ラストバトル?
社長は、スラッとした長身。
グレーのパンツスーツ。
少し高さのあるパープルのヒール。
アイシャドウと、薄くピンクの口紅。
「ミリロリ嬢、お久しぶりね」
「えぇ、事務所の契約手続き依頼かしら」
「すっかり、トップにまでなっていて、わたしは驚きよ」
「それは、わたくしと、それに皆様の応援がありますから」
「それで、今回の用件は。きたからには、なにかあったのかしら。それに、この隣のひとは」
「あぁ、紹介しますわね。わたくしのいまの恋人であるアイですわ」
「アイです」
アイは、頭を下げてから、イスに座る。
それぞれ、イスに座ったところで、社長が話す。
「これは、驚きね。まぁ、女の子同士も珍しくないけれど、そのことなの?」
「いいえ。違いますわ。実は、今日のスケジュールが、外部に流出していて、それで、アイと一緒にいるところ追いかけ回されましたの」
「追いかけられた?」
「そう。朝からですわね」
「少し待ってね」
社長は、その場で持っていたバックから手帳とスマホをだして、机に置く。
手帳をみながら
「配信者のスケジュールとプライベートは、ほぼマネージャーに任せていて、あるのは、連絡先くらい、かしら」
「でも、社長もご存知ですわよね」
「さぁ、なにかしら」
「わたくしたちのスケジュールなどの情報が、どこかに漏れているのでは」
「それは、ないはずよ。たずねるけれど、あなたが、ご自身では、心当たりはないと」
「ありませんわね」
「ふぅ」
社長は、一度、視線をはずして、少し長くなっている髪をかきあげる。
少しだけ、窓に目を向けたあと
「もしかしたらと、確認だけはしないと」
「え」
「ここ数ヶ月、不審な電話や事務所あてのDMで、怪しいメッセージが届いているの」
「ええ」
「その大半はいたずらやセクハラ、プライベートを聴きだそうとしたり、ということがあるわ」
「はい」
「ミリロリ嬢が、直接狙われているってことでいいのかしら」
アイがうなづく。
「はい。わたし、動画も撮ったのですけど、お見せしましょうか」
「いえ。動画は、まだ」
「なぜ」
「わたしが、言ってそれだけの話しじゃないでしょう。警察にいくのか、弁護士になるのか、とにかく、マネージャーとそれに、何名か、まずは確認をしてみて、それから、照らしてみましょう」
「この動画は、どうしましょうか」
「ミリロリ嬢の、あなたの個人フォルダが、たしかあったわよね。それに、保存しておいて」
「わかりましたわ」
席を立ち、社長は窓ぎわのパソコンに近づいていく。
起動させると、いくつかのファイルを表示させた。
「電話かけてくるわ。もし、気になるファイルあれば、みていいわよ」
「はい」
そのまま、歩いて部屋からでていく。
「ふぅ」
「ねぇ、これ」
「ええ、気になるわね」
社長が表示させたものは、
防犯カメラの映像と、いくつかのメッセージファイル、そして、社長のプライベートファイルのなかに
"マネージャーおよび、事務員の動向予備調査"
とあった。
電話をおえて、また会議室に戻ってくる。
「いま、あなたのマネージャーと担当事務員、それと、わたしの秘書に、連絡だけはしたわ」
「あの。社長」
「なにかしら」
アイが思いきってきいてみる。
「プライベートのなかに、予備調査ってありますけど、なにかあったのですか」
「それね」
少し言葉をきって、考えているようだ。
「ミリロリ嬢は、覚えているかしら。消失事件」
会議室のイスに座りながら、社長は話しだした。
「同時アカウント凍結」
「そうね」
「あのときは、配信者の不手際で、脅迫されたってことになって、事務所対応としても謝罪したわ」
「ええ。それで、対応アカウントのいくつかをしばらく凍結指示したのですわね」
「でも、それは、ただの表の対応なのよ」
「表と裏がありましたか」
「リスナーのひとりが、配信者にひどく暴言を吐くようになり、それで怖くなって、話し合いをしている際に、個人情報が流出。これが表の対応よ」
「それでは」
「実際は、事務員がわに、配信者にいたずらをしかけている人かいるらしいの。しかも、いたずらというの悪質なものね」
「そう」
「その事務員が、相手に配信者の情報をあげていたの」
アイは、ミリロリ嬢と、顔を見合わせてしまう。
「それでは、わたくしの今日の情報、もしかして」
「えぇ。調査はしてみます」
社長の眼をジッとみる。
まるで、嘘情報というわけではなさそうだ。
社長の電話が鳴りだし、ごめんなさいね、と言って電話にでる。
「ねぇ、アイ」
「うん」
二人して、パソコンのそばにあるイスに座り、電話の社長に聴こえないように、話しをする。
「ヤバいですわね」
「えぇ、ヤバいね」
「マジで、マネージャーか関係者ですわね」
「そうね」
「わたくし、アイたちのこと、誰にも相談していませんわ。スケジュールだけ、マネージャーに提出したの」
「うん」
「だから、尾行してきた二人組は、これは、もう事務所関係者か、雇われた誰かさんと」
「シーッ」
社長が、電話をおえて、戻ってくる。
「マネージャーだわ。いま上の階にいっているから、降りてくるわ」
「はい」
アイとミリロリ嬢が、だまってしまったからだろう。
社長が、ふっと笑う。
「ミリロリ嬢は、よくやってくれてるわ。むしろ、配信者ではなくて、アイドル部門でもよかったのかも」
「こちらに、アイドル部門があったのかしら」
「えぇ、一度だけね。けっこう前になるわね」
「あの。マネージャーがくる前に少しだけ」
「なにかしら?」
「ミリロリ嬢が、尾行されて配信でも、危ないめに遭っているのを、社長はホントに知らないのですね?」
アイが、真剣に問い詰める。
「そうね。あなたたちが、つきあっているのもふくめて、知らないわ。いまは、理解しているわ」
アイは、胸にあるネックレスをぎゅっとつかんだあと、うなづく。
「わかりました」
アイは、スマホを取り出して、連絡をする。
ミリロリ嬢は、窓の外を眺める。
ホンの少しの時間だけ、三人がだまっている。
コンコンコン。
「入って」
「はい」
マネージャーは、社長よりは、背が低めでグレーの長めスカート。
少し色があるシャツ、同じグレーの上着、
後ろで少し長めの髪を束ねて、目は切れ長だ。
イヤリングをしている。
「いそがしいところ、ごめんなさいね」
「いえ、社長。それより、電話の件ですよね」
入ってきて、立ったまま話しはじめる。
「あ、窓のところにいるわ」
「ミリロリ嬢。配信いつもおつかれさまです」
「えぇ」
「それで、隣のかたは」
「ミリロリ嬢の彼女です」
「か、彼女ですか。お付き合いされていると」
「そうです」
ミリロリ嬢が、やや照れている。
「そうですか。本来でしたら、プライベートですので、口だしたくないのですが、一緒に話しをしてもいいのかしら」
「アイにも、話しをぜひ」
「わかりました」
ええと、と言って、マネージャーは、抱えていたバックを机において、手帳を取り出す。
「ミリロリ嬢に、尾行がいた、というお話しですね?」
「はい」
「いつからの出来ごとですか?」
「はっきり確認できましたのは、今日の一日。でも、前からハラスメントの発言や卑猥ネタ、少し脅喝もあったかと」
「事務所に報告は」
「何度もしましたわ。スクリーンショットも提供しましたし、スケジュールだって、添付しましたわ」
マネージャーは、手帳を確認したあと、今度はスマホをだして、なにか確認している。
「ううん」
マネージャーは、少し不機嫌そうに、考えている。
少し化粧はしているものの、ミリロリ嬢より少し上くらいの年齢であろうマネージャーは、汗ばみつつ答える。
「尾行については、連絡ありがとうございます。すぐに確認します。スケジュールのは、届いてますね」
「はい」
「それで、卑猥なネタや脅喝については、わたしのところには、来ていません。社長は」
「わたしも、それはいま聞いたわ」
「そうなんですね」
アイは、少し不自然さを感じていた。
このマネージャーは、なにか、隠している気がする。
「巻瀬さん」
「はい」
「わたくしのスケジュールをご存知なのは、マネージャーだけですか?」
「いえ。あと、事務員にデータを渡したのと、もしかしたら、入力は」
そういったあとで、マネージャーの顔が、険しいような気がする。
「あの、なにか」
急に、スマホをとりだして、
だれかに連絡しているマネージャー。
「事務員のひとりが、体調不良がおおくて、それで、入力作業をお願いすることがあるんだけど、そのひとあまりよくないのよね」
「え」
「以前、喫茶店かな、でいたひとで、だれかのファンになることがおおくて、よくチェックするって」
「そんなひとが」
「仕事はできるひとよ。まだ、二十代かな」
「う〜ん」
社長が、聴いてくる。
「そのひととは、ちゃんとコミュニケーションはとれてるの?」
「それが通常の会話は、あまりしない子で、メッセージアプリでなら、話しをしてくれる子なんです」
アイは、少しいらいらしてくる。
なんとなくの会話から、わかるのは、スケジュールの流出は、そのひとなのでは、と疑いたくなるけど、ミリロリ嬢やこの社長の前では、言いたくない。
この社長だって、まだ信用していないのだ。
ミリロリ嬢が落ち着いて、たずねる。
「それでは、わたくしの尾行と、それから配信の際のハラスメントは、対策してくださいますね」
「はい。任せてください」
「それから、アイさん」
「はい」
「あなたも迂闊な行動にでないように、してください。調査をした上で、判断しましたら、アイさんにも連絡しますので」
「わかりました」
アイは、スマホの連絡アプリを開くと、社長に転送して、連絡先を交換した。
「あ、わたしのは、電話をお願いします」
今度は、マネージャーと連絡先を交換する。
「では、お願いいたしますわ」
その場を去るときに、
扉の前で、丁寧にお辞儀をするミリロリ嬢。
アイも頭をさげる。
アイは、違和感が残ったままだ。
事務所でも挨拶をしたあと、下の階までいき、そらくんと合流する。
「りーちゃん、アイさん」
「おまたせですわ」
「ど、どうなりましたか?」
「まずは、決着はつかず、といったところかしら」
「えぇ」
「でも、収穫もあり」
「そうなんですね」
「ひとまずは落ち着いて、どこか休むところは」
「あ、こっちです」
そらくんは、待ち時間にビルのなかで、飲食店を探してくれていたようだ。
「ふぅ。アイ撮影した動画、送っておいてくださる?」
「もちろんよ」
そらくんと、喫茶店に入る間、もう尾行はついていなかったけど、代わりに別の予感をアイは感じていた。




