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ペアゴルファーつばめ  作者: おれごん未来


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29/47

29番ホール 挑む者たち

 お、渦中の人物の登場だ。


 いよう、お噂はかねがね。


「えっと? 誰!? 知らないおとなの人……」


「おやおや、ペアゴルフをやってる人間が、迫水プロと横下プロのことを知らないってのはさすがにまずいでしょ」


「そう言うあなたは二宮ヤマトくん!」


「大空さん、フルネーム呼びはちょっと」


 ッハッハ! それも腹からの大声でな!


 トホホだなぁ。プロのこっちが学生を知ってて、学生がこっちを知らないとは。


「す、すみません! ボクそのあたり本っ当に疎くって!」


 いいっていいって、しょせんソロで勝てないからペアに流れてきただけの二流なんだ俺たちは。


 いいかげん自虐がすぎんだろ。これでも日本じゃ500ヤードに一番乗りしたんだ。


「そうなんですね、スゴ」


 いやいや、この子らどっちも600打てんだぞ?


 いや、だから。まあいい。それより大空さん、パートナーはどうした? もう始まる時間だが。


「それがまだベッドから出られなくって」


 まだ決勝のことが尾を引いてるのかい?


「いえ、そうではなくって。でも口止めされているんです」


 ほう。


 呼ばれたぞ、出ていこう。


 では始めさせていただきます。

 これより全日本プロファストゴルファー協会理事の上野真冬から、2028年ロサンゼルスオリンピックにおけるファストゴルフ代表選手の発表をいたします。


「ンンッ、ご紹介ありがと。本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。先に長話をしてもアレなので、さっそく男子ソロから。————」


(水守さんは元気なの?)


(それはもう。やっとリハビリをはじめられて、まずは立つ練習から)


(そうか……。それはまた、ずいぶんな遠回りになったね)


(ところが本人はものすごい前向きなんだ。ごはんなんか前よりもモリモリ食べて、まだ身長を伸ばすつもりがあるのかってくらい)


(アハハ!)


「ん続きまして、ファストペアゴルフ代表からは第1組、大空つばめ選手、水守美月選手。なお水守選手は本日、この記者会見への来場を見合わせております」


「…………」


 ————以上、総勢22名の選手が代表に選ばれました。

 ここからの時間は質問を受けつけます。挙手のうえ、当てられた方よりお願いいたします。

 では緑のジャケットの方。


 高校生ゴルファーの大空つばめ選手に質問です。ペアの水守美月選手はケガでなく病気療養とのうわさがありますが、それは本当でしょうか。


「えっと——」


「その質問にはアタシから答えさせてちょうだい? あなたが指摘したとおり、水守ちゃんは病気なの。でもこれから本戦までの8ヶ月を使って療養するわ。きちんと治し、リハビリして、練習して戻ってきます」


 北海道なまらテレビです。

 しかし本戦はそれで良くとも、予選はもう始まってしまいますが。


「出たわね? アナタたちからその話題さえ出なければ黙っておくつもりだったものを、発表するよりほかないわね。そうなのよ、だからもうひと組用意させてもらったわ。追加でご紹介しましょう、入ってきてアタシのかわい子ちゃんたち」


 追加選手をこの段階で!? 早くないか!?


 補欠選手枠の半分をペアゴルフに充てる!? なんと贅沢な。思い切ったなぁ上野理事。


「茅ヶ崎学園高校の角野クンと、独学館高校の桜井クンよ。世界はもう、1マイルホールが登場しているのは知ってるわよね。すでに無慈悲な飛距離の時代が到来しているのよ。おそらくオリンピックのコースにも、必ず長大なホールがひとつやふたつ入ってる。それに太刀打ちできる日本人選手は代表の3組と、このふたりを置いて他にはいない。特にいま紹介したこの子たちは即席のペアだけれど、今から8か月かけて醸成すれば結構いいところまでいくと思うの」


(角野サンに桜井くん!?)


(いや、こいつもオレも同い年だから。なんでこいつだけサンづけなんだ?)


(おまえと違って大人だからさ)


(オッサン顔だからだろ)


(お、言ったな? あとで覚えてろ)


「とにかく、おまえもまだ本調子じゃあねえんだろ。だからおまえら、早く体を治して戻ってこい。幸い3ペア参加のリーグ戦だ。それまでオレらで繋いどいてやる」


「まあ、戻ってきても来なくても、オレらペアが優勝しちまうがな」


「アナタたち、私語はあとにしてね。以上の24名で戦ってきます。このメンバーで最低でも1個、金メダルを奪取してくるわ」


 おお!


 また出たぞ! 予告金メダル!


 最後の質問を受けつけます。ではハンチング帽の方。


 福岡海浜テレビです。

 ペアに関して、すでに世界はテクニカル系スイング時代が斜陽をむかえ、リフト系スイング時代へと移行しつつあります。そこへテクニカル系の選手を、それも高校生を優先してあてがう采配はいかがかと考えるのですが。

 国内でもわずかですがリフト系の選手は育ってきています。そのあたり、どのようなお考えがあるのかお聞かせください。


「パワーに秀でた選手ならではよね、リフト系。アタシの大好きな筋肉の祝宴がもうすぐ、そこまで! 待ちきれないわぁ〜。でもね、理事だとそんなバカばっかゆってらんないのよ。日本はやっとテクニカルの時代に入ったばかり。今回連れて行きたいのもテクニカルのデュアルショットをもつ選手たち。最初っから日本が出遅れているのはわかってる。それでもあの子たちならって期待しちゃう。その気持ち、あなたたちにわからない? 日本はスキージャンプだって柔道だって、体格によるハンデのままに世界とわたりあってきた。ありがたいことにその枠に二宮姉弟はとらわれないのだけれど、それでも経験値で大きく遅れをとっている。でも。ちょっと待ってくれるかしら。体格差って、いつもの日本国じゃなくって? スキーの板はたとえ逆立ちしたって長いものを使わせてはもらえない。柔道だって、同じ体重であっても奥えりをつかむこともままならない。今回がペアゴルフってだけの話よ。それでもあの子たちは必ずメダルを持って帰ってくるわ。成田に、100点の笑顔といっしょに、金ピカを胸に下げて帰ってくるわよ。だからあなた方は、あの子たちのことを信じて、温かく見守っていてほしいの。カメラをかついで追い回すのでなく、CMのオファーを出すのでなく。それらは勝って帰ってからにしてちょうだい。これはアタシからのお願いよ。ああっと、先に言っておくのだけれど、これを守れない個人や団体は発覚後に業界から締め出されるのを覚悟してからやってよね。アタシ、やる時はとことんやるタチなので」


 以上で記者会見を終了いたします。ありがとうございました。


「引き続き選手への応援よろしくお願いしまぁ〜っす。むちゅ!」


(たったの3競技で、それも前例のない新競技での金メダル宣言とは。これまでの国際大会でまるでいいところのない競技だぞ?)


(そりゃあそうだろう、あれだけ強権をふるってなんでも自分ひとりで決めてるんだ、それくらいの成果を見せなきゃ国民が納得しねえよ)


(国民が、じゃなくてマスコミが、の間違いだろ? あえての発言だとは思うが。勝って帳消し、負けて失脚。なんて分の悪い賭けだ)


「まだ居た! ちょおっとちょっと、大空ちゃん! 水守ちゃんの具合はどう?」


「上野のおばちゃんこんばんは。美月ちゃんからおばちゃんにことづけがあって。ただひとこと、『間に合わせます』、と」


「フフッ、頼もしいことね。もちろん心配なんかしてないわよ? リハビリがんばってって言っといてくれるかしら」


「うん、わかった」


「あなたたちはただ胸を張ってプレーしたらいいの。ゴルフの発祥はスコットランドでも、ファストゴルフの発祥はニッポン! これだけはゆずらないから。だから胸を張っていってらっしゃい。あなたたちが盟主国、ニッポンの代表よ。そう彼女にも伝えておいて」


「はいっ!」


「いつもながらいい返事よね、小気味いいわ。アタシも本戦から行くから。あっちでまた会いましょ、バチコーン!」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(小学1年生の2学期は結局永遠にやってこなくてね。それからはずっと、年じゅう船の上で暮らしてたんだ。勉強は通信制でね、————)


 ご案内いたします。

 この電車はのぞみ号、博多ゆきです。途中の停車駅は品川、新横浜、名古屋、————


(実はボク、自分がどうしてイップスなのか知らなかったんだ。て言うか、たぶん忘れてたんだと思う。お父ちゃんも、島のみんなも言ってくれないしね。船の上では1本しかないドライバーばっかり振ってたんだけど、陸に上がってからアイアンやパターを打とうとするとなぜか体調が悪くなってね。ずっと原因を知らずに生活してて。それでスコットランドに行って、おじさんの話を聞いたら思い出した。10年前のあの日、美月ちゃん家の玄関には血まみれのゴルフクラブが散らばってた。あれが記憶のどこかにあって、アイアンとパターが。持ち出されていたウッド以外を使えないだなんて、なんの皮肉なんだろね)



(……最初は知らなかった、自分がアイアンを打てないこと。クラブセットをお父ちゃんが海に投げ捨てちゃって。ずっとゴルフクラブがないままに月日が流れて。そしたらボビーと夢の中で会って。いつのまにか船にパーシモンが、太郎があらわれて。今にして思えば島やゴルフから離れるための船出だったんだろうけど、いつのまにかドライバーが1本だけ。変だよね。しかもそれって、ボクが夢の中でボビーにもらったものといっしょなんだ。ほんとに変なんだよ、お父ちゃんが海に投げ捨てても、どうしてか次の日には戻ってきちゃう。たたき折っても燃しても次の日には。揉めに揉めたよねえ。船のみんなからは恐怖の不死身のクラブだって、お父ちゃんなんかは途中から見るのも怖くなってたっぽい。逆にボクはヒマつぶしの相手になってもらってたんだ。船にはゲームもネットもなかったから。あれこそ不死鳥のクラブだよ、誰にも言わない、ボクとボビーだけのひみつのクラブ。手伝いの他はずっと太郎を振ってた。ずっとずっと振ってた。ボビーのドライバーって不思議なんだ、振ってると楽しかった時のころを思い出すんだぁ。なんでだろ。初めて18ホール回れた時とか、72を切った時とか。そのかたわらにはいつも美月ちゃんがいた。どっかの国でしばらく上陸することになって。たぶん船の修理か点検? そのときにゴルフ場に行って、アイアンを貸してもらって。盛大にゲロった。打てないことをはじめて知った。アドレスするだけで吐き気がして。思い出しちゃうんだ、ボクとお父ちゃん以外誰もいないお通夜とか、炉に入っていく棺桶とか。だから太郎だけ。ボビーがくれた太郎だけを振って。10年がたった。お父ちゃんがお酒の飲みすぎで施設に入ることになって、船を降りることになって。陸に上がることになって、長崎に帰ってきたけれど。でももうゴルフはこれまで、って思っていたところにファストゴルフに誘われちゃって。なんの因果かまた美月ちゃんと交わる時に、ふたたび現れた因縁の、宇宙素材の妹。いったいどうなるんだろうね、この先————)

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