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§第18話前編 浜の攻防(1)

 朔次達は折りに吹き始めた強い海風を受けながら立っている。


 沈黙。そして――


 朔次がゆっくりと口を開いた。


朔次  よく調べたな。痕跡は消したはずだったが


 潤は頷いた。


潤  恐れ入ります。ロビンソンエージェンシーの総力を振り絞って絞り尽くして残り滓も残さず調べさせて頂きました。いやあ凄まじい経歴をお持ちで


 潤を睨んでいた朔次は溜め息をついた。


 何かを諦めたかの様に。


朔次  つまりサイバーテロと本物のテロが連動して実行される可能性があると

潤  はい。そうなった時に生き残る確率を上げたいのです

朔次  俺の仕事は皆をできるだけ生かすか――最悪の場合は生き証人として俺が生き残れ――って事か

潤  ご明察。流石です。今のニン国は物理テロに対応できる人材が極端に少ない。匂坂朔次さん あなたは数少ない対物理テロのエキスパートです。だから最後の砦になって頂きたい。それが両国の希望です


 朔次の身体からフッと力が抜けた様に見えた。何というか被っていた仮面を取ったというか。


朔次  希望ったってわかんねぇよそんなこたぁ。今まで生き残れたのだってラッキーだっただけだ。それもえらい昔のこった

潤  アフガニスタン シリア リビア スーダン メキシコ――参加した作戦のすべてをあなたは生き抜いてきた。ラッキーだとしてもです。いかがですか皆さん


 暁は呼吸すら止まり、瞳がキラキラしている。


暁  課長……やっぱすごい……っす


 が、ゴウウ達は変わらず厳しい表情で朔次を見ている。挙げ句、


ゴウウ  やはりだめだ

暁  え なんで

ゴウウ  こういう胡散臭い顔は信じられない

朔次  何だとう

暁  え え。こんなに可愛いのに

ゴウウ・ライウ・潤  え?


 ふと漏らした暁の言葉に三人が目を丸くした。


朔次  ん?


 朔次の「ん」はわかってない「ん」だ。暁は朔次の顔をはさんでゴウウに向けた。


暁  この可愛い顔が胡散臭いって。理由を言ってくださいっす理由を!

ゴウウ  理由などない!私の勘だ。どこまで信じられるのかこの男は底が見えない。今ここでわが国の安全を委ねる決断なぞできない。理屈じゃない

暁  そんなぁ。理屈なく可愛いのに

ライウ  そんな馬鹿な。ニン国は価値観がおかしい


 いや、おかしいのは暁だけだ。ニン国全員にしないでくれ。


ゴウウ  最後に頼れるのは自分の勘しかない。私は今までそうやって生きてきた。この世界を


 ゴウウはベストの内ポケットに手を入れた。


 潤は頭を掻いている。


潤  あいやぁ困ったなぁ


 と、ゴウウが小さなデバイスをさし上げた。ライウがそれを見てハッとする。


ゴウウ  ここにいる全員に選択肢はない


 皆の目はゴウウの手にあるデバイスに釘付けになった。親指がボタンにかかっている。いや。握り込んでいる。すでに押下したか。


ライウ  少佐!

潤  それは?

ゴウウ  局地エマージェンシースイッチだ。最も緊急性の高いレベルにセットして押した

朔次  EMスイッチか!

ライウ  ゴウウ少佐!そんな。なんて事をああぁ


 ライウが慌てている。今まで阿吽の呼吸だった二人だったが、ここにきてゴウウが独断に走ったということか。最大緊急度のエマージェンシーコール。ゴウウ達の国の某基地で緊急信号が受信され、何らかの緊急措置が開始されているだろう――一体何が起きるのか。


朔次  おい。EMのプランは何だ。何が起きる?

ゴウウ  目標地点の直径一kmの範囲に本国から局地攻撃が加えられる

朔次  局地攻撃――極高弾道弾か。サテライトレーザーか


 ゴウウは黙している。ライウはグラブとパッドを激しく操作している。ウニャリグニャリとスパコン=スーパーコンテンポラリな動きは絶好調である。ホントに必要なのかこのウニャグニャ。もはや直視している方が恥ずかしいぞ。そして、何をどうするつもりなのか。

 暁はコンパクトなデバイスを鞄から取り出して操作し、画面を凝視している。今この瞬間、ロー国某基地から局地ミサイルが発射されたのかも知れない。それとも軍事衛星が超高出力レーザーの照準を合わせたか。ライウが唸る。


ライウ  まずいまずい……生存コードを発信しないとまずいぞ

潤  まずいですね

朔次  まずいなんてもんじゃねえ。下手すりゃ国家規模の戦争になるぞ……おい!どんな攻撃か教えろ!

ゴウウ  答える義務はない


 次の瞬間。


 皆が瞬きもできぬほどの刹那。ゴウウの首筋に何かが触れた。背後には朔次が立っている。何が起きたのか――暁だけはわかっている。朔次がゴウウの頸動脈を脅かすその武器は、つい今まで自分が持っていた暗器そのものだから。何という動きだ。今までこれを隠していたのか、ぐら課長。


ライウ  中佐!

朔次  動くな。もう一度聞く。攻撃の種類と規模を答えろ。詳しくだ


 ライウは妖しい動きを止めてゴウウを見る。身動きできないゴウウの額に汗が一筋流れる。ゆっくりと口を開いた。


ゴウウ  じ 状況に合わせて全部で四〇九六通りの攻撃パターンがある。予想は不可能だ

朔次  今!この状況なら!どんな攻撃だ?

ゴウウ  ここでは予想不能だと言っている

朔次  最新機器持ってきたんじゃないのかよ


 朔次は呆れ顔でゴウウを睨んだ。暁がライウに尋ねる。


暁  生存コード、発信できないんすか?


 ライウはハッとしてスパコン前衛舞踏を再開した。前よりも激しい。


ライウ  い 今やって……ます。あ?あれ?……だめだパスコードこっちか……


 しゃがんで片足ずつ前に突き出し始めた。手は胸の前に汲んでいる。コントローラは腕にあるのにな。


暁  コサックダンスっすね

ライウ  ダメだ。ああぁぁどうしようアレが落ちてくる!

朔次  アレ?アレって何だ!キリキリ吐け!

暁  課長 時代劇っぽいす

ゴウウ  局所迎撃システムは……発信位置から最適解をはじき出して最近傍の基地から発射される

朔次  だから何が発射されるんだ?

ゴウウ  こちらからは判別できない


 暁は通信機を見ながら朔次に呟く。


暁  課長。俺ら何でこんな展開になってんすか?俺らのモットーは『地味な情報部員の何気ないおしゃれな仕事ぶり』じゃなかったんすか

朔次  五月蝿いよお前は


 次の瞬間。


 朔次はゴウウから離れて暁の頭を齧った。ホントに囓るんだ。ていうか、素早すぎる。


暁  あががががか


 小さく叫びながらも幸せそうだ。Mだなぐり男。そして野人。


朔次  ここからは俺の領分だ。ヤイヤイ言うな


 ひとわたり囓った朔次はゴウウに向かった。


朔次  ここの地理条件だとレーザーはないな。となりゃ局地戦用小型ミサイルか。小規模焼夷弾か


 ゴウウはさっきまで暗器が当てられていた首をさすりつつも硬い表情で黙している。朔次は軽く溜息をついた。


朔次  おい雷


 今度はライウに確認する。


朔次  生存コードがなければどうなるんだ?

ライウ  我々も敵とみなされてヒュ~~ドッカン!ウワ~ バラバラバラ ミンチグチャグチャ~~


 妖しい動きが擬音に合わせたパントマイムになっている。


ライウ  であります

暁  攻撃まであと何分すか?

ライウ  ええと


 ライウはさらにパッドを妖しく操作する。


ライウ  攻撃まであと約三分。あぁぁパスコードが!

ゴウウ  この程度の事態を回避できないのなら一緒に仕事はできない


 朔次に言い放ったゴウウを、朔次も睨み返した。


朔次  勝手な言い草だな。お前らこそ自爆は情報員として最悪の結果だ。それとも逃げる手段を隠しているのか?


 にらみ合う二人。


潤  攻撃を回避するには生存コードを送信するかミサイルを直接コントロールするか。……匂坂さん


 ひとり呟いていた潤が朔次に声をかけた。


潤  タテヤマさんの逆アセンブル装置でパスコードを掴めませんか?


 暁はそれを聞いてすぐに鞄から通信端末を取り出して操作を始めた。


 朔次はゴウウを指さして、


朔次  この貸しは大きいぞ

ゴウウ  成功報酬だ


 ゴウウも負けていない。朔次は小さく舌打ちをして暁に声をかける。


朔次  おい。逆汗を

暁  もうやってるっす


 言うに事欠いて「逆汗」って何だよ朔次。もうここにいる誰もつっこまない。ま、今はそれどころじゃないしな。


 暁は端末を激しく操作する。流れようなタイピングと装置の操作。タカタカタカタカ。皆は自然とその操作を注視している。固唾を飲むとはこの事か。誰も息をしていない。タカタカタカタカ。



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