みつからないわけはない
デビューしてからもそんなにペースを上げることはせずに、三回めの配信を終えた。
わたしのマネージャーとの簡単ではあるけれど約束で、高三の受験が区切りになるまでは、伸びが良くても悪くても配信に集中し過ぎないこと、それまでは、りーちゃんのマネージャーとしての収入を得ること、りーちゃんが行方不明にならないように見張ること、プライベートでの相談をちゃんとすること……等などだ。
わたしの親よりも親っぽいことを口にするマネージャーだ。
前世占いでは、絶対にわたしの親だろう。
何歳か聞けずにいる。
推定年齢二十歳くらいにみえるけれど、それだとわたしとの年齢差が近いため、二十五歳としておこう。
りーちゃんの配信ペースが早いことに、いまさらながら気づく。
けれど、コンテンツを録り溜めてあるからだけじゃないらしい。
体調不良も考慮してかと思っていたら、合間でアオイさんを探しにいくため、ということがわかってきた。
冬休み、正月一度近場の神社にいってきたけれど、そらくんと正月デートをするわけでもなく、混んでいるなかショッピングを楽しむわけでもなく、さうとれむとホンの少しだけ、年始明けてから遊びにでたきり、あとはりーちゃんとずっとだ。
そらくんは、はいくずれさんのマネージャーで忙しかったらしい。
わたしもデビュー仕立てで、すぐに慣れることもないため、りーちゃんに練習を手伝ってもらったりしているうちに、もう冬休みが明けてしまった。
成人式のニュースを聞きつつ、Vtuber成人式というもはや、よくわからなくなってきたトピックを眺めているとれむがこちらに来た。
「振袖いいなぁ」
「もう少ししたら着られるよ」
「成人したくない」
「成人しなかったら、着られないよ」
「あかりは、そんなに大人になりたいの」
「うん、早く大人になって、お仕事して、妹を引っ張りたい」
「そっか。そういえば、妹さんこの前の子だよね。可愛いよね」
「そうなんだよね。わたしよりずっと可愛い……」
スマホを閉じて昼食のを片付けようとしたら、れむが変な顔をしている。
「え、あかり自分のことわかってる?」
「ただの女子高生でしょ」
Vtuberはしてます。
「はぁ……あかりは世界一可愛いのに」
「それじゃれむは、世界一の綺麗なひとだね!」
そう言って席を立とうとしたら、急に腕を捕まれた。
「なに?」
みると、顔が赤い。
「そんな……ことないし」
「なに? 照れてるの。わたしの数倍可愛いじゃん」
そう言うと、れむが今度は顔を隠す。
「やめて……恥ずい。ムリ」
なかなかに効果あったらしい。
はいくずれさんの配信は、ものすごくタメになる。
なぜかそのあと、ずっと後ろをついてくる。
仕方なくさうと会ったために、れむを預ける。
れむの弱点は、ほめることらしい。
こっそりと隠れてから、そらくんに送る。
まだ、れむとさうには言えていないけれど、第一彼女だということは恋人がいるということで、灰色の空なのに、わたしは眼がチカチカする。
そらくんからは、そんなにすぐに返事がくるわけないのに、送るだけでなにかいけない気分になる。
「なに……セカイの恋人たちってこんなに、わけわかんない感情なの?」
送った文章もそんなに変なものじゃないし、はいくずれさんが男の子Vじゃなくて、実は女のひとだということもようやく白状させたけれど、わたしが第一彼女であることには変わりない。
「プロフィールよくみればよかった。たしかにひと言あったんだ」
はいくずれさんのプロフィールには、最後に男の子とよく間違われます、とあった。
風の噂では、それも男の子だということだ、というひともいるけれど、前にもらった連絡先に直接きいてみたら、やっぱりはいくずれさんは女性だ。
放課後、部室で作業をする。
二年生と一年生で人数は減ってしまったけれど、もう数ヶ月したら新一年生が入ってくるようになる、はずだ。
ここの部室での作業もなんとなく馴染むようにはなってきた。
いずれ配信も馴染むのだろうか。
さうは相変わらず自身の部活をしてから、こちらにくるため、放課後に合流することになる。
れむは、変わった文章を書くようで、二年生の部長にほめられていた。
「なにか、れむちゃん変わったの?」
「そんなことないですよ」
冬休み期間、あまりれむと会わなかったけれど、なにかあっただろうか。
寒いなかさうを待たせてしまうため、部活終わりには、すぐにれむと向かう。
「冬休み終わってすぐにだけど、二年生になったらもう、進路の話しなんだね」
「朝からそれで憂鬱だよね」
さうが外にいたため、合流する。
「寒いね」
「もう成績と進路の話しですよね」
「そうそう!」
寒いと言いつつ、過ぎる生徒たちがいる。
このごろ風邪が流行ってるよねとか、寒いけど、どこか寄るとか、そういう話しをしつつ歩く。
Xデーに本命恋人ができて、まだそんなに経っていない。
そらくんは、はいくずれさんのマネで忙しいし、わたしもミリロリ嬢様のマネとわたしの準備がある。
それでもなにか次の予定を考えてしまう。
れむが、バレンタインデーの話しでまたさうをからかっている。
「チョコ欲しいでしょ」
「友チョコですね」
「えぇ!? もしかして告白とかされちゃう」
「なんでぼくが告白するんですか」
れむのこういった会話も、もしかしたらはいくずれさんのような恋愛トークなのだろうか。
いまやはいくずれさんは、高一、高二受験のテーマの話しなのだけど、わたしの配信は、どういうのを目標にするのか、まだ決めかねている。
わたしのマネには、狼なんだからそれっぽいの? と、無茶ばかり言われる。
分かれ道にさうと離れ、そのあとれむともわかれる。
駅についてから、確認するとそらくんからきていた。
「そらくん、また無理してないといいな」
まだわたしは、お酒と熱事件の負い目がある。
りーちゃんにときどき冷静に言い放つのも、そういう影響がでているのかもしれない。
そらくん、今日は待ちあわせとかできますか。
ここ数日は、はいくずれさんの準備と大学のがあるから。
わかりました。
大学の論文でしたか。
頑張ってください。
寝ていないと、そういっていたのは大学最後の論文の発表があるかららしいと聞いたのは、クリスマスあとだ。
りーちゃんは、またアオイさんの行き先をたずねるらしいし、それには、参加しないといけない。
電車に乗り、りーちゃんと打ち合わせをしようと向かいつつ考えるのは、アオイさんがいなくなったように、わたしがいなくなるとしたら、なんだろうと思う。
「わたしだったら……わたし……」
外はもう暗く電車は混んでいる。
窓に自分の姿が映る。
もしわたしがりーちゃんも、そらくんも妹も置いていなくなるのだとしたら、なんだろうか。
両親からの仕打ち、学校でのハブのような扱い、そらくんとの恋愛トラブル、まさかのわたしのストーカーとかそういうのなのか。
ぼーっと考えているときに、なんとなくわたしの前に座るふたりの女の子たちが視界に入る。
女子ふたりでも、手を繋ぎお互いにくすくす笑いあう。
お揃いのマフラーでお揃いのコーデ。
スマホも同じにするのだろうか。
そこまでなにもかもお揃いにすると、一緒の部屋で過ごすことになると、お互いの荷物さえ判別できなくなりそうだ。
それとも、そういう風に全てを似通った個性にしたいのだろうか。
わたしは、どうだろうか。
そらくんと同じコーデにして似たように話し、そのうち、これもお揃いだね、あれも似てるね、とくすくすしたいのだろうか。
電車を降りつつ、振り向かない。
「わたしには無理そうだ……」
総て同じようにしたいなら、はじめからそらくんは選ばない。
わたしより優しくて、幾分かおせっかいで、頑張り過ぎて熱だすのに、周りのヒトを突き放さない。
わたしはあまりに優しくなくて、身勝手で、情熱をすぐに手離し打算して、すぐにヒトに冷たくする。
「ひかり……」
「あなたの」
「ひかり」
眼の前に、もしかしたらわたしの理想の女性のりーちゃんが姿をみせる。
「どうしましたの?」
このりーちゃんを置いていくとしたら、なんだろうか。
「入りますね。りーちゃん置いていくなら、なんだろうって」
暖かいりーちゃんの部屋に包まれて、ほっとする。
「わたくし……置き去り……捨てられる」
「違いますよ。でも、例えばそうなるなら、なにかなって」
「た、例えば! 例えばですわね!」
「そうですよ。りーちゃんが浮気したとか、配信で打ちのめされて投げたとか、急にわたしの寝込みを襲ってきたとか、そういうのなんだろうって」
「最低ですわね。なんですの、そのわたくし! それわたくしじゃありませんわ。ニセモノです。あかりさんついていっちゃだめ」
「例えばです」
「もし、あかりさんがわたくしのことを考えて考えて考えても置いていくなら、それはきっと……」
「きっと?」
「これですわね!」
カシャンとテーブルになにかを置いた。
首から外したネックレスのようだ。
装飾にだいぶ特徴がある。
「これは?」
「いただいたものなのですが、これを失くすわけにはいかないですし、これが持ちモノのなかで一番ですわ」
「……それですよ! りーちゃん!!」




