20、話し合いと悪ガキ二人
「何か妙な気配したけど千颯大丈夫!? あー! 何イチャイチャしてるの? ズルい!」
エルゲアが戻ってきたかと思えば声を上げた。さっきの追手の気配を感じて戻ってきたらしい。が、グライトがいつも静かな口調なのもあってエルゲアがいると一人でも騒がしく感じる。
「さっき変な追手が来てたんだよ」
グライトに降ろして貰い、また椅子に腰掛けてエルゲアにもさっきの出来事を話して聞かせた。
「黒魔術ね。まだあんなの使える人いるんだね。あの偽物何歳? 軽く千歳くらいはサバよんでんじゃないのー? だってそれくらい前には廃れた魔術だよ」
「そうなんだ」
「てか、猫は嗅覚凄い筈なのに気が付かなかったの?」
「結界内にいたからな。俺の嗅覚も力もあまり働かないようにされていた」
「はあ……使えないね」
グライトがイラついたように眉間に皺を寄せたのが分かって慌てて言葉を繋げる。
「千歳て凄いな。ていうか、オレはその聖女の顔すら見たことないんだけど?」
そう見てすらいない。
実感が湧かないのも事実で、その上千歳超えてると言われたら、もう人ですらない気がしてきた。
本当にそうなのかもしれないと思うと少し気持ちが楽になる。
他人に敵意を向けるのは昔から苦手だった。まだ自分が我慢している方が楽だと思えたからだ。
それは良い人ぶりたい訳ではなく、単に感情を露わにしたり、誰かと揉めたりするのが面倒だっただけなのもある。
「まだ化け物の方がマシだよ、オレとしてはね」
「同種の争い事や戦闘は苦手か?」
グライトの言葉に頷く。
「今まで戦闘とは無縁な世界で育ってきたからな」
「だが、ウサギは倒していただろう?」
「あれは合気道っていう護身術なんだよ。戦闘じゃない。その前にウサギの話はやめて! まさかあんなに姿形が違うと思ってもなかったし、攻撃されたから咄嗟に体が動いただけだよ」
身についていた習慣みたいなものが自分の体を動かしただけで、戦闘して倒すという概念ではなかった。
「え、千颯あの凶暴ウサギ倒したの? その小さくて細っこい体で?」
またテーブルの上に突っ伏す。
エルゲアにまで気にしている事を言われてしまい、言葉が凶器となって胸に突き刺さってくる。
「だーかーらー、オレはそこまで細くもなければ小さくもない! 標準より少し劣るだけだよ! どっちかというとお前らがおかしいの! 何食べたらそんなにデカくなるんだよ」
「「千颯の精気?」」
——こんな時だけ意気投合するのは辞めてほしい。
「妙な言い回しやめろ! もういいよその話は。それより、じいさんどこに居るんだろ。オレが居たとこみたいな部屋にいたらじいさん死んじゃう。早く助けないと……」
——あれは程の良い監禁だ。
自分が大切にしている人に害が及んでいる可能性が高すぎて不安と心配しか感じない。
もしもう手遅れだったらどうしようと思うと、焦燥感に捉われた。何とも言い表しようのない感情が胸の奥で渦巻いている。
「分かっている。落ち着け千颯。今日はもう日が落ちる。行動するなら明日からにしよう」
「そうだねー。それとさっきの話なんだけど、ボクあの偽女の棲家探したいんだけど一緒に行っちゃダメ? 今なら力も有り余ってるから他の鳥たちを動かせるし、情報も集められると思うんだよね。猫は群れないからこういうのは苦手でしょ? それにあの宝玉、もしかしたらじいさんが持ってるかもしれない。誰かに奪われてなきゃ良いけど。それと、じいさんは生きてるよ千颯。あの人何だかんだと図太いからね」
「ん……。ありがとうエルゲア」
エルゲアがこちらに向けて伸ばした手は、グライトによって叩き落とされた。
「千颯に触るな」
「眷愛隷属契約ちゃんと完了出来てないくせに別にこれくらいいいでしょ」
「駄目だ」
——けんあいれいぞく契約? グライトが言っていた契約ならちゃんと交わしたよな? もしかして違うのか?
聞きたいがグライトとエルゲアが言い合いになってしまったので、気を削がれてしまった。
今度の機会にでもしようと思考を巡らせる。本題を進めたくて口を開いた。
「他の鳥って精霊獣?」
「違う違う。普通の鳥類だよ。精霊獣とはいえ元は同じ存在だったんだし仲間……というより手下かな? みたいなものだからさ」
「便利だな! 凄いなエルゲア!」
それなら三人一緒に行動した方がいい。
——風?
ヒュッと小さな音が鳴り、突風が吹いたかと思いきや、得意気にしていたエルゲアが突然椅子ごと背後に倒れた。
「どうかしたのか!?」
また追手か? と思っているとグライトが「ざまあみろ」と鼻を鳴らして笑う。
「こっの、くそ猫!」
また小さな突風が吹いて、それをグライトが手で払って無に返す。次いでまた幾つかの突風がエルゲアのいる方角から生まれた。
「は、効くかよ」
「ホントむかつく!」
——これって魔法? それとも直接元素となる風を操ってる?
自分では判断が難しくて区別出来ない。
「ちょ、待って! お前ら何で喧嘩してるんだよ! 喧嘩はやめろ!」
「猫が悪いでしょ」
「お前がいらん事を言おうとしているのが悪い」
「千颯にも関係あるから言っただけだし!」
「何が? 意味が分からないんだけど!?」
契約は他にもあるのかと逡巡している間も無く、二人の言い合いは続いている。
——これから先一緒に行動して本当に大丈夫なのかなこれ?
仲の悪い悪ガキ二人を押し付けられて有無を言わさず留守番を頼まれた気分に陥った。




