年あけにVデビュー
りーちゃんが側にいてくれる。
そう思えば、少しだけ落ち着く。
そらくんは、いまは、はいくずれさんといるだろう。
ミリロリ嬢様のマネージャーがわたしなのに、りーちゃんがある程度の要領を教えてくれていたため、わたしのマネージャーは、カタチだけ確認したら、あまり言ってこない。
わたしのマネージャーは、ミリロリ嬢様みたいなことになっていて、頼もしいような立場がよくわからない。
灰色のジンセイが幾ら進んでも、灰色ではあるはずだ。
けれど、少なくともVtuberとしてデビューさせてもらえることになったのは、りーちゃんとそらくんの力だ。
それだけは、わたしの誇りにしよう。
画面にもスマホにも時計を表示させているけれど、緊張からか始まりの時間を何度も確認してしまった。
はじまりのセリフは、噛まないようにしよう。
はじめのあいさつ文章が流れる。
三、二、一……
はじめまして。
あけましておめでとうございます。
デビューになるこの日に、集まっていただいたみなさまに、一瞬一瞬のわたしを楽しんでいただけるよう、これから頑張ります。
「みなさま、はじめまして。シルバーウルフと申します。あけましておめでとうございます。夜次五時の事前発表により、たくさんのコメントがありました。まだなにもわかっていないわたしを歓迎してくださり、ありがとうございます」
なんだかはじめから、コメントがざわざわしている。
なんだろう。
「見ため、こういう感じですが、どうでしょうか。見ためと同じだと思います」
まだざわざわしている。
「自己紹介は苦手分野なため、はじめに……」
いくつかのコメントを読むと、つまり性別のことらしいとわかった。
「あ、そうです。そうなんです」
どちらか性別わからないとなっている。
嬉しい。
「……それじゃナイショにしますね」
ええええ、でうまった。
ええええって言われましても。
「はい。それじゃ続けて、いくつかわたしの好きなもの」
コメント欄がもう、ええええしかみえない。
「わたし狼の格好、けっこう気にいっていまして、色も灰色のなかでも灰色でして……」
もうなにを言っても、ええええ、だ。
ある程度違うコメントを拾うも、八割のえがいる。
いいのかな。
三十分の短くした配信で、お披露目と本当に自己紹介しただけでも、みなさんの反応が嬉しかった。
ええええ。
だけど。
何度か丁寧にお辞儀したあと、配信をとめて、ちゃんと画面が閉じられているか確認したあと、部屋で待機していたりーちゃんをみると、すっかりうるうるしている。
「え、なんで泣いてるんですか」
「よかったですわぁ!!」
「そうなのかな」
「伝説級の狼になりますわよ!」
「そんなほめないでください」
りーちゃんをなぜかわたしがなぐさめる。
できるだけ、暗くなりすぎないようにはしたけれど、わたしにしてはしゃべったほうだ。
りーちゃんの置き自然水で、ささやかなデビューかんぱいをして、そのあと各所あいさつをしていた。
夜次五時の影響と営業を甘くみていた。
配信終わりから一時間ほどしたあと、スマホでれむとさうの様子でもとみるついで、ニュースをみたら狼デビューとある。
「狼ってわたし以外にもいるんですね」
「……あかりさんどこを突っ込めばいいのですか?」
りーちゃんがあきれるのがわかった。
ニュースは、シルバーウルフのことで、コメント欄をええええで埋め尽くす。
デビュー、一日めでファンが大勢と見出しだ。
「これわたしのことですよね。へぇ……そっか。ファンのかたできたんですね。ニュースって」
「鮮烈デビューですわ!」
「そんな……ほめニュースにのるほどじゃないですよ」
「あかりさん、もっと自己承認欲求あげあげにしてくださいまし」
「そんなこと言ってもですよ」
自分のことながら、簡単な記事でもほめ記事があるのは、少し嬉しい。
一日めでニュースになるなら、いい出来だったのかもしれない。
まだ、わたしは甘くみていた。
シルバーウルフ名義のアカウントは、つくったばかりで、ミリロリ嬢様もそこはフォローもなにもしてくれないため、登録時フォロー二、フォロワー三で、フォロワーのひとりは事務所だ。
あとは、はいくずれさんが入ってくれて、もうひとりは、黙っているけれどおそらくそらくんだ。
あまり聞かないようには、しているけれど、こっそりとそらくんはシルバーウルフの応援活動をしてくれているっぽい。
シルエット発表の時に、二十名ほど来てくれたけれど、それがいまみたら、三百を越えている。
「承認欲求とは……」
「え、うそ……百も見ないうちに、三百って」
「通知はとめてあります?」
「それはコメントははじめのうちは、荒れるかもだからって、設定簡単にしかないですよ」
そう話しているうちに、また一人。
怖い。
SNS怖い。
「まだまだ伸びますわよ!」
「これお話ししたほうがいいですよね」
「あ……わたくし少しおでかけの準備を……」
「ちょっと待ってください」
「あかりさんも狼なんですから、あとはご自由になさってくださいまし」
「うぅ……りーちゃんってところどころで反撃をしますよね」
りーちゃんは立ち上がると、キッチンで片付けをはじめてしまう。
でも、その通りなのだろう。
できるだけ炎上は避けつつ、わたしが言いたい伝えたいことを現さないと、これからは新米でもヨジゴジの配信者だ。
まだ続くフォロワーの数をみつつ、十分は考えてから発信する。
みなさまありがとうございます。
まだ伝えきれない部分はこちらで言います。
わたしの配信は、きっと静かな配信が多くなります。
そして、伝えたいことははっきり伝える者を目指しますね。
伸び率がハンパない。
これがVデビュー。
リリスタの拡散は、思う以上らしい。
「あとは……明日にします! 明日!」
「そうですわね。それでは気分も替えて」
「でかけましょう! うん! スマホから離れてみます」
せっかくでかけたのに、なぜかびくびくしてしまう。
おおかみの、お、の文字の言葉がでてくるたびに、もしかして、わたしのネガティブなことかもとか考えてしまう。
「りーちゃん」
「なんですの」
「なにかお話しして」
「そうですわね……」
スタバOO店にいる。
なんで、ここのお店はOOなんだ。
まるでおおかみじゃん。
いやOOじゃない。
これはゼロだ。
「なにか」
「スタバOO店って」
「それはなしで」
「なぜに!」
りーちゃんが話題を探し続ける。
仕方ないわねと、いちごマジフラペを眺めつつ話すのは、この前のふたり旅のことだ。
「あのとき当たりかもでしたよ」
「そうですわね。でも、アオイの尻尾のほうが逃げ尻尾が早いんですわ」
あのあと、美容室にいった。
一軒めでは、先にりーちゃんが軽めにはさみを入れてもらった。
本格的に切らなくても、話しだけでもいいはずだけど、りーちゃんは嬉しそうだ。
わたしは椅子で待っていると、ところどころでアオイさんについて聞いているのがわかる。
わたしがカップで飲めるお湯を、三度ほど飲むと、りーちゃんがお会計になった。
お話し聞けましたか、と出てから話すも、アオイさんのことではなかったらしい。
けれど、二軒目にいき今度は、わたしが席に座りさっそく話題をだすと、あれ、と思うようになった。
「知り合いなんですけど髪の短い子で、男の子っぽくもみえる子なんで、よく間違いじゃって言われるみたいです」
「あぁ! ときどき来る子みたいですね」
「知り合いかなぁ、最近元気なくて、美容室もときどきしかって」
「そうなのかな。話しは明るいけれど、たしかに大変そう。イケメン」
「そうそう! でも、女の子なんですよ」
「そっかぁ、知り合いなんですね」
気持ちどきどきしていた。
男の子っぽい子もたくさんいるとは思うけれど、最近来るようになったらしい。
「ときどきなんですけど、おしゃれで変わったネックレスしてるんですよ。ほら、これ?」
帰りがけにりーちゃんから見せられた、アオイさんがよくつけていたネックレスの写真をみせる。
「そうですね! おしゃれで可愛い。よく似合うんですよね」
外にでてから、りーちゃんをみると驚いているのがわかった。
手をとりぎゅっとすると落ち着いてから、車に戻る。
わたしはアオイさんについて、ほぼ知らないのと同じだ。
喫茶店の前のブルーで、レンタルのお仕事で、複数台スマホをつかいこなすヒト。
それでも、わかるのもある。
「りーちゃんを置いていくなら、よほど言いたくないことがあるんです」
同じように、フラペがくるくるする。
「お仕事……」
「そんなに危険なんですか」
「そうらしいですわよ。何度か、男女仲で間に挟まれたり、マッチング会場だったのに、中身は身体目的のだったり」
「そっ……か」
「いえ、アオイは充分対策はすると。でも、少々やりすぎるため、スタンガ……ビリビリするやつで感電させたり、煙のでるやつで雲隠れしたりとかそういう」
「忍者じゃないですか。すごいですね」
「そういう見方もありますのね! 現代版忍者はレンタルのお仕事なのですわ」
そう明るく話しつつ、いちごが目立ち過ぎるため、少しずつ減らす。
りーちゃんのは、まだくるくるしている。
「アオイさんも、りーちゃんのこと気にかけてると思いますよ。いろんな意味」
「あかりさん、しばらくはわたくしひとりで探しますわ」
「なんで」
「あかりさんは、これから活動に忙しいですし、あまりご無理なさると」
「マネージャーですよ。どこまでも」
「マネージャーって、そんなお仕事でしたか?」
考えてしまう。
マネージャーって……マネージャーって……
「そうです! マネージャーってそういう仕事なんです!」
無理を通してしまった。
けれど、あってるはずだ。
今度、学習研修のときに質問してみよう。
りーちゃんのフラペが少しずつ減っていくため、わたしも慌てて飲みはじめる。
ぐるぐるしている。
りーちゃんは、なぜ急に来ないでいいと言うのだろう。
わたしもりーちゃんの役に立てるはずなのに。
しばらくスマホを見ずに過ごし、狼の文字もなんとなく気にならなくなった。
そらくんからだ。
マナーにしていた。
ため息をしつつ、リリスタのアカウントを開くと、もう九百は越えている。
「な、なにがあったの……」
わたしが画面の数字で唖然とすると、りーちゃんが察して話す。
「ほら、ご覧なさいな。あなたの活動は、もうスタートしているんですのよ?」
りーちゃんが意地悪だ。
そうか、わかってきた。
そらくんの第一彼女がわたしになったからだ。
だから、それでわたしに対しての意地悪お嬢様になったんだ。
「マネですから……どこまでもりーちゃんのサポートします」
こちらは意地になってきた。
これがセカイに蔓延するという女のバトルなのだろうか。
スマホをみるのは、しばらくやめにしよう。
さうとれむに、ひとまずの話題だけ返信すると、そらくんには、また連絡しますとした。
「そんなに、わたくしのこと好きなんですの?」
「そう! 好きです!」
わたしも笑顔で応対する。
周囲にいた女性が、こちらをみている気がする。
恥ずかしい。
りーちゃんのせいだ。
でも、いまの受けこたえで嫌いといえる人などいるだろうか。
りーちゃんがにやにやしている。
やっぱり罠だ。
「そう……ですの。そんなにわたくしのことが、好きなんですのね。そんなに好きなんですね。わかりましたわ」
好きとかそんなに、連続で言うことない。
りーちゃんと話すと火傷ばかりだ。
好きとか言われ過ぎて、胃が痛い。
わたしが言ったのだけど、これは罠だ。
思い出せば、りーちゃんとの話しはそういったことの連続だ。
どうして女のひとの愛人になったのか、もはや思い出せないけれど、それもそういう話しのきっかけがあったし、マネージャーの仕事も、喫茶店をやめにして別の場所にしようかと考えていたら、事務所でデビューしないかと言われた。
マネージャー契約だった気がするのに、それはそらくんのほうで、気づけばデビューだ。
たしかに、いちごはおいしかったけれど、もしかして、そらくんの第一彼女になったのもりーちゃんの罠で、実はなにかを誘う口実にさせられたのかもとさえ、ぐるぐる思う。
「おおかみは、りーちゃんですよ。騙すばっかり。人狼ゲームしたら、りーちゃんが王女さまの位置に居座る」
「貴女の心にするっとお邪魔さま。でも、違いますわよ。ゲームメイカーは、あかりさんですわ。手札が一番お強いんですもの」
「人狼は、人の心を支配するんです。りーちゃんは、そういうの好きなんでしょ?」
スッと表情を消した。
りーちゃんの目線には、本当にはなにが写っているんだろう。
おかげさまでシルバーウルフのアカウントの存在は、すっかり忘れていた。
りーちゃんがそらくんのことを聴いたのは、そらくんから着信があったかららしい。
わたしの電源は、消していた。
灰色の狼はお嬢様の使い獣なのか、それとも、いずれ喉元にかみつくのか。
そういえば、お嬢様の影となって働く不明な黒いのがたしかいる。
鳥なのか竜なのか、まだよくわからない。
そのうちに、わたしは対戦することになるのだろうか。




