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不知の旅路  作者: りょー
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プロローグ

以前書いていたゴミ貯めから始まる建国〜の構成を作り替えました。

コツコツやっていくのでよろしくお願いします

プロローグ

デゴの谷某所

 通称果ての墓場


 俺の世界は一面のゴミの山で出来ている。ここに新しく来る人はこんなところには住めないと口を揃えていうのだが、俺の中ではこれが普通……そもそもあいつらの言っている普通というものすら知りはしないのだが、とにかくここで生まれ育った俺はこの景色以外のものを知らない。

 

 その中から何か金になるものはないか、食べられるものはないか探す……見つけたとしても飛びつかない。

 周りの奴らが見てないか、気づいてないかあたりを見渡してからさりげなく拾う。

 時には金目のものと一緒にゴミにしかならないものを拾って遠くに投げてみたり、丸めて蹴り上げたりする。

 こうすることが生きるための全てで、こうすることしか俺は知らないのだ。


 こうしておけばあいつはガキだから金目のもの以外も拾っては遊び道具にしてると思わせることができる。

 遊んでいると思われていれば殴られることも奪われることもない。痛いのも怖いのもほんとに嫌だ。

 「当たり」なんか拾ってるところを見られれば、『明日、日が登るのは拝めない』なんて言ってる奴もいるくらい、追いかけられ、当然のように奪われる。みんな当たり前のように警戒してるし、周りのやつを観察してる。


 ここでは個人を構成するあらゆるものが無意味で無価値らしい。近くでゴミを漁ってるあいつも昔はそこそこ身分の高い貴族とやらだったらしいが、いまでは親も名前もわからない俺と同じことをして生きている。

 貴族っていうのがどんなもので何をしている人なのかも知らないが、ここでは未来は閉ざされて、過去は何の意味も持たず、名前すらあっても名乗る意味がない。


 ここにきてしばらくは、こんなことはできないだの汚い臭いだなんだと喚き散らしていたが、食うのに困ってからようやく覚悟を決めたのか黙ってゴミ漁りを続けてる。


 他の奴らもほとんど同じ、何かを失って人生諦めて、今日生きてればそれでいい、そんな考えしか持っていない奴らだ。

ここに捨てられた赤ん坊は、ガラの悪い奴らが連れて行くから子供なんかはほとんどいない。

残っていたとしても障害があったり、病気持ちしか残されていないため、育てるような人もいないためすぐに死んでしまう。

連れて行かれた赤ん坊は実験に使われてるだの、逆らえないように教育して、足のつかない鉄砲玉にされてるだのそんなことを風の噂で聞いたことがある。

こんなクソみたいな環境で生き残って成長した子供は俺くらいだろう。


そんなことをぼんやりと考えながら今日も一日ゴミを漁っている。

 今までは明日まで生きていければそれでいいと思っていたが、こんな俺にも最近やりたいことができたのだ。

 それは、いつかこのゴミ貯めを出てここに来る奴らの言っている『普通』ってのを体験したいというものだ。

 そのためには少しずつでもお金になるものを集めないといけない。

 

『今日はなかなかいい収穫だったな』

自宅と呼べるものはこの場所にそもそも存在しないが、自分のいつもの寝床に戻ってきて今日の収穫を確認する。


もともとゴミとして捨てられていたものでも金属は集めれば売れるし、ジャンク品は修理をすれば定期的にゴミを捨てに来る国の奴らが買い取ってくれる。

ゴミ貯めの住人は街に入るのに金を払わないといけないから1回程度で稼げる額じゃ全然足りないが、金さえあれば隣町で買い物くらいはできる。


コツコツ貯めてきた俺の貯金の状況は、今日の収穫を売れば隣町で1日は過ごせるくらいと言ったところだ。

当面の目標は隣町の身分証を買える額おおよそ1か月分過ごせるくらいの金を貯めること

単純計算であと1年以上はかかるだろう。かなり長いけど諦めるわけにはいかない


『よし、明日も頑張るぞ』

そう心の中でつぶやいて眠りにつく


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日は収穫少なかったんだね、私の分けてあげる」

「元貴族の新入りさん困ってるみたいだから手伝ってくるね」

「この子今日体調悪くて動けないみたい、誰か毛布とご飯分けてあげられない?」

「街に行ってきたよ!少しだけどご飯買ってきたからみんなで分けて食べよう!」

あの子はゴミ貯めの中でも優しく周りを照らす希望だった

あの子がいればギスギスしたゴミ貯めの空気も明るくなった。

あの子がいれば……


3年前のある日、国のお偉いさんが視察に来た。

ゴミ貯めにどれだけゴミが捨てられるのかを見に来たらしい。

ついでに底辺の人間が無様にゴミを漁る様子を見て楽しむつもりだったようだ。

それが、いざ蓋を開けてみればあの子を中心に助け合い、明日に希望を持って過ごそうとしてる。


お偉いさんからしてみれば面白くなかったんだろう。ゴミを捨てようとゴミ箱を開けてみたら、楽しそうに繁殖して飛び回ってる蝿の集団を見つけたような気分だったのだろう。

お偉いさんは手に持った杖を構えると当たり前のことをするように呪文を唱えてあの子が作る輪に向かって火の魔法を放った。


「みんな逃げて!」

魔法の発動にいち早く気付いたあの子は咄嗟に叫ぶとみんなを逃すことを優先した。

燃えやすいものが一帯に落ちてるゴミ貯めは一気に燃え広がり俺が振り返った時にはあの子は火の壁の向こう側に取り残されていた


「ーーーーーーーー」


あの子の最後の言葉は聞き取れなかった。


あたりに嫌に響くお偉いさんの笑い声と

「いつか君が世界の『優しさや普通』を知って、『夢や希望』を持って『幸せ』になれるように私も手伝うよ!」

そう言っていたあの子の言葉が頭から離れない


『またこの夢か…』

あの日を境にゴミ貯めの状況はさらに悪化した

希望を持つだけ無駄だと喚き散らし周囲と関わりを絶った者

誰かの標的にされないようにと強いものに媚びへつらい、自分より弱い者を虐げる者

自分の快楽だけを優先して犯罪を平気で行う者


 結局優しさなんてものは何も生まないし、夢や希望なんてものは容易く消えてしまう。それでもあの子がして来たことには何か意味があったのかもしれない。

 だから俺はそれを確かめたいと思う。ここにいてもそれはきっとわからないままだから……

 

「よし、今日も始めるか」

今日もゴミの山に向かって歩き出す


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