第13-3回「ひと悶着」
「いやあ、すまんすまん。俺には関係無いかと思ってたが。呼ばれていたんだな」
気楽な笑みを浮かべながら、口を開くトミーさん。
俺はリリスと並走しながら、彼を引くようにして大広間の方へと早歩きしていた。
広間の入り口に来ると、そこではエディさんが待っており、もう始まっているよ、と言うように、指差してくれている。
「いや、悪いなエディ」
「いえ、いいですよ。まだ中でしているところですし」
「そうか、まだやってたのか。じゃあ急がねえとな」
トミーさんの会釈に釣られるように、俺も彼に頭を下げると、気にしないでください、と言うように彼も頷き返してくれた。
そのまま彼の手に導かれながら、俺達4人も部屋の中へと、足を踏み入れていく。
中では、大きな机の上に地図を広げた状態で、オッドマン副部隊長と一緒に、モーリーさんとディアナさん、そして、見た事も無い様々な人達が、それを囲んでいた。
地図には『ホックヤード砦』と『ホーホック』の文字に森や、山や、川といった周辺の地形が、絵を文字で事細かに記されている。
その上には駒が置かれており、そして、この前モーリーさんが書き込んでいた数字などが、ポツポツと色んな場所に、書き込まれていた。
「ああ、みんな来たのか。まあ、一緒に見たらいいよ。ちゃんと知っておいた方が、ずっと良いからな」
俺達の姿に気づいたディアナさんが、振り返りながら話しかけてくれる。
副部隊長は気にする素振りも無く、明日に向けての段取りを、指差しながら一つずつ説明してくれていた。
彼の話している、明日に控える侵攻計画は、こうだ。
ホーホックの敵陣営を、先行班、中班、後方班の3つに分けて攻めていく。
その際、先行班を構成する6班を2手に分けて、櫓などの高所の拠点を最優先で確保していく。
それが終わったのを合図に、中班が敵陣営に斬り込みを仕掛けて、敵陣営から勢力を一掃していく、というものだった。
「いいか、同じ轍を踏む訳にはいかない。偵察をかけて、動きは探れた以上、今回の失敗は許されないからな」
そう言いながら、オッドマンさんは彼らに目を配っている。
「先行班は、攻略した段階で『光線』を飛ばせ。左方、右方。双方から光線が出た事を合図に中班が斬り込みを仕掛けるんだ」
「光線……?」
彼の言葉に引っ掛かり、つい口を滑らせてしまった。
「ああ、魔法の一つだよ。火力魔法でね、飛ばす要領で空に向けて使い、味方に知らせるんだよ」
俺の呟きに、ディアナさんが振り返りながら答えてくれた。
「これだよ。こういうのを使うんだ」
彼女の言葉に続くように、肩を叩きながらリリスが補足してくれている。
何かを持っている、その手を見てみると、宝石のように輝く、綺麗な石が埋め込まれた、ネックレスがあった。
「こ、これ?」
それは、店で並んでいるような、見栄えを良くする為の装飾品にしか、見えない。
ふと漏れ出てしまった疑念の言葉に、彼女は笑みを返してくれる。
「ま、こんな見た目だからね。嘘だろって思う気持ちも分かるよ」
「おい、うるさいぞ」
やり取りを遮るように、睨むような視線をギョロリと見せながら、一瞬振り返るモーリーさん。
「す、すいません」
「…………。」
彼は何も言わず、また視線を机の方へと戻す。
「こういう道具無しでも、光線を使える人もいるし。せっかくだから、後でこれの使い方、見せてあげるね」
頭を下げてすぐ、小声ではあるが、リリスがそう話してくれた。
使わず、という言葉に、初めてスタックス支部長に出会った時に見せてもらった、木の葉を燃やす『不思議なあれ』が、映像として浮かんでくる。
なるほど、魔法って色んな物があって、色んな人が使えるんだな……。
胸の中でそう呟いてから、あらためるように、地図の方へと目を向け直す。
「以上だ、聞きたい事はあるか」
意識を向け直した時には、もう作戦の説明が済んでいた。
結局、俺達はどうすればいいんだろう。
そんな事を思いながら目を動かしていると、ふと、向こうの方から声が聞こえてくる。
「副隊長。俺は納得出来ねえな」
甲冑に身を包んだ髭の男が、腕を組みつつ険しい表情を浮かべて、声をそう発していた。
「俺もだ。サンフィンチ商会の者が、先行班ってのは違うだろ。足引っ張るだけだと思うぜ」
「ああそうだ。後方で充分だろ、使うにしても」
髭の男に続くように、横に並んだ2人も口を開いている。
話している雰囲気からして、髭の男と2人は、同じ商会らしい。
「んだと?それどういう意味だよ」
3人の言葉にトミーさんが食って掛かる。
喧嘩になる───と思いかけた直後、副部隊長が口を開いた。
「まあ、落ち着いてくれ。これは私じゃない、将軍の助言でそうなったんだ。ここでその方針に口出しされても、どうしようもないんだ。どうか、ここは穏便に」
4人を宥めるように、彼は両手を小さく動かしながら、目を配っていく。
彼の言葉にトミーさんも渋々引き下がり、3人も眉を顰めながらではあるが、それ以上口を開かなかった。
少し周りが落ち着いた後、モーリーさんが口を開く。
「相手の増援がすぐに来ない、という想定だが。もし、敵陣確保の前に来られたら?追加で投入する後方班だけで、何とかなるのか?」
彼の言葉に、副部隊長が小さく唸りながら、返事をする。
「まあ、そうだな……。後方班から伝令役を飛ばすなりして、こっちも砦から、増援を向けるしかないな」
「その段取りは出来ているのか?」
アッとした表情を浮かべて、彼はモーリーさんの顔を見つめ返す。
だが、その直後だった。
「おい、おっさん出しゃばり過ぎだろ。手柄出せていねえからって、ここでごたごた言うんじゃねえ」
さっきの髭の同僚が、また口を開いた。
一瞬で、場に嫌な空気が漂う。
「んだと?それどういう───」
「やめろ。言うな」
カッとなりかけたトミーさんを、腕を突き出して抑止するモーリーさん。
ギロリと刺すような視線を、双方に向けながら。
「いや、出来ていない。これからするよ。取り敢えず作戦の流れはこういう事で。また明日、朝一で打ち合わせしよう。一旦、ここは解散で」
引き攣った笑顔を浮かべながら、周りに目を配りながら、そう話す副部隊長。
解散、という言葉に、これ以上の発言を封じられた彼らは、それを合図にぞろぞろと、大広間を後にしていった。
何人かが、害虫を見るような視線を、こちらを向けていきながら。
「リ、リッちゃん。いつも、あんな感じなの?」
こちらに向けられていた視線が、あまりにも嫌なものだったので、思わず彼女に尋ねてしまう。
「ま、まあ……。私が入ってから、大きな作戦に関わっていなかった、って聞いたし、多分……」
出しゃばり過ぎ、後方程度の役目で充分だ。
向けられた彼らの言葉と彼女の様子に、あらためて支部長の言っていた、弱小ギルドという言葉が、頭によぎる。
向こうがライバルギルド、とは言え……。
ああいった声が、俺達に向けられた『現状の評価』という事なのかな……。
モーリーさんも、あの時に間違った事は言っていない
そう思えるだけに、不条理も同然な彼らの反応に、肩身の狭くなるような、卑屈な感情が湧いてくる。
「おーい。もう終わりだ、出るぞ。何してるんだ」
「ほら。アール君も、落ち込まないで。行こうよ」
ふと聞こえたディアナさんの声と、リリスの呼びかけに、ハッと我に返る。
そうだ、ここで落ち込んでも仕方ない。
向けられた否定的な意見や、侮蔑的な視線は、どうしようも無いんだ。
俺は、出来る事をやって、応えてくれる人の為にやれば、いいじゃないか。
「ご、ごめん。すぐ行くよ」
彼女にそう頷き返してから、扉の近くで俺を待っているその近くへと、足を進めていく。
来たるべき日に備えるように。
真っ直ぐ、真っ直ぐに、前を見据えるようにして。
-続-
・次回から戦闘パートに入ります。
ここまでの拝読、ありがとうございました。




