そらくんインタビュー
りーちゃんにフラレた。
そして、新しい彼女ができた。
より正確には、第一彼女と第二彼女が交代してしまったという意味みたいだ。
それじゃりーちゃんとも一緒にいようというのは、あまりに都合がいい気がするため、それをあかりさんにたずねたけれど、あかりさんは、第三のはいくずれさんとの関係を疑っているらしい。
クリスマスも含め、お話しはときどきするようにはなった。
けれど、いまのところ告白されたわけでも、デートらしいものに誘われてもいない。
今日は、別のVのかたの場所にお邪魔している。
これも浮気ととられそうで、少しびくついてしまう。
大学での研究のため、というのは言い訳過ぎたのだろう。
もう論文も発表も済んで結果待ちだ。
おそらく平気だろう。
二年間ほどそれに費やしたし、なによりヨジゴジのミリロリ嬢様の側でずっとその様子をみてきた。
はじめに会ったときには、ファンであるという前に、大学での研究のためが、もしかしたら本当の目的であったのかもしれないと、いまは思う。
だから、研究も終わりこういったVtuberのかたの調査を続けるのは、もうマネージャーとしてでも、行き過ぎなのかもしれない。
それでも続けたいのは、はいくずれさんのマネージャーだからとか、あかりさんのサポートのためでもなく、きっとヨジゴジのひとりになったことで、今度は自分も参加したくなってきたことのような気がする。
デビューとか目指す気なのだろうか。
そんな本当か、自分はという気分だ。
「お待たせしました」
「こちらこそ、以前から何度かお誘いしてしまいまして、ご迷惑ですよね」
「いえ、でも、まさかヨジゴジの関係者のかたなんですね」
「最近です」
目の前には、月にカエルお姫様だ。
もちろんしっかりと一人の人だ。
本来は事務所の関係者としても、一部の人しか接触しないと聞いた。
打ち合わせもそのほとんどがネットで会うときにもNGとなるワードがあると説明された。
ミリロリ嬢様のマネージャーにそれでも会うことを伝えると、そう珍しいわねと言われた。
「わたしあまりわたし自身から会うことは伝えないんですよ」
「そうなんですか。もし不快に思うことがあれば、即置いだしていいです」
「わかりました」
「それでインタビューなんですが」
「あ、ちょっと待って」
さっそく置いだされるだろうか。
違うらしい。
スマホを取り出すと、なにかアプリを操作している。
コトンとそれをテーブルに置く。
「これは」
「はい。いいです。録音です」
「ろくおん」
「ある種類の秘匿があるため、なにかしら公式に残るものがあるときには、総て録音しています」
「すべてですか」
驚いてしまう。
ミリロリ嬢様でも、そこまでしていなかった。
まぁぼくが気づいていなかっただけかもしれないけれど。
「そらくんでしたよね。覚悟を決めてください」
「もしなにかあったら」
「そのときは、わかりますよね」
にこりとしている。
関わらないほうがよかったのだろうか。
「それじゃインタビューです」
説明されたのは、かなり厳しい内容だけど、ぼくが聞くのはそんなに企業の秘密に関わることでも、彼女のプライバシーをそこまで暴くものではない。
この職業を選ぶことになった理由はありますか。
月にいつか還るからです。
だれか憧れは、いますか。
憧れるかたは、たくさんいます。
これまでの配信で楽しかったと心から思えたのはありますか。
おコラボで、チームのようになったことです。
これまでに、事務所から怒られたことはありますか。
ある事件のあとに、ほかのVのかたとひと悶着してしまいました。
配信をするうちに、気づくことはありますか。
思ったよりたくさんのひとがみてくれて、思ったより非難もされますが、カエルですので、フライパンでひっくり返します。
ひっくり返すのは、どういうのですか。
聞かないでください。
……
……
「ここまでにしましょう」
「わたしからいいでしょうか」
「ぼくにですか?」
「そらくんは恋人は」
「え……います」
「いま大学生と聞きましたが、なにか将来のこととか」
「しばらくはマネージャーとして」
「ほかには」
「ほかですか」
「興味あるんです。ほかは」
「……言いません」
「まぁいいでしょう。Vはどう思っていますか」
「とてもいい人たちばかりです」
「他に」
「優しいかたが多い」
「それってわたしのこと?」
「それもあります」
「あとは」
「まだ……」
なにかの素行調査だろうか。
あかりさんになにか調査依頼でも、されたのだろうかと思ってしまう辺り、そろそろ無自覚でもなんでも反省したほうがいいのかもしれない。
いろんなパターンで、ぼくがたずねたのと同じくらいに質問された。
プライバシーのことも含まれる。
できるだけは答えたけれど、実は躱した項目もある。
「ありがとうございました。なんだか感心しました」
「よくわかりませんが、よかったです」
ぼくの研究のなかでも、きっと月にカエルお姫様は、貴重なものになるだろう。
中には、ぼくが思っていたよりも複雑な事情もあった。
夜次五時の事務所は、すっかり慣れたけれど、そこではなくて、近くのカラオケ店で向き合った。
個室がいいと事前に言われたからだ。
ドリンクも自分のは置いたけれど、飲んだのは最後だ。
このあとは、とたずねた。
相手は、ドリンクをおかわりしてきた。
「わたしは、もう三十分は歌います。明日はボイトレがあるんですが、今日はない日なんです」
「わかりました」
ここのお会計の分で、自分のメニューに足りそうな金額はインタビューのお礼に置いておくことにした。
こういったのは個人的なものなため、事務所の経費では出せそうにない。
「あ、そうだ、そらくん」
「はい」
「また連絡しますね」
「それは、インタビュー?」
「個人的です」
「なぜ」
「Vのなかでも、秘密が多いから」
「わかりました」
指を口元に持っていく仕草だ。
可愛らしい高校生だ。
でも、あかりさんにまたナイショが増えてしまった。
駅方面に歩きつつ、念のためとオフにしていたスマホの電源を入れる。
通知のいくつかはニュースで、あとにはあかりさんからのもきていた。
配信予定はないため、相談がありますとなっている。
最近は、相談内容がありすぎて心当たりが多い。
さらにはいくずれさんからもきていた。
こちらはマネージャーの仕事で、高一受験だけでなく、もっと本格的にお悩み相談や恋のエピソードも集めたいとなっている。
しばらくはクズイメージがあったため、恋や人間関係のいざこざは紹介したくないといっていたのに、なにか変わってきたのだろうか。
こちらは、心当たりはない。
「春休みって、なさそうだよな」
少しずつ暖かい日差しがある日が増えた。
通常なら、卒業式のあとは卒業旅行の計画とかだろうけれど、既にマネージャーなため、旅行とかいく時間が惜しい気がする。
立ち止まり、お店の前辺りであかりさんにメッセージを送る。
相談はいいよ。
なんだろうか怖いな。
最近あかりさんは明るい。
もう不安は解消されたのかもしれない。
けれど、それがそんなに簡単に、もう過ぎたことだと割り切ることはなかなかできないことはわかる。
もし、りーちゃんから振られたことに反省することがあるなら、隠しごとではなくて、本当にはあかりさんからの彼女にしてくださいと言われた、あの以前のときに、それを受け止めてしまったことなのだろう。
でも、それを反省してしまうと、あかりさんから離れることになり、いまのあかりさんと違う接しかたになったはずだ。
そこにぼくの意志があるなら、やっぱり省みても、あかりさんを受け止めないといけなかった。
あのときに、あかりさんを見離すことは、ぼくにはできないだろう。
いくつかの駅を通り過ぎる。
みたことのある建物もある。
何度かりーちゃんやアオイさんと走りまわったり、冒険のようなことをした覚えがある。
りーちゃんにもあかりさんにも言わなかった。
あの、りーちゃんの画面上に書き込まれていく内容に、実はかなり動揺した。
みたことのあるアカウントだからだ。
SNSのアカウントのなかでも、アイは影響の強い発信者であり、ぼくも少しだけネット上で話したことがある。
あのアイがりーちゃんのはずはないから、あれはアオイさんのアカウントのはずだ。
けれど、アイは複数いるよとか言われたこともある。
これだってぼくの隠していたことだから、振られた理由なのだろうか。
けれど、あかりさんと一緒にいたいと想えるのは、少なくとも成長のはずだ。




