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16、男の正体と祖父の真実



「あっは、相変わらず美味しそうな匂いがするね、ちはや。しかも大きくなってるし色んな意味で食べたい」


 ——え、美味しそう……食べたい!?


「ちょっとだけ齧ってみてもいい? ちょっとでいいからさ~」


 良いわけがない。食人鬼みたいなセリフを普通の会話におり混ぜてくるのはやめてほしい。離れようと慌てつつも嫌悪感丸出しで思いっきり表情を歪めた。

 食われるかもしれないのだ。悠長に構えていられない。

 背後からおんぶの形で乗っかられていたので中々抜け出せずにいると、グライトに腕を引かれて、いとも簡単に胸の中に抱き込まれた。


 ——助かった……。


 安堵の吐息を溢す。「ありがとうグライト」と礼を口にした。


「な~に~? あのさあ、猫がしゃしゃり出て来ないでくれない?」

「お前こそ俺の主に何をしようとしている? 千颯はもう俺と契約済みだ。精霊術師を探しているのなら他を当たれ」

「え~他なんてやだ。ちはやがいい! 大体さあ、ちはやに先に目を付けたのボクなんだけど? 後から出てきて何なの?」


 ——先?


 いくら考えても思い当たる記憶がなくて「え、誰?」と告げる。


「ニホンにいた時、崖の上で良く遊んだじゃない? 誰かに〝隠されて〟ちはやの気配を辿れなくなったけど、ボクはずっと崖の上でちはやを待ってたよ」


 崖と言われて思い当たる記憶があった。祖母にもう二度と駄目だと言われた時だ。


「もしかして……昔ばあさんとこで遊んでた大きな鳥?」

「そう! それだよ! 正確にはボクは鷲だけど。突然ちはやと遊べなくなったから寂しかった」


 また抱きしめられそうになったけれど、グライトの背後に匿われる。二人の間に火花が散っている気がするけれど構いやしなかった。

 その前に己が視ていたものはやはり精霊だったのだと分かり一人納得する。視えなくなったのは己の身を案じた祖母が何らかの方法で守ってくれていたのだろう。

 今更ながら「ありがとうばあさん」と礼を述べる。それがなければ既に食されていたかもしれない。


「しつこい。千颯はお前にはやらん。俺だけのものだ。分かったら消えろ」

「ケチ。良いじゃん、ちょっと齧るくらい」

「ダメだ」

「グライトも知り合いだったんだな」

「は? グライト~~!?」


 男が素っ頓狂な声をあげて、グライトの横から顔を覗かせるなりこちらを凝視してきた。


「千颯に貰った名だ」


 ——お前何でそんなにドヤ顔をしているんだ……。


 勝ち誇ったような態度でグライトが腕を組んでいる。


「ズルい! ボクも名前欲しい!! ちはや名前つけて!」


 精霊獣というのは名がないのがデフォルトらしいというのを初めて知った。名前くらいならいいかと思ったがグライトから「何も言うな」という無言の圧が凄まじい。


「オレはもうグライトと契約しているんだ。ごめんな」


 そう言うと男が目に見えてしょげた。地べたに座り込み膝を抱え込んでいる。

 哀愁すら漂っているがここは道のど真ん中なのもあって、何とか端まで引きずって移動させようとしたものの、体が大きい分体重もそれなりにあるのだろう。ピクリともしなかった。


「ここに居たら邪魔になっちゃうだろ。端っこに行こう?」

「誰にも視えてないしいいんだよ別に……」

「え、視えてないのか?」

「視えないよ、普通は」


 ——いや、オレ普通なんだけど……。


 やたらニヤニヤしているグライトの鳩尾を軽く肘で小突くと、グライトが男を引っ張って道の端に寄せてくれた。


「なあ。本当はオレ揶揄われてるんじゃないのか? マジで他の人には視えていないのか? 未だに信じられないんだけど」

「ちはやは特別なんだよ。ちはやんとこのじいさんも元々精霊術師で、本当はこの世界出身だったし。まあ、ばあさんはニホン人らしいけど」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた気がして条件反射の如く聞き返す。


「は? うちのじいさんが元々この世界の精霊術師!?」

「そうだよ。じいさんもあの村にボクがいるの知ってたし、何度か話した事もある。その様子じゃもしかして聞かされてない?」


 勢いよく縦に首を振る。


「昔は結構な使い手だったよ。自分でも二大元素くらいは使いこなせていたし、精霊獣も二匹連れてた」


 思わぬ所で祖父を知れて驚きを隠せない。


 ——じゃあ、じいさんは逆にニホンに異世界転移してたって事だよな? なら、居なくなったというより元の世界へ帰ったって事か? でもそれだとばあさんは? ずっとじいさんの帰りを待っていたのに……。


 無性に胸元を掻きむしりたくなるくらい複雑な気持ちになって、俯く。


「千颯?」


 グライトに顔を覗き込まれたが視線を更に落とした。今は絶対変な表情をしている。見られたくなくて体ごと視線を背けた。


「こら、このアホ鳥。何千颯を泣かせてるんだ。あ゛あ゛?! 焼き鳥にして食うぞ!」


 グライトの低い声と共に突風が起こり、飛ばされないように身構えるとグライトに抱き込まれた。


「ボクは真実を話しただけだって~! こんなとこで見境なく力使わないでくれな~い?」

「うるせえんだよ」

「いい。いいよ、グライト。やめてくれ」


 グライトが力を緩めると男が地に落ちた。




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