第11-4回「酔い潰れたリリス」
・微エロな描写があります。ご注意ください。
「えへへ~~。どこ帰るの~~~?」
「ほら、リッちゃんのおうちだよ」
「そうでした~♡早く連れてって~~~」
ゆったりと輝く星の下。
誰も歩いていない、しんと静まりかえった、通り。
その中を、酔い潰れたリリスを落とさないように、ガシリと肩を支えてあげながら、彼女の家まで一緒に送り届けている真っ只中だ。
2人合わせて、ビール3杯に麦茶3杯。
ハムの盛り合わせ、チーズの盛り合わせ1皿ずつ───。
それから、ソーセージ5本に、キャベツの酢漬け2皿。
南国瓜のポタージュ1杯に、ガーリックトースト5枚。
金貨を使わずに、銀貨だけで支払いが済んだのは、想定外の安さで、嬉しかったのだが───。
案の定、彼女はすっかり、仕上がってしまった・・・・・・。
あれだけ、自力で帰れるように呑む、って言っていたのに。
「うあ~~。見て~、星がいっぱい~♪」
「あー、はいはい。きれいだねー」
自分はまだ、このニッコサンガの地理は、しっかりと把握出来ていない。
リリスの家の場所など、もっての他・・・・・・。
今は、彼女の案内だけが、頼りだ。
暗くて、看板も下げられているせいか、どこを見ても同じ光景にしか見えてこない。
酔い潰れた彼女の案内だけで、ヨタヨタと歩いていくのが、とても心細い。
もし1箇所でも、間違っていたら・・・・・・。
取り返しつかないぞ、これ・・・・・・。
「つ、次はどっちに、曲がるの?」
「う゛~~~ん???あーーー、左ー!!もう近くだよ~」
「わ、分かった・・・・・・」
時おり吹いてくるひんやりとした風が、正直、とても心地良い。
冷えた風と、腕越しに伝わる彼女の熱さと、幸せそうな笑顔で───。
なんだか俺も、釣られて眠たくなってくる。
・・・・・・!!
ダメダメ、しっかりしろしっかりしろ。
このまま気持ち良さに身を任せて、ぶっ倒れてみろ。
支部長の悲しい顔で、明日の朝を迎える事になる。
俺が、ちゃんとしないと・・・・・・!
「あー止まって~!ここだよ~、ここの2階~!」
植え込みがぽつぽつと前に生えている、左横の建物を通り過ぎようとした時、彼女が突然、大きな声を上げた。
この横に長い、2階建てのここが、どうも彼女の家らしい。
まさか、この建物まるまる全部、彼女の家じゃないよな・・・・・・。
と思いながら、慎重に中に入っていく。
窓が等間隔に並んでいる外観だったが───。
なるほど、入ってみると、ここが集合住宅だという事が、すぐに分かった。
薄暗い中、外からの星明かりを頼りに、階段までゆっくりと運んでいく。
「気をつけてね、階段登るよ」
「ありがと~♡アール優し~~」
「は、はいはい・・・・・・もう皆寝ているから、静かにね・・・・・・」
どれくらいキッチンホールに居たのか、正直分からない。
だが、やけに響く彼女の声と、あまりにも静かな周りの様子に───。
もう相当夜が更けているのが薄々理解出来る。
中には多分、色んな人が住んでいるはず。
寝ている人もいるだろうし、騒いだりしたら、絶対に迷惑だ。
踏み外さないように、落とさないように・・・・・・。
一歩一歩を大切に、慎重に階段を登っていき、なんとか2階の廊下にまで、辿り着く事が出来た。
「え、えっと。リッちゃんの部屋は」
「あっちだよ~~。203で~す♪」
彼女の指差す方へ、ずりずりと足を進めていく。
2つ部屋を挟んで、俺はドアの前に掲げられている、木製の表札に目を通してみた。
203、リリス・モルガン。
ああ、ここだ。
ようやく辿り着けた、と思わず胸を撫で下ろす。
開けてみようと軽く触るが、当然ドアは開いていない。
鍵がかかっている事が、すぐに分かる。
「リッちゃん、鍵持ってない?部屋が開かないんだけれど」
「うん~~~?鍵なら腰の小物入れにあるよ~」
「わ、分かった」
暗がりの中で、僅かな光を頼りにそれを探してみるが、どこにもそれらしき感触が、無い。
あれ・・・・・・あれ・・・・・・?
ふにふにと柔らかな、手触りばかりだ。
「変態~♡鍵はもう持ってま~~~す」
声のした方へ目を向けて見ると、指で摘まれているそれは、外の光に当てられて、キラリと輝いていた。
な、なんだよ・・・・・・。
ま、まさか俺に、これをさせたくて、鍵のくだりを・・・・・・。
真面目に手探りしていたさっきの姿が、急に情け無く感じてくる。
思わず、肩の力が抜けそうになった。
「はいど~~~ぞ」
「ど、どうも・・・・・・」
「えへへぇ♪」
溜め息混じりに、彼女から手渡された鍵を受け取り、ドアを開ける。
取り敢えず、と手で扉を押し込みながら足を踏み入れていく。
そのまま、部屋の真ん中辺りくらいまで、足を引き摺っていった所で、ふと、肩に寄りかかっていた、彼女の重さが無くなる。
ふらふらと、酔いの回ったリリスは、そのまま右の部屋へと、消えていってしまった。
一応、彼女の部屋だ。
用心はしておかないとな。
と、彼女に代わりドアの鍵をかけて、預かった鍵をどこへ置いておこうかと、中をぐるりと見渡してみる。
部屋の中は小ざっぱりしていて、机や椅子、収納棚などが、綺麗に、分かりやすく見易い配置で、並べられていた。
どこに置けば分からないけれど・・・・・・。
机の上なら、起きた時に気づいてくれるよな?
そう思いながら、トンと鍵を置いた瞬間。
ガシリと腕を、掴まれたような感じがした。
えっ、これ、リリス・・・・・・?
と思い目を向けてみると、彼女はやけに気持ちの良い笑顔を、浮かべていた。
「アールも、寝よ~~~♪」
「はっ!?え、いや、ちょっと───」
答える暇も無く、上機嫌でぐいぐいと、引き摺るような形でずるずると、そのまま部屋の中へ体を引っ張られてしまう。
隣の部屋も綺麗に整えられているが───。
ふと、視線を下に向けてみると、彼女の物だと思われる、脛当てといった装備が、乱雑に床の上を、転がっていた。
「は~~~い。座ってくださ~い♪」
言われるがままにベッドの上に座らされる。
彼女もゴロンと、そのままベッドへ足を伸ばした。
「アール君、帰り道分かる~?」
「えっ・・・・・・」
頬を赤くさせながら、そう尋ねてくる彼女。
どうだったっけ、とここまで来た道順を思い出そうとしてみるが・・・・・・。
目印も分からず、ただ言われるがままにここまで歩いて来た事しか、思い出せない。
「い、いや。分からない、です」
「はいケッテ~~イ♡今日のお宿はここでーす!朝になるまで休みましょ~~~♪」
そう言いながら、えへへと笑いかけている。
「え、休むって言っても・・・・・・」
慌てて周りを見てみるが、もう1つベッドがあるようには、見えない。
右に目を向けてみると、部屋はもう1つあるが、どうも使われていない様子で、ベッドはとてもなさそうだ。
「だから!アール君もこのベッド、使ってくださ~~い♡」
「えっ、やっ、それは・・・・・・!それは出来ないよ!」
「えっ、なんでよ!私はいいよ!」
「いや!いやそれは・・・・・・!」
あまりにも飛躍し過ぎた話に、言葉が続いてこない。
落ち着け、落ち着け、と胸の中で呟きながら、一度彼女から目を逸らす。
訳も分からず、ちゃんと届けようという一心で、初めて部屋に足を踏み入れて。
そして、帰れないから泊まっていく。
ここまでの結果は、自分の考えの甘さが原因なんだから、自分の責任だとして・・・・・・。
それでも、行き当たりで言われるがまま、このまま一緒のベッドを使うというのは良くないだろ・・・・・・!
よく考えたら、まだリリスと会ってまだ1ヶ月も経っていないんじゃないか!
そんな状態で、これはさすがにダメなんじゃないのか・・・・・・?
どうなんだ───どうすればいい!?
正直、帰り道も分からないし・・・・・・。
泊まっていけるなら、日が昇るまで、泊まっていった方が良いのだが・・・・・・。
でも一緒のベッドはダメなんじゃないのか・・・・・・?
どうしたらいい、俺はどうするべきなんだ・・・・・・?
ぐるぐると、目を背けたまま狼狽えていると、グッと、また腕に強い感触がきた。
「・・・・・・ごめんね」
さっきまでの壊れたような明るさから、一転。
聞こえてきたのは暗くて、悲しい声だった。
彼女の方へ目を向けてみると、もうぱんぱんに、目の下に涙を溜め込んでおり、ふるふると口を震わせている。
「私、また変な事言ったよね・・・・・・?いや、言っている、よね・・・・・・」
「お、おお・・・・・・?」
まだほんのりと顔は赤いが、それでも部屋に入った時よりも、僅かに酔いが抜けているような気がした。
なんで、突然ぽろぽろと、泣いているんだ・・・・・・?
リリス、大丈夫か・・・・・・?
そう思いながら、肩に手を当ててみると、滴り落ちてきた雫が、手の甲を濡らしていく。
「こ、この前も、ディアナさんに、送ってもらって・・・・・・。騒いで、迷惑かけて・・・・・・」
「あ、ああ~・・・・・・」
頭の中に浮かんできたのは、少し前の親睦会の帰り。
酔い潰れて背負われた、彼女の姿。
もしかして、酔いが覚めて、我に返り・・・・・・。
そのまま気持ちが溢れて、こんな風に泣いている・・・・・・のか?
それとも、俺の気を引く為に・・・・・・?
と一瞬思いかけたが、どんどん赤くなっていくその目を見ているうちに、最後に思っていた事が、間違いだとすぐ、気づかされた。
いや、止めよう。
彼女を疑ったり、悪く思うのは、間違っている。
この状況で、そんな事を、リリスは考えたりしない。
嗚咽するように泣いている、その姿を見ていると、そのまま何もせずに、ジッと見ている今の自分が、冷酷な人物のように思えてきた。
それなら、俺に出来そうな事は───。
今は、これぐらいしか、出来無い。
彼女の肩を摩ってから、トントンと優しく叩いてみる。
「えっ・・・・・・?」
「ほら、リッちゃん横になって」
「う、うん」
ボサンと、ベッドの上に仰向けで倒れた彼女の肩を、落ち着くまで摩っていく。
「俺は嫌だと思っていないから。泣かないで」
「う、うん・・・・・・。ありがとう・・・・・・」
ぼろぼろと出ていた涙が無くなるまで、震えている唇が穏やかになるまで。
そう言いながら、ゆっくり、ゆっくりと、肩を摩り続けていく。
泣き腫らしていたその表情も、少しずつ、少しずつ穏やかなものへと変わっていった。
「ごめんね・・・・・・」
「いいよ、謝らなくて。今日は泊まっていくから」
「う、うん・・・・・・。ありがとうね・・・・・・」
そう呟いて、どれくらい摩り続けたのだろうか。
ようやく彼女は目を閉じて、眉を緩ませる。
そして、すう、すうと小さく口を開けたまま、寝息を立て始めた。
「はあ~~~・・・・・・」
俺もようやく、肩の荷が下ろせた。
あまりにも、ここまで意識し過ぎた物事が多すぎて、思わず彼女の足元へ、寝転がってしまう。
まさか、いやまさか───。
あの食事中の雰囲気から、薄々想像はしていたのだが・・・・・・。
まさか、こんなにも、疲れる事になるとは。
俺、どこで寝る・・・・・・。
いや、このままでいいや、これで俺も寝よう・・・・・・。
ドッと、体中から力が抜けていく。
それでも、体の力が抜け切る前に───。
せめてこれだけは。
そう思いながら、胴当ても脛当ても外して、ベッドの下へ投げ転がす。
そして、腰のベルトも外して、掛けていた剣もその辺に置いて。
沈んでいく感覚に、そのまま身を任せていった。
とても疲れた───けれど。
なーんか、すっごくリッちゃんが嬉しそうで───。
今日は、楽しかったな。
見える景色がどんどん黒になっていき、やがて目が開かなくなっていく。
肩からどんどん沈んでいく、真っ暗な向こうに身を任せて・・・・・・。
俺も、彼女の眠るベッドの上で、共に、深い眠りにつくのだった。
-続-
・次回も平穏なパートになります。
ここまでの拝読、ありがとうございました。




