第11-2回「悪夢を打ち明けて」
仕事を終えて、支部に集まった俺は、報酬を受け取る前に───。
支部長と2人っきりで、暗くなった中庭で、あの悪夢の事について、話す事にした。
「記憶喪失、というと?」
「変だと思いますけれど・・・・・・すごく、印象に残った夢を見たんです」
来た時には明るかった空も、燃えるような真っ赤な色を含ませつつ、ゆっくりと夜の色へと、変わり始めている。
冷えた風に吹かれながら、俺はあの、恐ろしい夢について、彼に話し始めていった。
冷たい、真っ暗な水の中に居る───。
自分じゃない、自分。
刃物を沈めて、腕を深く、傷つけていて───。
やがて、そんな自分と、一体になって───。
朝日を見ながら、自分の死を、実感する、夢。
胸を、どくどくと鳴らしながら、あの夢の内容を、丁寧に話していった。
この、発言一つ一つが、手掛かりになるかもしれないと思って───。
何一つ、漏れの無いように、慎重に。
彼は、何も言わずに耳を傾け続けてくれていた。
その姿に何故か、収まっていた胸の高鳴りが、また大きくなってくる。
夢の話をすべて言い終えると、思わず溜め息が漏れ出てきた。
彼は、しばらく目線を逸らしてから、大きく唸り声を上げている。
が、何かの答えが、ポンと思い浮かんだのだろうか───。
また俺の目を向いたと思った瞬間、うんと大きく、頷いてくれた。
「あのメモの内容は、そういう事だったのか」
・・・・・・!!
どうやら、ここを出る前に書き残していたメモを、彼は読んでいてくれていたらしい。
部屋を掃除していただいた時に、見つけてくれたのかな。
それとも、セシリーさんが気づいて、彼に渡してくれていたのかな。
何はともあれ、あの書き残していた内容を知っていてくれていた事に───。
ホッとした気持ちが、湧き上がってくる。
「変な話なのは承知しています。でも、俺・・・・・・。あの夢が、自分と無関係な、意味の無い夢だとは、どうも思えないんです」
「・・・・・・まるで、一度体験したような、感じだから・・・・・・」
言葉を失った。
そこまで、この人は理解してくれていたのか。
「君の見た事だ。この真意は、君にしか分からない。夢だからね。何の脈絡も無いめちゃくちゃなものや、悪夢だって、自分も今まで、色々見てきたよ」
そう言い終えてから、大きく息を吐いて、さらに言葉を続けてくる。
「それでもだ・・・・・・。私もその悪夢が、何の意味も無い、ただのめちゃくちゃな夢だとは、思えないね。君の話し方で、なんとなくだけれど。分かる気がするよ」
嬉しかった。
あの怖さが、理解してもらえたような気がして。
真っ暗で、誰にも言えなかった、あの怖さが───。
ようやく分かってもらえたような、気がしていた。
「・・・・・・ありがとうございます」
気がついた時には、そう言いながら、彼に頭を下げていた。
「いやいや、お礼なんかいいよ。私はこうして、聞く事しか出来ないんだし」
その、聞いてもらえた事が、たまらなく嬉しいのだ。
ありがとう。
ありがとう、スタックスさん・・・・・・。
彼に何を言われようと、溢れてくるお礼を、止める事が出来なかった。
「ははは。セッちゃんが驚くだろ、どうしたんだ」
「そ、そうですね・・・・・・。すいません・・・・・・」
気がついた時には、目が潤みだしていた。
彼は笑みを浮かべて、肩の震えが収まるまで、摩り続けてくれている。
摩る度に伝わってくる、彼の思いに───。
ただ、頭を下げ続けて、ありがとうございます、と言うしか、俺には出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
風のそよぎが、熱くなった目をゆっくりと冷ましてくれた時。
ガチャリと、裏戸が開く音がした。
「あ、あの。アールさん、お金・・・・・・」
心配そうな表情を浮かべて、顔を覗かせながら、セシリーさんが声をかけてくれている。
「あ、ああ!ごめん、ごめんなさい」
「ははは、セッちゃん悪いね。ちょっと大事な話がね、長くなっちゃって。つい」
彼女に謝りながら、俺はお金を受け取りに、彼の元を離れようとする。
「アール君」
ふと彼に呼び止められ、振り返った。
「あの夢の話、侯爵伝いに話しておくから」
その言葉に、笑みを返す。
「はい!お願いします」
「アールさん、表でリリスさんが、随分待ってくれていますよ?ちょっと急いで、って言われましたし・・・・・・。何か約束でも、していたんですか?」
「えっ?」
彼女の言葉に、ハッとあの事を、思い出す。
もしかして、あの初給料の『奢り』の件、か?
「ご、ごめんセシリーさん!本当にごめん、すぐに受け取る!」
後ろから聞こえる、スタックスさんの笑い声。
彼の笑い声に押されながら、彼女の後を追って、中庭を後にしていく。
俺はもう、1人じゃない。
パタンと、ドアを閉めた時。
そんな言葉がふと、頭の中によぎっていた。
-続-




