キーホルダーのわすれもの
わたしは夕方までのデートをおえて、帰り道、駅まで歩き、改札に入る前に、ラルルンにメッセージがきてないか、確認するもまだきていないみたいだ。
「さて、どうするか」
バックのなかには、撮ったリリクラや袋や手帳など入っているが、ポケットにはお菓子のキーホルダーが入っている。
「持ってきちゃったけど、アオイちゃんのだよね」
ゲームセンターの自販機で声をかけたときに、落としたような気がする。
てか、高校制服かわいかったな。
想い出して、にやにやする。
スカートが、短めだったからなのか、眼鏡✕制服だったからか、ミョーにもやもやする。
「ムラムラかな?」
制服可愛いムラと、リリスタで投稿しそうになり、慌てて手をとめる。
「あぶない。わたしの変態っぷりが、ばれるわ」
ラルルンから、お知らせがきた。
アオイちゃんが、気づいたらしい。
"落としたの気がつかなかった
"いいよ。ポケットにあるよ
"もう帰りだよね、どうしよっかな
「可愛いなぁ。もう」
そう。
あまり周囲にバレないようにしているけど、わたしはけっこうアオイちゃんからのストーキング、追いかけが楽しい。
それに、わたしより可愛い子に、追いまわされるのも快感だ。
「いまいくよ」
"まだ駅。これから、待ちあわせない?
"そう。たすかる。その写真撮らないと
"ゲームセンターから、歩いて駅の近くに、
噴水のある赤バラ園知ってる
"赤バラね。オケ〜
わたしは改札から、駅の外にでていき、歩きだす。
赤バラ園は、昼から夕方まで時間で噴水がでる少し広めの公園だ。
真ん中に噴水があり、その周りも水がでる場所があるため、土曜日曜はデートスポットになっている。
「金曜だけど、まだこの時間だから、イチャバカップルがいるな」
以前に、一度元恋人といったときには、思いっきり水をかぶり、服が濡れてそれどころじゃないのに、このあとどうする、と聞かれて、どうにかしてほしいのは、こっちなんですよね、と悪態をついていた。
「わたしのなかで、黒歴史になっとる」
この時間は、もう足元の噴水はでてこないだろうけど、つい以前の思い出のおかげで、赤バラ園についたあとも、足元をみて水の噴出がないか、フラフラ歩いてしまう。
ようやく、ベンチをみつけて、荷物を濡らすことなく座ると、やはりというべきか。
少し明るい真ん中の噴水の囲いのフチで、イチャバカップル手つなぎキス魔たちが、チュッと、ほっぺや口にキスをしている姿をみて、わたしは、酒が入っていないのに、ねぇねぇ、きみたち、どこからきたの、わたしの話しでも聞いてよ、と酔っぱらいにみせかけて、邪魔をしてやりたい衝動が起き、リリスタに投稿しておく。
"イチャバカップルって路チューして、エ○いこと平気で人前でできる、いわば欲に囚われてるリアル迷
「おっと。いい過ぎかな」
すると、灯りのなか、制服眼鏡美少女が走ってきて、わたしの前でとまる。
フワッと、スカートがゆれる。
少し離れていたバカップルの男の子が、こちらをチラチラッとみているため、わたしは少しだけ気分がよくなる。
少しだけ息を切らせて、下を向いてなお理解るこの色気。
「わたし、貴女のこと、一瞬この場で襲いたくなるんだけど?」
「はっ、え、なに」
聴こえていなかったらしい。
よかった。
「ううん。おまたせ!」
「それ、セリフ逆だよ」
アオイちゃんは、後ろで二つにしばった三編みのヘアスタイルで、制服の上に青いジャンパーだ。後ろに文字が描いてある。
ローファーを履き、カバンには白いリボンがついている。
ニコッと笑っているアオイちゃんが、わたしの隣に座ると、わたしは瞬間的に、勝った、と周りのバカップルたち全員に言ってやりたくなった。
わたしは、バカだ。
「あ、これね」
わたしは、ポケットからお菓子のキーホルダーを差し出す。
アオイちゃんは、受け取るとすぐに手に持ちながら、その写真を撮る。
「たすかる」
「うん」
「あ、ついでに」
とベンチに座っている状態のまま、二人の自撮りをする。
「いいのに」
「いいでしょ。可愛くてついね」
そのまま、スマホをしている辺り、もしかしたら、これもアオイちゃんのバイトなのかもしれない。
「またすぐに、帰るの?」
「ううん。これはあとで渡すのでもオケだよ。写真だけ先にね」
「そっか」
いちおう、役にたてたみたいだ。
「それで、今日のは彼氏?」
いきなりきたな。
「ううん。違うよ」
「へぇー?」
アオイちゃんは、リリスタでまたなにかを投稿している。
こうしてみていると、後輩の女子校生と夜にデートをしている錯覚に落ち、わたしはソワソワする。
「あっ。いま写真撮られた」
みると、噴水の向かいから、フラッシュがきたのだ。
「どっちかな?」
「アオイちゃんでしょ」
わたしの格好は、暗いとどちらかとボーイッシュだ。
「ふーん」
結局聴いていいのかわからずに、少し夕方の出来ごとを話したあと、わかれることになった。
「あ、ねぇ」
「なに?」
立ちあがったあと、その場でクルッと回ると、スカートがヒラリと舞う。
バックを持ちなおし、眼鏡をなおしながら
「どう?」
「え、うん。可愛いよ!」
「そう。ありがとう。えへ」
なんだ、この可愛い生物は。
生物兵器じゃないか。
もう一回でもやったら、わたしは抱きついてしまうところだ。
少し公園のなかで薄暗いのが、余計に表情に影をだしていて、キュンとする。
「じゃね」
わたしは、素直にはなれずに、クールを装い手をふる。
ベンチの荷物も忘れないようにする。
「うん。じゃ」
アオイちゃんのバックにつけたキーホルダーが、チャラっと音をたてる。
駅についてから、ラルルンにお知らせが届く。
アオイちゃんから、写真が送られてきた。
少し暗いなか、二人でポーズを撮っているさっきのやつだ。
まず、保存しておく。
「てか、わたし、ニヤついてるな。いつもこんなかな。キモいね」
駅の改札を通るとき、抱えている荷物のほかに、バックのなかにぬいぐるみがあることを想い出した。
「そうだ。今度またゲーセンいって、色違いでも、アオイちゃんに取ってみよう」
"今度ゲームセンターいかない
"オケよん
また別に写真が送られてきた。
明るいところで、自撮りをまたしていたらしい。
「ヤバい! 可愛いが過ぎる」
「この娘、わたし以外にも女の子いるな」
保存した。
アオイちゃんコレクションが、どんどんと増えていく。