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あい/抵抗  作者: 十矢


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アイそれは勉強

 あかりさんとミニノートで動画を作成しながら、キャッキャッとしていたら、そらくんが来た。


「なんです、そらくんですわね」

「なんだ、そらくんだ」


 そらくんが、いくつかの荷物を置いている。


 来たのは予想通りに、お昼過ぎてからだった。

 荷物の準備もあっただろうけれど、あんまり早くに来ないようにしたのだろう。


 わたくしが、配信の作業もするかもと事前に言ったからかもしれない。


「おはようございます」


 少し疲れていそうなのは、外が暑すぎるくらいだろう。


 わたくしはその前に一度寝て、シャワーもして髪も乾かし、お水も飲んですっかりあかりさんとお話しをするのに、ハマってしまった。


 たぶん、この三ヶ月の断捨離されたようなリアル会話のなさの弾みがきているのだろう。



 誰だって、ない期間が長いと、ある期間を求めてしまうのだ。


「あるって素晴らしいですわね。おはようございますわ」

「ある……?」

「ひとの温もりでわたくしホクホクされてますわ」


 わざとあかりさんの腕をとって、わたくしに押し付ける。

 前よりあかりさんが抵抗しないのは、わたくしの触り心地に慣れてきたのかもしれない。

 狙い通りだわ。


「あかりさんと、仲良しになったんですね」

「羨ましいですか」

「それは、まぁ」

「りーちゃん、そらくんがうらやんでくれてますよ」

「そうですわね」

「女の子同士少しほっとします」

「そうですわね」

「そっかぁ、女の子同士も心地いいかもですね」


 若干あかりさんに効果がありすぎたのかもしれない。

 あかりさんが百合になってくれれば、名実ともにわたくしの愛人なため、わたくしは両手に花になるけれど、もしかしてアオイもそういう気分だったのかもしれないと、改めて想う。

 とはいっても、ここはわたくしの部屋である。


「お紅茶とお炭酸水とありますわ」

「炭酸水でお願いします」

「ええ、わかりましたわ」


 あかりさんの腕を解くと、なんだか名残惜しそうにこちらをみる。


 その眼をみて満足する。


 わたくしは女の子を口説くのは得意らしいといまわかった。

 そらくんの荷物は、そんなに多くはない。

 着替えくらいは入っているかもしれない。

 キッチンに立つと、そらくんがあかりさんに話しかけている。

 あかりさんは、表情がハキハキしている。

 こうしてそらくんと話すときには、少し子どもっぽくもみえる。


 さきほどまでは、わたくしの腕のなかにいて妙な感じで甘くしていたのに、そらくんと話しはじめると、少しお姉さんっぽくしている。

 それが、子どもっぽくもある。


「そらくんは、なに持ってきたんですか」

「貴重品と日用品に着替え、あとは役に立ちそうなアイテムかな」

「え〜〜! 旅ですよ! もっと気合い入れましょうよ」

「そうはいっても、なにが必要かな」


 どうでもいいけれど、わたくしの部屋のリビングでイチャイチャしないでほしいですわね。

 ほら、あかりさんが勝ちほこってこちらをみている。

 そこが、子どもっぽい仕草ですわね。


「そらくんは、旅し慣れてますわね。論文がそういうのなんでしょう」

「よくわかりますね」

「それは、そうですわ」


 そらくんのことは、あれやこれやさまざまに素行調査……ではなくて、役に立てそうかもと検索をかけましたわ。


「りーちゃんの準備はできましたか」

「まだ、もう少しですわ。動画はできたのですが、スケジュールを組み直さないとマネージャーに怒られてしまいますわ」

「どういうのですか」


 そらくんが、あかりさんから離れてこちらにくる。


「そこのタブレットに表示されてますわ。みてもいいですわよ」


 そらくんがタブレットを開くと、あかりさんは少しこちらを睨む。

 睨まれても恋にお釣りはありませんわ。


 でてくるのは、殺気だけ。


「これ旅先でもかなり詰め込まないと、余力なくなりませんか」

「平気ですわ」


 にこっとしてみる。


「せめて動画の作成を短くするか、週の配信を少し減らさないと」

「マネージャーは、できそうならそのままでという話しでしたわ」

「もうひとりクリエーターが欲しくなりますわね」

「同感」

「クリエーターならいるじゃないですか」

「え、どちらでしょうか」

「え、どこにですか」


 あかりさんをみると、不思議そうにしている。


「そらくんがクリエーター」

「ぼくですか」

「で、わたしがマネージャー二番」

「マネージャーも二番ですわ」


 睨まれてしまった。

 言ったのは、あかりさんなんですわね。


「そうして欲しくはありますけれど、お二人だってバイトに学校に、ですわね」


「手があるんだから、使いましょう」

「手?」

「脚もあるんだから、使いましょう」

「脚?」

「なんだか、セクシーですわね」


 また睨まれてしまった。

 わたくしが、二番めと言ってるからかもしれませんわね。


「動いてつかえるものは?」

「なんでもつかう」

「つかえなければ?」

「代わりを探す」

「わかりましたわ」


 わたくしも覚悟を決めるときが、きたようですわね。


「そうですね。旅の間は協力しましょう」


 なんだか、すっかりあかりさんはわたくしの配信作業を手伝うことに、やる気をだしてしまったらしい。

 たしかに、あかりさんの言うとおりではある。

 使えるものは脚でも口でも、なんでも使うのがクリエーターというもの。


 月にカエルお姫さまは、自身の出生すら、上手く利用している。


「それでは、まずりーちゃんのスケジュール組みですね」

「ですわね」


 ミニノートのパソコンを開きつつ、タブレットでもそらくんが確認して、あかりさんがその隣で、日程や作成の手順を話しあう。


「夏休みは目一杯いきましょ」

「ですわね」

「旅費はその都度計算して、あとで振り分けましょ。そらくん」

「はい」

「それから、必要なアイテムもどれくらいか、いま考えないとですね」

「ルルミリダスの酒場ですわね」

「それなんです?」

「ご存知なくて。RPGにでてくる仲間や情報を探してまわる通称初期メンバーの集いし場所ですわ」

「わたしゲームあんまし知らなくて」

「それは大変! 旅のおともにぜひ、みてくださいな」

「……それはともかく、アイテムどうしますか」

「流された」

「りーちゃん、あかりさんは平気です。内心は……」


 あかりさんがひと睨みすると、そらくんが黙ってしまう。

 これぞ黙っとけの睨みですわね。


「いけない。これでは先に進みませんわ」

「りーちゃん油断してはいけません。いつモンスターが現れるか」

「えぇ最近は、ハラスメントモンスターが出現して、だれも退治しませんものね」

「傷害と暴行ですね」

「法律はいつもなにをしているのかしら」

「まずは回避です」

「逃げてもにげてもおいかけてくるわ」

「あのぅそれってつかれませんか?」

「なんのことかしら」

「みんなゲームのセカイにするやつです」

「いやかしら?」

「いやとかじゃなくって、どういう神経なことになってるのかな」

「この世界はゲーム理論でできているんですのよ」

「マネーゲームとかもいいますよね」

「そらくんは、少し黙っていてもいいです」

「……うん」

「モンスターとか破壊とか、爆とか怖すぎ」

「んふふ」

「え、なに?」

「あかりさんは、ご存知のはずよ。この世界で一番怖いのはリアル! ですわ」

「リアル……!」

「それに、ゲームの構築されたセカイこそ、もっともきらめいていて、もっとも醜い姿を表面に映す鏡ですのよ」

「なにそれ怖い」

「ところで、あかりさんのそれはなんですの」


 わたくしが指したのは、あかりさんのカバンだ。

 中身がぎっしり入っていそうだ。

 重たそう。

 これ動くのかしら。

 シャラシャラしてる。


「勉強道具ですよ」

「ベンキョー?」

「道具?」

「旅先でも、頭使わないと……」

「恐ろしいですわ。高一受験戦線ですわね」

「知ってるんですか!?」

「高校一年生。みなさま浮き浮きなさるそのときに、受験は高一から始まってるんですわ。一年の夏休みがスタート地点。青春は勉強!青春は小説!愛……それは勉強っ!」

「そうなんです!はいくずれさんが紹介していた、青春受験なろう小説!」

「クズなはいくずれさんにしては、ずいぶんと真面目なセレクトでしたわね」

高一受験聖書(バイブル)として、ライト文芸ではなくて、黒本として並ぶんですよ」

「ジャンルが黒って……」

「垢か黒か」

「青春か、それか漆黒の翼」

「とりあえず両方奪いましょう」

「格好いい!」


 あかりさんが、はいくずれさんに沼っているのは知っていましたが、やはり沼ってしまったらしい。

 クズなはいくずれさんは、甘めなルックスとクズな言動で、リスナーを堕とすのが得意なのだ。


 あかりさんは、もちろんわたくし派ではあるようだけど、これは気をしっかり持たないといけませんわ。


「でも、はいくずれさん最近少し変わってきたってリスナーのコメントにありましたよ」

「そうなんですの。気づきませんでしたわ」

「前はアカウントの繋がる何名かに、リアルで逢いましょうとか、触ってほしいみたいな発言をして、ユウワク? みたいなことしてましたけど、いまは応援とか、ほかの配信者の様子をチェックしているようでした」

「それは、どなたなんでしょうね」

「……ミリロリ嬢様かと」

「ですね」

「……なんです! そんな! わたくしが!」

「なんでそんなに驚くんですか」

「以前お逢いしたときには、なんだか余所余所しくて、別のかたと仲良く喧嘩してましたわ」

「喧嘩してたんだ」

「手が早いんですね」

「いやらしい」

「え、なんで」

「え、そういう意味じゃないか」

「あかりさん、なに勘違いしたんですか?」

「なんでもないです。そらくんえっち」

「なんで!」


 そらくんが、ややえっちなのはいまさらながら、同意しますわね。

 それにしても、あかりさん勉強道具とは。

 偉いけれど、重たいですわね。


 いろんな意味ですわ。


「重たいですわ」

「え……ダイエットしますか?」


 そらくんのマジボケがきましたわね。


「そらくん、ハラスメント注意報がきましたわ」


 あかりさんが、そらくんの腕をパシパシ叩いている。


「それもはや、ハラスメント ✕ ハラスメントですよ」

「併せてハラ ✕ ハラですわね」

「もうりーちゃん歌つくってください」

「よろしくて?」

「ハラスメント対策強化向上高とか」

「長いですわね」

「略してハラ高です」

「それはいいですわね。は、ともかく、あかりさんカバンなんとかしませんか」

「わたしのカバン?」

「腕へし折れますわ」

「平気です」

「無理なく」

「平気です」


 仕方ないですわね。

 これは使いたくなかったけれど、手段は選ばずですわ。


「あかりさん。そらくんとわたくしという極まった頭脳がありますもの。教科書は控えめで、いいですわ……と、そらくんがおっしゃったわ」

「わかりました!」

「もし不明なことがでてきたら、わたくしを頼ってもいいんですのよ。いえ、けっしてわたくしが頼ってほしいとか、そういうんじゃないんだからね、ですわ」

「わかりました!」


 ツンデレお嬢様も、ラクじゃないわね。


 でも、ものすごいスピードで自身のカバンを整理しだすあかりさんは、なんだかとても可愛いですわ。

 それにしても、よくこれだけのものが入りますわね。

 異世界転移ですわね。


「りーちゃんも、荷物軽くしてくださいね」

「なにをおっしゃるのかしら、そらくん」

「パソコンとかモバイルバッテリーとか、必要なものだけですよ」

「わ、わかってますわよ」

「寝られないから枕とか、衣装は予備も含めて何着もとか、可愛いからぬいぐるみ多くしてとか、あまり必要のなさそうなものは……」


 ハラスメントですわ!


 通りこしてハラスメント ✕ ハラスメントですわ!


 ハラ高って歌、本気で一曲つくってやろうじゃないですか、ですわ!!


 いっそハラスメントキャンセルしてやりますわ!!


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