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5、無自覚チート



 ——コイツ、顔良すぎじゃないか?

 無駄にある色気も良い声も全てにおいて反則だと思う。


 ハリウッドスターでさえも霞んで見える。ホワイトタイガーの姿の方が可愛くてモフモフで癒しもあって良かったのに。


 ——おのれっ。


 人型だとどうも落ち着かない気分にさせられる。無駄にドキドキしてしまって心臓に悪い。

 行き場のない意味不明な面映い感情と憤りが胸の奥で燻っていく。


「顔が赤いぞ」

「グライトうるさい」


 真っ直ぐに顔を見られなくて視線を逸らした。


「さて、そろそろ出るぞ」


 本気らしい。立ち上がったグライトに腕を引かれて俵担ぎにされる。窓を開け放つとグライトが窓枠に足をかけた。


 ——おいおいおい、まさかコイツ……。


 正に思っていた通りの事が起こった。

 ここは二階だというのにグライトが躊躇なく飛び降りたのだ。


「うああああああ!!」


 思いっきり叫ぶ。紐なしバンジーでもしている気分だ。

 互いの推定体重と重力分も足して結構な衝撃を予想していたが、途中で何処からともなく風が吹いてきて、着地前にフワリと体が宙に浮いた。


「声が大きいぞ、千颯。耳が痛い。それにバレたらどうする?」

「誰のせいだと思ってるんだ! お前にはこれが当たり前なのかも知れないけど、オレは昨日の夜この世界に来たから慣れてないんだよ!」


 大丈夫なら大丈夫で教えておいて欲しかった。


「そうだな。悪かった。じゃあこの先も千颯が驚かないように、俺が抱いて運ぶとしよう」


 ライトブルーの瞳を輝かせて、グライトが悪戯に口端を持ち上げて笑んだ。


「え、それは嫌だ」

「つれないな」


 そう言いながらも、グライトの体は笑いで震えていたので軽く頭を叩く。


「降ろしてくれ」


 一向に地に足がつかないのに焦れて声をかけたが「嫌だ」と一蹴された。それどころか対面するように抱え直されて首筋に緩く噛みつかれる。


 ——コイツ噛んだり舐めたりするの好きだよな……。


 動物としての習性なのだろうか。やたら首筋に吸い付かれるので、無理やり己からグライトの頭を引き剥がした。


「そんなに吸い付くと痕がつくだろ」

「付けてるんだが?」


 ——は? 付けてるんだが? 何で!?


「他の精霊獣が寄ってこないようにマーキングしている」

「いや、オレに寄ってくる物好きなんてグライトくらいだと思うぞ」

「千颯は自分の価値を分かっていない」

「何が?」


 何処にでもいる会社員ですが? 寧ろ社畜ですが? と言いたいのを堪える。会社員と言っても理解出来ないだろうと思ったからだ。


「精霊獣に名を与えるのは魂を削る行為に等しい。なのに具合が悪くなるどころか千颯は元気過ぎるくらいだ。この意味が分かるか?」

「つまりオレはおかしいと?」

「端的に言えばそうだな。付け加えると、恐らく精霊術師としての能力がずば抜けて高いと予想出来る。あと何体か契約して使役してしまえるくらいにはな。俺以外の男は要らん」


 どうして男限定なのだろうか。女の精霊獣は居ないのかと思考を巡らせる。


「俺以外とは契約するな。精霊獣でも中にはタチの悪いモノもいるからな。そいつらがお前を欲しがると俺が困る」


 言葉をなくした。それは無い。絶対にない。いくら何でも買い被りすぎだ。

 千颯は勢いよく横に頭を振ってみせた。


「いやいやいや。オレはここに来るまで精霊なんて見た事もなかったぞ。グライトの思い過ごしだ」

「思い過ごしじゃないから言っているんだ。自分で言うのも何だが、俺は精霊獣の中でも最高級クラスに位置している。他の精霊獣は五大元素の内一種類しか操れないが、俺は全ての元素を意のままに使えるどころか組み合わせて別のものを作り出すことも可能だ。その俺をこうもハッキリ視覚化出来た上に触れられ、名も与える事が出来て、それどころか人型になるまで力を注げたのは今までで千颯、お前くらいだ」

「え、そうなの……? オレ、力を注いだ覚えないんだけど」

「無意識か。つくづく面白い男だ」


 それ以上何も言えなくなってしまった。また首筋に顔を埋められる。グライトからすればマーキングなのだと分かったので、もう抵抗もせずに好きにさせていた。だが、もう一つ解せない点がある。


「グライト、マーキングに関してはもう諦めるからそろそろ地面に降ろして欲しいんだけど?」

「……」


 互いの間に沈黙が流れ、グライトの足音だけが響く。


「おい、無視するな!」


 悲しい事にグライトとは身長差がありすぎるので、こうして抱きかかえられると地面が遠すぎる。


 ——コイツ何センチあるんだ?


 人型だと二メートル近いか超えている気がする。


 ——顔良し、声良し、高身長で体格良しとか……。よし、イケメン逝って良し!!


 ちなみに己は百五十七センチだ。

 今なら全力で効果覿面な呪詛をかけられそうな気がする。そこでふと疑問に思った。


「なあ、人型のグライトって今は皆に見えるのか? 動物の姿の時は見えないんだろ?」

「名を貰う前までの俺の姿が見えなかっただけだ。今なら獣の姿でも人型でも誰にでも見えるぞ。添い寝で千颯に力を貰ったお陰で有り余っているからな」


 ——添い寝。なるほどね。何だ……姿は見えるのか。


 周囲から見えないのならば、一人浮遊しているように見えるのは嫌だと言い訳したかったのだが思うようにはいかなかった。

 小さく舌打ちする。それを聞いたグライトに横向きにまた抱え直された。



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