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あい/抵抗  作者: 十矢


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31/93

なんていそがしすぎるお嬢様

「おかしいですわね」


 わたしの知っているアイがいなくなって、少し経った。

 やはり、そらくんとアイとでデートしたあの日に、尾行していたのは、事務所に雇われたひとだった。


 社長とマネージャーが、あのあと二ヶ月ほど調べて周り聞き込みをしたところ、事務所の人員不足で、補うのに入れていた事務のひとりが、配信者のストーカー経験があった。


 配信者のひとりが、それを覚えていて、弁護士などに依頼する手前で、とりやめていたのだけど、ストーカー相手を変えて、ミリロリ嬢の情報を手にいれては、雇ってストーカーを繰り返していた。

 社長がマネージャーと、その相手の事務員の自宅にいき、問いかけたところ、

 前から、何名かをつけ狙い、あるときは恐喝して、あるときは、情報を売り買いしていたらしい。


 部屋にいったときに、かなりの数の動画と、恐喝につかったらしい手紙やそのほかには、怪しいグッズが転がっていた。


「はぁ。わたしもバカだったわ。昔の知り合いから、急に紹介されていれたから、なにか、ありそうかとは考えたのに、いそがしさで、調査していなかった」

「ごめんなさい」


 マネージャーと社長に呼びだされて、謝られたときには、もうアイはいなかったため、そのことをそらくんに話した。

 そらくんは、少しだけ寂しそうな、表情をみせたあと、ちゃんと怒ってくれた。


 そらくんに、またひとつ好きなところができた。



 それからは、事務所の不祥事と、配信者のプライベートの暴露本が重なり、少しの間、ミリロリ嬢も配信の回数を少なくする規制をすることになった。


 もちろん、ミリロリ嬢に不正があったわけではなく、形として、事務所所属の配信者は、全員が様子見をしよう、という意図だ。



「はぁ。まさか、アイがいなくなってから、こうも続けざまになると、わたくしもまいりましたわ」


 そらくんと逢う時間は、増やせるようになったため、そらくんに少しずつではあるものの、事情を話すようになっていた。


「りーちゃんは、すぐに再開できるようになるよ。問題は、事務所の対応と、それに、SNSの話題次第かもね」


 そう。

 いまリリスタで、火がついてまわっているのは、まさにそれだ。


 おかげで、配信者たちの対応は、日増しにリリスタの対応を増やしていそがしくなっている。


「おかしいですわね」

「どうしました?」

「配信をしないのに、リリスタのフォロワー数は増えるし、対応は細かいし、言葉づかいは、気にするしですわ」

「りーちゃんの、毎日チェックしてるけど、平気だよ」

「もし、わたくしの至らない部分が、ありましたら、そらくんは、ぜひご指摘をしてくださいませ」

「そんなに、丁寧にあいさつしなくても、大丈夫なのに。それとも、そんなに、頼りないかな」

「そらくんは、頼りにしてますわよ」

「そうかな」


 腕をパシッと、叩く。


「わたくし、事務所マネージャー以外に、頼りにできるの、そらくんだけですわよ。そらくんが、滅びるとき、わたくしも滅びますわよ?」

「そんなに、かわいく怖いこと言わないでください」

「あら、わたくしかわいい言われましたわ」

「りーちゃんは、もう充分かわいい」

惚気(のろけ)ですわね」

「惚気てください」


 それでも、りーちゃんは想ってしまう。

 アイ、なんでいなくなったの。



 そらくんとの少しの時間打ち合わせと、デートを重ねると、わたくしは、アイの残した家に帰るようになった。


 元から配信をしていた部屋は、少し狭く、配信用の部屋と、寝室とクローゼットくらいしか生活空間がなかったため、モノがあふれていた。


 そのため、アイとの想い出がある部屋を居住にして、そのままにして、配信用の部屋は片付けたあとは、作業兼、仕事部屋の扱いとなった。

 りーちゃんの居場所を知ってるのは、社長とマネージャー、それに、そらくんだけになった。



「はぁ」


 寝室につくと、そのままベットに倒れたいのを抑えて、重ねた上着を脱いで、アクセサリーをはずして、本当のお嬢様のように、丁寧にモノを扱う。


 わたしは、ホントはズボラだ。


 配信スペース以外は、あまり片付けていなかったし、活動での言葉づかいを心がけているものの、ときどきアイには素顔をみせていた。


 それだけ、アイはわたしにとって、欠かせない"アオイ"のままの大事なひとりだ。


「配信作業をしないと、時間が空くかとおもいきや、今度はリリスタと事務所連絡に、ほかにも増えてしまいましたわ」


 アイの部屋に引っ越して、ある程度のモノを整理しつつ、頼まれていたことをおこなうのが、日課になってきた。


 ひとつは、アイの物の管理だ。

 二つは、リリスタのアイのアカウント。

 三つは、コスプレ喫茶の役名ブルーのこれからだ。

 ブルーについては、すぐには、活動できないことを伝えると、別のウエイトレスを増やすことにしたようで、

 役名ブラックが、最近になり、Webページやリリスタで紹介されるようになった。


「ま、かわいいこと」


 リリスタの紹介では、

 キリっとしたなかに、少し幼く笑顔がかわいく、

 お胸が、ポンとでている子が、ポーズをとっている。

 スマホをとじて、机の上にある充電コードにつけておく。


 バックから手帳を取り出すと、

 やってやるぜリストと

 いやんなリストと、

 教わった重要事項が描かれているページを見ていく。

 そして、ちらりと、衣装棚にしまってあるノートについても、考える。


「まさか、ここまでとはね」


 ベットに座り、机にあるペンを持ち、少しだけ書き加える。


「そらくんに、話せないこと、増えちゃうな。それとも、話すとアレコレ始まるのか」

「う〜ん」


 とりあえず、晩ごはんを食べて、シャワーのなかで、考えてみましょうか。



 起きあがると、オートロックの玄関を念のために、たしかめにいき、それから、キッチンで簡単につくりはじめた。



 トントン

 レンチーン

 モリモリ

 パラパラ

 ジャン


「ま、こんなもんよね」


 お手製簡単お嬢様メニュー完成。

 スマホをつかむと、写真を撮り

 アイのアカウントから、メニュージャンを投稿しておく。


 まだ、アイのアカウントは、つかい慣れていないため、リリスタ対応は、消極的だ。


 それでも、投稿五秒で、マークがつく。


「はやっ」


 理音(わたくし)のプライベートアカウントじゃ、こうならないわね。


 理音は、お嬢様メニューをお上品とは、なかなかいえない食べかたで、片付けると、サッとキッチンに持っていく。


「あっ。やっぱりクセなのよね」


 サラッと中間くらいの髪を払うと、ひとり言をしてしまう。

 配信をはじめた頃は、時間配分がわからなく、長くなったり短くなったりしていた、配信も、途中からは、始まりかたを工夫するようになった。

 けれど、それに急かされるように、

 食事は、すぐすますようになり、

 お手洗いも細かくいくようになった。


 肌のお手入れなどは、姿を気にしてきっちりするものの、生活は、なかなか優雅とはいかない。


「あぁ、もっと、映画のように、ふるまいたいわね」


 そう言いつつ、キッチンの片付けをおえて、シャワーの準備をしていく。



 タオルを持っていき、脱衣室のカギをしめる。

 シャワータイム。

 裸のまま、あわまみれになり、思考をめぐらしていると、

 また、あの日を想い出していた。



 アイと、ベットでイチャラブしながら、聴いた、偽スベテのアイの話し。

 わたくしだって、と想っていた。


「わたくしだって、心と身体を通わせてみて、わかるのよ。貴女が、スベテという話しに、似せてつくった秘密の香り」


 シャンプーをこれでもかと、泡だてながら、あの引き出しの中身を思い返す。

 キュッと、シャワーをとめて、ポタッと、雫が落ちていくのを捉えながら、

 ひとつの決意をする。


理音(わたくし)が、今度はアイとなり、 "あい" をだれにも届かない上空に」


 役目?


 それとも、それが言いたいのかしら。


「いやだわ。愛をまた貴女に返すまでは、わたくし、レベル上限突破しなくては」



 遠くで、電話が鳴っているような気がした。


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