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第9-7-2回

・この場面は戦闘描写がメインです。

 少し残虐性のある描写が含まれております。


 彼の側に付きながら、ずんずん奥に進んでいく(たび)に、燦々(さんさん)と、(わず)かな隙間(すきま)から明るい光が差し込んで、顔に当たってくる。



 このホーホックの森の由来が、ホー、ホーと鳴く(ふくろう)の声らしいのだが・・・・・・。

 多分、そうなんだろうな。

 この暗さなら、今が昼間であろうとも、どこからともなく梟の1羽でも2羽でも出てきて、ホーホーと鳴きだすかも───。



と、つい納得してしまう。

今は昼だというのに、夜みたいに薄暗いから、いつ、どこから敵が飛びかかってくるのか、まったく分からない。


「おい、ちょっと集まれ」


 鬱蒼(うっそう)とした中を、歩き続けてかなり()った頃、周囲をキョロキョロと見渡しながら、モーリーさんが、ヒソヒソと話しかけてくる。

彼の側へ、足音を出さないように歩み寄っていくと、彼はクルクルと、丸めていた地図を取り出してから広げていき、左手に持っていたペンのお尻で、それを差していきながら、説明をし始めた。


「いいか、今はこの辺りだ。奴らの野営地(やえいち)()()()()で、俺達の居る場所とは、相当(そうとう)近づいてきているはずだ」


 (やぐら)のように描かれた絵の所から、(つめ)欠片(かけら)も無いほど動かして、トントンと軽く(たた)きながら、ペン尻でそう、居場所を伝えてくれている。


「奴らの気配は」

「いや・・・・・・。後ろは気にしながら歩いていたが、こう見られているような感じは・・・・・・」


 モーリーさんの言葉に、髭面(ひげづら)のワドハンが返事をする。

自分も周囲を(うかが)いながら歩いていたのだが、気配や物音は、まだ感じ取っていない。


「よし。おそらくここから、奴らと(はち)合わせする危険が高まってくる。よりゆっくり、より慎重(しんちょう)に進むからな。絶対に物音は立てるなよ、いいな」


 ギョロ、ギョロと目を転がしながら、彼は1人1人に、確認をしていく。


「あ、あの・・・・・・」


 弱々しく話しかけるターマに、ギロリとした視線を向けるモーリーさん。


「なんだ」

「い、いえ・・・・・・。も、もしも。もしも見つかったら・・・・・・?」


 彼の言葉に、少し間を()けてから、モーリーさんが返事をする。


「見つかるな、そうとしか言えない。もしそうなったら、自分の身は自分で守れ」


 あまりにも突き放すような答えに、思わず2人の目を交互(こうご)に見比べてしまう。

その視線を察したのか、彼も俺の方を見ながら、言葉をかけてきた。


「アール、これは戦いじゃない。敵状を(さぐ)る為の偵察(ていさつ)だ。気づかれないように、確実に情報を集めて、無事に帰ってくる。俺の言っている意味が、分かるな」


 そう言いながら、(するど)い目付きでジッと、俺の返事を待っている。



 そうだ───戦いを仕掛ける為に、俺達は敵地に近づいた訳じゃない。

 偵察という役目を果たす為に、ここまでやって来たんだ。



彼の言い分は、すぐに理解出来た。

分かりました、と言うように、こくりと(うなず)き返す。


「よし。くどくなるが、ムダな音ムダな動きは徹底的に(つつし)め。五体満足で帰るぞ、いいな」


 彼の言葉に、俺はもう一度頷く。

ワドハンも、少し(おび)えながらではあるがターマも、意を決したように、こくりと(うなず)き返していた。


「よし、いくぞ。ついて来い」


 そう言いながら1歩、1歩音を踏み殺すように、身を低くしながら、彼は奥へと足を進めていく。

俺達も、彼の動きを真似しながら、ゆっくりと、ゆっくりと歩みを進めていった。

草葉を(つか)むように、落ち葉に足を沈めるように、石のように身を(かが)めながら、ゆっくりと足を進めていく。

進んでいるのか、止まっているのか、どこに今居るのか分からないほど、ゆっくりと歩き続けて、どれくらい経ったのだろう。



 突然、前を行くモーリーさんが、動きを止めた。



手を突き出してから、小さく指を突き出して、その右向こうを差しながら、小刻(こきざ)みに何かを伝えようとしている。

なんだ、と思いながら、そっと目を向けてみると、あの地図に記されていた敵陣の様相(ようそう)を、初めて見る事が出来た。



 辺りを見渡しながら、見張るように歩いているゴブリンに混ざって───。

 俺達と見た目の変わらない人が、禍々(まがまが)しい装備に身を包みながら、何かを話し合っている。


 遠くの方に見えているのは、暗い色をした(おおかみ)の姿。

 その手前では、ゴブリン達と、弓を持った人達が、わらわらと動いている。



自分が思っている以上に、その野営地には多くの敵が(ひそ)み、集結していた。



 まさか、あの見ていた森の中に、こんなにも敵が集まっていたとは・・・・・・。



息を殺して、ジッと奴らの動きに目を向けていると、モーリーさんが何かをしているような気配を、スッと感じ取れた。

彼の方を見てみると、待っていろ、という動きの後に、手招(てまね)きをしながら俺を呼ぶように目を合わせてくる。

こっちに来い、という彼の動作に従うように、のしりのしりと、落ち葉を踏む音を立てないように、足を進めてみた。



 周りを見張っていろ。



と言うような動きをした彼は、スッと姿勢を敵陣の方へと向けて、その一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)に目を()らし始める。

そのまま、彼は視線は()らさず、耳は周りに向けたまま、手に取った地図にさらさらと、ペンで情報を書き(つら)ね始めた。

書かれていく何かの名前や日付、場所らしき文字に、思わず息を飲んでしまう。

目を切らさず、ツラツラと書き続けていく、その姿。



 まさか、モーリーさんは・・・・・・。

 あの、何を言っているのかも分からない奴らの言語を、聞き取る事が出来るのか。

 支部長やディアナさん達が、腕は確かだと評していたのだが───。



この偵察に、なぜ彼が呼ばれたのか、あらためて俺は、理解する事が出来た。

真横に居る彼は、淡々(たんたん)と、(まゆ)一つ動かさずに情報を書き続けている。

息も吐かせぬその技の一部を、まざまざと見せつけられ、つい周囲への警戒(けいかい)を忘れそうになってしまった。



 い、いけない・・・・・・何ボーッとしているんだ。



首を振って、上に周りにと目を向けながら、情報を聞き取る彼に代わって、俺もあらためて警戒し直す。

もう、おおかた偵察出来たのかな、と思い始めた時、ふと待っている2人の事が気になった。



 2人は、大丈夫なのかな───。



と考えつつ、ふと目を向けた、その瞬間。

向こうで敵陣を見ていた、ターマが身を後ろに崩して、ドサリと手をついてしまったのだ。

(わず)かに聞こえた物音に、モーリーさんもハッと振り向く。



 これはマズイんじゃ・・・・・・。



そう思ってすぐ、敵陣営に目を向けてみると、案の定相手もそれに気づいて、こちらに対して視線を集中させていた。



 ダメだ!バレたかもしれない!



そう思うより早く、モーリーさんはもう、行動に移っていた。

引き上げよう、と言うように俺の肩を小刻みに叩いて、首を来た方向に向けて振っている。

分かりました、と俺も頷き返して、元来た順で帰ろうとした瞬間だった。



 上からの気配、来る!



視線を上げると、ゴブリンが1体、ターマ目がけて降り立とうとしていた。



 危ない!!



体はもう、反応していた。

叩き落とすように剣を抜いて、飛びかかるそいつを斬り捨てる。


「うわあああ!!!」


 ターマは情けない叫び声を上げて、尻込みしながら、ワドハンを押し退()け逃げて行ってしまった。


「あ、待て!!お前だけで戻れないだろ!おい!!」


 彼も、不必要な声を上げるなという、モーリーさんの言葉も忘れて、追いかけるように走り去ってしまう。

目を敵陣の方へと向けると、あっという間に喧騒(けんそう)と、土を立ち込めて、こちらへ追手(おって)を差し向けようとしていた。



 もうダメだ、逃げないと!



モーリーさんに言われるまでも無く、俺の体は反応していた。


「走れ!最善(さいぜん)の道を常に探すんだ!」


 そう言いながら背中を押して、森を抜けるように彼が(うなが)している。

その言葉を背に、地面を蹴り上げ腕を振った。

(しげ)みを突っ切り、木を(かわ)して、少し(ひら)けた光の差す場所へと走り抜けていく。

後ろを一瞥(いちべつ)すると、ゴブリン共がわららと、追いかけて来ていた。



 流れに身を任せて───。

 風に身を任せて───。



俺はぐんと腕を振って来たはずの方へと足を踏み出す。

後ろから聞こえる、モーリーさんの()ける音。

その間から聞こえてくる、追ってくる奴らの息(づか)いと、声。



 息が、切れそうになる・・・・・・。



と思いかけそうになった頃、目の前に、先に逃げていたターマの姿が写った。

森の暗さは、少しだけマシになって来ている。

彼より少し前には、追い抜いたらしくワドハンの姿も見えていた。



 この速さだと、もうすぐにターマに追いついてしまう。



耳を後ろに凝らすと、モーリーさんの走りと、奴らの気配が聞こえてくる。



 このままだと、4人全員追いつかれて、ここで終わり・・・・・・。



 なら、俺がやる!

 俺なら、やれる!

 追いつかせてたまるか!



ぐっと身を(ひるがえ)しながら剣を抜いて、追ってくる奴らと対峙(たいじ)する。

身構えた俺の姿に、走っていたモーリーさんは、一瞬驚いた様子だった。



 この距離なら、いける!



走り抜ける彼を躱してから、追ってきたゴブリンに、横への一振りをぶつける。


「ぎえっ!!」


 後ろ足に力を込めて、流されないように身を止めてから。

そいつと並走して突っ込んで来た、もう1体の肩を狙って、ばさりと剣を振り下ろす。

体液を()き散らしながら、落ち葉で(おお)われた地面に叩きつけられる奴の体。

その後ろから来ている何体かが、僅かにその光景で、(ひる)んだ様子だった。



 よし、もういい!



頭の中に浮かんだ声に頷いてすぐ、身を翻し直して、前を走るモーリーさんを追いかけていく。

力強く、剣を握りながら、前を走る彼に追いつこうと、腕を振る。

暗かった森から、ドドドと木の数が減っていき、ぶわっと木の葉の屋根が無くなったと思う瞬間、辺りが一気に明るくなった。



 少し離れていた、彼との距離はもう、すぐ側まで(せば)まっている。



そう思っていた時、モーリーさんがにわかに身を翻した。


「来たぞ!」


 そう叫びながら、丸めていた地図をベルトに差し込んで、彼も剣を抜いた。

持ちながら腕を振っていた俺も、身を翻して構え、追いかけて来たゴブリン共を(むか)()つ。



 最初に突っ込んでくる数は、3体。

 その横は無し、後ろは多い。


 間合(まあ)いまで待てばいい。

 戦いやすい体勢で、奴らを迎え撃て。



誰に言われずとも、突っ込んでくる奴らを見ているうちに、自然と体が、そう語りかけてくれていた。



 まず、左の1体。



飛びかかって来たところを払うように、足目がけて剣を振る。

皮を()った感触と共に、奴は少し前に身を崩した。

そこから(あと)は、流れだ。

(こぶし)(なぐ)り、その体を地に叩きつけて、ふっと横に目を向けてみる。



 このままではもう1体を、今の自分では(さば)き切れない!

 ここでやられて、たまるか!



咄嗟(とっさ)に剣を突き出した時には、襲いかかろうとしたゴブリンの背に、ずぶりと剣が刺さったような手応(てごた)えが、見えた。


「うらあ!!」


 そのままモーリーさんは躊躇(ためら)う事なく、そのまま剣を振り下ろした。

その光景でハッと、地面に叩きつけたあいつの事を、思い出す。

地面に目を向け直すと、手を突きながら、そいつはギョロリと、俺を見てきていた。



 飛びかかる!



そう考えていた時には、ズブリとそれに、剣を突き立てていた。


「アールもういい!走れ!」


 彼は手を振り、行け、と促している。

ちらりと後ろを一瞥すると、追っていた奴らも少し怯んだ様子だった。

俺は彼の言葉に乗って、剣を直して(とりで)に向け、もう一度駆け出していった。




 -続-

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