ハロウィンあおいであい
喫茶店からでると、少しだけ急ぎになった。
お会計が魔物たちの巣窟になり、さらに、神父そらくんがお手洗いにいったときには、そちらも混んでいたらしく、順番を待ち、ようやくわたしたちの出番になったときには、けっこう経っていた。
まだ余裕はあるものの、少し距離がある場所らしい。
通常の通り道なら、いいのだけど、今日はハロウィンの夜だ。
りーちゃんもそらくんもさくさく歩くけれど、魔物たちには何度かぶつかる。
特にわたしは、まだ足の靴ズレが痛む。
灰色の服装に似合うように、レディースではあるけど、靴も格好いいものにした。
そのおかげか、りーちゃんに言われているのは、わたしがキャーキャー言われているらしい。
とりあえず、いまの世の中クズのイケメンがウケているのは、もうどうにかしたほうがいい。
量産型クズの男の子を増やしても、方向は迷走するばかりで、そのうち女の子たちが泣きから蹴りに代わって、回し蹴り女子がウケる世間になりそうだ。
とりあえず回し蹴りされたときのために、返し技でも考える辺りで、わたしも少しずつりーちゃんのゲーム魂に取り憑かれているのかもしれない。
わたしの場合、ゲームも配信をみるのも勉強のための線であり、大学生になれたとしても、それは変わらないはずだ。
会場についたときには、上の服がぺたついていて、なんで十月なのにこんなに暑いの、といいそうになったら、りーちゃんが懸命にわたしに向かって、手でぱたぱたあおいでくれている。
美悪魔にぱたぱたされて、その表情を間近でみられて、嬉しくないわけはない。
会場オープンは、半からなんだけど、その十分前である。
販売カウンターで、チケットを購入して、神父そらくんと悪魔りーちゃんと並ぶと、もう長い列のなかだ。
「これメインイベントなんですよね」
「そうですわね」
「……それでなんのイベントなんですか」
「立食……パーティー?」
「なんで疑問」
「わたくしも参加は、はじめてですわ」
「ぼくもです」
「よくそれで、たどり着けましたね」
みると、魔物だらけなのだけど、少し男性が多い気もする。
男装と見分けはつかない。
ハロウィンパーティーというからには、中に入ってから、お菓子でも食べるのだろうか。
もうけっこうお腹は、いっぱいな気はする。
少し暗い通路を案内されて、チケットを渡しつつ中に入っていく。
チケットは、半券だけ返される。
中の会場の手前から明るくなり、みるとけっこう広いフロアだ。
丸いテーブルがいくつも並び、椅子は置かれていない。
前にいる魔物たちのあとをついていくと、途中で怪しいマント姿のスタッフにチケットをみせている。
丸テーブルに番号があり、そちらで待つらしい。
そらくん、りーちゃんとわたし、それに何名かが同じテーブルだ。
今回は、グループでもいいらしい。
りーちゃんが肩をコツコツするため、なんだろうと思ったら、マント姿のスタッフが、ドリンクメニューを持っている。
なにか選べるらしい。
「フルーツミックスお願いします」
「わたくしは、自然水のこちらで」
「ぼくは、甘くしたハーブティーでお願いします」
それぞれ、テーブルを回っている。
その場でスマホで即注文しているらしい。
「お待ちくださいませ」
いまのところ正面の壁にも、置いてある看板にも、ウェルカムとなっているだけで、ほぼ説明はない。
それでも、魔物たちはなにか始まるのだと、ざわざわしている。
ついキョロキョロ辺りをみていたら、すぐにカートに載せた飲みものがきた。
「フルーツミックスのかた」
「はい」
「こちらをどうぞ」
テーブルに置いてくれる。
ほかの二人のもすぐに届いた。
「おいしい」
だんだんとテーブルがうまっていき、扉が閉められる。
けれど、だれかゲストがでてくるわけでもなく、マイクを持った魔物がでてくるわけでもない。
「これって、なにも起こらないとか……ですか」
「うふふ、もう少しお待ちになったら」
「でも、りーちゃん」
「今夜は、ハロウィンですのよ。ユウレイ、魔物、異界、どこをみてもなにか起こるしかないですわ」
「それに、集まっただけでもすごい」
「そらくん、そんな」
「みてくださいよ」
「まぁ……」
たしかに言われて、ぐるっとみると、
ここの会場のほうがよほど異界だ。
ときどき混じる総理の姿やぬいぐるみの者のほうが、返って現実っぽくて、変わってみえる。
「あれ、少し暗くなりましたわね」
りーちゃんがなんとなく天井をみる。
いつ入ってきたのかもわからない、青銅色の衣装姿の騎士たちが、複数正面に集合している。
剣の代わりに、花束を持っている。
少しずつ照明が暗くなると、音が流れる。
どこか異国の曲のようにも、少し前に聴いたような曲にも思える。
「ハロウィンナイト!!」
おおっ!! と掛け声とともに、花束を上に持ち上げるため、わたしたちもグラスを持ち上げる。
「ダンスですわね!!」
「え……?」
「いきましょ」
グラスを置いて、りーちゃんに手をひかれて、そらくんとともに真ん中にいく。
少しずつ真ん中にまであったテーブルが、壁によせられていき、青銅の騎士たちが何名かの魔物たちを連れて、踊りだす。
わたしの眼の前にも来て、手をだされる。
「いってらっしゃいませ。くずさん」
「え、いくんですか」
「ほら、お待ちになってますわよ」
トンと押されるため仕方なくでると、花をひとつ渡される。
どうやら受け取ると、踊るということらしい。
不思議な音のなか、なんとか周りをみつつ踊ると、みんながみているようでいて、顔が少し赤くなる。
「平気ですよ、そのまま」
「……はい」
「あ、女性でしたか。男装なため、気づきませんでした」
「あ……あなたも」
「そうですよ」
花を渡された騎士のひとりは、女性だった。
青いメイクをしているが、踊り近づくと、ふわっといい香りがする。
酔ってしまいそうだ。
少し暗い照明と女性の香り、にこやかな表情、さっきドリンクを一口飲んだのもあるのかもしれない。
気づくと、そらくんもダンスしている。
りーちゃんは、ことわってしまったのか、まだひとりだ。
でも、ときどき誰かと談笑している。
「まるで……夢の……なかみたい」
「そうでしょ?」
笑う青い騎士が、少しゆがむ。
やはり軽くめまいがしている。
「ごめんなさい、はずれますね」
まだ笑っているだろう魔物たちのなか、そのグループから外れて、さっきいたテーブルに捕まる。
りーちゃんは、どこかに離れているらしい。
「……ダンスでも、ならえばよかった」
「平気!」
神父そらくんがいつの間にか側にいて、お水と薬を持っている。
さっきそらくんと踊っていた青い騎士は、どうしたのだろう。
「お薬よく持ってますね」
「神父ですから」
グラスに入るお水から、薬を飲む。
テーブルによりかかるようにすると、そらくんがとなりにくる。
「そらくんは踊らなくて、いいんですか」
「さっき踊ってきたよ」
「少し……酔ってて……」
「アルコール飲んだの!?」
「違います!」
「……これ魔物たちと一部ユウレイ踊ってるけど、ここ異界かなにか」
「ファンタジー過ぎて、ドラマチックじゃない」
「これなんの目的だったか覚えてる?」
「酔ってる頭に考えさせないでください」
「そっか。りーちゃんいないし……とりあえず、夜風にあたるか」
「え……まだそんなに経ってないですけど、帰るんですか」
「あ! 違うよ。ついてきて」
神父そらくんがふたつグラスを持って、魔物だらけのフロアを横ぎる。
どうしたんだろう。
そらくんが仮装しているせいか、格好よくみえる。
「こっちになにかありましたか」
「階段少しあるから」
「上」
フロアの壁沿いにいくと、階段がみえてきた。
ふらついてるんだけどな、と思うと、ドリンクを渡され、今度は、そらくんが手を引いてくれる。
「もう少し……」
上になにかあるんだろう。
でも、勝手に使って平気なのだろうか。
上にくると、さらに上があり、二階はバルコニーにでられる。
扉が開いていて少しだけ、外にテーブルがある。
音楽はこちらにもかかっているようだ。
先客がいた。
りーちゃんとだれか知らないヒトだ。
なにか渡されているけれど、ことわっている。
「お二人、踊るのはよろしいの?」
「わたし酔っちゃいました」
そらくんがだしてある椅子に上着ローブをかけている。
会場が暑かったのだと、いま気づいた。
「お薬は」
「神父さまからもらいました」
「大変準備万端ですのね」
「怪我はつきものです」
「ユウレイは」
「つきものです」
「おつきさまですね」
「お月見ですわね」
「わたし、少しだけわかっちゃいました」
「なんですの」
さっきいた青銅の衣装のかたは、もうでていってしまった。
「派手なパーティーもお菓子もケーキやドリンクが充分でも、そらくんとりーちゃんがいないと、寂しいみたい……です」
踊っているなかフロアは、派手でキレイだし周りは魔物だらけだし、相手はダンスも上手だけど、どこか足りなかった。
あの場所で踊り続ければ、新しい出逢いやそらくんと手を繋いだり、顔を近づけたり、ほかの男性からほめられたりするのかもしれない。
けれど、そこにりーちゃんがいなくて、そらくんがほかの魔物と楽しそうにしたり、わたしが踊り楽しそうにすると、やはりなにか足りなかった。
どこのだれかじゃないんだ。
ここにいないと、だめだ。
悪魔のりーちゃんが近づいてくる。
どこか楽しそうな表情なのに、瞳の色のせいなのか、月が隠れてしまいそうな影なのか、眼がうるんでみえる。
「あかりさんは、やはりちゃんと活動なさるといいわ」
「……なぜ?」
「わたくしは、それでそらくんと出逢いましたもの。ぼくとは住むセカイが違うと言っていた、そらくんとこうしてバルコニーでグラスを手にしています」
「いまもわたしは……そういう気分ですよ」
「……アイを求める者は、愛に捕まるんですのよ。わたくしをこれからも愛してください」
「ふふっ、いまわたし告白されましたね。いいですよ」
「ほら、そらくんが嫉妬していますわ。そらくんはどうなさいますの?」
バルコニーの鉄柵に捕まり、そらくんは月をみている。
こちらを向くそらくんは、なぜかとても知らないヒトに視える。
もし、ハロウィンになにか特別なものがあるとすれば、普段しないことにも挑戦できることかもしれない。
「りーちゃんとあかりさんが、平穏でときどきちゃんと楽しめていれば、それでいいです」
「神父さまですわね」
「神父さまですね」
やはり少しそらくんっぽくはないけれど、もしかしたら、そらくんもいまは隠れている月のなか、なにかいつもと違うことを想ってしまうのかもしれない。
「ところで、そろそろ鐘の時間らしいです」
「え!?」
「薄っすらとですが、交代のお時間ですと聴こえてます。グラスを返してきましょう」
そらくんがローブを持ち直して、グラスを持つため、わたしたちもグラスを持って一階に戻ることにする。
みると、別のバルコニーにも魔物がいたらしい。
慌てて戻っている。
一階でグラスを返却すると、チケットはこちらにお並びくださいと言われる。
出口には、もうたくさん並んでいる。
いつの間にか軽快な音楽で、照明も明るい。
「時間交代制なんですね」
「再度、一時間後には同じチケットで入れるのですが、いかがしますか」
再入場もできるらしいけれど、チケット代金だけ払ってでた。
カウンターの青銅の衣装のかたから、紙袋を渡される。
今日は、いただいてばかりだ。
夜中、日付変わりにはまだ早いけれど、一番のハロウィンを終えると、そらくんはやはり疲れているようだ。
「このあと、りーちゃんはどうされるんですか」
「零時までに、事務所のカギを返却しにいきますわ」
「あれ、りーちゃん荷物違うやつのはどこにいきました」
「途中、事務所のかたの車を見かけましたから、預けてしまいましたわ」
「そのときに、カギも返したらよかったのに」
「カギは、ご自身でないと返却できないのですわ。ほかのかたに返却をお願いするときには、さらに、マネージャーにお届けをだします」
「そっか」
「あかりさん、送りますよ」
「え、りーちゃんはどうするの」
「あかりさん、足痛めてるし、着替えもどうするか」
「このまま帰りますよ」
「……でも、送るよ」
そらくんがあかりさんをご自宅まで送ってくれるらしいため、わたくしは駅でおわかれですわ。
ハロウィンは前夜から、すっかり歩き通す強行にしてしまった。
収穫もあったし、これまでほとんど経験のなかったパーティーに参加できた。
今後、配信にも私生活にも影響しそうだわ。
事務所には、五十八分にはつき鍵を返却できた。
あと二分、危なかったですわね。
その後、そう考えつつ住む部屋に近い降りた駅から、近道の公園を通る。
ここの公園は、おデートスポットとして有名で昼間は子どもたち、夜はハチャイチャハチャイチャしているカップルたちが集まる。
はいはい、そこのカップルさまたち、わたくしが通りますわよ、と安心して通れる場所だ。
明るい照明にムシたちが集まり、少し暗い場所には、ハロウィンのまだ途中のヒトがいて、この夜はたしかになにか違う……と砂場を通る。
そのときに、ドンとなにかにぶつかってしまった。
余所見をしていて、とっさに砂場にお尻から倒れる。
手も足も砂だらけだ。
「ごめんなさい……立てますか」
このハロウィンに似合う、ヴァンパイアのような格好をした男の子に手をだされる。
手をはたいたあと、その手をつかむと、スッと引き寄せられる。
バックの荷物が散らばっている。
「ありがとうございますわ。すっかり余所見でしたわ」
荷物を拾い上げると、それを渡してくれる。
受け取ると、なぜかとても嗅いだことのある香りだ。
「じゃ……うつくしい悪魔さん」
しばらくそのまま呆然とする。
男の子……いや、ヴァンパイアなのに、帽子をかぶる姿や仕草で、女の子だとわかる。
まだ考える。
思考がひとつになりそうなのだ。
歩き部屋の玄関を開けようとしたとき、バックのなかにあるカギを探す。
部屋のカギはあるのに、もうひとつがない。
でも、失くすわけはない。
ポーチのなかにしまったのだ。
ポーチのなかに、玄関のカギはみつかった。
でも、あの金庫のカギがない。
「あおい……なの?」
もう一度、探そうと部屋に入った。
あおいのカギは、みつからない。




