過ぎてしまった動画と保存できなかった小説は戻ることはない
お買いものおデートをしているお二人が、なぜか、わたくしの部屋に来た。
いくつかパソコンに利用するものやスマホでの準備に、必要なものを揃えていたらしいですわ。
わたくしにそういうのは、たずねても平気ですのよ、と話したら、りーちゃんハロウィンの前辺りから、とてもいそがしかったですよね、と返ってきた。
「なぜ、わたくしの部屋集合が当然になっているのでしょうか?」
当然の疑問ですわ。
わたくしのプライベート空間が、なぜか、あかりさんとそらくんのおデートスポットになっているのは、釈然とはしません。
「りーちゃんって、健康管理平気ですか?」
「りーちゃん、機材詳しいですか」
あかりさんは、お優しいですわ。
そらくん、このごろクズっぽい。
「健康は、元気ですわよ。ときどき目眩と……あと、機材はまぁ以前よりは、勉強しましたわね」
「そっかぁ! りーちゃん前には、迷子になっていたし、そのあとも働き過ぎだから、少しは休んでもいいですよ」
「えぇでも、これからもう少し手直しする部分もありま……」
「それじゃわたし、料理つくりますね! そらくんは、少し買ってきたものリストアップして、あと経費かそうでないかも、書いておいてください」
「はい」
「あかりさんが、かがやいていますわ! わたくし、こんな恋人が欲しいですわ!!」
「やだなぁ、りーちゃん愛人ですよ」
そうでしたわ。
あかりさんは、わたくしの愛人ですわ。
キッチンで愛人が、持ってきていたエプロンをして、お料理をしてくれるらしい。
そわそわします。
お手伝いしたい。
それに、さきほどのお礼がまだでしたわ。
「あかりさん、お手紙のありがとうございましたわ」
「なにかお役にたてましたか?」
「もちろんですわ!」
銀行では、ハラハラしましたが、少しアオイに近づきましたわ。
「そういえば、あかりさんはマネージャーのお仕事は、どうですか」
「それが、りーちゃん。マネージャーの人員配置が代わるとかって話しですよ」
「え、聞いていませんでしたわ」
「せっかくりーちゃんに、名刺ももらったのに、使わないかも」
「それでしたら、また作成しますわよ」
「え!! りーちゃんが創ってるんですか?」
「そうですわね。そらくんのとあかりさんのは、わたくしからのですわ」
「そうなんだ。ぼくのも、そしたら、またつくってもらいたいな」
なぜか、あの名刺が人気だわ。
Vなら名刺の一枚や三十や百枚くらいはないと、とマネージャーに言われ、お手製でパソコンで創りましたわ。
「わたくしの手にかかれば、りんご果汁を絞るよりも、簡単ですわ」
「りんごもひねりつぶすんですね! すごいりーちゃん」
ミキサーでこなごなと言いたかったですわ。
「それでは、あかりさんとのお料理のあとで、デザイン案でも考えるとしましょう」
お料理の間、あかりさんがお買いもの中の出来事をお話ししてくれますわ。
とっても楽しそう。
そらくんは、テーブルで少し書きものをして、そのあとは、くつろいでいる。
わたくしの部屋で、だいぶ打ち解けている。
じゃんと出来上がりをみせると、三人で食事となった。
「なんだか、すっかり疲れました」
そらくんは、昼間ずっと歩きまわっていたらしい。
あかりさんは、靴もちゃんとで、今日はおしゃれだ。
「それで、りーちゃんのは、進んだんですね」
名刺の話しのなかで、マネージャーの話しとなった。
「マネージャーは、あかりさんは」
「それが以前の打ち合わせから変更されるらしくて、しばらくりーちゃんお世話します」
「そうなんですわね」
「でも、そらくんは……」
「ぼくは、なにか配置替えで、ほかのVのかたに」
「浮気ですわ」
「とうとうそらくんは、浮気まで」
「……くずれさん?」
「くずって言いましたか」
「違います。はいくずれさん」
えっ、とあかりさんもわたくしも、思わず二度ほど、繰り返す。
「はい……」
「くずれさん……」
「そらくんがはいくずれさんなんですか」
「違いますよ。さっき連絡がきて、はいくずれさんが、希望されるのと条件があうからって」
「浮気ものですわね」
それでも話しを聴くと、ようやくコスプレ喫茶のブルーとは、なんとか話し合いできたらしい。
おそらくですけれど、シルバーや前のブルーとの関係から、いまのブルーは、そらくんに対して、構ってをしていたのかもと思う。
「機械類……あとででいいですか。少し寝たい」
そらくんは、やはり疲れている。
寝ておいてください。
そらくんがタオルだけ用意して、テーブルの横で丸くなってしまう。
あかりさんは、名刺作成を見学したいとのことですわ。
「一応のイメージは、つくりますわ。でも、細かいのは、お二人でなにか書いてくださるといいわ」
「わかりました」
「それから、手書きでもいいですから、送ってくださいまし」
「わかりました」
「そういえば、少し聞きたいのですが、あかりさんのスマホは、名義はどちらに」
「わたしのですよ。はじめ母だったのですが、すぐに、変更届けを出してきました」
「旧いスマホがあるんですの。でも、そろそろ名義を変えたいな、と思っていますの」
「……前から聴こうと思っていたのですが、りーちゃんスマホは」
「三台ですわ」
実は、タブレットも含めまだありますわ。
「じゃ、管理するのも大変ですね」
「ひとつは譲り受けたもので、ですが、本人でないと変更できない、かもですわよね」
アオイに、話そうとしていたのは、そのこともある。
カードの情報は既になく、通信をネットだけで繋いでいるため、アプリは問題ないけれど、登録したのは、アオイのはずだ。
それから、あかりさんがいくつか揃えた機材をなぜかこの部屋で組み立てている。
「これは、こうですね」
「あかりさん。組み立てるのはいいのですが、お運びするときに、また戻すのでは」
「平気です。家でますから」
「いえ……!? まさかの同棲家出JKですの!?」
「違いますよ。ここで置かせてもらって、部屋が決まったら、そちらに移設するんです。少し置くことになるんですが、だめでしょうか?」
「いまのマネージャーには、そのことを」
「なぜか、けっこうノリ気ですよ。決まったら、ちゃんと登録してねって」
あのマネージャーは、そうらしい。
そういえばわたくしが、プライベート部屋と配信部屋を分けている話しも、そのほうが、仕事に効率的でしょ、と前向きだ。
もしかしたら、マネージャーという職業が、そういう前向きがあるほうが、いい職なのかもしれないですわ。
それにしても、あかりさんが、ひとり暮らしデビューをするのが、近いとは。
もう少ししたら年末にかかりそうな、この時期、少しずつ街はイルミネーションが増えてきつつある。
そらくんは、あかりさんが部屋を準備できたら、どうするつもりなのだろう。
そらくんが、そこに入り浸る様子がなんとなく浮かんできてしまい、少し哀しいような、あかりさんの成長が、頼もしいようなそんな気分がしますわ。
もし、引っ越しするなら、戦力にならなくてはいけない。
引っ越しは、体力。
手帳とタブレットで、年末のお仕事をチェックしている。
アオイは、手がかりこそみつかってきたけれど、やはりこちらに戻って来ないのだろうか。
このわたくしの部屋は、アオイの部屋だというのに。
支払いやそのほかは、もうわたくしの名義にはなっているけれど、それでも、ここはアオイの部屋だと、わたくしは思っている。
それにしても、引っ越しをするかは、ともかく、だんだんとあかりさんの部屋にもなってきてきますわ。
いっそのこと同棲愛人……いえ、シェアハウスとして同居人になれば、よろしいのに、と思いますわ。
アオイもいれば、三人での同居生活ですわ。
相変わらず、あかりさんは、機械を組み立てている。
お邪魔に、なってしまうかもしれない。
「あ、わたくし、少し作業を……」
「りーちゃん待ってください。これ、こうとこうですよね」
「……あかりさん、それなにをどうしてそうなりますの」
「動画の説明では、こんな感じで」
「ちょっとお見せください」
動画。
まさか、そんなことは。
丁寧に、説明されているはずですわ。
……ホントですわ。
切り抜き過ぎて、もはや、ショート動画ですらなくて、カットしてエアー説明ですわ。
あ、タイトルすら、ふわふわ説明ですわ。
いけない。
これは、いけませんわ
「あの……なにか」
「あかりさん、これものすごく親切に書かれ過ぎていて、もはや、不親切ですわ」
「えっ……そんな」
「ほら、よく言うじゃありませんこと。過ぎてしまった動画と保存できなかった小説は、もはや戻ることはない……と。それですわ」
「そうなんですか」
「そらくん……は、寝ていますね。仕方ないですわ。あかりさん、わたくしの手順をしっかり、眼に焼き尽くしてくださいね」
「眼がいま焦げて、炎上しました」
「……そうですわね。焼き増しですわ」
「複写ですね!」
「それに近いですわね。おそらく」
紙にコピーするように、あかりさんは、わたくしの手順をすべて、覚えてしまいましたわ。
高校生の記憶力。
わたくしの倍……三倍速はありますわ。
「できた! りーちゃんVって、すごいんですね!」
「なんだかVtuverとして、リアルに活躍してしまいましたわ。いいえ、あかりさんが、これで立派にご活躍されるなら、わたくし……」
「りーちゃん、アカウントと初期設定ってなってますが、回線がわたしありません」
「そうですわね。せっかくの機会ですもの。ネット回線もあかりさんの登録があったほうが、いいですわよ。でも、アカウントの設定だけ、ここの部屋のを使って登録して再度……」
そういえば、わたくし保存媒体のカードは、どこにしまってあるかしら。
ひとつ空きのカードがあったはず。
あかりさんに、差し上げようと思いつつ、どこにしまってあるか。
「りーちゃん、どうしました」
「ポーチのなかに、カードが」
「クレカですか」
「それじゃ、ないカードなんですわ」
ポケットにあったかどうか。
それとも部屋の引き出し、いいえ、たしか、持ち歩いたやつもあったはず。
いろいろ出してみる。
「それ口紅ですか? デザインめずらしい」
「えぇ……と、どれでしょうか」
「これです。少し砂?」
「あぁ、捨て忘れてしまいましたわ」
「捨てるって。中身もうないですか」
あかりさんが、くるくるしている。
口紅がどうかも、よくわからないやつだ。
でも、デザインはスティックタイプで、キャップもあるし……
「りーちゃん、これちゃんと開けましたか?」
「なにかありましたかしら」
「もしかして、たしかめてないとか」
あかりさんが、ミョーなことを言う。
たしかめるも、おそらく中身は、メイクなどの類でしょうし……
「みてませんわ」
「これ、記憶媒体です」
「記憶……って、あかりさんのですの?」
「りーちゃん、やっぱりたしかめてないんですね」
バックや引き出しから、いろんなものを出して考えていたため、まだよくわかっていないですわ。
「あかりさんのでは、なくて、じゃ」
「口紅もでますけど、使われてないですね。たぶんこのメモリーのほうが使われてます」
「記憶媒体って」
はい、と口紅のキャップ側じゃなくて、反対の本体をみせてくる。
後ろがスライドしていて、たしかに、記憶媒体に似ている。
「これデータ中身入ってるんじゃないですか」




