表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/77

第15-2回「リリスの心配」

・前回にあたる、第15-1回の続きになります。


 大きな川を(はさ)んだ向こうに、かつて存在していた北方への中継都市、ヘクト。

そのヘクトを囲むように、10の(とりで)が築かれ、都市を守っていたのだが───。

魔物の猛攻(もうこう)によって、町も、砦も徹底的に破壊され、(うば)われてしまい───。

今では『ヘクト10』の補助として建てられていた、小さな(やぐら)を改良した砦『ヘクト11』のみを残して、なんとか()えている状態なのだという。



 ヘクト11を奪われると、最前線最後の防衛都市『アウターバン』の町は、(またた)く間に敵の手中に落ちる。

 なんとしてでも、この砦だけは、守り抜かなければならない。



そういった事情もあり、ヘクト11では、毎日のように偵察(ていさつ)と、()()り合いの繰り返しが、敵味方入り交じるように行なわれており───。

その苛烈(かれつ)さは、ここでの見張りからもう一段厳しく、ツラいものなのだという。


「そこに、俺達が……」

「ああ。ヘクト10を奪還する為に、と偵察を出したら、損害が出たらしくてね。急ぎでどうにか、人を回してくれないか、とジュロマン公と、将軍が要請(ようせい)してきたんだ」


 俺の言葉に、支部長は返事をしながら、(うなず)きを挟みつつ周りの皆にも目を向けている。


「えっと……。全員来てくれ……って事なんですか?」


 不安そうな表情で(たず)ねるエディさんに、彼は首を横に振った。


「いや、そうじゃない。2人、腕の立つ者を頼めないか、という話だよ。だから、まあ……。行ける人は、限られてくるのだが」


 (けわ)しい表情を浮かべながらも、そう答える支部長。

腕の立つ───と言われて、2人の顔が、頭の中に浮かんできた。


「支部長、いくらだ」


 彼の真横で、モーリーさんが尋ねていた。


「うおっ……!も、もう終わったんですか」

「ああ。それで、いくらだ」


 間を()けずに尋ねる彼に押されながらも、少し(うな)り声を上げてから、スタックスさんは返事をする。


「この砦の仕事と、同じ日数。5日で金貨6枚、6ルーツって話だ」

「倍だな……。じゃあ俺は引き受けた」


 顔色一つ変えずに、激戦地での仕事を即決(そっけつ)するモーリーさん。

彼の言葉には、何か(しん)の通った、信念のようなものが、込められているような気がした。

ふと、その(ひとみ)に目を向けてみると。



 自分の為ではない。

 自分の待ってくれている、その人の為に、(かせ)がないと。



そんな、覚悟のようなものが、奥でギラリと、光っているような気がした。


「で、みんなはどうする。(ことわ)るなら断った方がいい。俺も断るよ」


 その後に続いた、モーリーさんの言葉に、思わず頭の中が、疑問符(ぎもんふ)で満たされた。

即決しておいてすぐ、今度は断るという言葉を、彼は自分から、口にしたのだ。

えっ、と言うような表情を浮かべて、スタックスさんも目を丸くしている。


「モ、モーリーさん?」

「要請、なんだろ?みんなが辞めておくというなら、断れるはずだ。向こうも、無理に頼んできた訳じゃないんだろ?」


 彼の言葉に、ああ、と声を漏らしながら、スタックスさんは頷き返していた。


「うん。モーリーさんの言う通り、断ったら他に話が回るだけだな。まあ多分、ダンフォード商会(あいつら)の所に、もう一度いくだけだと思うけれど……」

「で、どうする。今なら断れるが」


 彼の問いかけに、皆(うつむ)いて、考え込んでいた。


「俺は、うーーん……。別の奴から、あそこの話聞いているからな。正直……」


 苦笑いを浮かべながら、トミーさんが(つぶや)くように、声を発した。

ディアナさんも(めずら)しく、俯いたまま、(まゆ)(ひそ)めて考え込んでいる。

エディさんは気まずそうに俯いたまま。

リリスは───何故か俺の方に、目を向けていた。



 アール君は、どうするの?



とでも、言うように。

彼女の視線で、ふと、ある疑問が浮かんでくる。


「えっと……。もし断ったら、支部長はどうなるんですか?」


 答えを先()ばしにするつもりじゃないが、その事が気になり、スタックスさんにそう、尋ねてみる。


「うん?あ、そうだね……。将軍に嫌な顔されるだけだよ。気にしないで」


 彼はそう言いながら、笑い返してくれた。

だが、その目は明らかに笑っていない。



 参った事になるな……。



と、今にも呟きそうな表情で、乾いた笑いを浮かべている。

険しい表情を浮かべたままのモーリーさんと、目線を()らして考え込む皆。

その様子を見つめながら、俺も胸の中で、もう一度考え直してみた。



 皆の様子と、話で───。

 ()()()()()()()()が、とても厳しい事だというのが、痛いほど分かる。


 取って取られて、()って斬られて───。

 双方(そうほう)(にら)み合いの中で、明日を(むか)える保証も無いまま。

 激戦に()まれて、()まれそうになる日々。



 行かなくて済むなら、それに()した事は無い。

 でも───その気持ちを持っているのは、自分達だけじゃない。


 他の兵隊さんや、ダンフォード商会の人達も、同じように、持っているんだろう。

 普段の仕事よりも、高い報酬(ほうしゅう)が見返りであるとしても。

 つい、尻込みしてしまうほどに、それはツラいものなんだ。



 誰もが、その役目を嫌がっているんだ。

 断っても、スタックスさんが矢面(やおもて)に立たされる。

 矢面に立たされて、ツラい状況を突きつけられる。



 受けてしまえば……。

 モーリーさんは、やると言ってくれているんだ。



 あと1人───。

 受ければ、スタックスさんの気持ちが───。

 お世話になったお礼を、少しでも返せるかもしれない。



 それなら、やってみよう。

 自分に今ある力で、それが出来るかどうかは分からないけれど───。



 少しずつ場数も踏んで、出来る事が増えてきたんだ。

 少しでも、やれる事があれば、やってみたい。



「俺、やりますよ。俺でいいなら、行きます」


 思いを込めて、スタックスさんに、モーリーさんに、皆に、返事をした。


「……本当に、いいのか?」


 重い口を開いて、モーリーさんが尋ねてきている。

俺は真っ直ぐに、その目を見つめながら、頷き返してみせた。


「アール君、本当に行くの?」

「おい……。別に無理しなくていいぞ?断っても、おめえが怒られる(わけ)じゃねえんだし」


 リリスも、トミーさんも不安そうな表情で声をかけてくれている。


「うん……。私も、アール君を向かわせる事は、正直不安だね。まだ入って間もないんだし、何かしてあげたいという気持ちは、充分理解しているつもりなのだが。その……」


 2人の言葉に頷くように、スタックス支部長も言葉をかけてくれている。



 そうだ───まだ入って、ひと月も経っていないんだ。

 心配されるのも当然だ。



「アール、無理して行くつもりなのか?それとも……」



 行きたいから、行くのか?



と言うように、尋ねるディアナさん。

彼女の目を見つめ返してから、いいえ、と首を横に振る。


「俺、少しでも、何かしてみたいんです。お世話になった分、力になりたいんです」


 彼女は、何も言わずに、俺の言葉に頷き返してくれた。

その気持ち、確かに受け取った、と言うように。


「もしも、アールが来てくれるのなら、その腕前は俺が保証するよ。支部長の思っているより、彼は()()()勇敢(ゆうかん)だ。突っ走る傾向(けいこう)もあるっちゃあるが・・・・・・。それもまだ、今は許容(きょよう)範囲(はんい)だ。彼は出来るよ。いや、思っているよりも、やってくれるよ」


 俺の決意に背中を押すように、モーリーさんは、支部長に言葉を()えてくれた。

険しい表情を浮かべていた彼も、こくこくと頷き返し───。

少しだけ、目を閉じてから、ゆっくりと口を開く。


「……分かった。じゃあ2人とも、頼んだよ」

「ああ」


 モーリーさんの頷きに続くように、俺も頷き返す。


「アール君、絶対に、無理をしたらいけないからね。必ず、生きて帰ってくるんだよ」

「大丈夫です、ありがとうございます」


 念を押すように、声をかけてくるスタックス支部長。

俺も、彼の言葉に笑顔を返す。

彼は、何も言わずに、不安げな表情を(まと)わせながらも、笑みを返してくれた。


「おーい。支部長、そろそろ食事にしようよ」


 ふと、聞き馴染(なじ)みのある声がしてきたので、目を向けるてみると、(ほろ)馬車隊のマンソンさんが、手を振って呼んでくれていた。

彼の側では、副料理長のホーラーさんが、にこにこと笑っている。


「支部長、あれっていったい……」


 不思議そうに尋ねるトミーさん。

その言葉に彼は。



 やっと、言いたい事が言えた。



と言わんばかりの笑顔を浮かべて、答えてくれた。


「いや、聞いたよ!一番手柄(てがら)を取ったってね。だから、私の自腹で、2人にも協力してもらって。今日はパーッと、お(いわ)いしようと思っていたんだ!」


 そう言ってから、向けられる視線の先。

釣られるように俺も目を向けてみると、机の上に並べられていたのは、いつもの雑穀(ざっこく)(がゆ)が待つ、光景では無かった。



 皿に()られたソーセージの山に、(かご)()め込まれたパン。



ほかほかと、甘い湯気(ゆげ)を立たせている(なべ)が、そこに並べられていたのだ。


「いいんですか!」

「ああ、よく頑張ってくれたからな!存分(ぞんぶん)に食べてくれ!」


 エディさんも、(ほほ)を緩ませて、向こうで待っているご馳走(ちそう)に喜んでいる。


「よーし、なら行こうぜ!俺もう腹減って仕方ねえよ!」


 居ても立っても居られない、と言うように、机に向かって()けていくトミーさん。

彼を追うように、皆もスタスタと、その後ろに続いていく。

一瞬で明るくなった、場の空気。

ここまでの頑張りを、(ねぎら)うように。

激地へ(おもむ)くその姿を、鼓舞(こぶ)するように。

待っているご馳走と、それに喜ぶ皆の雰囲気に、思わず頬が、緩みそうになった。



 ……俺も、頑張ろう!



そう思い、彼らの向かった、その場へ足を運ぼうとした───。






その時。

後ろからの視線に、ハッと気づく。

リリスが(うつむ)いたまま、動こうとせずに。

ジッと、そこに立っていたのだ。


「リッちゃん?どうしたの?」


 彼女は、とても暗い表情を浮かべたまま、下を向いている。

ふと感触がしたので目を向けてみると。

その柔らかな手で、軽く、引き()めるようにして、俺の左腕を(にぎ)っていた。


「無理だけは、絶対にしないでね……」

「えっ」


 思わず(たず)ね返した言葉に、ハッと我に返った彼女は、その握っていた手を(あわ)てて離し、さらに後ろへと退(しりぞ)く。



 ただならぬ、暗い雰囲気(ふんいき)

 何か怖い光景でも、頭の中に浮かんだのだろうか。



彼女は、いつになく不安げな(おも)持ちで、俺の目を見つめてくる。


「ご、ごめん。つい、変な事考えちゃって」

「変な事、と、いうと……?」


 ポツリと(つぶや)いた彼女の、その言葉が、雰囲気が気になったあまり───。

思わず、そう尋ね返してしまう。

彼女は(つば)を飲んでから、意を決したように、ゆっくりと口を開いた。


「なんだか……。今日でもう、アール君と、会えなくなるかもって。そう思ったら、つい……」



 ま、まさか。



と、出そうになった言葉を、慌てて(ふさ)いで腹の中に押し込める。



 そうだ。

 次に自分が向かう場所は、誰もが尻込む激戦地なんだ。


 彼女の心配は、もっともだ……。

 

 これまでの感覚で行ったら、この首を、落とされるかもしれない。

 その心配を、ここで、一笑(いっしょう)()してはいけないんだ。



「分かった。ちゃんと生きて帰ってくるから。無理なんかしないよ」


 その暗い表情を、少しでも(ぬぐ)えるように。

大丈夫だよ、と思いを込めて、笑みをかける。


「……絶対、無理しないでね」


 そう言ったリリスの頬が、少しだけ緩んだ。

安らぎを取り戻した、その面持ちに、俺もついホッと胸を()で下ろす。


「2人ともどうした?」


 突然かけられた声の方に目を向けてみると、モーリーさんが立っていた。

その後ろでは、早く食べようと言うような視線を、席についた皆が、こちらに向けてきている。


「ご、ごめんなさい。行こっか」


 モーリーさんに返事をしたリリスは、そう言って俺に目を向けている。



 分かった、行こう。



と、俺も頷き返して、皆が囲んでいる食卓へと足を向け直した。

いつもと違う、砦に作られた(うたげ)の場は。

すぐそこまで近づいている、真っ暗なこれからを、照らすように。

明るく、俺達を、(はげ)ましてくれていたのだった。




 -続-

・本回でホックヤード砦のパートはひと区切りつきます。

 ここまでの拝読、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ