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第16-4回「ホリーとの出会い」


「ありがとうございます」

「どういたしまして!見ない顔だね、新入りかい?」

「今日からなんです。遊撃(ゆうげき)穴埋(あなう)め役で移って来ました」

「そうかい!頑張るんだよ!」


 配給(はいきゅう)担当の方との会話を(はさ)みながら、ニンジンや菜っ葉の混じった雑穀(ざっこく)(がゆ)を受け取る。

お昼の食事時は(すで)に過ぎており、食事スペースに目を向けてみると、さっきの2人組以外には、8人ほど座っている程度だ。

(にぎ)わいも無く、静かな空気が流れているせいか、広い食事スペースが、より広く感じられる。



 さて、どこで食べようかな。

 とりあえず、さっきまで一緒だった2人の近くに、座らせてもらおうかな。



選び放題の中、そんな事を考えながら足を運んでいると───。

その途中で突然、声が飛んできた。


「あんた、誰かと食べるのか?」


 声のした方へ視線を向けてみると、短髪の、活発な印象を与える人が、胴当(どうあ)てを付けたままの状態で、すぐ向かいに腰掛けていた。


「えっ、い、いや……」

「じゃあ、ここ座んなよ」


 そう言いながらニカリと笑って、すぐ側の空いた所へと、その人の目が動かされる。

特に断る理由も無かったので、そのまま『彼』と対面するように、そこへ腰を掛ける事にした。


「あんた、見ない顔だな。今日からなのか?」

「うん、欠員が出たみたいで……。ホックヤードから呼ばれて来たんだ」


 粥を口に運びながら、彼の言葉に返事をしていく。


「へえ、ホックヤード……。そういやつい最近、敵の拠点を取り返したらしいけど」

「うん。俺も、その取り返す部隊に加えさせてもらってね。その、森攻めがようやく落ち着いたから、今回ここに回されてきたんだ」


 彼も、ニコニコと笑みを浮かべながら、残っている粥を口に運んでいる。


「そうか、大変だな。お互い、あまり(こん)()めないようにしないとな」

「うん。無理しちゃいけないって、俺もここに来る前に、口酸(くちす)っぱく言われたし。気をつけないとね」


 頭の中にまた、あの時のリリスの顔が浮かんでくる。



 無理はしちゃいけない。

 自分の範囲で、やれる事をやろう。



もう一度、胸の中でそう(つぶや)きながら、粥を口の中に持っていく。

目の前の彼は、残りの分を勢いよく()き込んでいき、お(わん)の中を(から)っぽにしていた。


「ごちそうさま。あたしはもう行くよ、じゃあな!」


 そう言いながら立ち上がり、目の前の()は、その場を離れようとする。



 うん……?

 『あたし』……?

 まさかこの人は、男の人、()()()()……?



去り(ぎわ)に聞こえた一人称が、コツンと頭の中に、引っ掛かる。



 認識を間違えたままにしておくのは、失礼過ぎるよな……。



(かま)をかけるつもりでは無いが、自己(じこ)紹介(しょうかい)()ねて、少しだけ違和感の正体を(あば)くべく、確認をしてみた。


「俺、アールっていいます」


 差し伸べた手を、グッと(にぎ)り返しながら、その人は答えてくれた。


「ホリー・ローマンだ!お互い、配置場所は違うけど、頑張ろうな!」



 伝わってくる感触(かんしょく)に、声の調子と、名前───。

 ああ、良かった……。

 失礼のある前に、少しでも早く、気づく事が出来て。



「どうした?」

「い、いや!こちらこそ、よろしくお願いします」


 怪訝(けげん)な表情を浮かべながら、(から)になったお椀を手に、ホリーはその場を去って行く。

ホッとしたのも(つか)の間、聞き馴染(なじ)みのある声が、飛んできた。


「アール、随分(ずいぶん)話していたな」


 声の主、モーリーさんが気がつかないうちに、(なな)め向かいの席に着いていた。

手に持っているお椀の中身も、自分のそれと比べて、うんと少なくなっている。

どうやら、つい長々と、自分は彼女と話し込んでいたらしい。


「す、すいません」

「もう残っていないからな。お代わりするなら、早くしろよ」


 そう言いながら、残りの分を流し込むように、ガツガツと掻き込んでいっている。

そんな彼に、ふと声をかけてみた。


「あ、あの。モーリーさん」


 なんだ、と言うような目を、ギョロリと向けられる。


「その……。見た目で判断したら、ダメですね」



 先ほどの、彼女の事も───。

 怖いと言われていた、モーリーさんの事も。


 印象だけで決めていたら、誤解をずっと(かか)えたまま───。

 気づく事も無く、もやもやとしたまま、接する事になっていたのかもしれない。


 ちゃんと確認して、相手の事を知って───。

 誤解の無いまま、自分は接する事が出来て、良かった。



そんな思いを込めながら、笑みを混じえて話しかけてみる。

モーリーさんの声は、すぐに返ってこない。

目を()らして、少しだけ(ほほ)を緩めたかと思うと、また俺に向かって、目線を合わせ直してくれた。


「まあ、百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)()かず、と言うくらいだからな。なんでも見てくれだけで決めつけたら、ダメだろ」


 そう言いながら、彼も微笑を(たた)え返してくれた。



 何気ない会話。

 戦いの合間に見えた、(いこ)いの瞬間(とき)



ゆったりと流れたひと時に、俺の頬も、思わず緩む。


「さ、急げよ。あまりゆっくり食べている時間は無いぞ」


 彼はそう言って、いそいそとお代わりを貰いに行ってしまった。

周りに目を向けてみると、まばらに居たはずの人の数も、うんと減っている。

自分以外に食べている人達も、皆、あと少しで食べ終わろうとしていた。



 こうしちゃいられない。

 少し長々と、居座り過ぎた。



スプーンを握り直してから、残りの粥を口の中へと掻き込んでいく。



 知見(ちけん)して、面と面を向き合わせて───。

 一つだけじゃなく、色んな情報を加味(かみ)して───。

 正しい、ちゃんとした根拠(こんきょ)(もと)づいた、判断を持っておく。


 それをする為にも、分からない事があれば、ちゃんと聞いて、ちゃんと確認しておく。

 それが何よりも、人と接する上で、大切な事なんだ。



そう、心の中で呟きながら、ぬるくなった野菜粥を、食べ進めていくのだった。




 -続-

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