わかれ
なんか、イヤな感じの日だ。
そして、それは予感だったのだとこの時にわかった。
いつものように、リリスタの投稿をみると、彼女の投稿が入ってきた。
もちろん、リリスタの彼女の通知を入れているからだ。
バイトが終わったらしい彼女は、たぶんいつもの帰り道である駅にくるはず。
わたしも、土曜の指定バイトを終えて、彼女に会いにいく途中だったため、駅の改札をでて、またリリスタを確認する。
"帰ってからまた課題かな
あ、バイトはそんなに苦しくはない
でも、きいてほしいことあって
また戻ってから
「きいてほしいってなんだろ」
そう想いながら、駅の階段につく。
エスカレーターもあるけど、階段を使おうと思って下をみると、彼女が駅の階段に入ってくるところだった。
わたしは、軽く手をふるけど、まだ気づかない。
でも、階段の前を降りるひとがいるのに気づくと、わたしは、ドクンと脈をうつ。
「あれ、あのひと、この前にもここで見た」
わたしは、アオイとして彼女の投稿をチェックし始めて、けっこう経つ。
そのなかには、熱狂的なひとや毎日チェックのひと、そしてバイト先だろうアンチがいるのだ。
わたしは、この前に、彼女の家に遊びにいったときのことがあり、さらに動揺してしまう。
あのときの彼女の部屋は、ほとんど物がなくて、片付いていた。
そのときに、部屋の合鍵と通帳の番号、
何冊かのノート、持っているアクセサリー、
それに二台のスマホの利用方法など、いわゆる彼女の財産について教えてくれたのだ。
階段の中間より上にきた彼女に呼びかけるため、声をだそうとしたら、階段を降りていたひとが、小走りで近づいて、彼女を突き飛ばした。
「えっ」
バランスを崩して、離したバックとともに、いままさに、階段から落ちようとしている彼女に、わたしは手を伸ばす。
届くはずのない距離で、でも、わたしのすぐ目の前で、彼女は落ちていく。
「きゃーーーー!!」
わたしが叫んだのだろうか。
だれの声かもわからないけど、とにかく、彼女はどんどんと落ちていき、階段の一番したにまでつくと、ゴロンと変な格好になったあと、動かない。
パニックになりつつ、わたしは下まで走って降りていき、突き飛ばしたひとを留めようと、見回したときには、もういなかった。
「救急車、警察」
と階段の下にひとだかりができるなか、わたしは震える手でスマホをポケットからとりだして、番号を押していく。
その間にも、彼女の頭ふきんと、腕や足から血が流れていく。
わたしは、言葉がうまく回らないなか、なんとか、駅であることと、誰かに落とされたこと、友だちであることを電話で伝えた。
なぜか、そのあとわたしは
彼女のバックの中身を一つひとつを集めて、わたしのバックと一緒にもった。
「し、死んじゃ、だめ。生きて」
「いま、くるから」
「へんじ、して」
もう涙声のなか、へんじをしない彼女をみて、わたしは、それ以上なにも言葉がでてこない。
次に、なんとか覚えているのは、救急車のなかで、手当てを受け酸素マスクをつけられた彼女で、その次には、病院の治療室の彼女で、その次には、ベットの上で横たわる彼女だったはず。
ふと、わたしはベットの上で眠っていたことに、気づく。
でも、わたしの寝室の場所ではない。
彼女の部屋のベットである。
あれから、何日経ったか、覚えていない。
ただ、わたしは、アオイという名前を捨てた。
いまは彼女の登録名 "アイ" として生きている。




