Xデー
Xの予定は、けっこう積まれていた。
平日のせいで半分は学校だけど、れむとさうに会うため、そのまま流れて小さいパーティをする。
そのあとマネージャーなため、りーちゃんのところにいき、打ち合わせと配信を勉強する。
そのあと、そらくんを呼び出し、この前のお説教ついでに、プレゼントを渡す。
りーちゃんのプレゼントは、次の日に渡すつもりだ。
配信で、きっとしゃべりすぎるだろうから、ゆっくりできる次の日にしよう。
よし、完璧シルバーあかりプランだ。
学校では、みんなおはようからメリークリスマスから、プレゼントだよから、すでによくわからない状況だけど、そこはスルーだ。
さうがこちらを気にしているのも、れむが廊下からみていたのも知っているけれど、やっぱりスルーだ。
れむのXラブ作戦とやらは、つまりは、三人でのパーティのことだと、ようやく昨日にわかった。
放課後に集まり、ささやかなパーティをして、交換会をすることになった。
さうには、昨日伝えたけれど、聞いてみたら、プレゼントは準備しているらしい。
少し笑ってしまう。
あれだけ、クリスマスデートという言葉を使わないさうなのに、クリスマスパーティには参加することは、楽しみだったらしい。
わたしと同じだ。
わたしも、そらくんにプレゼントは渡すけれど、Xデートに連れだすことは、しそうにない。
りーちゃんがいるからというより、クリスマスだから、恋人と過ごさなきゃというのが、なんだかニガテだ。
それに、病み上がりのそらくんを寒いなか連れまわし、また熱がきてしまうのも避けたい。
灰色のわたしが、Xに予定を入れてあること自体が、稀な出来事なため、一日なんとか楽しめれば、それでいい。
学校の授業の中身は、ほとんどなくて、部活も冬休み準備の話しだ。
部室からでると、れむが話しかけてきた。
「ねぇ、Xのなんだけど」
「うん、さうが場所わからないかもね」
「送ってみる?」
「教室か、正門のところでまちあわせすればいいかも」
さっそくれむが、さうに送っている。
正門にするようだ。
そのあと、隣を歩きつつ、廊下のすれ違いでも、クリスマスって、と声が聞こえている。
「すぐくるかな」
「高校生なんだね」
「え、なにそれ」
「だって、正門前で制服で待ちあわせして、これからパーティだよ?」
「そうだね」
荷物を少しずつ持って帰るけれど、大きいのはプレゼントのほうだ。
正門前にいくと、何組かほかにも男の子が待っている。
たぶん、まだ来ない女子を待っているのだろう。
「男の子って、なんであんなに待ってるの」
「セカイの女子が、みんな待たせるから」
「わたしたちは先にだよ」
「じゃ、待ってる時間も好きなんだよ」
「それ、あるのかなぁ」
少しだけ、意味もわからないような会話をしていると、さうが手を振っている。
会うとすぐに歩きだす。
「いこ」
「はい……パーティ会場は」
「からおけ」
「持ち込みは」
「おけ」
「あ、途中スーパー寄っていい?」
「なに、主夫なの? これから食材ってモテると大変だね」
「カラオケって料理できますか?」
「料理する気なの!?」
「違うよ、ぼけてるんだよ」
「え、ぼけてるか」
スーパーに寄るとなにかと思ったら、テナントにある百円ショップで、クリスマスツリーを買っている。
お会計で待っていると、買ってきたと言う。
「ツリーって」
「孤独な男子かよ」
「いいでしょ。一緒に写真撮ります」
「それいいね」
カラオケは近くなのだけど、ほかになにか迷っていたらしく、駐車場で聞くとクラッカーもあってもよかったという。
「いや、パーティ男子かよ」
「ぱ、ぱ……ぱりぴ?」
「ゼッタイ似合わない」
カラオケで部屋を聞くと、もうかなり混んでいるらしい。
三階のひとつが空いていた。
なにかける、から始まり、持ち込みの飲みものを拡げる。
わたしは、アラームを一時間にかけた。
「とりあえず、かんぱい?」
「なにに、かんぱいするんですか」
「やっぱりクリスマスだから、Sさん?」
「なんでイニシャルトーク」
「はい! Aさん」
「急に怪しい会になったよ」
ツリーを手に写真を撮って、なにかよくわからないかんぱいして、プレゼントを交換しているうちに、もう三十分は経っている。
「さうどうしたの? しんみり」
「賑やかな友だちパーティとかはじめてかも」
「なんだ、照れてるよ」
れむとさうが交代で歌を披露し、わたしはどうしようか考える。
ここ数年あまり新曲は聴けていなく、店内のBGMでの曲くらいしか、知らない。
あとは、Vのかたのなら歌える。
それでもだれかの前で歌えるのは、ほぼないため、仕方なく数年前の男性のと、あとは、海外進出もしているあのヒトだ。
「あかり歌上手いね」
「アイドルみたいです」
「お世辞過ぎる」
一応シルバーになるときに、いくつか訓練はしたけれどそれっきりだ。
三回くらいきたら、もうアラームが鳴っている。
「あ、そろそろだ」
「あかり、もう帰るの? わたしとのオールは?」
「オールナイトは今度ね」
「気をつけて……あと、ありがとうございました」
「プレゼント、ちゃんと使ってね」
三等分にしたお会計の少しだけ多くしてから、外にでる。
すぐに、駅に向かって走る。
ミリロリ嬢様の配信までには、部屋に着かないといけない。
電車の時間までは、走ればなんとかなる。
荷物が多くて、肩が痛いけれど、なんだかパーティの続きみたいで、まだ気分は上がっている。
駅につき、やや息があがりつつ電車に乗ると、窓に自分が映る。
一年前と、なにが違うのだろう。
友だち、彼氏、バイト。
なにもわからないまま、駅について、また走りだした。
何度か、通知が報せているのは、たぶんりーちゃんだろう。
着いてから、送ろう。
冬なのに汗をかきつつ、りーちゃんの部屋の前にくる。
はぁ、と自分の息を聞きつつ、チャイムを鳴らす。
「ひかり」
「……あなたの」
「ひかり」
カチャンと扉が開く。
「メリークリスマスですわ。あかりさん」
「りーちゃん……はぁ……間に合いましたか?」
「あかりさん、まだ開始三十分前ですわよ。そんな息もきらして」
「メリークリスマス。準備から、見させてもらう約束ですから」
扉を閉じると、部屋は普通の部屋だ。
少しだけテーブルとキッチンに飾りがあり、あとはパソコンがちかちかするだけだ。
「わたくしのマネージャーは、そこまで真面目なんですわね」
「マネージャー、兼、愛人です」
「んふふ……そうですわね。あかりさんがいれば、それでいいですわ」
よくわからない。
りーちゃんが、なぜか寂しそうだ。
荷物を置いてから、りーちゃんを抱きしめる。
「クリスマス配信、がんばってください」
「ミリロリ嬢様の本気は、まだ底知れないですわよ!」
たしかに、いろいろ底がみれない配信だった。
配信部屋をこっそりみつつ、隣の部屋で配信画面をみていた。
赤い服のキラキラした衣装とは対照的に、哀しき物語ばかり選んだ、泣くばかりの配信だ。
いくらテーマを哀しきにしたからといって、哀しいよ、寂しいですわよ、といって、これまで発見した哀しさあふれる物語をみては、ぐすぐす泣いている。
「あふゥ……これ以上はもう泣けないぃ……ぐすぐす」
これ一緒に泣けばいいのかな。
それとも、泣き過ぎでしょと言うのがいいのかな。
それか、もしかして、泣いてないのかな。
マネージャーってムズカシイ。
配信終わり、まだ子どもの頃のように、ぐすぐす泣いていて、閉じた画面。
「よ、よかったですよ。泣いてるけど」
ミリロリ嬢様のファンではあるけれど、マネージャーになると、こう立場っていうものが邪魔をする。
「そ、そうでしょうか……なんか泣き過ぎで、みなさまが泣き過ぎって言われてしまって」
「それより、顔洗いましょう! それに、お水かお湯でも、飲んで……入れますね」
りーちゃんが、洗面台で顔を洗っている。
閉じた画面。
改めて、ミリロリ嬢様なんだなって思う。
いまの配信だけで何人ものヒトが、がんばれ、とか、泣きそう、とかコメントしていた。
これ、隣でみるとすごいと実感する。
「はい……飲んでくださいね」
「ありがとうございますぅ……」
「まだ声が変です」
「わたくし泣くとこうなるんですわ」
「みんなそうですよ」
「そうでしょうか」
思い出したため、伝えておく。
「あ、このあと、そらくんに連絡して、プレゼントだけ渡すんですよ。そんなに高いものじゃないですけど……」
りーちゃんが急に変な表情をする。
「そ、そうなんですわね。まぁ……わたくし」
「りーちゃんは、プレゼントとか」
「一応買いましたけれど、お渡しするかどうか……」
「どういうことですか?」
「ええ、まぁ、そらくんとお別れしましたの。昨夜のことですわ」
「え! りーちゃんとそらくん、別れたんですか!?」
「そうですわね。やはり家庭内の不一致といいますか、お相手の承認欲求のみだれ具合といいますか」
「……ちょっとお待ちくださいね」
「はい、ですわ」
すぐにカバンから、電源をオフにしてあった、スマホをだす。
電源を入れて、電話から呼び出す。
そのままそらくんに電話する。
四コールから五コールででた。
「あ、そらくんですか……お別れしたんですね? りーちゃんと……そうですか。それで……そうですか。わかりました。それじゃそらくん、お付き合いしましょう……うん、そうですよ。でも、もう一度言いますか? ……そう、それじゃ、これからお願いしますね」
スマホを置いてから、りーちゃんをみると、とても驚いている。
りーちゃんの表情は、予想通りだった。
「あ……あのぉ、あかりさん。そらくんとお付き合いというのは、どういうことですのかしら?」
「そのままですよ。今日から第一彼女になりました。これからお願いします。第二彼女さん!」
わたしはそらくんの恋人、第一彼女になった日になった。
Xデーは、やはりなにが起こるかわからないです。




