8番ホール 見えはじめた亀裂
昨日までと違って、ゆっくりと各組を見ていられるのはいいわぁ。
ハハハ。
ベスト8、残り8ペア、たったの4組ですからね。
昨日まではあっちでイーグルこっちで大逆転と目まぐるしかったですから。
んま、それを演じた主役たちが今日の演者よね。
はい、今日は比較的腰をすえて、丁寧に各校を追っていきたいと思います。
「小泉くん、そろそろ出すか」
「お? やりますか会長」
「だ〜か〜ら〜、やめなさいっての」
さあ北端の第1打。長崎東西と違い、あまりビッグドライブには縁がないが?
おっと!?
小泉クンの背後に鈴木クンが立ったわね。なにをするつもりかしら?
あの布陣、まさかとは思いますが。もしや長崎東西の二人羽織を?
そのまさかなんだろうさ、北端のゴルフセンスにも人並みはずれたものがある。
さあ小泉が打ちます、っと!?
振りかぶった頂点でシャフトを、背後の鈴木クンがつかんだわ!?
なるほど、そういうことか。雷獣ショットのように地面で一度クラブを止めるのは難易度が高すぎる。じゃあどこで溜めを作ったらいいのか。
そこに気づいた彼らは、彼らならできる方法を編み出した。それがあれなんだ。
「をおおおおおおお!」
「ふんばるんだよ小泉くん!」
鈴木が満を持して離すと、クラブは通常よりも鋭く振られるゥ!?
長崎のお株を奪うようなスーパーショットが佐野の16番に飛んでゆく!
「あんな打ち方を!?」
「こんの、いろんな技を持ってるよねぇぇぇ!」
アレもしかして、グリーンに一打で乗っちゃうんじゃないのぅ?
ご指摘のとおり、グリーン方向だが?
乗るか?
どうだ?
「うぁ、おしい!」
「あとちょっと!」
「でもナイスですよぉ生徒会長。タイミングどんピシャ!」
「だから役職で呼ぶなっての」
これでこのホール、北端は万全でしょう。
鈴木クンはショートゲームが得意よね。あんなイケメンなのに小技もできるって、さぞや商業高校じゃモテてモテてしょうがないでしょうね。
アタシも好きになっちゃいそう。実にいいお尻のかたちをしているしぃ〜。
ダメだよ上野くん。高校生、高校生。
ですから赤井さん、筋肉ですってば。主に大臀筋に代表される下半身の!
だったら長崎のつばめくんこそを褒めなさいよ。あんな立派な太もも、国内じゃ男子にだっていないじゃないか。
おっしゃる通り、あの子の太ももは明らかに異次元の産物。ゴルファーというよりはプロレスラーのそれね。ローキックで相手の下半身を粉砕する、クリーンなファイトで人気を呼びそうな。
ハハハ。
つばめくんは先のショット、打ち損じのリアクションをしていたな。よほど手応えが悪かったんだろう。打ったあとに珍しく悲鳴がでた。
打ち損じであったとのボールは止まりませんでした。グリーンをキャリーで捉えると転がって転がって。長崎東西も1オンならず。
水守・大空ペアは絶好のチャンスを逃しました。
その後難なく乗せた北端とは対照的に、長崎は危なっかしかったわねえ。もう少しでお手玉するところだったもの。
アプローチの名手である水守の、唯一の弱点である深いラフでした。あわやチョロ、というところで出たセルフ二度打ちで難を逃れました。
あれはホントに危なかったわね。たぶん練習してできたものではなかった、とっさのものだったように思うの。
その通りだろうよ。彼女のあんなに慌てた顔を俺は初めてみたよ。
「ナイスぅ美月ちゃん」
「危なかったです。ほとんど偶然でクラブの先が出ました」
「だよね。すっごくおもしろい顔してた」
「本当ですか? どうしましょう、全国に醜態を晒してしまいましたか……」
「ううん、全然そんなことないよ。あれを偶然でもなんとかしちゃうのが美月ちゃんだもん、さすがだよ。ねえ、今の練習してラフで毎回使おうよ。名前はなんにする? お手玉ショット? ツインスネーク? ダブルドラゴン!?」
「どうしてニョロニョロ限定なのですか。それに今はそんな気分になれません……」
「にしても。ちぇ〜っ、おっかしいなあ。いつもとおんなじに振ったつもりだったんだけどな〜」
「つばめさんもドンマイです」
北端の鈴木は先に行ってしまいましたが。小泉は長崎のホールアウトを待っていました。いっしょに次のホールへと向かうようです。
ゴルフカートにハコ乗り!?
顧問はいったいどんな指導をしてるのかしら。さっきから姿が見えないけど。
あの高校は現在教頭先生が顧問代理を務めておりまして。その教頭先生も姿が見えませんが。
にしてもなんなのよあのイケメンムーブ。寒イボ立っちゃう!
いくらイケメンペアってゆっても限度があるわよ、高校生の教育の一環、全国大会よ?
「いやぁ〜、さすが。ナイスでした」
「そっちこそ」
「ありがとうございます」
「水守さん、あれは練習の賜物でしたねえ。深すぎるラフから一度宙にあげ、さらに距離を調節したアプローチを行う。お見事でした」
「いえ、ほとんど偶然でした。もう一回やったらショートかオーバーすると思います。運が良かっただけです」
「まぁたまた。大空さんの1打目もナイスでしたよお! いいスイングだったのになんだかちょーっと打突音が変でしたよね。グリップが緩みでもしましたかな?」
「グリップが?」
「いえ、どうぞお気になさらず。ナイスショットでした。少し大きかったですが」
さあ、これでキャリーオーバーが1つ、次が早くも北端商業にとっての決勝ホールとなります。
長崎東西は苦しいわね。次でひとつくらい返さないと。
北端商業は1打目をグリーン手前とし、届かず。一方の長崎東西は奥へ、惜しくもこぼれました。両校ともチャンスを活かせず。
互いに0.5ポイントを獲得し、北端がトータル1.5ポイント、長崎が0.5ポイントとして4回戦第1試合は3ホール目。17番ホールへと向かいます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おや、鈴木はセットにパターも入れてあるんですね、めずらしく。
そんなにはめずらしくないわよ?
グリーンを外したときにアプローチとしてパターを使う選手はまだまだいるもの。
ただ、あれは見ないわね。
グリーンまで何百ヤードもある状況でパターを使う子は見ないわ。
ここからどういったショットを見せてくれるのか、北端商業の鈴木です。
「小泉くん、準備はいいかい?」
「いつでもどうぞぉ会長ぉう!」
「だーかーらー、もう打つ!」
鈴木がフェアウェイでパットを!?
小泉めがけて打った!?
「ほいほいい! いい球ぁ!」
そのボールを小泉が強振!
「危ッ!」
なるほど、止まっているボールより向かってくるボールの方が強い反発力が生まれる。長崎東西のジェネリック反射ショットというところかな。
パットですからずいぶんと弱い反発ですが?
決して無ではないよ。
しかしパターで戻ったぶんの飛距離が稼げたかは微妙かなぁ。案外トントンかもしれないぞ。
この試合から用いているところをみると長崎のショットにヒントを得たかな? それとも当てつけか、撹乱目的か、だ。
いずれにしてもよく飛んでいる!
どうだ!?
このホールを果敢に攻めた北端は2打目で乗せた! かなり残った位置から乗せました!
直ドラで挑んだショットはなんと、380ヤード近く飛んでグリーンセンターを捉えました!
余裕の表情ね。狙って置いた位置から、思い描いたスイングをして狙った場所に乗せた。これを毎ホール毎ホールできる高校生なんてそうそういないわよ。
今年の北端はここ数年で最強ね。
「ナイスですゥ会長」
「ああ。……じゃないよ小泉くん!」
(ところで目玉らしいですよ。長崎東西はバンカーで目玉。頭も見えないほどの目玉だそうです)
(そうか、ご苦労。こいつはチャンスだなぁ)
「ん? なあに? 今の聞き捨てならないんだけど。ここからじゃあ、あなたたちにもまだボクたちのボールが見えるはずないよね。穴ポコバンカーの中の目玉ならなおさら」
「チッ、マジでか。あの音量で聞こえるんかいな。いったいどんな地獄耳しちゃってんの」
「まさかブロックサイン? ギャラリーの中に部員が混ざって?」
「お、鋭いね。さっすがキャプテン水守さん。どうする? チクるかい? オレらはシラを切るよ? 予想しただけって言うよ? 部員でカメラに映るようなマヌケはいないし」
「断言しよう、おたくらはあのバンカーから1打ではオンできない。いつもと攻守を変えておチビさんなら脱出できても、モデルさんがグリーンに乗せることができない。これは詰んだのと違います?」
「あなたたぶん、脳内での呼び方と口から出てる言葉が入れ替わっていますよ?」
「あらっ! そりゃ〜……」
「もういいんじゃない? ネコかぶんなくても。気ぃ使ってやるのもここまででいいっしょ」
「そうですね、もう勝っちゃうから。オレたちが勝っちゃうから!」
「あとは仕上げをごろう次郎、ってな!」
「やはりわざとだったのですか。あれら褒め言葉は惑わすための話術。あなた方はしてやったり、勝利も目前。細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ。ですがそうは問屋が卸しませんよ」
「五郎? 問屋?」
ブラインドの向こう、少し飛びすぎていたか。バンカーに捕まっていました長崎東西ボール。
この試合からの大空は若干不調に見えます。めずらしくバンカーに入れました。
平均0.4打落とす魔法にかかったのかしらあの子たちも。ああんもう、歯がゆいわねえ!
あれはアゴが高い、相当難しいよ。普通なら出すだけになる。
出すだけって、それじゃあ長崎東西はここまで?
額面通りならそうなるだろうな。そうはさせまいとするのが高校球児、そうはさせないのが彼女たちだ。
普通ならダメだろう、だが。
彼女たちなら?
ここはお手並み拝見といこうじゃないか。
「ふとん屋さんがなんなの美月ちゃん?」
「つばめさんは今だけ黙ってらして。あなたは彼らの話術によってわずかにスイングフォームを乱されていたのです。それで打突に違和感が、ご本人すらそれと気づかない程度に。そうでなくとも、この大一番でふるおうと思ったらいくぶん固くもなりますよ。そうならないための平常心、そうならないための日々の鍛錬ではありませんか。奇跡的な積み重ね、そのバランスをあなた方は故意に土足で。そうまでして手に入れる勝利にいったいどんな意味が?」
「あるんだよこっちにも事情が。女だけのペアだかなんだか知らねえが、自分たちだけが特別と思うな」
「そうだったんだね、あなたたちが」
「おたくらはこんな悠長にしてていいの? 今からでしょ? これからという場面、ここでしっかりと打てんの?」
「打てなくなってるよ。だって人間だもん、ズレてブレて波がある。でも打つ! 打って乗せる! あなたたちに勝って先に進む!」
「ハッ! こりゃあいい、そういう熱血スポーツバカを陥れる時が一番楽しいのさ!」
「ゴルフってやつは野球やサッカーなんかと違って相手のいないスポーツだ。だから徹頭徹尾、自分のスイングにすべてが左右される。おたくは今、自分のスイングを見失ってるんだろ? どうするよ」
「だとしても打つ」
「ふぅん。おたくのスイング、体重移動が芸術的だよ。右手のにぎり位置なんかは最適だね、誰に教わったのぉ?」
「た、体重移動? 右手の?」
「言霊って知ってる? 普段スイングなんて息を吸うくらい、まばたきするくらいなにも意識せずにやってるでしょ。でもこうやって直前に呪文を唱えられたら? いやでも意識せずにはいられないんだよ人間ってやつは」
「フフフ、いわば呪い」
「目線はいつもどこに? トップの位置は? ルーティーンは何秒で?」
「おたくら、特におチビさんはゴルフに向いてないよ。この競技はメンタルがすべてのスポーツなんだ。オレらのような強靭な精神力を持った者こそが世界で戦わなければならない。オレらはなんとしてもおたくらを倒してオリンピックに行かなければならないんだ」
「オリン? ピックに? あなたたちが?」
「集中ですつばめさん。集中!」
高笑いをしながら北端商業が離れます。
何がおもしろいのか、仮にも長崎東西の試技の前で行儀が悪いったらないわ。勝ちを確信してついに本性をあらわしたわね。
「つばめさんは最初におっしゃっていましたよね、調子が狂うと。まさにその通り、あなたはずっと惑わされていたのです」
「どうやらそうらしいね、今になってやっと気づいたよ。ボク鈍いから」
「それで。いかがしましょう」
天をあおいだのは大空。
つられて水守も見上げます。見つめる先にはなにが見えるのか。
「だったらボクに考えがあるんだ。だから美月ちゃんお願い。この試合に勝つために、呪いの言葉をどうかボクに」
「呪いの言葉? ですか?」
「うん。それがあれば集中できるような気がするんだ。いつものスイングはきっとそこからやってくる。何もない、緑色の空間から」
「ですがいったいどんな? 彼らと同じではなおさら混乱します。それは褒めてもけなしても。いったいどんな魔法の言葉があるというのです?」
「あの事件にまつわる、関連する言葉をつぶやいてよ」
「しょっ!? 正気ですか? この場面で!?」
「うん、だから魔法の言葉じゃなくって呪いなんだ。予感がある。残念ながらそれが唯一、ボクを集中へと導くだろうから。でもごめんね。その言葉は確実に、美月ちゃんの心も同じだけ抉っちゃう」
「いいんです、それくらいどうでもいいんです。つばめさんと同じに苦しめるのならそれで。ですが」
長崎東西は長考です。
長すぎる気がするわね……。
ううむ。
だがまだそれほどではないよ。まだね。
「だとしても。お願い」
大空がドライバーを抜きました。そして水守をじっと見つめます。
どうして大空ちゃんはかたくなにドライバーを振るのかしら。みた限り本数的にはセットにアイアンもウエッジも入ってる。
普通に彼女がウエッジで出して、水守ちゃんが乗せればいいんじゃないのう?
美月くんの腕力ではあの目玉から一打で出すことはできない。であるならば、つばめくんがバンカーショットをすればいい。ところが美月くんの腕力ではグリーンまで届かない。
手詰まりなんだ。
しかも、つばめくんはサンドウエッジを使えない。ウッド系以外は打てないんだ。それもパーシモン限定で。実はセットに入っているアイアンは見せかけ、美月くんの予備なんだ。
まさか?
大空の、アイアンにかぶせたあのヘッドカバーの徹底ぶりは、視界に入らないようにする措置ですか? ある種のイップスを?
県予選のみならず全国大会でも、バンカーの中とあってもアイアン以下を使わないとなれば誰しもに予想がついてしまう。
みんなが思っている通りだ、彼女はアイアンが苦手なんじゃない。使えないんだ。
そんなことって?
それでゴルフになりますぅ?
ならないさ。だからバカにされてきた。それでもゴルフが好きだった。
ペアゴルフと出会い。
美月くんとめぐり逢って。
それで初めてゴルファーとして身を立てられた。
すごいんだなぁ彼女は。こんなところにまで登ってこられて。俺は全国ベスト8で十分に満足しているが、彼女らはまだそうじゃないらしい。
……衝撃の事実が明らかになりましたが。
やはり勝負に打って出るのか、しかしドライバーでは目玉からの脱出がほぼ不可能だが?
「わかりました、ここです。絶対にここへ当ててくださいね。そうすればご自分のところに飛んできますので」
「どうしてそんなことがわかるの?」
「今はそれを講釈している場合では。お早く」
「わかんないけどわかった!」
もう時間がありません。
この辺りはジャッジに委ねられてるわね。今までは北端商業が積極的に話しかけていたからおおめに見てもらえてたっぽいけど、たしかに心配よね。
長崎東西の長考が続きます。
たしかに剣が峰に立つ場面、作戦のために残されたわずかな時間を大切に使います。その先に見えるのはどんな景色なのか。
バンカー内の水守・大空ペアがまもなく試技へと。
「じゃあ始めて! いま必要なのはこころの安寧じゃなくて勝利。さらなるこころの安寧のために」
「わかりました。……フゥッ」
小さく息をはいたのは水守。
本当に長いですね長崎東西。制限時間がそろそろ心配になりますが。
「ジャッジさん? なんか分かりませんけど、長崎は時間稼ぎでもしてるんじゃないんですかねえ?」
「焦らし作戦とか? もしかしてこれまでそうやって勝ち抜いてきたとか? 高校生やのに卑怯な手ぇ使うなあ」
北端がジャッジにアピールを始めましたね。たしかに長すぎます。
ジャッジも動いた。
「つばめさんのお父さん。…………小さな漁船」
「……」
アドレスには入りましたが。
しかし何かを始めましたよ長崎東西は。
「…………団らん。…………3色弁当」
すでにアドレスに入っていますからペナルティの対象にはなりませんが。
すでに時間は超過、もし中断するようなことがあれば1打罰の対象となり、ここでの1打罰は即座に敗退を意味します。
ところが握られたクラブはドライバー。いったいどんなバンカー脱出方法があるというのか。
パワーのない美月くんだとウエッジで出すのも難しい。だからつばめくんのバンカーショットが必要なんだが、果たしてウッドで出せるのか。グリーンに一打で届かすにもつばめくんのパワーが必要だ。
いったいどうするつもりなんだ?
「…………宇宙クラブ。…………祝勝パーティ」
「ッ!」
「おおぉいおい! 大丈ぉ夫なのかぁい?」
「おたくらには手段がないだろ。だからあきらめろって」
「ううん、乗せてみせる必ず! ををををををおおおおああああああああああ!」
打ちます大空!
バンカーの目玉をまさかのドライバーで! 盛大に砂が噴き上がる!
当然弾道は低い! あごに当たってはね返る!
はね返る!? って、まさか!?
振りきったと同時にジャンプを!?
ドライバーを軸にして空中で身体を高速でひねり、再度クラブを振れる体勢へと?
「第3の奥義! タイフーン・オブ・フライング・バーディーーーっ!!!」
空中で再度打ったァー!?
「なッ!?」
んなんてしなやかさ! どんだけ柔らかい身体してんのよあの子!
それでボールは!? 俺は見失ったぞ!
驚いたことにグリーン方向です! たとえ空中で打っても大空の方向性はばつぐん!
「ナイスですつばめさん!」
「いてて、ズッコケた」
「んなバカな!」
そっか、バンカーではね返るボールは鈍いから。急いで準備すればギリギリ2度打ちもできるかもしれない。
でもちょうど打てる場所に戻ってくるかは。ほんと化け物じみてるわよねあの子。
そこは美月くんの見極めがあったんだろう。
木に当たってはね返ったボールなんて代物に、当てられるつばめくんにならできるんだろうさ。手の届く範囲にさえ戻ってきたらの話だろうがね。
ジャンプとは恐れ入ったが。地面でモタモタ回転してたら間に合わんしアゴは越えられんしなぁ。
まったく、無茶をするもんだ。
これまでとはうって変わった、迷いが消えた鋭い弾道よこれ。こすった変な回転がかかってない、彼女の本来の球筋ね。
積乱雲を下から貫通するような打球が、まっすぐにグリーンを目指します!
しかしどうか!? 大空のウッド、しかもドライバーではグリーンをやすやすと越えるが!?
たしかに、彼女の本来の飛距離なら大オーバーでOBね。でも見て?
ボールはテンプラにも見まごうくらいの高さ、普通の角度の打ち出しじゃない。
美月くんの指示だろうか、すさまじいほどのアッパースイングで打ったな。あれで距離を調節するつもりなんだ、彼女らは。
バフィーじゃあれほど低く跳ね返ってはこなかった、それゆえのドライバー選択だったんだろうが。あそこまで高く打ち上げるとは、やれやれ。
なんと赤井さんの解説が正しければ、ドライバーの打ち出し角度で距離を合わせてきたのか長崎東西!?
ショートアイアンよりもさらに天高く上がったボールは? 太陽と混ざって消えてしまいます!?
今日が無風だからこそできる芸当だ。昨日だったならどこに落ちたかわからんぞ。
ようやく落ちてきたボールはやや大きいか? グリーンをキャリーで越えてきそうだが?
カラーよ! カラーに落ちたわ!
「そんなぁ!」
「やった! オレらの勝ちィ!」
「ほいーっ! ベスト4ごっつぉうさん!」
ボールはその場で2バウンド、3バウンド。
北北海道代表・北端商業高校はこれで2ポイントを獲得、合計を3.5ポイントとして準決勝一番乗りィィィィ!
「……ッ!」
ほとんど真上から落ちてきたような打球だもの。万事休すね。
っとと!? ちょっと待ってください?
手前に?
転がって?
わずかに乗ったか!? わずかに乗ったように見えます! カメラではグリーンに乗ったように見えます!
それってホントゥー? 本当なの?
早く確認してよジャッジ、早く! ハリアーーーーップ!!
そうか。
ドライバーにもロフトはある、9度から11度ほど。フェイスにはアイアンと同じく溝が刻んであるし、打ち出した球には弱いながらバックスピンもかかる。
あれだけ高く打ち出したんだ、少しくらいスピンが残っていてもおかしくはない。おかしくはないが。
よくもまあ転がったもんだ。
「乗? った!?」
「そのようです。ほら、その証拠に緑の旗が。どうにか首の皮一枚で次に繋がったようですよ」
「やたーーーーッ! 美っ月ちゅわーーん!」
ジャッジの手によって振られるのは鮮やかなグリーンフラッグ!
なんと長崎東西が180ヤードの近距離をドライバーで乗せたァーッ!
「ははは。でも美月ちゃん? 首の皮一枚ってそれ、気管も背骨も、けい動脈も切れちゃってない?」
「ほとんどそのような状態ではありませんか。偶然乗りはしましたが一打罰が課される直前、風が吹けば逸れ、最後のひと転がりがなければ敗退でした。ほとんど運でした」
「運でもなんでも。まだまだボクたちは負けてないっ!」
「ふふふ、そうですね。そうでした。わたくしたちはまだ、負けたわけではありません。行きましょう、キャリーオーバーは2ポイント、こちらにも可能性が出てきました。もし次を奪取できたなら、わたくしたちの勝ちです」
「うんっ!」
さすがに動揺が見られるか北端商業、言葉を交わさず、長崎東西が追いつくのを待たずに次のホールへと向かいます。
ボールも回収せずにね。
こういうところよくないわねえ。仮にも強豪校、試合だってリードしてる。もっと強者の風格を示してもらいたいわよねえ。
それだけショックを受けたんだろうよ。勝ちを確信しただけに大きかった。
次はどちらにとってもチャンスのホールになってしまった。ほとんど同点と同じような状態なんだ。多少ナーバスにもなるさ。
この試合はたぶん、次のホールで決まるだろうな。
グリーン上の映像です。
長崎東西ボールがまるでグリーンカラーにもたれるようにして佇んでいます。まさに剣ヶ峰、土俵際で残りました。
このホールを終えて北端は2ポイント、長崎は1ポイント、キャリーオーバーは2ポイントがプールされています。次は18番のロングホール、双方が王手をかけ合った状態となりました。
さて、名物14番でまたもやアルバトロスが出たとの情報が飛びこんできました。そちらの映像をVTRにてご覧いただきましょう。