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あい/抵抗  作者: 十矢


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はいくずれさんと狼

 初のコラボ相手が決まってからは、早かった。


 けれどびっくりしたのは、わたしからお誘いしたわけではなくて、はいくずれさんからのおコラボのお誘いだ。

 そらくんがなにか言ったのかもしれない。


 わたしとしては、ぜひお受けしたいと思いますと伝えた。


 伝えた日から、何度も連絡を取り合うと、わかってきた。

 風の噂として流れていたクズなイケメンという噂は、とてもあてにならなくて、丁寧でお辞儀している姿が想像できそうなほどに、新Vのわたしにも丁寧だ。

 名前も以前教えてもらった別の名刺ではなくて、しっかりと灰葛恋として登録した。


 密かにファンであるため、にやにやしてしまう。


 そらくんがマネージャーになったのに、わたしはなにも関与などしていないけれど間接的にでも、はいくずれさんと話せる内容があることに、びっくりする。



 学校は、先輩たちの卒業式がもう少しであるため、その予行や部室でも送迎会があるといいよね、と話している。



 おコラボ配信は、ミリロリ嬢様の配信を何度もみていたけれど、自身でそれをするのは、やはりどう進行すればよいのか迷ってしまう。

 ベテランのはいくずれさんがいるといっても、狼の名前が入っているのに、びくついていては、名前負けといわれてしまう。


「りーちゃん、どうしましょう。もう少しで始まりですよ」

「シルバーウルフさま。もうわたくしに言うことはなにもないですわ。さぁ旅にでるが……」

「そういうお師匠さまはいいので、なにかひとことでもお願いしたいです」

「わたくし、まだお師匠さまとしては未熟なんですわね」

「そこで、なんで落ち込むんですか」

「師匠とは、最後は旅にださせるものであると教わりましたわ」

「ゲームですね」

「さぁ! 旅に出る準備を」

「リラックス少ししました。ありがとうございます」


 りーちゃんの話しは、この際あとで聞くことにしよう。


 部屋から追い出して、画面やら設定やらいろんな項目をたしかめる。

 スマホは、サイレントだ。

 はいくずれさんは、もう準備できているのだと思う。


 画面にはスタンバイから、おコラボ配信まで残り……と表示されている。


 自身だけの配信には、少しずつではあるけれど、慣れてきているのだと思う。

 まだ回数は多くなくて、コメントも荒れることもなくみなさま気をつかってみてくれているようだ。

 マネージャーも視聴数もまだこれからだし、いい感じにこられてるわ、と言ってくれた。


 けれど、今回のはおコラボで、ぬいまでゲットしているはいくずれさんだ。

 天気除けと怪我除けと恋の成就の効果アリとみている。

 いまもぬいは、みえない場所にいて活躍している。


「はじまる。今日も狼らしくね」


 気合いだけは、充分にいれておく。



 みなさま今宵お集まりいただきまして、ありがとうございます。

 一狼の部屋に、ひとりお客さまが来ていただきました。

 灰色のセカイでもっとも灰色に満ちているはいくずれさまです。

 受験がもし残ってしまっているかたもアーカイブでもよろしいので、狼とはいくずれさまのおコラボを一目みていただきたいです。

 それでは、どうぞお入りください。



 はいくずれさんが姿を現す。

 けれど、なにか動きがカクカクしている。


「お呼びいただきまして、ありがとうございます。狼さまとこうしてお会いできるなんて、とっても光栄です。なんだかおかしくないですか、わたしおかしいかな」

「もしかして、緊張されているとか」

「めっっちゃ緊張です」


 カクカクしているのは、緊張されていたかららしい。

 Vの不調じゃなくてよかった。

 それにしても、おもしろいくらいにカクカクしている。


「それ遠まわしに言ってみても、おもしろくみえるのですが、どうしますか」

「それ遠くないです。とても近い言い方です」

「近いですか? 少し離れましょう」

「待って、離れないで!」

「なんでそんなに寂しがりなんですか」

「狼さんは、寂しくないんですか?」

「狼にあまり近寄ると噛みつかれるかもしれませんよ」

「甘噛みならけっこうです!」


 なんだろう。

 コントみたいになってしまう。

 それともあまりに緊張が高くて、テンションが変わってしまっているのかもしれない。


「はい! それでは、わたしが噛みつく前に、おコラボで準備しました、読書読後配信にいきますよ」

「読書ならわたし噛む自信がありゅます!」

「いまのはボケですか」

「狼さん……厳しくないですか」

「判定は厳しくしてって事務職のかたに言われました」

「事務じゃ文句も言えないです。わたし立場ものすごく弱いし」

「はい! くずれさん! ぐずぐずしないでいきますよ!」

「はい……くずれなんです。いいです。はい……」


 これは先が大変そうだと思っていたら、読書に入り許可をいただいた投稿作品を読みつつ相づちを打つのに、かみかみなはいくずれさんだ。


「もしかして、体調とか?」

「これ通常通りなわたしですよ」


 いつもみていた配信では、割とハキハキしていたはずなのに、どうしたことだろうか。

 投稿作品は恋愛のもの、ノンジャンル、高校生のでてくるものというので募集していた。

 読んでもいい、もしくは名前をふせてならといった事前アンケートを書いてもらった。

 長いものは導入部分だけでわけるなどして、はいくずれさんと交代で読む。


 ある程度の時間が過ぎてから、これで最後のほうとなったときにようやくはいくずれさんが持ち直してきた。


「はいくずれさん、いまのはどうでしたか」

「恋愛って簡単なようでいてとっても難しいです。駆け引きとか、どうしたら上手くなるんでしょうね」

「わたしも上手くは、いえないですが、いまの作品のように直接だけではなくていろんな噛みつきかたを考えるのは、いいんじゃないでしょうか」

「噛みつくんですね。腕あたりかな」

「首? とかも」

「それ殺しにかかっていませんか」

「頸動脈をスパッと狙うのも必要かも」

「眼がマジで怖い。シルバーウルフさんって、殺戮(さつりく)系の恋愛なんですね」

「生きるか死ぬか」

「わたしは途中崩れおちそう」


 はいくずれさんは、意外と恋愛や青春のお話しが好きなのかもしれない。

 通常の受験対策や学習の配信もその巧みさがあるけれど、こういうのももっと増やせばいいのにな、と思う。


「読書配信けっこう楽しいですね」

「コメントでも、わたしへの突っ込みがありますね」

「学習恋愛配信もいいかも」

「それなんですか」

「恋と学習みたいなです」

「頑張ります」


 配信のコメントでは、二人がコントしているというのが多いみたいだ。

 はいくずれさんといいコンビと思われるのは、嬉しい。

 配信終わりに、たずねる。


「はいくずれさんは、緊張なおってきましたか。だいぶスムーズですね」

「めっちゃ緊張してます」

「まだ、でしたか」

「狼さんに噛みつかれないように」

「それではみなさま、またお逢いしましょう」

「はいくずれと」

「シルバーウルフ」

「でした!」



 実はわたしもめっちゃ緊張していたのは、秘密だ。

 それでも、おコラボ配信は、楽しめた。


 流れていくコメントをチェックしてから画面を閉じる。

 すぐに、はいくずれさんにあいさつを送る。



 おコラボ配信楽しかったです。

 はいくずれさんと長くお話しできて、よかったです。

 またおコラボをしたいです。


 正直にかいてみた。

 返信がくる。


 緊張しました。

 おコラボまたご一緒しましょう。

 反応よかったですよ。



「優しい。くずじゃないです。はいくずれさんだけど」

「よかったですわよ。はいくずれさんの緊張感とかもですわね」


 りーちゃんの存在忘れてた。

 そーっとこちらをみてくる。

 もう画面は閉じてあるけれど、再度配信が終わっているか確認して、それから声をかける。


「りーちゃんの噂話の反比例で、くずじゃなかったです」

「もしかしたら前に会ったときには、なにかあった直後だったのかもしれないですわね。なにかあったのですが」

「……あ、例の凍結噂ですか。マネが気をつけてねって言ってました」

「あのときは、ホントにヨジゴジは再起不能になりそうでしたわよ」

「そんなにですか」


 りーちゃんが呼んでいるため、そちらに向かうと、キッチンで温かいのを入れてくれていたらしい。

 テーブルのイスに座る。

 温かい紅茶の少し薄めで、りーちゃんは白湯だ。


「えぇ、まずは配信おつかれさまですわ。ゆっくりしてくださいまし」

「そうですね」


 湯気の浮かぶ空間で、ようやくおコラボの実感が湧く。


 ここはりーちゃんの配信部屋で、向こうのプライベート空間とはとても感じが違う。


 飾りや部屋の模様は、ミリロリ嬢様のその感じととてもよく似ている。

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