ハロウィン当日探しびと
このハロウィンただ練り歩いているわけではないですわ。
そう。
目的がありますの。
ハロウィンに探しびとなんて、素敵じゃありませんか。
ロマンティックですわ。
お嬢様の愛ですわ。
せっかくご説明を差し上げたのに、お二人とも、なんだか遠い眼ですわね。
「なぜ、お二人ともそんなになにかをみつめるようなのでしょうか?」
わたくしの当然の質問ですわ。
「りーちゃん、それ本気ですよね」
「そらくん、本気だから、怖くなるんですよ」
お二人は、なにかわたくしの本気が伝わっていて、嬉しいやらそれにしては、なぜかつかれているようだ。
「本気と書いて、おじょうさまと呼びますわよ」
「そうですね。たしかにそうかも」
はぁ、とため息までする。
あかりさんのため息ですわ。
「なにをそんなに、つかれていますのよ」
「お嬢様の本気は、わかりました。けれど、前夜からこんなにパーティーを梯子して、しかも、お菓子とフルーツやらお土産もらって、仮装歩きなのか食べ歩きなのかわからないのに、よくそんなに平気ですね」
そのことですわね。
「鍛えてますわ」
「胃袋……!」
「胃って鍛えられるものなんですね!」
なんだか別の伝わりかたになってしまいましたわ。
お嬢様の胃袋サイキョーとか、いまから伝説がはじまりますわね。
二日めに入って本番になったハロウィン金曜日の当日。
お菓子パーティー……じゃなかった。
お仮装パーティーをもういくつめか、渡り歩いている。
昨夕から、着替えの手がかりも移動手段も、だいぶつかめてきて、本当にみなさま寝たのかしらと疑問に思うくらいに、昼間からもう魔物たちが賑やかだ。
昼間から魔物たちは、日の当たる場所にいて、よくひとは、逃げないものだ。
「仕方ありませんわね。少し休憩しましょう」
「やった」
「そらくん、生き延びられます」
このお二人は、もう少し体力を鍛えたほうがよろしい気がしますわ。
「わたくしは、夕方に一度配信機材の揃う場所にいきますから、そのときにはお二人で別の場所に……」
「寝られる」
「いまから調べましょう!」
元気なのか、元気がないのか、よくわかりませんわ。
この混雑する魔物たちのなか、空いていそうなどこかを探す。
たしか、アオイがそんな場所を話していた気がする。
アオイはレンタルの仕事上、いろんなアイテムや物件を知らなくてはいけなかったらしく、街に詳しい。
たしか、ビルのなかや地下街、いかがわしい場所まで、よく知っていた。
「地上と地下なら、どちらが……」
「地下ダンジョン!!」
「隠しアイテム……」
「地下街ですわね」
いつから地下街の名称は、地下ダンジョンになってしまったのでしょうか。
そのうち、地上のビルが魔王城、電車は魔列車、船をみつければ、空飛ぶ船に名称が変更され、みなさまのアタマの上に村人とか商人とか、名称タグがスマートグラスで表示されるのでしょうか。
いまでも、そういった街並みアプリはありますが、わたくしのアタマの上に、ミリロリ嬢様と、表示がされてしまうのは困ったものですわね。
そらくんの上に彼氏、あかりさんの上に、愛人、と表示されるのは、かなりわたくしは、お得にはなります。
ひとって勝手ですわね、とそう思う。
いざ地下ダンジョンへの入口の階段前にくる。
ここの迷宮は、F三三番らしい。
階段の下側に向かい、魔物たちが吸い込まれていく姿をみていると、本当に地下ダンジョンが存在し、朝昼と冒険者たちがなかでバトルして、なかにアイテムがたくさんありそうで、配信者の前にプレイヤーとして、わたくしもわくわくしてくる。
階段に入ってみると、なんということもなく、魔物たちが写真を撮りあい、お菓子を渡し、階段でポーズをとり、F三三番は大変混みあっていた。
たしか地下一階のフロアには、駅とビル地下のお店にいくための入口があった。
「お店がたしかあったのですが」
「その前に混み過ぎです」
「これ退治してまわるのはだめですか」
「ケンカはよくないかと、思いますわよ」
あかりさんがとても勇者だ。
この魔物たちのなか、全員まとめてバトルする気らしい。
バトルロワイヤルとか、わたくしは少しニガテですわね。
味方同士討ちになりそうですわ。
神父そらくんは回復役ですし、あかりさんは、灰色の補助役ですから、結果悪魔のわたくしがすべて薙ぎ倒すことになりますわ。
「そう、すべては最深部に隠された秘宝とそれにまつわる哀しき物語のためですから」
「そらくんもしかして、昨日ゲームしていたかしら?」
「いえ、そんなことは……」
「わかりましたわ! 少し前のアーカイブをみましたのね!」
「そうなんです!」
あかりさんを上手く引っ張りながら、地下ダンジョンを歩き、中央部にある駅すぐのフロアの扉をひらく。
なかから、涼しい風がくる。
少し前から、この季節でも暑い日が続くようになり、店内の風がまだ涼しいのがわかる。
あかりさんを店内まで連れていくと、なんだか、表情が青くつかれている。
「あかりさん、どうしましたか」
「二回踏まれて、バックでアタックされました」
「それは痛いですわ」
たしかに階段からこちらまでで、群れになっていた者たちを避けてきたけれど、あかりさんは何度か体当たりみたいにされていた。
「ベンチありますよ」
そらくんが店内入ってすぐで呼ぶため、そちらに連れていく。
「足をおみせになって」
装備のブーツは、おしゃれなものでそれなりに硬いため、多少なら平気だとは思うけれど、脱いでもらう。
「いた……」
「どちらでしょうか」
「うう……たぶん指? かな。小指か薬指か」
そっと触っても痛がっている。
けっこう踏まれてしまったらしい。
「歩けそうかしら」
「歩ける……とは思います。でも、力入れてみると」
「少しお水持ってきますわね」
わたくしが離れて、お手洗いでハンカチを濡らしていく。
戻ると、そらくんがなにか探している。
「どうされましたかしら?」
「たしか、どこかのポケットにそういうの入れたような」
「そういうの?」
「ありました」
神父のローブから、傷テープらしきものをだす。
ほかにもミニ裁縫セットとかある。
この神父さまは、とても心配性らしい。
「濡らしますわね」
「みますね」
あかりさんの裸足を触り、そっと冷やす。
そらくんは、なにかみている。
あかりさんの顔が、少しずつ赤くなっていく。
「あの……じっとみるとかなしです」
「ちょっと待ってて」
「そらくん……あの」
「靴ずれでしょ」
「えっと……」
そういうことでしたか。
そらくんは、にぶいけれど、神父さまのようだ。
「靴ずれしてきていて、それで歩きかたがおかしいのですね」
「りーちゃん、そんな本当のことのように」
「本当のことですわよね」
わたくしも、うっかりでしたわ。
わたくしは日頃からいくつか靴を履き替えてみたりするため、平気でしたが、あかりさんは靴ずれしていて、それで歩きかたを変えていたらしい。
「うう……そんなはっきりと……」
「靴ずれは、お恥ずかしいことではありませんわ」
「裸足をこんなにみられてるのが恥ずかしいんです!」
「そんなはっきりと……」
「ぴしっとぱしってできましたから、安心ですよ」
「神父さま……!」
「神父さまだわ」
そらくんが、少しだけ照れているわ。
「回復魔法って本当にあるんですね」
「傷薬です」
「神父さまって、いつも回復薬とか持ち歩いてるんですか」
「いまはローブのなかにたくさんありますよ」
なんだか、そらくんの話しかたが変だ。
照れているらしい。
それとも、神父さまと呼ばれることが心地よいのだろうか。
今度から、ときどき神父さま、と呼ぶことにしましょう。
「もう少し歩けるかしら。先にコーヒーショップがありますわ」
「わかりました。たぶん平気ですよ」
またブーツを履くと、何度かたしかめている。
回復薬の効果はあったらしい。
数分進むと、すぐに店内のショップに、スタバHH店があった。
けれど、それは魔物たちの住処だった。
「うわぁ混んでる」
「これは別のところですね」
「そうですわね」
スタバHH店は、帰りに寄りましょう。
さらに進むと、今度はドムッタバーガーがある。
こちらは、進めそうだ。
「飲みものだけにします」
「アイスとかおいしそうですね」
「あかりさんは、まだ食べれるんですわね」
「いやだぁ、あるか確認しただけです」
そういいつつ、わたくしもおいしそうなものだけは、眼で確認しておく。
飲みものだけにして、席に座ると、あかりさんの足の様子をみる。
「少しこちらで休みましょう。足も痛くなったらすぐに言うのですわよ」
「そんなに心配しないでください。もう歩けるし、痛いだけです」
「痛みをかばって、歩きかたをあまり気にしすぎてはいけませんわよ」
「さっき少しあかくなってたから、腫れてるのかも」
「そんなことないです。そらくんの回復薬も効いてるみたい」
「こちらで休んで、パーティーの数も調整しますわ」
あかりさんは、なにかぷちぷちいっているけれど、そんなに無理にパーティーにいくつもりはない。
わたくしの夕方の配信の前に、もうひとつと、配信後に合流してから本命のパーティーでいくので、当日のスケジュールは、いいことになる。
詰めていたほかのパーティーは、キャンセルにしておく。
「このあと、招待の子ども参加パーティーと、おおきい会場のパーティーですわね」
「子ども参加のって、なぜそちらが優先なんですか」
「前日のお子さまは、覚えていますかしら」
「いくつかいったけど、たしかお菓子の交換ですか」
「そうですわ。あのときお菓子の代わりにチケットを渡されましたの」
テーブルに三枚の招待チケットを置く。
「可愛いですね」
チケットには可愛らしい字で、招待と日時に会場だけ書かれている。
「オトナでもいいんですか」
「招待チケットを受け取ったかたは、会場の警備の者に、装備を一度確認させてもらいますと書かれていますわ。オトナでもいいみたいですわ」
「わたし平気かな」
「ぼくも平気かな」
「わたくしは……なんとかなりますわ」
「じゃ、そのあと配信をみてますから、それ次第で再集合ですね」
「リアルタイム視聴します!」
「りーちゃんコメントしますね」
「寝るんですわね」
「……そんなこと」
「……ないですよ」
「いいですわ! このわたくしのハロウィンで寝られるか、存分にお試しになるといいですわ!!」
わたくしの普段の配信なら、無理に視聴することはなく、寝てくださいね、とか言うのだけれども、このハロウィンパーティーは特別仕様だ。
ヨジゴジのはいくずれさん、月にカエルお姫様、ミリロリ嬢様と三人が揃うはじめてのおコラボですわ。
この配信で、なにが起こるか、わたくしも若干不安ではあります。
いえ楽しみ九割ですわ。
しばらく涼んでいて、あかりさんも休めたようだわ。
わたくしはタブレットで、配信までの細かい部分を確認する。
あかりさんとそらくんは、これからの休める場所と、買いもののできるショップ探しをしているようだわ。
お店をでると、まだこの熱気がすごい。
これで本当に十月なんですの。
「気温は、わたくしたちの熱い気持ちのように、上昇するんですのね」
「できれば、冷めてほしい」
「あかりさんは、灰色に冷めてますわね」
「溶けてます」
「その通りですわ」
溶けているのは、神父さまのほうだわ。
そんなに暑いコーディネートにするからですわね。
「あつい……」
「それなかは、どうなっていますの?」
「シャツとジャージみたいな、スウェットかな」
「なかのシャツとか脱いできませんか」
「更衣室とか、空いてないですよね」
我慢していただくしか、なさそうですわね。
子ども招待の会場にくる。
警備の者は、とても可愛らしい警備ですわ。
「警備がちっちゃい」
「カバンみます!」
「はい!」
集まっているオトナたちは、みんなオトナしく小さい警備の仮装の子どもたちに、持ちもの検査をしてもらう。
「これは……ナイフ」
「ニセモノです!」
「触っても」
「はい!」
なんとか神父のそらくんも通してもらえそうだ。
入口の並ぶ列に、わたくしたちも一緒になる。
子ども仮装行列かとおもっていたら、子どもランタンパーティーですわ。
入ると室内は暗く、壁にいくつかの灯りがぼーっとみえるだけだ。
けれど、少しだけ待つと、何名かのお化けの格好をした子どもが手に蝋燭を持ち、隣の大人のみているなか、廊下のように並べられているランタンに火をつけていく。
カタチはいろいろらしい。
少しずつ灯りの通路ができていく。
よくみていると、壁やほかの通路にも小さいランタンがたくさんある。
真ん中にできたランタンの道を案内された魔物たちが歩いていくと、先で蝋燭を渡される。
そこで火をつけると、その蝋燭でわたくしたちも、ひとつランタンに火をつけるようだ。
うわぁと声が上がるのは、ランタンにひとつつけたお礼に、お菓子を選べるらしい。
ありがとう、と声がするも、子どもたちとそのお連れの大人も、なにもしゃべらない。
ただにこりとするのが、さらに可愛い。
お菓子のお礼にと、こちらも別のお菓子を手渡してみると、丁寧にお辞儀をされてしまった。
少しずつ増えていく灯りたち。
列に並ぶ最後の魔物がつけ終わると、真ん中の道のランタンは、消されてしまった。
部屋のさまざまな場所に、置かれて飾られたランタンの灯りに、来た魔物たちは歓声をあげていた。
それらをまたひとつずつ子どもたちが動かしていくと、いつの間にか帰りの通路が出来上がりつつある。
「さぁいきましょ!」
「え、りーちゃん」
「ここは、子どもたちの魔物の場所のようだわ。大人は過ぎさりますわ」
「……でよう」
悪魔のわたくしが先頭に歩くと、写真を撮っていたほかの魔物たちも、少しずつ返っていくようだわ。
外にでてからも、少しの間だまってしまう。
駅までの道をいきながら、あかりさんが話しかけてくる。
「とっても幻想的でした」
「うん。可愛いかったね」
「りーちゃんは、知ってたんですか?」
「いいえ。まさかあれほどお可愛いものだとは、思ってもいませんでしたわ」
わたくしは、配信機材のあるビルに向かう時間になっていた。
「駅で解散ですね」
「それでは、お二人とも、次は配信でお逢いしましょう」
「いってらっしゃい、りーちゃん」
「いってらっしゃいませ」
お二人とおわかれする。
電車では、二駅だ。
そうして移動する間も、あの幻想的なランタンの灯りが、まだ眼には残っていましたわ。




