いで釣り場に行くなんてね。分りました。じゃあ歩いて行きます!

ライウ  やっばり来るの?

潤  大丈夫!鍵はちゃんとかけます。靴もほら、結構しっかりしたの履いてますし

ゴウウ  いやそうではない


 ライウがゴウウに耳打ちする。


ライウ  早くしないと


 ゴウウがきっぱりした口調で言う。


ゴウウ  申し訳ないが同行は遠慮して頂きたい

ライウ  そういう訳であちら側に行きます。それじゃ


 二人は有無を言わさずにその場を離れた。


 潤はしばらく二人を目で追っていた。刹那。鋭い目つきになった潤は独り言をごちる。


潤  なんか対応力いまいちだなぁ。当たりが硬いっていうか


 二人の姿は既に磯の凸凹の向こうに消えている。


潤  それにあそこ電波障害きついのになぁ。……ま いいか


 潤は満身創痍の自転車を担ぎ、海沿いの道路に出た。そこで自転車に跨がり、力強く漕ぎ始めた。


潤  ヨッシャ!ゴゥ!


 最後に呟いた「電波障害」とは。


次回は……「§第07話前篇 紗綾へのオファー(1)」

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