24、精霊獣の魂の形まで視えるようになってしまった
「これって紋様出たままなのか?」
「そうだ。だが、通常の人間には視えんから安心しろ」
グライトに服を整えられている途中に質問するとそう言われた。
——人間には視えなくても精霊獣には?
気まずい。言葉にはせずに視線だけをグライトに向ける。
触れるだけの口付けが降ってきて「精霊獣には視えるがな」と心を読んだような回答が来たので、羞恥で全身がほてった。
「穴があったら埋まりたい~~……」
いくら何でも恥ずかし過ぎる。
——それとグライトなんて三割り増しで輝いて視えるんだけど何で!?
もうイケメン度数は増さなくて良い。
この紋様が視えるのなら、契りましたと宣伝して歩いているようなものだ。熱くなった顔を冷やすように両手であおぐ。その様子をしげしげと見つめられた。
「土の中が好きなのか?」
「言葉の綾っ!」
所々真剣な表情で斜め上方向にボケてくるのは何なんだろうか。存外に天然なのかも知れない。
「土ならいつでも掘ってやるから遠慮なく言え」
「気を使うとこ間違えてない!?」
「ほら、行くぞ千颯」
喋っている途中で抱き上げられて左腕に乗せられる。重力をものともしないその腕力が羨ましい限りだ……と考えて、本当に重力もどうにかしているのではないかと疑問に思った。
「なあ、重くないのか?」
「風元素を操っているからな」
やっぱり物理的法則を無視しているのが分かって、グライトの肩に項垂れかかる。
「千颯は存外に大胆だな」
「グライトはポジティブだよね」
少し嫌味を交えて言うと笑われて「態とだ」と付け加えられた。
——ああ、もうどうしたってこの男には敵わない。
準備が整い次第空間の外に出る。そこではエルゲアがさっきと同じポーズで立っていた。
「うまくいったんだね~おめでとう千颯~」
「う……うん。ありがとう」
——小っ恥ずかしい!!
一瞬視線を逸らしてしまったものの、またエルゲアに視線を向ける。空間に入るまではエルゲアの背中に何もついてなかったのに大きな翼が視えたからだ。
「え、エルゲア……その羽根って……?」
「わあ、視えるようになったんだね! さっすが、契っただけある~」
「その話題やめない? 恥ずかしいにも程があるよ」
「何で? その契約は誰にでも出来るものじゃない神聖な儀式でもあるのに?」
——オレらの世界じゃ単なるセックスなんだよ!
それに、した事もないけどと言いたくない。
価値観の違いを知らされた気がしてこちらが口を噤む事になった。ふと視線を落とすと白ヘビとも視線が絡んだ。
——へ?
ヘビというよりも立派な白い鱗に覆われているのが分かり目を瞠る。
どうりで体が上下に動くはずだ。そこにいたのは小さいながらも羽根の生えた白龍だった。しかし、片方しか翼がない。どうしたんだろう? と首を傾げた。
「きみもヘビじゃなかったんだ」
「生まれたてだ。ヘビと変わらん」
「はい。ぼくは本来ならそこの湖の主になる予定でした。それにしても精霊獣の魂の形まで視えるんですか? 契りの儀式って凄いんですね!」
またまたその話題に引き戻されてしまい、頭を抱える。居た堪れなくなり物理的に土の中に埋まりたくなった。
「お願い……それはもう忘れてくれないかな? それよりじいさんの事をもう少し詳しく教えてくれる?」
「はい。一月前におじいさんとぼくも一度ここに連れて来られて儀式の材料にされかけたんです。それで、取り返しがつかなくなる前にって言って、おじいさんがぼくだけ逃してくれてオリナルト公国へ行くようにと言ったんです」
「え……」
話の途中でグライトが小さく舌打ちする。
「で、ここから先は? 千颯のじいさんはどうなった?」
「おじいさん、その時、自分の左腕を犠牲にしてまで儀式を不完全なままになるように阻止しました。でも出血が酷かったのでぼくは自分の羽根を使って持続性をもたせた治癒魔法をかけました。力を使い切ってしまったのでここまでちいさくなってしまいましたが、おじいさんは龍の加護を受けた状態になっているので、生死に関わる問題にはなっていないとおもいます。あのこわい女の人……その時はじめてぼくに気がついたみたいだけど、姿は視えていないようでした。今回は失敗したから今年はあと三カ月待たなければいけないとかって呟きながら、従者の男にカルデナの森にある別邸に移動するって言ってました」
「カルデナの森……そこで三カ月先となると、スーパームーンに合わせる気だな。今年は特に能力が高まると城でも人間が言っていたから間違いないだろう」
「スーパームーンて月の錯視と言われているやつ? オレの思ってるやつと同じなら月が大きく見える現象だよな?」
「そうだ。千颯の居た世界にもあるのか?」
大きく頷く。確か年に三~四回くらいの間隔であった気がする。
その横から鳥の羽ばたく音が聞こえて目で追いかけるとエルゲアの腕に止まっていた。
「間違いないみたい~。じいさん、そこに監禁されてる。にしても、カルデナの森か~ボクあそこの空気嫌いなんだよね」
嫌そうにエルゲアが表情を歪める。本当に嫌そうだ。それを眺めた後でグライトを見た。
「カルデナの森ってのはどこにあるんだ?」
「国境にある。ここからだと逆方向だな。かつて魔女が住んでいたとされていた森の事だ」
——魔女?
「あのさ……もしかしてその聖女ってもしかして?」
「ああ。十中八九、森に住んでいたとされる魔女だろうな」
「そりゃ、千歳はサバよんでて当然~てね。納得した~」
しかし疑問も残る。何故魔女が聖女として迎え入れられたんだ? 裏で何かに操られている気がしてならないのは創作物の読みすぎだろうか。顔を白龍に向けて逡巡する。
「そこでお願いなんですけどぼくも連れて行ってもらえませんか?」
「「は?」」
——あ、また空気圧変わった。
心底ため息をついた。




