そらくんの不誠実編
駅前のロータリーで、やや明るい照明の下にいる。
まだこの時間は、ひとは多く行き交い、待ちあわせのグループもたくさんいる。
隙間の空いているベンチは、カップルがこれでもかとイチャついているし、なにか妖精をカタチ取った像の前には、大学生だろうグループが、がやがやしている。
少し暗がりの端には、また違うカップルが至近距離で話しているし、もしかしたら、このなかにいると、ありあさんともカップルにみえてしまう気がして、なんだか申しわけなくなる。
まだ、手を放してくれないありあさんをみて、自分が中学や高校生のときは、女子といるというだけでつきあうだの、好きなひとだの、告白されたかとかどうにもいじられてばかりで、結果女子といないという生活をしていたのに、いつの間にかオトナな態度で女子といられることに、成長を感じてしまう。
「ありあさん、話し」
「あ……うん」
そう言うだけで、なかなか話しださないのは、仕方ない。
この場所を選んだのには、それなりに理由はあるし、ここならありあさんも安心するかもしれない。
スマホを出そうか、少し迷ってしまうのは、そろそろ配信のスケジュールでも更新されていないかな、とミリロリ嬢の通知をチェックするのが日課だからだろう。
けれど、スマホを出して検索してしまえば、退屈だという態度を示しているような気もする。
「ありあさん」
「その……」
「いや、焦らせてるわけじゃないんだ。立っててつらくない? 平気?」
「……うん」
少し遠慮がちに、隣のありあさんを眺めてみる。
いまは制服じゃなくて、パンツスタイルに上に少し薄い色のついた長袖シャツ。
この前と同じパーカーを着ている。
よくみると、リボンがいくつかの場所に刺繍してある。
お気に入りのパーカーなのかもしれない。
顔立ちは幼いけれど行動力はあるらしく、手を引かれてわかるのは、この前はかなり怯えていた様子が、いまはちゃんと、なにかを言おうとしていることだ。
何人か高校生くらいのひとたちが、通り過ぎて交差点に向かうなか、こちらの様子をジロジロみてくる。
「ワカレバナシじゃね」
「オジさんだよ」
「コエかけてみるか」
とりあえず、この男子高校生たちを殴っていいだろうか。
りーちゃんと一緒にいるときにも、ときどきあることだけれど、ひとりで寂しそうに歩いていくひとには、ちっとも興味すらなさそうなのに、男女関係っぽいふたりとかが、並ぶだけで途端に、噂話をしたくなるらしい。
もし、りーちゃんやありあさんの悪口でも言っていたら、とりあえずとして殴る権利くらいは欲しいものだ。
「この前から、そらくんって勝手に言ってごめんなさい」
ふと、小さい声ながらも話すため、ありあさんをみると、ありあさんもこちらをじっと見ていた。
「あ、平気です。ありあさんは、あのあとから、家に帰れてるの?」
「……帰ったり帰らなかったりです」
「どこか、泊まるところあるの?」
「ううん。ないから、コンビニいったり二四喫茶とか……」
「その、平気なの? すぐに店員さんに声かけられたりとかは」
「……店員さんも、たぶんそういうヒトとは、あまり関わらないみたい。ときどき店長? みたいなひとが、早起きだねって」
「あ、あぁ……うん」
おそらくだけど、家庭の事情に関わりたくないから、なにか買うくらいのヒトには、それ以上はしてくれないらしい。
「そらくん……は、大学生?」
「うん」
「彼女……りーちゃんは、そらくんのところに泊まったりしたら、やっぱり怒るよね」
悩んでしまう。
ありあさんをこちらの家に、泊めるというところではない。
その話しではなくて、もしありあさんが、DVやほかのことで傷ついているなら、できるだけ助けにはなりたい。
けれど、それを本人からムリに言わせたり警察に任せても、ありあさんが望むようになるのだろうか。
いまだって無責任なひとたちから、逃げるようにしているのに、ぼくがさらに無責任に対応しても、なにも意味などない。
ただぼくが虚しくなり、周りの見てみぬフリをし続けるオトナになるだけだ。
「そっ……か。まだ話してないからだ」
「そうだよね。彼女いるのに、ほんとメイワクだし……」
「それじゃないよ」
「なに?」
「たしかに、りーちゃんは彼女だし、ぼくの家に彼女じゃないひとが寝泊まりするのは、変だし。だけど、りーちゃんは、きみの助けになりたいみたいだ」
「りーちゃん、いまいないみたい」
「……手をだして」
いま気づいたのだろう。
ずっと繋がれていた手を放して、それから両手をこちらに向ける。
「これぼくに向けてだったけど、好きに使ってとも言われたんだ」
「えっ!」
ありあさんに手渡したのは、りーちゃんの家のカギだ。
「定期的に連絡するし、お金に手をつけないと約束してくれるなら、その部屋使おう」
「でも……りーちゃんの部屋ですよね?」
「もし怒るなら、きっとぼくに怒ると想うよ」
「どうして? わたし他人なのに」
「そ……それじゃ、これにしよう! あ、愛人として、部屋を使おう!」
「あいじん?」
「りーちゃんの愛人になったから、部屋は使える……たぶん」
「ふふ……なにそれ」
「わかった?」
「わかりました」
駅に入るのを見送り、電車のなかからも、ラインでこれからのことを話しあった。
「はぁ。それにしても愛人ってなんだ。なんかヒトって緊張すると、おかしい」
ありあさんと、こまめに連絡をとりあうことになった。
連絡をしながら、おおまかなぼくの状況とありあさんの状態を交換しあう。
どうやら、学校は行ったりいかなかったりで、その日の具合で夕方ごろには、外を散歩して過ごすようだ。
いまのところカギは使っていないようだけど、カギを利用するときの約束事を決める。
だいたいの内容は、返事がなくても、りーちゃんに使う日を連絡入れておくこと、りーちゃん部屋にいる間は、部屋の電話や呼び鈴があっても、ぼくとりーちゃん以外のは、ゼッタイに返事をしないこと、お金に関してはりーちゃんの部屋のは手をつけないで、そらに相談すること、夜に過ごす間は必ず内側からロックすること、そらが定期的に様子をみにいくため、そのときはカギをそらに一度返すこと、という感じにした。
りーちゃんと連絡がとれなくなって二週間経ってから、定期的に見にいくといった決まりごとのために、ありあさんと待ちあわせをするために電話をした。
「カギ使わなくていいの」
「今日、一緒にみにいっていいですか?」
「いいけど、待ちあわせできる時間はいつ?」
「じゃぁ、一時間後に駅前で」
「わかった」
少しアルバイトの時間を考えなおしたほうがいいかもしれない。
このところ、少し体調不良が続いていて、いまのアルバイト先が、苦しくなってきた。
たぶん、精神面でもいろいろ重なったからかもしれない。
一応りーちゃんに、送るだけはしておく。
"この前のありあさんと待ちあわせ
"部屋のお掃除してくるね
"カギをありあさんに渡しているけど、平気そうかな
ラインを送っておいてから、歩きだして考えてしまう。
異常なのかな。
でも、もしそうだったとしても、りーちゃんとあのときにありあさんを見捨ててしまうより、それよりずっと "そら" らしい気がする。
きっと、それがわかってきたのは、りーちゃんと付き合うことになったからだ。
それ以前は、じゃそらはいったい何色だったのだろうか。




