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あい/抵抗  作者: 十矢


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108/108

依頼は変更される

 ハナちゃんとわたしが走ってついたときには、依頼人の女性がどこかに連れていかれそうになっていた。

 シラクラは、わたしたちの知らない男に腕を掴まれてそちらも口論だ。


 ハナちゃんをみると依頼人のすぐ近くなため、もう一人来ていた男の前に立ちはだかっている。

 わたしは任せることにして、シラクラの背後に回る。

 そうかと気づいたのは、シラクラが腕を気にするからだ。

 そういえば、怪我をしたばかりだ。

 まだ治っていない。


「シラクラさん、なに? 知ってるヒト?」

「いや知らないやつだ」

「そう、わかった」


 事情がわかってきた。

 事前にわかっていたのかはわからないけれど、シラクラは誰かほかに後をつける人物がいないか警戒していたのだろう。


「それより……」

「平気よ。まずはこっちね」


 依頼人の側にはハナちゃんがいる。

 ハナちゃんは細見だけど、防犯グッズも対策もしっかりした子だ。


「おい、なんだ知り合いか。とりあえず」

「あ! わたしの彼氏なんです! そうですよね、なにかあったんですか」

「は?」

「あれ? 違いましたか。それなら連れてきますね。お世話さまでした」

「おい」


 シラクラの怪我していないほうの腕をとってから歩きだす。

 相手は驚いているのか、無防備だ。


「聞いてたのと違う」


 ブツブツ言っているけれど、こちらが話しを聞く必要はない。


「ハナちゃんのほうは?」


 シラクラが近づいていくと、ハナちゃんがちょうどビンタしているところだった。


「なにすんだよ!」

「女の子を強引に連れていこうとしてますよね? 写真もありますし、警察呼ぶほうがいいですか!」

「は、いや」

「それより、なんですかあれ。知り合い? 集団でリンチ野郎ですか」

「いや知り合い、じゃない」

「そう。それじゃいこ」

「あの……」

「ほら走りますよ」

「はい!」


 ハナちゃんがぐっと野生のように走りだす。

 依頼人とわたしの横を駆けだすため、わたしとシラクラも、ハナちゃんと依頼人を追いかけていく。

 信号を渡るとぐるっとまわり、すぐに駅の方向にいくため、わたしとシラクラもかなり速めに走る。


 駅の改札でも止まることなく入っていき、そのまま電車のタイミングもよく乗り込む。

 わたしたちはけっこうぎりぎりなタイミングだった。


「はぁ……ハナちゃん、ちょっと」

「ほら、みてください」

「え」


 動き出した電車のなか、駅なかをみていると、さきほどの三人が階段のところであ然としている。

 座る席はないため、そのまま窓の側で、どこにいくかもわからないけれど話す。


「危なかったですね。誘拐みたいなされるところでしたよ」

「え、わたし拐われそうに?」

「そうですよ。あの彼氏はじめから、話す気がなかった」


 あぁ……と言いながら依頼人の女性が座りこむ。

 ハナちゃんが相手と向かいあったときに感じた印象ではあるけれど、依頼人の女性がひとりで待ち合わせていたら、たしかにそうなっていただろう。

 シラクラが目線を合わせるように座り、頭をなでている。


 ほかの乗客もいるけれど、声をかけてくる人はいないだろうと思う。


「怖かったな」

「うん」


 ハナちゃんがこちらをみるため、少しだけ深呼吸してから決める。


「一度事務所いこう」

「近くだと……ていうかこれどこいきですか」

「二駅先で降りるわ」

「わかりました」


 シラクラが側でなぐさめているから、なんとかなるだろう。


 少しだけハナちゃんも怖かったのかもしれないと思うのは、窓の外をみつつ、まだ表情が固いからだ。

 女性が泣きはじめたのは、仕方ない。



 事務所についたのは、四十分ほど過ぎてからだ。

 駅で降りてから、あまり慣れない道を歩いた。

 普段利用していた事務所ではなくて、別のエリアだ。

 わたしたちの使う事務所には少し遠いため、こちらを使わせてもらうつもりだ。

 基本的には、事務スタッフが一人か二人いるだけのはず。


「アオイです」

「どうぞ」


 歩いてきたけれど、まだ女性はショックのようで、シラクラにしがみついている。

 事務所のスタッフは、一人女性がいてくれた。

 わたしたちの仕事では、事務所が空のときもあり、そのときには鍵を先にもらわないと入れないこともある。

 だから、これは幸運だ。


「これお願いします」


 先にみせたのは、レンタルのお仕事用の身分証だ。

 この身分パスに所属や連絡先、一応のマネージャーの連絡先が記録されている。


「あ、奥の会議室でいいですか」

「助かります」


 すぐにスキャンしたのだろうパスを返してくれる。

 会議室は暗かったため、シラクラが電気をつけた。

 四人で座るとすぐに、スタッフが温かい飲みものを持ってきてくれる。


「あと一時間ほどは平気ですから」

「ごめんなさい。本来のお仕事じゃないでしょう」

「気になさらず」


 スタッフの人員も、レンタルのお仕事だ。

 そのため身分確認やひと通りの連絡以外は、自分たちでおこなうことになっている。

 扉は開け放してある。

 あまり閉め切らない。


「シラクラさん、ひとまずは」

「いや、平気そうですよね」

「……はい」


 歩いてくるときに、事情説明をしてもらうことに、同意したらしい。


「改めてなんですが、アオイです」

「ハナです」

「シラクラです」


 依頼人の女性は、らむという名前だ。

 一時間ほどかけて、もう一度はじめから事情や依頼内容を確認していった。

 説明を聞いてそれが終わると、シラクラが部屋まで送ることになった。

 相手の男性と途中で会うことはないはずだけど、用心したいし、らむさんがまだ怖がっていたからだ。


「また連絡ください。シラクラさん、お願いね」

「お世話になりました」


 見送ると、ハナちゃんがため息をした。


「シラクラさんに本気になっちゃうかもですね」

「……そのときは、また考えましょう」


 相手の男性とは、別れることにしたらしい。



 依頼内容は変更された。

 一か月間の護衛、それにシラクラとの仮の彼氏契約だ。

 仮が本気になることも、まぁよくあることだ。

 シラクラは、本当はどうなのだろう。





 シラクラが送ってくるときに、いつもはもう解散なのだけれど、女性と話した事務所からわたしたちの通常の事務所に移動しても、まだ残っていた。

 報告書はスマホでもできるし、連絡する用件ももう済んでいる。

 それでも帰ってくるかもなと思い待つことにした。

 ハナちゃんもはじめは用があるかもなんて言っていたのに、事務所に着いてわたしと二人になっても、まだ残っている。


「ハナちゃんは予定はいいの?」

「なんのことですか」

「なにか用があるって」

「あぁう〜ん、一応気になりますし」

「気になるよね」

「アオイさんはなにが気になるんですか」

「うん。シラクラさんの朝からの様子もだし、それに、怪我もしてる」

「最近物騒な依頼多いですよね」

「ハナちゃんは?」

「ええ?」

「なにが気になるの?」

「うん。ちょっと相談がありまして」

「なんか嫌な予感しかしない」

「辞めるとかじゃないですよ」

「そっか。よかった」


 とりあえずスマホで報告書作成と、いくつかリリスタのアカを見つつ、ハナちゃんの話しを聞くことにする。


「いまの話しなんですが、物騒じゃないですか」

「そうよね」

「アオイさんは、どういう対策してますか」

「防犯グッズにスマホの連絡でしょ。撃退なんとかに、あとは……」

「ほかもあるんですね」

「ハナちゃんはどういうの?」

「グッズは同じですね」

「え、それじゃほかには」

「それです!」

「えぇと?」


 ほかにはなんだろうか。


「護身とかです。まだ準備段階ですけど」

「もしかして」

「そうです」

「たしかに、必要そうかも」


 言いたいことが少しわかった。

 数年前くらいから幸せな依頼より、なにか怪しい、危ない仕事が増えてきた。

 そのたび、サブのわたしとシラクラで対策してきたけれど、シラクラは怪我するし、もし今回彼女もひとりきりだったら、警察も入れた捜査するような件になっていたかもしれない。


「それでなんですけど」


 扉のカメラが通知しているため、ハナちゃんとそちらをみる。

 レンタルの事務所には、いくつか仕掛けがあるけれど、そのひとつはみえないか所に仕掛けたカメラだ。

 依頼人の安全を守るためにも、危ない連中は入れないようにしている。


「あ、シラクラさんだ」


 確認していると、シラクラがタッチして入ってくる。

 事務所の扉の横に、それぞれの退勤を把握するためのタッチパネルの認証がある。

 はじめに所属になったときには、そんなに危ないお仕事なのかと、驚いた気がする。


「シラクラだ。送ってきたよ」

「おかえりなさい」

「なんだ、二人帰ってないのか」


 誰も残っていないと思ったらしい。

 中に入ってくると、疲れていそうな顔だ。


「少し話したくて」

「疲れたよ」

「なにか入れるね」


 シラクラは腕を触っている。

 やはりまだ痛むのだろう。

 わたしが飲みものを入れる間、ハナちゃんが腕の怪我のことをたずねている。


「まだ痛むな」

「長引かないといいけど、もう一度みてもらうのがいいかも」

「平気じゃないか」

「頭の傷は」

「まぁ塗りかためて誤魔化した」

「痛そ」


 シラクラは紅茶派だった気がする。

 温かい紅茶を持っていくと、微かにコーヒーの香りがしている。


「お部屋まで送れたの?」

「少し話してきた」

「やり過ぎじゃないの」


 そういうのは、ハナちゃんだ。

 お部屋まで上がってきたことだろう。


「仕方ないよ。あれだけ怖がっていたし、頼れる男性があの彼氏だったんだ」

「元彼氏ですね」

「部屋で電話かけたときには、やっぱりおびえていたよ」

「様子は」

「相手のか?」

「そう」

「はじめはいいわけしていたらしいが、途中から叫んでいたぞ。でも、あのあとだから、別れることには賛成した」

「しばらく気をつけないと」

「そうだよな」

「あなたもね」


 なにかシラクラは、よくわかっていない。


「怪我のことか?」

「あの彼女の元彼氏、複数で来てたでしょ」

「あぁ」

「はじめから上手くいかないときは、連れ去るくらいな連中ってこと」

「そうか。気をつけるよ」


 やはり疲れているようで、なにかぐったりしている。

 こちらをみているため、たずねてみる。


「なに? なにか気になるの」

「ハナちゃんも、アオイさんもよくわかったな」

「どれのこと」

「打ち合わせのときには、連中のことはなにも言ってなかっただろ。仮のデート中、なんだか怪しい男がいて彼女も公園で深刻でさ」

「わたしは変だな、くらいだけど、ハナちゃんはわかってたみたいね」

「それは、わかります」

「どうして?」

「シラクラさんは、普通はデート相手のこと、そこまで大切にはしてないですね」

「おい」

「けど、今回は何度も振り返るし、公園でも大袈裟に笑うし、あの女性のことかなり気配りしていましたから」

「ハナちゃんが相手でも、そうするけどな」

「あれ? それじゃ今度デートでもしますか?」

「あぁそうだな」


 やったねと、ハナちゃんが喜ぶ。

 けれど、シラクラはなんでこっちをみるかな。

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