仮名さんとデート
大学の講義の重なる日は、アオイちゃんと、会い席を少し入れ替えながらも、一緒に受けることが多くなった。
相変わらず、朝に連絡もくる。
講義終わりに、わたしのバイトがある日は、そこでわかれるし、バイトのない休日には、遊ぶようにもなった。
正直、はじめ一年のときは、みんな講義をこなすので忙しいらしく、友だち遊びなどの時間はなく、サークル活動には入らなかったわたしは、大学での相談相手がいない状態で、寂しかった。
アオイちゃんは、だから話しできるようになった、嬉しい相手だ。
でも、気になることが、ある。
今日は、講義のあと、バイトがない休日で、そして予定を入れてしまった。
約束していたわけではないけど、アオイちゃんに、ラルルンで連絡を入れる。
今日の講義では、お昼まで合わなかったのだ。
"お昼、食堂
あまり食欲ない
講義合わなかった
夕方、予定あるんだ
すぐに返事がくる。
"おけよん
あわん
夕方わかった
わたしも
「そっかぁ」
お昼を簡単に、おむすび一つだけにして、自販機のコーヒーを飲む。
窓ぎわで、ボーッとする。
わたしは、特にボーッとする時間がイヤなわけではない。
リリスタをはじめてから、みる回数も投稿もするけど、情報収集と流行、それに少しの承認を欲しているだけで、つまりは、関わりってやつ。
リリスタに少しだけ、回ってないセリフで投稿する
"きょうお相手だれだっけ
待ちあわせは、きまってる
夕方十七時半に、現れたひとは、サラリーマンだろう。
暑そうにネクタイをはずし、相手が自己紹介する。
仮名だろう。
「いこっか」
歩いていって、まず入ってみたお店は、アクセサリーショップだった。
「好きなの選びなよ」
「いいの?」
「そのためだし」
わたしは、十字のネックレスと、リングのを迷い、二重リングに、なっているやつを手にとると、相手のひとが受け取って、お会計に持っていく。
値段はそんなにではないけれど、実は好みかといわれると、そうでもない。
こういう場合のエチケットのようなものだ。
お店をでてから、
「はい」
と渡される。
受け取ったあと、小さな袋に入っているそれをバックに入れる。
落ちついてから、つけてみるか。
「次はどこでしょ?」
軽快に話すそのひとは、手慣れているのだろうか。
いや、そうでもないな。
ときどきスマホに目を通しているのは、場所を調べているようだし、
仕事帰りに、時間を指定するのも、よく考えれば、焦っているようにも見える。
「ねぇ?」
とわざと身体をくっついてみる。
「はい、なに?」
「ファッションみたいな!」
次は、ファストファッションにしよう。
「うん。そうだね」
二人で仲良そうに、道路を歩いていく。
この時間は、夏場の夕方で明るく、ひと目にはつくだろう。
ファーストピアス、という名前のファッションブランドにきた。
扉を入っていく。
「いらっしゃいませ」
わたしは、仮名さんの腕をとりながら、にこっとする。
こういう仕草は、もう慣れている。
店内に入ると、パッと手を離して、次つぎと服をみていく。
いくつかは、アクセサリーやバックも置いてあり、なかを一回りずっとみていく。
はじめは、落ちつかない仮名さんもだんだんと、歩きまわるようになり、二十分すると今度は、少し退屈そうになった。
そういうのは、観ていて楽しい。
二つほど、試着室でみたあと、ついでに下着もいくつか手にとる。
下着は、サイズとデザインで決める。
こういうのも勢いだ。
お会計では、下着の分は払う気でいたのだが、結果四つとも、奢りとなった。
「あの、カードで」
「はい。こちらに暗証番号を」
「はい」
「ありがとうございました」
お店をでると、とってつきの荷物は、この人が持っていてくれるようだ。
なんだか、少しこのひとは、お人好し感があるな、と想う。
でも、同時にじゃ、なんで今日来たのかな、とも想った。
お店からでたところで、リリスタに投稿してみる。
"買いものしてるん
けっこう買っちゃったよ
ゲーセンいこ
「ゲームセンターいこっか」
「うん。いいよ」
今度は荷物があるため、邪魔にならないように、近い距離で隣を歩く。
あとは、ゲームセンターいって、カラオケいくか、軽食してみるか。
夜景には、早いし。
少し歩いた先のゲームセンターに入り、なかをウロウロしたあと、若干つかれてそうなこの人と、リリクラを撮る。
わざと、明るめな表情をつくり、二人で撮る。
できあがりで、メッセージも入れたりすると、まぁ喜んでいた。
機械の外で待っててもらい、一人でも撮る。
「あとは、どうしよっか」
「少し疲れてない?」
「まぁ、大丈夫だけど」
あまりチェックしてなかったラルルンをみてみると、未読のやつがあった。
あれ、と想う。
そのあと、少しだけミニクレーンゲームをして、一つだけぬいぐるみをゲットできた。
「お菓子のやつもいいなぁ」
「ミニのやつ可愛いですよね」
そういいつつ、仮名さんはやらないみたいだ。
「ベンチでも探す?」
「そうする」
二人で、ゲームセンター内をぐるっとまわる。
にぎやかな店内BGMにも慣れ、もう一つくらいは、なにかしよっかな、とみていると
「あ」
と声がした。
ふと、ベンチの隣にあった自販機の前をみると、高校の制服姿で、眼鏡をかけているけど、いまメッセージを送った相手、アオイちゃんが、そこにいた。