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17、自称聖女



「いたたっ、酷いな~もう。こんな奴で本当にいいの? ちはや」


 抗議してくる男に向けて苦笑混じりの笑みを浮かべる。


「ごめん。グライトは本当は優しいんだ。多分オレに危機が迫ったと勘違いしちゃったのかも。どこか痛めたか?」

「こんなんで怪我なんかしないけどさ~。ええ……コイツ凶暴で有名な奴だよ?」


 ——グライトが? 初めて会った時から優しくて可愛すぎるくらいなんだけど……。人型は男の色気ダダ漏れでちょっと心臓に悪いけれど。


 グライトに関しての認識が異なっているようだ。まあ、いい……と頭を切り替える。


「それなら良かった。さっきの話なんだけどさ、うちのじいさん今どこにいるか分かるか?」

「正確には分からない。ボクが出入りしている次元の狭間にうっかり落ちてこっちの世界に戻ってきちゃったみたいで、しばらくの間は落ち込んでたよ~」


 ——おい、じいさん……っ。うっかりし過ぎだろ!!


 目を瞬かせながら心の中でツッコむ。祖父の意思でこの世界へと戻ってきたわけじゃないと知り、少し安心も出来た。と同時に祖父のまたまた意外な一面を知れて「もしかしておっちょこちょいな天然だったんだろうか」と半目になってしまった。


 ——ばあさん、じいさんのこういうとこ知ってたからずっと待っていられたのかな。


 これはこれで複雑だ。

 背後からグライトに抱き込まれて身を任せる。与えられる体温が酷く心地よくて、安堵したのと相まって気持ち良くて目を細めた。


「そっか……。教えてくれてありがとう」

「じいさんさ、この街に居たんだけど~、数ヶ月前に自称聖女とやらが従者を引き連れてやって来てさ、連れてったんだよね。じいさんに偽物だとか何とか難癖つけて……。自分の方が偽物のくせにね~。ボクには気がつきもしないで素通りしてたし。あいつ嫌い。何か薬品だか何かの匂いが凄くてさあ、気持ち悪いの。近くにいると気分が悪くなる~」


 グライトの時と同じだった。しかも連れて行かれたとなると、待遇最悪な部屋に押し込められて、自分の時みたいにろくな食事もさせて貰えていないだろう。下手すりゃ牢に入れられている可能性もあって、一気に不安になってきた。


「おかしい。俺たちはラスティカナ帝国の城……その敷地内にある別邸からきた。俺は城の敷地内なら何処でも行き来できるが精霊術師などいなかったぞ」

「知らな~い。ならその聖女とやらが個人的に持っている屋敷か別邸にでも居るんじゃないの~?」

「成程。それはあり得るな」


 ——もしそうなら、じいさんを助けなければいけない。


 グライトと共に逡巡する。どちらにせよ、聖女の事はあらゆる方面から調べた方が良い。機会はずっとあった筈なのに、ラスティカナ帝国に聖女として名乗りあげてきたのも何故今だったのか……。どうもきな臭い。


「こんな道端で話し込むのも何だし今日は宿でもとってそこで話さないか?」

「そうだな」

「ボクちはやとお風呂入って一緒に寝たい!」

「野良はソファーか外って決まってんだよ。千颯に愛でられるのは俺の役目だ。なんせコイツはモフモフとやらが好きらしいからな。羽毛しかないお前はただ眺めていろ」

「ケチ!」


 ——だから何でドヤ顔? でも案外良いコンビかも。


 喧嘩をするほど仲が良い。そんな言葉がしっくりきた。


「あのさ、風呂はみんな別々だからな? オレ一人で入りたい」


 薄着の男は見るからに体躯がいい。グライトといい勝負だろう。食事はともかく、あの二人の圧に囲まれて風呂は入りたくなかった。

 いつも通り宿選びや金銭のやり取りはグライトに任せて、部屋へと通して貰った。


 街の造り同様、宿も街に合わせた造りになっていて故宮博物院を縮小化させたような見た目をしている。屋根や柱は緑ではなく赤だが。

 リビングに置かれている丸くて大きなテーブルを囲み、それぞれ椅子に腰掛ける。ちょうど視線の高さに窓があった。

 気が早るのを誤魔化すように大人しくしていたつもりだったが、気付かれていたようだ。


「こういう所は初めてか?」


 グライトに話しかけられた。


「うん。あまり旅行とかしなかったし、こういう建物は元の世界でも見るのは稀だったから」

「そうなのか。ならこれからは好きに旅行できるな」

「へ? どうだろ。オレ、オリナルト公国で元の世界へ帰る手掛かり見つけたら、じいさん連れて帰るからな。でも帰ったらまた仕事尽くしになるだろうし、旅行なんて行けそうにないと思う」


 フッと表情を崩すと、グライトと男にじっとりとした眼差しで見つめられていた。


「え、何? どうかしたのか、お前ら?」

「まさかとは思うが、千颯お前俺を置いていくつもりじゃないだろうな?」

「またボク放置して居なくなるの、ちはや。でもちはやはじいさんみたいに村じゃないんだよね~? 精霊獣は森や川のある空気の綺麗な所しか行けないんだけど~?」

「え……」


 どちらの質問へも返答に窮する。グライトも男もこの世界の存在だから、考えもしなかったのだ。

 グライトは元々公国にいたから一緒についてきたのだとばかり思っていたので困った。てっきり公国へついてしまえば契約も解除してくれと言われるのだとも考えていたのだが、この様子では違うらしい。


「え、もしかしてオレと居てくれるつもりだったのか? 契約も公国までの関係だと思ってた」


 男へは「契約すらしてないじゃないか」と言って苦笑すると、無言でテーブルの上へと上半身を倒していた。


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