表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペアゴルファーつばめ  作者: おれごん未来


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/47

32番ホール 勇気ある者

 日本のみなさんこんばんは。

 時差が16時間あります地球の裏側のカリフォルニアは、ただいま午前10時を回ったところです。第34回となりました2028年ロサンゼルス夏季オリンピックは、6日目を迎えています。

 先ほど女子水泳の自由形の予選が行われ、日本の宮原が2位で準決勝を通過、決勝への進出を決めました。VTRは出るでしょうか。

 VTR出ませんか。

 VTRは出ないとのことですので続いては、まもなく本日の競技が開始されるペアゴルフ。ファストゴルフのペアから、ニッポンの大空・水守ペアの1回戦のもようをお伝えしてまいります。


 はい。代わりましてリビエラゴルフクラブよりお伝えいたします。

 本日の解説を務めますのは元プロゴルファーで現在全日本プロファストゴルファー協会理事の上野真冬さん。

 コースレポートは全日本ゴルフツアー機構会長兼シニアプロゴルファーの赤井勇さん。

 進行はわたくしフリーアナウンサーの高木翔でお送りします。

 今日からはまたこの布陣ですね。よろしくお願いします。


 はいよろしく。


 やっぱりこのメンツが一番安定感あるわよね。よろしくお願いします高木クン。


 ありがとうございます、よろしくお願いいたします。

 さて、日本は一次予選であります団体戦の東アジアGブロックから、2位での決勝進出を果たしています。

 オリンピック本戦ではペア毎に分かれての2次予選リーグが行われ、1位のみが決勝トーナメントに進出できる仕組みでした。

 このあたりの変則ルールはファストゴルフの特徴的なものですが上野さん、どのような経緯で策定されたものでしょうか。


 いきさつぅ?

 日本はこの議論からは外されていて、事実がどうであるかは定かでないとだけ先に言っておくわ。なのでこれは私見よ。

 ペアゴルフは、奇跡の一打が出ると番狂わせが起きやすい競技と言われているのはご存知かしら。

 たしかにそうよね、キャリーオーバーがある状態でチップインなんかが出ちゃうと大量ポイントが得られるもの。弱小国の大逆転は可能。

 一方で、きちんと強い国や団体を決勝に出られるようにしたいのであれば、リーグ戦かつ団体戦にするのは理にかなってる。サッカーのワールドカップみたいなルールよね。


 真に強いゴルフ強豪国が確実に決勝に進められる仕組みがとられていると。


 そう。

 それでも大陸ごとに分かれているから、ゴルフが盛んでないブロックからも本戦に進出できるのはありがたいことなの。そこがオリンピックのいいところ。

 テレビやスマホで自国の選手のがんばりを見て、将来のスター選手がゴルファーを志す。これがオリンピックの醍醐味なのよ。

 でも、あまり大きな声では言えないのだけれど、元をたどれば欧米の列強のために作られたルール。今回に限って日本が助けられる形になったのは皮肉以外のなにものでもないわね。

 このルールじゃなきゃ日程的に水守ちゃんと大空ちゃんはオリンピックに出場できなかった。やっぱりあの子たちは運命の子たちよねぇ〜。


 おっしゃる通り、なにか運命めいたものを感じずにはいられません。

 さて、ここで簡単に水守と大空についてご紹介いたしましょう。

 ふたりはともに高校の2年生。長崎県立長崎東西高校に通う、現役高校生アマチュアペアゴルファーです。

 昨年夏の大会で1年生ながらみごと全国制覇を成し遂げて、オリンピック出場の権利を得ました。

 ところが大会中に水守の体調問題が浮上、その後も強く尾を引き、本年度の春と夏の両選手権については参加を見合わせています。


 んま、今年の夏の大会はこのオリンピックの後よね。

 春は舞浜学院が連覇を達成したわ。本人たちは長崎東西の不在が不満だったようだけれど。


 すばらしい内容での全国制覇でした。

 その間水守はリハビリに徹し、大空は迫水プロらと同道して海外で調整。そのためふたりを欠いた長崎東西高校は残る在校生で選手権に挑み、長崎県大会の決勝で惜しくも敗れました。


 2年生で主力となるはずの水守ちゃん大空ちゃんが不在でのこの着順は胸をはっていいと思うわ。だって全校生徒20人いないのよ? 後進も着実に育っているわよ長崎東西は。

 現1年生には学年がひとつ上がる来年度の活躍にも期待したいわね。


 はい。

 水守・大空ペアの魅力はなんと言っても独自に開発したデュアルショット。大別すると2タイプあり、なんらかの障害物に当ててはね返したボールを再度打つ技と、水守が大空を後方から包むかたちでボールをふたりで打突する技です。

 これらの技の初披露から早1年がたちました。今までにマネをするペアが現れないことから、かなりの難度の技であると推定できますが。


 そうなのよ。競技ゴルファーはともかくとして、SNSでも動画サイトでも出てないの。あってもCG全開のネタ動画ね。

 それより問題なのが、リフト系と違ってテクニカル系は難易度を低く見積もられがちなこと。ぜったいにそんなことないのに。

 あのはね返ったボールを打つ技術、的確に狙った場所へはね返す技術、それとボールをミートする瞬間だけサポートする技術。あれらはあのふたりにしか為せないショットだと断言するわ。普通に考えてあんな打ち方は不可能なの。

 PGAはぜったいに認めないのだけれど、少なくともF難度はあるはずよ。


 おお、F難度も。

 F難度に数えられます技は、世界でも数えるくらいしか存在しません。


 それをあの20世紀頭どもは、Cぃいいいい!?

 ハァアアアアアあああああああああああ!?

 あの大技をちょっと見るなりあっさりCって。

 すぃ。

 なにそれ。

 だったらやってみなさいってのよ、マネしてみなさいな! あんな持ち上げてブンまわす方がよほど簡単じゃないのよさ! 力持ちなら誰だってできるっつの!


 あのう、上野さん?

 もうそれくらいに……。


 そうよそうそう、二宮ちゃんたちのもEとか、ふッざけんじゃないってのよ!

 ふたり同時にボールに当てるとか、振ってるクラブにあとから追いつくとかがどれだけ難しいことをやってるのか、アンタたち本当に理解できてるわけェ!?


 上野さん!?

 上野さん!?

 もうそれくらいにしませんか?


 ゼエ、ゼエ。

 ごめ……。

 ごめんなさいね、つい。


 いえ、未来ある若き選手たちのために憤っているのですから。

 ですが少しだけトーンを落として。


 そ、それもそうよね、今から大事な大事な大空ちゃんたちの決勝トーナメントの第1戦が始まるんだもの。

 あ。

 でもね、技名がついたのよ、正式国際名が。二宮ちゃんたちの同時打ちにはYAMATO、追いつき打ちにはMAKOTOってね。ちまたでは先にツインショットとかドライブタイガーとか、本人たちが高らかに宣言しないから勝手に名前がついちゃってるけど。


 おお!

 では、水守や大空の技にはどんな名前がつけられたんですか?


 ……ないわ。


 え?


 ないの。


 それは。

 ええっと。


 水守ちゃんたちの技はどれもC難度だからないの!

 なんだってのよ! ふっざけんじゃないわよオオオオオ!

 だいたいなんで————


 まだまだ上野さんの怒りが冷めやりませんので、ここで一旦、これまでの戦いをVTRにてふり返ってみましょう。

 あ、痛いです上野さん。

 痛いです! VTRどうぞォ!


 ペアゴルフは今大会から正式種目となりました新競技です。レギュラーゴルフと比べて短時間で終わるのが特徴のひとつであり、各選手は1日あたり1試合が組まれています。

 各試合の平均競技時間はおよそ2時間。選手の体調管理は比較的整えやすい競技となっています。

 一次予選はオリンピック開会式までに世界各地で実施されました。世界の国と地域をブロックごとに分け、西欧ブロックを勝ち上がるとA代表、東欧はB代表、北阿はC、南阿はD、西アジアE、中央アジアF、東アジアG、オセアニアH、北米I、中米J、南米K。

 全世界から本戦に進出しましたのは、11のブロックからそれぞれ上位2カ国選出の22カ国、3組ずつの66のペアになります。

 その後66組のペアは16のブロックにふり分けられ、4組あるいは5組で総当たりの2次予選リーグを実施しました。ここで日本の桜井・角野ペアは残念ながら敗退となり、一方で二宮姉弟と大空・水守ペアの2組は決勝トーナメントに駒を進めています。

 この2次予選5日間の舞台となりましたロサンゼルス・カントリークラブを離れ、本日から3日間はリビエラ・カントリークラブにて決勝のトーナメント戦が実施されます。

 なお、通常の国際大会から本大会へはいくつかのルールに変更が加わりました。およそ日本国内のペアゴルフも国際大会準拠で行われてきましたが、オリンピック開催にあたってさらに変更が加わったかたちです。

 その中でも大きなものをご紹介いたしましょう。

 もはや一般認知度も上がってまいりました3秒ルール。日本では従来、このように規定されてきました。『ペアを組む2者のスイングは、3秒以内に終わらなければならない』。

 こちらがオリンピックルールではこのように変化いたします。『ペアを組む2者の打突は、ボールが動き始めてから3秒以内に終わらなければならない』。

 つまりは、日本のルールでは昨年度まで、最初にスイングを始めてから、ペアを組むもうひとりがスイングを終えるまでを3秒と規定していました。これを元にして興ったさまざまな国や地域の大会ルールがあり、国際ルールはおよそ大陸ごとに違うものとして林立していました。

 その中でも競技人口が多数を占めたのが通称、新3秒ルール。最初の打突から最後の打突までを3秒と規定したものです。オリンピックではこの新3秒ルールを採用しました。

 変更点の2点目。

 オリンピックのために考案された、オリンピックで初めて採用された新ルールがあります。それは通称Vホールアウト方式。

 簡単にご説明しますと、いわゆるサッカーのVゴールと同じものとお考えください。

 サッカーのVゴールでは延長戦にもつれこんだ際に得点が決まった時点で勝利が確定しますが、ファストゴルフでは同打数でグリーンに乗った際、どちらがよりカップに近かったかで勝敗が決します。

 これまで同ポイントのままイーブンが続くと何ホールでも続くケースが散見されました。これで本当にファスト競技なのかと議論が巻き起こったと言います。

 世界大会でも最長13ホール決着の記録があり、日本でも今夏の高校生選手権の2回戦で9ホールの熱闘が繰り広げられました。この対策としてオリンピック委員会が新規採用しましたのがVホール方式となります。


 それじゃパチンコじゃないの。

 Vホールアウト、ね。


 失礼いたしました、Vホールアウト方式です。

 両者がともに2ポイントないしは2.5ポイント、あるいはキャリーオーバーを加えて3ポイント以上が見込まれる状態で並んだ次が、自動的にVホールアウトのホールとなります。


 本当にごめんなさいね、席を外しちゃって。


 いえ。


 もう大丈夫よ。お化粧も直したし。

 おほん、えっと。

 補足するわね?

 導入が噂されていたセンサーボールに関しては、どうも製造が間に合わなかったらしいのよね。今のところとくに発表がないのがその証拠。おそらく従来と同じ、普通のゴルフボールが本大会では使われているわ。

 日本では夏の地方大会から新3秒ルールに準拠して、センサーボールだって導入したってのに。

 つべこべ言わずに日本製のボールを受け取っときゃいいのに、自国生産にこだわるからこうなるんじゃないの。まったく。


 なるほど、打診はされていたんですね。


 それと、満を持して投入することになった水守ちゃんたちペアだけど、復帰に際しては否定的意見もあったの。このまま横下プロ迫水プロでなにが悪いんだって。


 はい、私も聞き及んでいます。


 でもね、この交代劇は両プロの要望でもあるのよ。

 ひとつは国内戦に集中したい。賞金王争いで大切な、獲得賞金の高い大会がこの会期中に2つも行われるのよ。オリンピックと来年の戦いを秤にかけた結果ね。

 もうひとつは、たとえどんな結果を残すとしても、若いふたりに経験を積ませてくださいって。そうふたりのプロに頼まれちゃった。だからそれを了承するかたちで水守ちゃんたちの起用を決断したわ。

 たしかに彼女たちの復帰を望んではいたけれど、故障者でも出ない限り交代させるつもりはなかった。決して既定路線じゃなかったの。

 だから決めたのはアタシ。この決定を非難するのならどうぞアタシまで。

 受けて立つわよォ〜?


 そこはどうか、話し合いにてお願いします。

 なお、メダル獲得を決める3位決定戦と決勝戦についてはペブルビーチ・ゴルフリンクスにて別途行われます。ゴルファー憧れのペブルビーチ、日本人選手にはぜひそこまで残っていてほしいものですが。

 しかし上野さん、リビエラCCの諸元を見ていて驚いたのですが、7483ヤードとあります。これは本当の数字でしょうか。昨日までの開催地でありましたロサンゼルスCCでは1万2702ヤードでした。半減とまでは言いませんが、かなり少ない数字であることだけは確かです。


 それが冗談じゃないのよ。その上でタチが悪い。

 きちんと背景があってね、説明するわ。


 お願いします。


 海外のトップ選手たちがくり出すデュアルショットが常軌を逸してるのはもう、説明するまでもないわよね。


 はい。


 選手の飛距離と、コースヤーデージのアンバランスさ。

 過渡期の一時的なものと認識してはいるのだけれど、選手の飛ばせる距離とコース距離の均衡が崩れてて、世界ではもうティショットによるグリーン乗せっこ大会になっちゃってるの。

 それで開催地に内定していたゴルフコース側は去年から一大事でね。オリンピックの晴れ舞台で簡単なコースと笑い草になるわけにはいかないものだから、はりきって拡張しちゃって。

 そこ行くと伝統あるコースはさすがよね。工事をせずとも見事に拡張をなしとげたわ。


 それはいったい?

 どんな方法ですか?


 簡単よ、隣のホールとくっつけちゃうの。

 パー4とパー3なんか、くっつけちゃうだけですぐに1000ヤード級のモンスターに化けちゃう。

 しかも隔てる林なんかはそのままボールをはばむ障害として機能するから、遠くから乗せるのが難しくなるぶん難易度は上がるわよね。

 建物なんかはコース中ほどでも、グリーンの手前でもかなりの邪魔な存在になるはず。

 だから全18ホールが一気に9ホールに激減しちゃってるってわけ!


 あ。本当ですね、確かに全9ホールとあります。誤植かと思っていました。


 ファストゴルフだからよ。どんな名勝負であったとしても9ホールもあれば十分決着がついちゃう。


 ははあ。

 ではコースレイアウト図のこの囲い、これはくっつけたホールを示していたんですね。


 横にくっつけたホールもあれば縦もあるわよね。これなんか90度折れ曲がってるわ。

 地元選手にはおなじみのコースでも、この条件で攻略するとなればかなりの歯ごたえがあるんじゃないかしら。


 なるほど、おっと。

 選手が顔を見せました。2次予選Hブロックをみごと全勝で通過したニッポンの水守と大空が、ティグラウンドに姿をあらわしました。

 顔色はよさそうに見えます。

 2次予選リーグは4組総当たりのブロックであったため、5組のブロックが最終戦を戦う昨日は休養日となりました。


 5組のブロックは二宮ちゃんたちが受け持つかたちになったわね。


 まあ、そこは抽選による偶然のめぐり合わせですから。


 それでもさすがは双子ちゃん、連日の試合に疲れも見せずあっさり3ホール連取、みごとに2次予選を突破してくれたわ。


 ふたりとも高校3年生ですから。まだまだ若くて元気です。

 水守・大空ペアとしても、二宮姉弟の勝ち上がりは安心材料となったことでしょう。気兼ねなく決勝トーナメントを戦えるというものです。


 このままいっそ決勝で、日本ペア同士の対決にしちゃったらいいのよ。


 いやあ、実にいいですね。ペアゴルフは夢が広がります。


「ねえつばめさん」


「んう?」


「ふふ、わたくしたち運がいいんですって。もしそうなら、この年齢で大病を患うことなどないはずなのですが。つばめさんは自らを運がよいと感じたことはありますか?」


「運?? もしかしてまたX見てた? 運なんて、そりゃあよくないでしょ。もしいいんだったらお母ちゃんは死んでないし、今でもお父ちゃんは健康で漁師をやってる。美月ちゃんだってそうでしょ? もしそうだったならこんなに苦しんで銀髪になることもなかった」


「でも本当に運が悪かったなら、つばめさんとの出会いも、つばめさんといっしょにゴルフをすることもなかった」


「難しいことを言うね美月ちゃん」


「結局のところ、与えられた札で勝負するよりないのです。今さら富める家庭に生まれることも、極端に貧しい家庭に生まれることもできません。スタートはそれぞれ違うのです。もちろん備えた資質も。わたくしは運動機能が徐々に失われるというマイナスの資質を持って産まれました。これを運と呼ぶのなら運ですよ、運命です。その上でどう生きるか。結局はそこなんじゃないでしょうか」


「だね。ボクはそれを言語にすることが長くできなかったけど、今それを聞いてガキャーンと型にはまったよ。完璧に。これを運命と呼ぶのならやっぱり運命だ。だから美月ちゃん、ボクたちが金メダルを獲るのもきっと運命にしよう!」


「そうですね。いずれ、そう遠くない将来に失われる命ならば、せいぜい燃やし尽くしてから返上することにしましょうか」


 さあ、水守と大空の間でなにごとか交わし、目の色が変わりました。これまで年相応の態度を見せていたふたりが一時高校生の衣をぬぎ、競技ゴルファーに姿を変えたところで対戦相手の登場です。

 対しますのは、東アジア予選を1位で通過し、難なく2次予選Gブロックをも易々と突破してみせた中国です。強力なリフト系のデュアルショットを持つ強豪中国が、早くもニッポンの高校生ペアの前に立ちはだかります。


 いきなりのアジア対決とはね。でもね、見てなさい?

 水守ちゃんと大空ちゃんは日本の秘密兵器。中国はその存在をどれほど知っているのかしら?

 きっと勝てるわよ、あのふたりなら。だって我らがニッポンのエースだもの。


「最初っからきっついなあ。アジア予選1位通過の中国、それもエースペアとはね」


「どの組も2次予選を通過してここにいるんですよ? 楽な戦いなんてこの先あるわけないじゃないですか」


「それもそっか」


「ソロゴルフではレギュラーもファストもパッとしない中国ではあるのですが、どうやらペアゴルフでは勝手が違うようです」


「そうらしいね。どうせあれでしょ、リフト系」


「あら、よくご存知で」


「うんにゃ、想像だけ」


「あらら」


「よう、リーベンの子どもたち。ヒョロイのとチビか、予選の時は見なかったな」


「中国語ですね。さすがにわかりません」


「なんて言ってるのかな? メイ・ウィー・スピーク・イングリッシュ?」


「オーケー。挨拶と、初見だなって言ったのさ」


「予選の時は秘密特訓中だったものでね」


「迫水と横下はどうした。見なくなったが」


「帰ったよ、ボクたちにあとを託してね」


「託された? 逃げ帰ったの間違いじゃないのか? おじょうちゃんたちで彼らの代わりになるのかな?」


「もちろん」


「ハッ、いい返事だ。期待してるよ」


 なにごとか短めに交わした日本と中国。

 中国がオナーです。中国代表のユゥ・ハオランが素振りをし、チャン・ムーチェンが伸びをしています。

 すでにボールはティアップしたあと、あれはおそらくショットルーティーンに入っているのでしょう。


「意外な特技があったものですね。まさかここまでつばめさんの英語が流暢だとは」


「えへへ、隠してたつもりはないんだけど。そんなに披露する場面ってないじゃない? ずっと船の上だったから。船員の人とは日本語より英語の方がよかったんだぁ」


「そこに生い立ちが重なるのですね……」


「そんな深刻に受けとめるの禁止〜」


「はい、そうでした。先ほどの中国の方、ずいぶんと挑発されていたように感じましたが。それで合っています?」


「ああ、うん。だいたい合ってる。あっちの人が言った通りにあいさつだったんだと思うよ。ちょっとだけキツめのね。でもこれくらいでびびってなんてやらないから」


「そうですね、むしろこちらのショットで驚かせてやりましょう」


「だね!」


 元々は雑技団出身のふたり、ユゥ・カズィマとチャン・カワウィです。

 3年前に趣味が高じてゴルファーへと転向、国内の大会でめざましく順位を上げての今大会。ペアゴルファーとしては今がピークとも言える状態でオリンピックに臨んでいます。

 現在もっとも怖い、勢いのあるペアのひとつです。


「近くで見て、さぞ驚け!」


 ユゥがチャンに向かって全力で走ります、手前でロンダート!

 さながら体操の床競技、この試合でも出るのか、彼ら必殺の!

 チャンが組んだ両手で着地のユゥを受けとめて上空へと跳ね上げる! ユゥは伸身で回転しながら、クラブを頭上に掲げます!


「フォォォォッ! 双頭龍!」


 落下中に打ったァァァー!

 伸身のきりもみ、その途中でクラブを振りぬいたのはユゥ! そして彼を地面との激突寸前で受け止めたのはチャン! 中国最強ペアのデュアルショットが第1打から炸裂ゥーーーー!


「ッ! 映像では何度も見ましたが、やっぱりでたらめですよあんなもの。ヘッドの軌道を見ましたか? スイングアークの大きさたるや、もはや異常な領域ですよ」


「考えたね……。今までに見た誰よりも破天荒で、誰よりもペアゴルファーなんだ。助走も、ジャンプも、行動がすべて飛距離につながるようにできてる」


 リビエラ・カントリークラブ、4番ホール588ヤード・パー4。パー3とパー4を横にくっつけたこのホール。国内ならパー5に数えられそうな距離でも海外ではパー4どまり。

 比較的短く林も気にならない、境界を超えてややフェード気味に飛ぶボールの着地点は?

 やはり乗せてきたっ!

 広いグリーンをゆうゆうと転がる中国ボール。中国ペアは1番ホールから1打でグリーンに乗せてきました!


「どうだ!」


 さあ日本の水守と大空です。

 勝ち誇った表情で場を空ける中国とは対照的に、入れ替わりでティグラウンドに立つ日本のふたりはたおやか。あえて目線を合わせません。


「強いですね、さすがに」


「ふふん。まあね」


 ついこの前まで負けそうで頼りなかったあの子たちが、今はこんなに心強いだなんて誰が想像できたかしら。

 安心してあとを任せて帰った迫水プロ横下プロしかり、復活を世界にアピールした2次予選しかり。

 もちろん1打で乗せてみせた中国もすごいわよ。でもあの子たちが、ここで負ける気がまるでしないの。

 見せておあげなさいな、あなたたちの青春の輝きがどんなものか。まぶしくって、直視なんかできっこない輝きを。


 直視できていないのは上野さんじゃありませんか?

 おっと?

 もしや、早くも泣いていらっしゃる?


 だべだのよう!

 もうなんが母親目線ずぎで!


「このホールはどうしよっかな?」


「第4でいきましょう」


「ほぉら、あのとき言った通り。やっぱ名前があった方が便利でしょ」


「ふふふ、たしかにそんな会話をした覚えがあります。それに叫んだ方が遠くへ飛ぶと」


「もちろんじゃない。今日だってはりきって大声出しちゃうよォ?」


 何事か発した大空に対して水守から大きめの笑みがこぼれる、リラックスしてのぞむニッポンペアです。

 中国の1オンに少しも動揺していない様子。あれから1年で見ちがえるほどの成長、実に頼もしく写ります。


 女子三日会わざれば刮目して見よ、だな。

 それは窮地での奇跡の一打を示すだけじゃない。落ち着きはらって放つ、当たり前の一打を当たり前に打てることだってそうなんだ。いや、彼女たちの場合デュアルショットそのものが常に奇跡の一打なんだが。


「第4の奥義!」


「バイアフリンジェンス・オブ・イーグルッ!」


 いったーッ!

 昨夏に佐野で誰しもの度肝をぬいた、ティマーカーを利用した反射打ちが世界の舞台で初披露ーッ!


「なんだあれは!?」


 どうよ世界!?

 目にも見よ! これが真のニッポンのエースよッ!


 大空の打球は風以外では曲がりません。まっすぐにグリーンへ向かって、飛びゆく飛球には安心感すらおぼえます。

 あとは飛距離がどうかですが?


 そこも数々のホールをドライバーで乗せてきた彼女たちだもの、当然。

 ほら見てよ。あのティグラウンドで確信してたたずむ、ふたりの安心しきった面持ちを。

 大空ちゃんなんか結果を見ずに片づけに入っちゃったわよ。


 乗りました! ニッポンペアも1オンのイーグル!

 ドスンと落ちたボールのランは少ない! この打球の高さも、硬く速い海外のグリーンで確実にボールを止められるこのペアの強みです。


 まるでアイアンみたいな高さで飛んでいくものねえ。

 本来高い打球は風には弱いのだけどね。でもあのペアは上手に風を読むから。


 さっそうと歩み出します、5番ホールへ。


「フン。やるじゃないか」


「そっちこそ」


 まずは無難にスタートホールをイーブンとしました。双方0.5ポイントを獲得し、コネクテッド5番ホールへと向かいます。

 一旦CMです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ