第7-2回
トココッ、トココッと進む幌馬車に合わせて、砦に向けて早歩きをしていた。
その合間に、ゆっくりとした速さではあるが、リリスから教えてもらっていた、あの跳び移りの練習を、何度も、何度もやってみる。
「よっ、よっ、と」
彼女の足取りをもう一度思い出しながら、側面を蹴り上げて幌の隙間に足を掛けていく。
まだ、なんとなくという感じではあるが、少しずつモノになってきたような気がしてきた。
飛び降りる時には、少し前の地点を意識しながら───。
流れに逆らわず、後ろへの着地が出来るように意識して───。
スッと足を宙に浮かせて降りると、崩れ落ちる事なくストンと地面に降り立てた。
一瞬、体を後ろに持っていかれそうになるが、逆に引っ張っていくような気持ちを持って、前に向かって足を動かしていく。
よし、上手く出来たぞ。
彼女が言っていたコツ、意識するべきポイントは、こういう事か。
彼女の言っていた事が、少しずつ理解出来て、身についていくような感覚に、思わず笑みが溢れそうになる。
いい感じだ、あともう1回出来るかな。
そう思いながら視点を少し前に向けると、風景がかなり様変わっている事に、ようやく気付く事が出来た。
あの暗々とした例の森が、もう右手の方にすっかりと広く、広く伸びきっている。
ハッとした、前方を進むリリスへと目を向けてみるが、彼女の意識はすっかり森の方へ向かっている。
後ろで呑気に練習している自分を、気にする余裕は、その表情からは感じ取れない。
チラリと後ろに目を向けてみると、ディアナさんはコクリと小さく頷いて、フッと視線を森の方へと向けてくれた。
もう警戒地点に入っているぞ。
と、練習にばかり気を取られていた自分に喝を入れるように。
彼女に促されるように、俺も慌てて意識を、森に向かって注視する。
草葉の不自然な動き、あの暗い向こうで動く像。
どんな些細な事も、俺は見落としてはいけないんだ。
迂闊だった自分にピシャリと喝を入れるように、頬を叩いて、集中し直せ、と体に言い聞かせた。
「アール」
「へっ!?」
後ろからの声に、つい変な声が出てしまう。
落ち着け、この声はディアナさんの声じゃないか。
振り返って間もなく、彼女が口を開く。
「アール、左手の草陰も気をつけろよ。どこから奴らが出てくるか分からない。自分の周囲すべてに、意識を向け続けるんだ」
「は、はい」
ポンポン、と二度肩を叩いた彼女は、そのまま馬の前を過ぎて幌馬車の右に回っていき、少し目を向けると後ろに回ってから、また最初のポジションへと戻っていった。
草むらに目を向けてみると、彼女の言っていた通り、疎らながらも背丈のある細い草が、ポツポツと伸びている。
そうだ・・・・・・動けばすぐに気付けそうな、あの草むらでも───。
俺達全員が、見逃しているうちに近づかれていたら、危ないじゃないか。
右手の森、左手の草むらに意識を向けようとした時、あの稽古で言っていた、ディアナさんの言葉が頭によぎる。
一点だけを見るな、全体で捉えろ。
前に目を向け直すと、リリスもゆっくりであるが、グルグルと草むらに、森にと歩きながら視線を向けている。
後ろを見れば、ディアナさんの動きは彼女の見ていない、死角を埋めるように動きながら、警戒をしていた。
あの時の言葉が、あらためて頭の中にジワリと伸び伝わっていく。
決して相手と戦う時だけに使える意識じゃない。
常に意識していれば、どんな状況にでも使えて、活きてくるモノなんだ。
こくりと、誰にする訳でもなく、自分に言い聞かせるように頷く。
そして俺も、彼女達の死角を、見ている所の補助が出来るように動いて、視線を向けていった。
-続-




