わたくしふたり旅に……
駅の有料駐車場に停める。
駅でとは言われたけれど、どうやってこちらまで、来るのかしら。
けっこう遠くの土地なのですが、どうやって来ますの、とは聞けない。
怒られる。
あかりさんには、しっかりと連絡もしていたし、朝ごはんも食べました。
普段のマネージャーには連絡は、いましましたわ。
怒られる。
「うう……最近あかりさん怖いんですのよね」
そらくんの第一彼女から降格したのも、そのあと第二彼女のあかりさんが第一彼女になるとは、考えていなくもなかったですが、そうなりましたわ。
そらくんが体調をくずしている間も、なにかとわたくしの部屋をおとずれては、買いものや看病を手伝ってくださり、わたくしのVの活動の支えになってくれます。
そのおかげか少しずつわたくしへの発言も過激になり甘いですとか、ちゃんと寝てください、とかはっきりと言いますわ。
「お怒りにくるとか、そういうことでは……ありですわ」
エンジンを止めたあとカバンを持ち、中身を少しだけ確かめると、側にある駅近くのビルに逃げる。
「しばらく隠れていましょうね」
ビルの案内をみると、それほど大きい商業施設ではない。
それでも音楽のショップや百円ショップなどあり、一階には喫茶店が入る。
夕方には、まだ早いのに喫茶店は、混んでいる。
観光したあとの休憩などかもしれない。
三階に休憩スペースがありそうなため、運動もしようと階段で向かう。
子どもが上から走ってくると、パイナップルと声が聞こえる。
ぴたっと止まると、わたくしの袖を引っ張る。
「じゃんけん、なに」
「なんですの?」
「じゃんけん」
「ぱーです」
「ぱーは、さっきしたの」
「そ、そうでしたか! それでは、ぐー」
上からじゃんけんと聞こえる。
袖が解放されると、上から別の子どもがくる。
上にいくと、三人ほどでじゃんけんしていたらしい。
また階段を進むと、コロコロつきの旅行カバンをすごい音をさせながら、下りてくる。
ボフ、ガツ、コンとなぜその荷物で階段にしたのかしらというお兄さんだ。
すれ違うと、あちらこちらに傷のあるカバンだ。
とてもヤンチャさまなのだとわかる。
少しだけ避けつつしていると、こちらをみたあと、どうもっす、と声をかけてきた。
ヤンチャさま丁寧な人だった。
三階にくると、いくつかの空きスペースと小さいゲームセンターがあり、ベンチもあった。
窓ぎわの空きスペースの窓の外は、よく晴れた冬空がある。
ベンチに座りつつ、持ってきた手帳に書き込む。
印刷した紙に書かれた住所は、少しずつバツが進む。
前にアオイに似た者が映る写真の場所もいった。
だんだんとアオイの居る場所の範囲がつかめるようになってきている。
わたくしの部屋を中心にした、数キロにはいなかった。
けれど、写真やハロウィン、それに銀行の手続き、だいぶ姿がわかってきましたわ。
手帳に、おそらく居そうな場所の名前を書き込む。
「なんでしたかしら……」
ふと、なにかを思い出しかける。
アオイが、それに関係した話しをしていた気がする。
それは、前にも聞いたことのあるような話しだ。
はじめの頃か、それともベットか。
また違うときだったろうか。
手帳をみつめつつ、現在考えていることをなんとなくで書いていく。
ブルー。
アオイ。
居る場所。
なくなった金庫。
……
「あい……」
カシャン!
なにか音がするため、はっと顔をあげると、ちょうど目の前の女の子がスマホを落としていた。
床は、そんなに硬い素材ではなかったけれど、カバーにつけたジャラジャラがいい音をさせている。
「はい、どうぞですわ」
足のそばにあるそれを拾うと、女の子に渡す。
「ありがとうございます」
「わぁ! 爪おキレイですわ」
背中に楽器を背負うその子は、両手とも短い爪がキレイにコートされ、ぴかぴかしている。
よくお顔をみると、とても美人でショートヘアがよく似合っている。
「そうですか。でも、貴女のほうがとても可愛いですね」
「嬉しいですわ! こちらいかがでしょうか」
隣が空いていたため、思わずすすめてしまう。
さきほど考えていたことは、なにか忘れてしまった。
よっと背中の楽器を降ろす。
ギターだろうか、ベースだろうか。
「混んでますね」
「よかったですわ」
「え……」
「あなたが落とさなかったら、隣に座ってもらえませんでしたわ」
「そっか。いい人ですね」
そういうと、スマホをなでてから、こちらに向ける。
「どうしましたの」
「連絡交換しましょうか。今度ライブやるんです」
スマホをふりふりするため、わたくしも慌てて、手帳をしまうと、スマホを出して交換する。
「ライブ……きっと貴女は、ボーカルですね」
「わかるんですか」
「お持ちのは、ギター?」
「ベースです。でも、これはそんなに。歌うのが主ですね」
ふぅと少しお疲れのようだけど、まさかここで、ライブもする美人ボーカルさまにお逢いできるとは、思わなかったため、眼をみつめる。
「かっこいい!」
「今度食事にでも、いきますか?」
「え、おデートですか。いきます!」
「ははっ! 楽しいひとですね」
すっと立ち上がると、もういってしまわれるらしい。
身体のひとつに、なにか花の跡がある。
身体に直接あるように、みえる。
じゃ、と手をあげてこちらを向かない。
「ううぅかっこいい女性ですが、ツレない……」
眼で追うとエレベーターでボタンを押したところで、いま気づいたように、こちらを向いて笑顔だ。
「その笑顔……もっとみたかった」
すっかり手帳に書き込むことは、忘れてしまった。
けれど、とても美人さまの連絡をゲットできましたわ。
ライブいつなのか、今度詳しく調査しなくては、いけませんわ。
立ち上がりビルのなかを歩きまわり、百円ショップと、隣にあったサテライト携帯ショップを少しみる。
持っている旧いスマホの新機種だ。
お声がかかるも、とりあえずいまは遠慮しておきます。
通知がくるため、ショップから離れてからみると、あかりさんがもう少しですから、という話しだ。
「はやっ!」
観念してお化粧室にいき、そのあとおくじらまで戻らずに、駅のベンチに居座る。
「さきほどの美人さまは、バンドボーカルなんですわね」
メンバー紹介の小さい画像をみつけ、にやにやしたり、タブレットで少しの作業をして、脚が少し冷えてきました、と思っていたら、コツコツコツッと眼の前に私服姿のそれは、可愛いらしいかたが立つ。
「りーちゃん遠くまでいくなら、ちゃんとそう言ってください!」
わたくしの愛人ですわ。
怒られました。
「たしか……そうお伝え……した気がします」
「……少しでかけます。探さないでください。電波がなくなるときがあります。夜中まで帰りません。これで探すなってことですか?」
叱られています。
「いいえ……夜泊まることになるかもしれないですし、ドライブ中はでられませんし……あかりさんもこれから活動なさるから、忙しくなりそうですし……」
「りーちゃん、スケジュール管理しているのはどなたですか? 居場所知らせないと、また事務所で変な噂とかきたらどうするんですか?」
「はい! そうですわよね! マネージャーに管理をお願いしています! 噂はできるだけ蒸発させますわ」
「はい、それじゃわたしもご一緒します。二日でわからないなら、もう一日追加ですね」
「あのぉ……お彼氏さまは、いいのですか? せっかくの冬休みですし」
「そらくんは、りーちゃんを優先してって言ってます。わたしもそう想う」
お彼氏さま。
それは、どうなのでしょうか。
たしかに、つい先日までは、仲睦まじく過ごしてはいましたが、女子高生が長旅にでるときにほかのかたと一緒にでかけてよい、優先してって言うのは、少し考えが甘くないでしょうか。
そこは、ぼくのことを第一に考えてとか、彼氏優先にしようよ、とか言わないかしら。
言いま……せんね。
そらくんなら、言いませんわ。
そうでしたわ。
「わかりましたわ。今回は、あかりさんにお土産もできましたし、ご一緒におくじらに戻りましょう」
「おくじら?」
「わたくしのお車は、おくじらさまなんですわ」
簡単なあかりさんの荷物をみつつ、おくじらに戻る。
後部座席から、さきほどいただいたものをあかりさんに貢ぎものとして差し出す。
「これは、どうしたんですか。可愛い」
「レンタルの事務のかたにいただいたものですわ。それから、こちらもどうぞ」
「飲みものつきですか」
「ごゆっくりなさってください。そのあと、泊まる場所を探して、はしりますわ」
一緒にゲームセンターからと思われるお菓子や詰め合わせを食べる。
あかりさんは小腹が空いていたらしく、満足そうですわ。
「これおいしいです」
「よかったですわ。ご機嫌も戻りましたし」
「機嫌? なんのことですか」
「いいえ……わたくしのもやもやですわ」
なんとか誤魔化した。
女子高生に怒られるのは、わたくしとしてはそんなに悪くないのですが、あかりさんは、最近どんどんツン怒になってきていて、そのうち、甘やかしてくれなくなりそうなんて、言いません。
少し車をはしらせ、街中心部に向かう。
まだ夕方手前ですが、時期もあるし、暗くなってからでは慌ててしまうため、早めに泊まる場所を探す。
その合間で、ニか所事務所にいってみたものの、収穫はほとんどなかったことと、今日はあとは調べものにして、夜にはゆっくりすることを伝える。
「それ怪しいですね」
「それとは?」
「アカ……なにさんでした」
「赤意さんですね。お菓子のかた」
「アオイさんと伝えたんですよね」
「そうですわ。けれど、特にはなにもなくて、お菓子でしたわ」
「ちょっと、停まってからにします」
「わかりましたわ」
なんでしょうか。
特になにもなかったのですが。
何度か曲がり、ひとつみつけたビジネスホテルに停める。
なにか考えているようなため、そのままフロントにいき、荷物を持っているあかりさんと同じ部屋にするため、スマホで登録してチェックインする。
五階エレベーターでとめて部屋までいってから、あかりさんが、簡単に置いてある椅子に座ると、これ、とみせてくれる。
「これ、ゲームセンターの景品ですわよね」
入っていた紙袋は、ほかのお店のものらしいけれど、中身は、ゲームセンターのものだ。
「この袋、ここからは離れていますけれど、たしか、わたしたちの通り過ぎてきた近くのお店のだったと思いますよ」
「えぇですが、ほかにもいくつかあるでしょうし」
「それに、ここのゲームセンターの景品限定ってなってるけど、たしか、関東の一部店舗扱いだったんです」
「それは偶然ですが、レンタルのお仕事でそういうゲームセンターで待ち合わせとかもありますし」
「あと……」
ポンと渡されるため、袋に入っていたお菓子以外のチャームやぬいぐるみをみてみる。
その間、スマホのSNSでみつけたという写真をこちらに向けてくる。
お可愛いうざまるですわ。
カラビナキーホルダーと、スマホにもつけられそうなミニですわ。
写真につけられている説明では、けっこうわたくしたちの地域から、近い。
「けっこう近い……」
「赤意さん、でしたか。レンタル仕事ネームだとは思いますが、それアオイさんに近いと思います。りーちゃんどう?」
「むむぅ……これだけ重なると、たしかに、アカさんは、わたくしたちの地域にきていますわ。でも、わたくしがきたからと、そんなに上手くアオイを隠しますかしら」
あかりさんは、満足そうに伸びをしている。
車内で疲れてしまっただろう。
わたくしがうざまるを顔の前にあわせて、ぬいぐるみで遊ぶマネをすると、あかりさんは、髪長くなっちゃったと話す。
「髪活動前には切りたいけど、はいくずれさんくらいにしたいな」
「それは、だいぶ短くしますわね」
「アオイさんは、髪っていつもどれくらいでしたか?」
「マジカフェのときには、短くしてましたけれど、延びてくると系列の美容室をよく使いましたわ」
「そっかぁ……明日美容室いきます」
「え! えぇ髪短くするんですわね。それじゃわたくしは……」
「りーちゃんは、簡単に揃えるくらいにしましょうか」
「えぇ……」
なにかよくわからないですが、美容室にいきたいらしいですわね。
うざまるは、あまりお気に入りにならなかったみたいですわ。
あきらめて、うざまるをどこにしまおうか考えていると、あかりさんがそれをみている。
「うざったいくらいに絡みましょう!」
「わたくし、そんなにうざいかしら……」
なんだか哀しいと思うと、あかりさんは、不思議な表情だ。
「りーちゃん……聞いてましたか? アオイさんは、美容室利用してたんですよね?」
「そうです」
「幾つかの系列美容室を探しましょう!うざまるも連れていくんですよ!」
「そういうことですのね!!」
あかりさんは、事務所潜入をやめにして、美容室に攻め入る作戦だ。
女子高生は、とっても積極的ですわ。
わたくし愛人選びだけは、間違ってはいないんですわね。




