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§第12話 ネイルアートと潤のメール

暁  俺の下半身 貰って下さい!


 急に頭を下げる暁。朔次の頭上に?印が浮かんでいる。


朔次  ん?何言ってんだお前の下半身ったってお前のじゃないかよ。俺のはなあ!


 朔次はやおら立ち上がった。何?何するんだ?暁が慌てる。


暁  えっアレ?こんな所でアレっすか


 暁は顔を覆う。指の間からはもちろん見ている。

 朔次はいきなりめくり上げた——ズボンの裾を。


暁  えっあれ ぬ 脱がないんすか

朔次  何言ってんだ。これだよこれ


 朔次は片方の靴下を脱いだ。そこには。


 そこには何とも美しいネイルアートが現れた。いや。見ればネイルアートどころか足の甲から足首の上にかけて鮮やかなペイントが施されているではないか。


 神々しいまでに美しいそれは、見る者の心を癒やし天上に誘う。空からは煌びやかな音楽が広々と流れる。


 そんな美しさだ。


暁  うっわーきっれーい!キレイすぎるっすよこれ!え なんすかこれ!

朔次  分ったろ。俺の下半身はアートだ。この下半身は誰にも譲れねぇ。仮令(たとえ)暁でもな

暁  え 俺でも?俺でもって

朔次  とにかく追うぞ!


 朔次は片付けもそこそこに、朝焼けの三神山頂上から走って消えた。また赤くなった暁を置いて。意外な素早さだ。浮き石を踏まなければ、だが。


 ――と、スタスタ歩いて戻ってきた。


朔次  で?どこだ?ヤツは


 惚け茄子か。


 間。


 この間は暁の心のアンビバレンツを物語っているな。言葉にはならない、気持ちも整理できない何とも言えぬ間。


暁  麓っしょ


 意外と普通の返事だった。なんか一周したんだな。うん。


 単純明快な回答に朔次は少し驚く。


朔次  何で判る?

暁  ここ山頂っすから


 びみょ~~な間。また一倍速CD−ROMか。


朔次  あ そうか。じゃ降りるぞ

暁  あ~。あの課長

朔次  何だ

暁  靴下。穿いた方がいいっすよ


 お気づきも方もいるだろうが朔次は片方の靴下を脱いだままである。


朔次  俺のネイルは世界一硬い!モース硬度十だ!

暁  それダイヤじゃないっすか。もはや爪じゃないっす


 朔次は片方の靴下を手に持って走りだした。暁が後ろ姿に声をかける。


暁  あの課長!課長!


 すでに朔次の姿は見えない。声だけが響く。


朔次  何だ!

暁  靴も忘れてるっす


 暁の足下には朔次の靴が片方、物寂しく放置されている。片足だけ残して飛び降りたあわてんぼうさんな自殺者みたいだ。


朔次  それ持ってついて来い

暁  ちょ!待ってっす!装置がまだ


 朔次の返事はもうない。それを確認した暁は、改めて無線装置を取り出した。そしてどこかに連絡を始めた。


暁  こちらGYO。ステップ2の2終えました。ハイ……


 どこの誰に。何のために。



 ◇  ◇  ◇



 ただ暗くてどこでもない空間。男が立っている。後ろ姿だが誰かと通話しているらしい。


男  GYOですね。了解しました。引き続きよろしくです。では


 声は潤間潤その人だ。すぐに別の相手に通話を始めた。


潤  UMJです。ああ。うん。一匹目には餌を食わせたよ。泳がせている間にもっと大きい魚に食いついてもらわないとね。君も食いついてくれていいんだよ僕のプロ あれ


 切られた。


 空間が変化した。


女声  じゃ


 マンションの一室。奥のドアからスマホを切って現れたのは更紗紗綾である。部屋のローテーブルの前に座る。パソコンを開く。潤間潤に渡された端末をパソコンに接続し、いくつかの操作をする。と、画面に文字が表れた。


紗綾  きたきた


 どうやら潤からのメールらしい。メールはこんな文面だった。

————

 お疲れ様です。潤間です。


 さて。我がロビンソンエージェンシーの仕事についてもう一度整理しておきます。一言で言うと『特殊な任務の人と特殊な任務の人を結びつける特殊な任務』です。何て分りやすい説明だろう!


 お相手は全て特殊任務で、状況も毎回特殊です。なので特殊な筋書きを設定する必要があるわけです。

 場合によっては危険も伴います。しかし君も知っているよね。役者あがりで演出家を目指していた僕にはぴったりの仕事だと思いませんか。


 さて今回の件ですが、三神山と蟹来浜が舞台なのはお伝えした通りです。山での仕掛けは終わりました。残りの仕掛けは海。それがうまくいったら山と海は一つになります。これからが正念場です。


 それで、君にお願いする仕事は…………

 …………

 …………


 以上です。では約束の日時に。

——————


 文面は簡潔に依頼内容を伝えてプツンと終わっていた。


紗綾  つまらん


 不満そうだ。もう少し何かないのかと言いたげだ。プロポーズネタで遊ぶ気だったか。


紗綾  ふん。なんだかな~この業務紹介。……まあ あたしがやることはわかったかな。さて


 紗綾は端末を外しパソコンを閉じ、部屋を出て行った。



次回は……「第13話 蟹味噌とDCT」

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