コスプレ喫茶トキメキ♡マジカルフェアリー
土曜日は、昼から夕方までバイトが入っている。
そのため、バイト前までの時間で、大学の課題を早めに片付けて、そのあと家での作業をしたいところだ。
まだ夏場のこの時期は、早くに起きてカーテンを開けると、もう光が入ってくる。
「まぶしい」
机に置いて、寝る前に充電してあったスマホを確認すると、昨日の続きのようなリリスタと、ラルルンのメッセージが入っている。
ラルルンをひらくと
"おやすみ
おはよう
目覚めてる
迎えいこっか
「きてっていったら、マジくるよね」
ここ何度もアオイちゃんと話してみて、わかったことは、けっこうわたしにマジなようだ、ということ。
でも、アオイちゃんのバイトっていったいなに。
朝の日常の通りに、かんたんに朝食をとり、洗面やトイレをすませて、それでも眠いときには、シャワーをサッと入ってみる。
昨日の夜にもシャワーは、入ったのだけどね。
着替えをもって入る前に
"シャワー中!
のぞくべからず
と、送ってみる。
二十分くらいででて、着替えて髪を乾かしたあと、机の側にあるイスに座る。
ラルルンをみてみる。
"シャワー入るなら先に言って?
玄関のカギあけといて
「いや、開いてたら、ヤバいでしょ」
一応、玄関まで見にいくと、しっかりと閉まっていた。
ホっとする。
"ざんねんね
しまってるよ
小さめの冷蔵庫から、自然水のペットボトルをとり出して、コップに入れる。
一口ふた口飲むと、わたしの体内で、水がほしかったのだな、と想う。
スマホを隣に置いたまま、なんとなくパソコンをとり出して、課題の内容をみていく。
キーボードを打ち込み、なぜたか、そのまま課題を始めてしまう。
ときどき、スマホでリリスタを開いて、思いつきの言葉を投稿していく。
"大学の課題けっこうムズい
"計算ソフトと文書打ちこみ、結局両方つかうよね
"あぁ、調べものあるんだった
そのたび、いくつものリリスタマークがつくため、見てるひといるんだなと想う。
ラルルンでときどきメッセージを送る。
リリスタを投稿する。
パソコンで、文書を打ち込む。
二時間集中していたらしい。
気づくと九時の数字は、もう五分で十一になる。
「そろそろヤバいか」
バイトの始まり時間は、十三時なのだけど、お昼を軽く食べてから移動時間もあるため、もう食べないといけない。
「お腹すかないんよね」
課題のレポートをまとめおえると、提出用のフォームから、送信しておく。
"受付ました"
を確認すると、パソコンをとじて、冷蔵庫をたしかめる。
「そっか。買いものもしなきゃだね」
ある残りもので、サッとサンドイッチをつくった。
写真を撮って、リリスタに投稿する。
"どうだ。わたしのサンドイッチ
反応をみることなく、パクパクっと食べると、着替えを探しはじめる。
結局は、バイト先でまた着替えるのだけど、それでも少しのお洒落はしたい。
姿見がないため、軽く下を見たり上着をチェックしたりして、バックも中身をたしかめると、まぁ、ちょうどいい時間だ。
机に置いてある手鏡で、髪とめだけチョコっと、位置をなおす。
カーテンをしめて、電気を消すとすぐに部屋をでた。
オートロック式なため、鍵は自然と閉まるのだけど、それでも二回は鍵を確認する。
"カギしめたよん
ラルルンでひと言送信をしてから、駅までの道を早歩きでいく。
駅まで十五分。
電車で二十分。
また少し歩きで十分。
部屋から自転車を使えば、もう少し早いし、実際買いものだけのときは、自転車も使うけど、駅前の駐輪場がこの前に値上がりしていたのだ。
「なんか、悔しいし」
無事、喫茶店につく。
従業員用の入り口から、中に入る前に、また投稿しておく。
"バイトはじまり
みんな、きて
もちろん場所を知っているのは、アオイちゃんだけだけどね。
わたしのバイトしているここは、メイド喫茶ではなくて、コスプレ喫茶だ。
チェキも撮影する喫茶で、毎回お客さまにアンケートを集計して、その都度日替わりでコスプレをして接客にあたる。
なかには、いかがわしい注文をしてくる変態さまもいるけど、基本的にはわきまえているファンのようなお客さまが多く、お店の従業員に固定ファンがついている。
「おつかれさまです」
「今日もお願いね」
「はい」
ここのお店の所有者と店長は、どちらとも女性で、雇用するときもビジュアルと声と、なにより地下アイドルのようなキャラを大切にしている。
たぶん、アオイちゃんは、リリスタで前からここのお店を知っていて、それでわたしのネットの固定ファンになってくれたんじゃと、想っている。
お店の名前は、トキメキ♡マジカルフェアリーだ。
「えと今日のコスプレはなに」
廊下を歩き、
従業員用の休憩室兼オフィスになっているスペースで、発表されている衣装をみると、第一位、魔法少女ドッキリユリリン。
「はぁ。アレかな」
衣装コーナーで、何着もあるなかから、選らんでいると、もう二人同じ時間シフトの子たちが、集まっていて
「この衣装、ちょっとエ○系なんよね」
「下着、見せ下着持ってきてよかったね」
「てか、アニメみたら、ホントえっちぃやつ」
「えーー」
「チェキポーズはなん種類あんの」
と、まるでアイドルたちの会話をしている。
「うん。たしか、四種類みたい」
わたしは、掲示版に書かれているポーズを決める。
それぞれ衣装が決まると、更衣室で着替えて、お互いに衣装チェックと声だしに、ポーズ確認。
それが終わると、無線機で交代を知らせて、前のシフトの子たちが、チェキプレゼントを手渡して、戻る。
交代していく通路の前には、おおきめな姿見が、二つ置かれている。
わたしは、衣装をもう一度確認する。
青い色のもので、胸にいくつかの記号が縫ってある。
胸にリボンがあるけど、ボタンは、首よりも少ししたにあり、胸の上が少しはだける。
スカートはフリルで短い。
靴下も衣装の色だ。
靴は、魔法少女っぽくローファーに飾りがついている。
頭にはカチューシャと、手にはステッキ。
たしか、青担当はクールキャラのツンデレで、ときどき言葉つかいがおかしい。
「いらっしゃいませ。トキメキマジカルフェアリーにようこそ!!」
ここは、魔法少女たちの国で、飾りつけも華やかだ。
メニューは少し割高設定だけど、客層は女の子のほうがやや多めにくる。
でも、お客様が男の子じゃないからと油断はしてはいけない。
わたしは、ややツンデレなため、セリフがときどき変化するのが、不自由だけど、いかにも甘えん坊なピンク担当じゃなくてよかった。
「どちらをご注文なさいますか?」
「ピンクロイヤルティーとマジケーキ二つでお願いします」
「ストレートティーでよろしいですか?」
「はい」
「途中で注文を変えられないんだけど、それでもいいわよね」
「はい」
「そのほか、なにかありましたら、タブレットからご注文くださいませ。というか、メンドくさいんだから、もう呼ばないでよね」
「うん」
ステッキで、メンドくさそうにしながら、
「マジマジミラージュ」
と魔法を唱える。
二人の女の子のお客様は嬉しそうだ。
ピンク担当の衣装をきた魔法使いは、同じピンクの色のステッキを持っている。
「マジマジミラージュ」
クルットまわってから、ウインクをして、去るときには手もふる。
ある程度、テーブルを接客し終えて、見えないバックヤードや厨房の側まで戻ると、それぞれで感想を言い合う。
もちろん、これが役目なのだから、あまり文句は言えない。
「ピンク担当の場所、すぐにおかわりくるよ」
「グリーンの場所は、もう少しで帰るかな」
「ブルーちゃん、しっかりチェキではデレてよね」
「ホワイトは、いつものひとか」
汗をふきつつ、テーブルに持っていく料理ができると、また笑顔に切り替える。
いや、わたしはどちらかとツンなのだけど。
「はい。お待たせしました。あまり、ゆっくりしないで、サッと食べてよね」
クルッと、すぐに背中を向けると、声をかけられる。
「また、ブルーちゃんはデレ隠し」
わたしは、少しだけ振り向いてあげてから、手をふる。
「きゃーー!! 手ふったよ」
こうすると、なぜか喜ぶのだ。
二時間交代なため、二時間で一度休憩室に戻れる。でも、正式な休憩時間ではなく、お水休憩と呼ばれる。
「ふぅ」
「今日も忙しいね」
話しかけてくれたのは、ピンクのフリルをつけた、ピンク担当だ。
「ねぇ、知ってた?」
「なに」
「ときどき、ここのお店ストーカー被害でてるの」
「そうなんだ」
わたしは、なんとなくアオイちゃんの顔を浮かべる。
「お店終わりに待ち伏せされたり、写真撮られて、脅されたりするみたい」
「なんで、ここのお店で脅されるのよ」
若干えっちぃ格好もよくするけど、サービスで性的サービスなど一切やらないし、会社に正式にお願いすれば、ガードもつけてくれるから、どちらかというと軽く芸能事務所に近い。
「それがね」
「うん」
ナイショ話しをするように、声を小さくして、わたしのすぐ隣にきて、顔を近づける。
「なんだって」
「えっ」
「休憩終わりだね。さ、また二人と交代だね」
わたしは、通路の鏡の前で、姿を確認する。
一応ハンカチで、汗もふく。
それにしても、さっきのは、なに。
接客に入る前に、なんだかモヤモヤしてしまう。
ピンクちゃんは言ったのだ。
"二人組のホワイトファンに気をつけて。そいつら、有名な恐喝グループらしい"
わたしの終わり時間手前になって、交代で、夜に入る子たちの無線が聴こえてくる。
バイトを終えるギリギリで、ブルー目当てのお客さまに、デレっとしたチェキを撮って渡してから、帰りの着替えをする。
更衣室では、今日の衣装をきちっと戻すハンガーがあり、そこに戻すと、洗濯がされて、二日後には使えるようになる。
盗難防止もあるらしい。
なぜ盗難、と聴いたことがあったときには、ここの衣装を持ちだして、ホテルで撮影会をしたり、男の子の希望で衣装デートに使ってしまった先輩がいたらしいという話しだった。
わたしは、ハンガーに戻すと、名前を書き、持っている社員証カードで退勤する。
それから、リリスタで投稿する。
"バイトおわり
今日も青いツンデレ
ピンクよりはいいけど
「ブルー、一緒に帰ろう」
「うん。いいよ」
「ピンクは」
「わたし、バイク」
「そっかぁ」
お店のスタッフ用出口に向かい、ロックを外してから、外にでる。
「おつかれさま」
「おつ」
「おつかれさまね」
今日の帰りは、ホワイトちゃんと一緒になった。
ピンクちゃんは、スタッフ用の駐車場においてあったバイクで、エンジンをかけて、手をふっていってしまう。
「ねぇ、ブルー」
「なに」
「いつもリリスタかな、投稿してるけど、怖くない?」
「ううん」
駅までの道を歩きつつ、話しをする。
「わたし、このトキマジフェアリーに入ってから、特にホワイトだけど、ファンも増えてくれたけど、けっこう身バレ寸前までいったり、住所調べようとしてきたりして怖いよ」
「そうなんだ」
わたしは、アオイちゃんがいるからかな。
そんなに怖くなく、反対に、ひとりきりのとき寂しいのを紛らわしてくれている。
「ブルーはツンデレだからかな」
「ううん。でも、衣装可愛かったり、チェキ撮ったりするのは、アイドルみたいな感じだから、くるお客様も地下アイドルに逢う感じでくるのかな」
「うん」
ホワイトちゃんは、たしか住んでいるところが、駅近くで、歩きで帰るのをわたしは、思い出す。
「あ、わたし駅入るけど」
「あ、そうだよね。リリスタ、いつも見てるよ」
「そっかぁ」
駅の改札口は、上にあるため、階段の下部分で、少しだけ会話してから、ホワイトちゃんとわかれる。
"帰ってからまた課題かな
あ、バイトはそんなに苦しくはない
でも、きいてほしいことあって
また戻ってから
リリスタに投稿する。
そのあと、投稿はまだしないけれど、書こうとした続きだけ、下書きしておく。
わたしのスマホからの投稿には、
いくつか未投稿の下書きで残っているのがある。
階段を上がる。
今日は、スカートではなくてショートパンツだから、下を気にしなくてすむのだけど、スカートのときのクセで、バックをやや後ろ向きに持つ。
うつむき気味に、階段を上がっていたけど、ふと気になり、上のほうをみている。
階段を急ぎで降りてくるひとがいる。
でも、わたしは、その先にいるひとが見える範囲にきたことで、瞬間安心してしまい、降りてくるひとが、こちらに寄ってくることは、注意していなかった。
「あ、アオイちゃんじゃん」
わたしは、直感がはたらくほうだし、注意力もある。
そして、さっきの先輩の言葉が、頭に浮かんだのは、気のせいではなかった。
"ホワイトのファン"
階段から慌てて降りてくるひとに、見覚えがあった。
「あっ」
とわたしが気づくのと、そのひとがすぐ側にきて、わたしの胸あたりをつき飛ばすのは、同時になった。
わたしは、手に持っていたバックを離して、とっさに丸くなろうとする。
階段の上方では、アオイちゃんが顔を青ざめて、手を伸ばしているが、とても届く範囲ではないだろう。
なぜだかは、わからない。
でも、数週間前から準備していた"こと"は、ムダにはならないだろう。
遠くのほうで悲鳴がするのと、わたしが転げ落ちるのは、一瞬のことだ。
あ、とか、うっとか、自分の悲鳴なのかもわからない声をだし続けながら、さまざまなところを打ち、景色もよくわからなくなったところで、頭を打った気がする。
意識が途切れるまでのホンの短い時間で、ボンヤリと思考のかけらを繋いでいると、
アオイちゃんという貴女に出逢えてよかった
でも、もっとちゃんと好きって言いたかったな
そんな、感情だった気がする。




