2話 真実は他人にはわからない
元貴族視点
俺の名前はメイソン。下級ではあるが、これでもちゃんとした貴族だ。
この国の資産家の化け物どもに比べれば足元にも及ばないが、庶民共には使いきれないほどの財産を築き上げたことで貴族の社会に入ることを許された。
このまま順調にいけばさらに上の貴族位にだってなれる、俺ならもしかしたらあの資産の化け物共にだって追いつける。本気でそう思っている。
俺のビジネスは魔法を使った物流というものだ。
今までの物流は荷車を馬や牛を使って運ぶという物だったが、俺は馴染みの魔法使い達と組んで、車輪を魔法で回して運ぶという革新的なビジネスを始めた。
速度は速いが多くを運べない馬車と速度は遅いが多くを運べる牛車とは全く違う、速度も早く多くの物も運ぶことができる魔道車はまさに物流に革命を巻き起こしたと言える。
車輪を直接魔法で回せば馬や牛にかかるコストも無くなるし、何より荷車のサイズを変えて魔法使いが交代で魔法を使えば都市間という長距離でさえ大量の荷物を運べるのだ。
この試みは大ヒットして今では大型輸送はウチでしか出来ないとまで言われるほどになってきた。
俺だって馬鹿じゃない、肝心な魔法の仕組みは隠してきたし、魔法使いだって俺とずっと一緒にやってきた馴染みの奴らだから裏切ることだってないだろう。
そう思っていた。それが勘違いだとも知らずに…
初めての貴族の交流会、ここで中流……いや、上流貴族の後ろ盾を得られればこの国の外でだって商売がもっとできるだろう、そうすれば一気に中級貴族になることもできる。
「よし、今日が勝負の日だ!やってやる!」
招待状を確認して、時間より早めに参加する。
中級、上流貴族より遅れて交流会に参加するのはあり得ない。物流という信用が大事な仕事をしているなら尚更だ。
馴染みの魔法使いたちと会場に向かうと何か違和感を感じる…
「おい、メイソン!建物の灯りがついてないぞ?」
「いや、会場はここのはずだが……」
招待状を何度も確認するも会場に間違いはない……
べっとりとした嫌な汗が吹き出してくる。
「おや?今日の交流会の会場はこちらではなくてタールの街のほうですぞ?」
建物の管理人らしき人物が交流会の会場は違う場所だと言い、その招待状ではタールの会場には入れないだろうと言って、新しいものと交換してくれた。
新しい招待状をもってタールの街の会場へと急ぐ……
「遅くとも20分以内にはつけるか?」
「メイソン、無茶は言わないでくれ、急いでも1時間はかかる…」
「それじゃ間に合わない!」
「そんなこと言っても仕方ないだろ、ここから2個隣の街なんだぞ!」
「2人とも!良いから急ぐぞ!」
馴染みの魔法使い達もいつもよりも多くの魔力を車輪に注ぎ込み急いでくれたが、タールの会場に着いたのはそれから50分後、交流会がすでに始まってから20分経った後だった…
「メイソン!もう始まってるぞ!お前だけでも早く行ってこい!」
「わかってる!急いでくれて感謝する!魔力も使い切ってるんだ、ゆっくり休んでいてくれ!」
「あぁ、すまないな……」
俺は仲間の魔法使い達を魔導車の元に残して会場へと急いだ。
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交流会の結果は散々なもので、遅れた理由を説明しても招待状が新しいものと交換されてしまった為、証拠もなく、誰にも信じてもらえなかった。
遅れてきた理由を誤魔化すような奴の後ろ盾なんかになれないと上級貴族との繋がりを作ることもできなかった。
今思えば古い招待状を送ってきた貴族とあの管理人はグルだったのだろう……
交流会が終わった後で聞いた話だが、表にいた馴染みの魔法使いたちは貴族の手配している警備員に不審者だと因縁をつけられて身柄を拘束されて、事情聴取という名目で魔法の仕組みについて聞き出そうとしてきたらしい。
高額な報酬で釣ろうとしたりあれやこれやと相手は手を尽くしたようだが、口を割らない仲間に痺れを切らしたのか、最終的には家族がどうなっても良いのかと脅され、1人が仕組みを話してしまったらしい。
全員が合流できた時に猛烈な勢いで謝られたが、すでに仕組みが明らかになった以上、もはや物流市場の独占は難しいだろう。
俺は先行きの見えない不安に唇を噛み締めることしかできなかった…
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あの交流会から半年後、中流貴族に仕組みを転用され、資産に物を言わせた採算度外視の低価格運送は物流市場の単価を暴落させることになっていった。
俺たちが干上がるまでの限定的な低価格だとはみんなわかっていたのだが、なんとか活路を見出そうと国外に手を広げようとすれば邪魔が入り、国内では貴族達の利権が絡み始め、今まで贔屓にしてくれていたはずの太客達もうちに依頼をしてくれなくなっていった……
そんな日が続くとあっという間に仲間の魔法使いたちの給料も払えなくなり、俺は財産を全て失い、事業を撤退することになった。
そうして俺は仲間も事業も貴族の地位も何もかもを失い、果ての墓場にたどり着いたのだった…