第6-3回「カウツの村」
・まだ平穏なパートになります。
俺の、初仕事。
ようやく馴染んできたニッコサンガの町から、幌馬車隊に付き添って、敵の襲撃に備える護衛旅。
今日は無事、何事もなく順調に進む事が出来た。
目的地である、ホックヤードの砦は、まだもう少し先。
出発した時にあれだけ明るかった空も、すっかり黒く染まり、夜の様相を見せている。
目的地の砦は、まだ遠い。
今、休ませてもらっている、このカウツの村からさらに歩いて、あと半日は掛かるという。
まだ先が長いという事もあるので、歩かせている馬や自分達も休む為に、マンソンさんも懇意にさせてもらっているこの宿で、今晩は休ませてもらう事になったのだが・・・・・・。
俺達が任されている職務は、運搬する荷馬車の護衛。
休んでいる間でもら誰かが荷馬車や馬が襲われないように、敵がやって来るのを見張っておかなければいけないのだ。
このカウツ村にも、いつ敵が来ても立ち向かえるように、武装した者が居るとディアナさんは教えてくれたのだが───。
それはあくまで、村の人が自衛の為に武装しているもの。
彼らが居るから、と任せきりにしてはいけない。
自分達の任された物は、自分達の手で守る。
そういう事もあり、今はディアナさんが1人、外で見張ってくれている。
「アール君、食べないの?」
「えっ?」
対面に座っているリリスから話しかけられて、慌てて視線を彼女の方に戻す。
宿の方から、明日に備えて、と温かい魚の入ったスープと、パンを振る舞ってもらったのだが、なかなか手が進まない。
温もりのある味に、ほろりと崩れる白身の舌触りが心地良い。
決してこの食事が、不味いと言うつもりは無いのだが・・・・・・。
腹がピンと張って、パンを噛んでもなかなか飲み込む気になれない。
スープを飲んでいるだけで、腹がどんどん満たされていく。
あれだけ歩いて来たはずなのに、ちっともお腹は空いてこなかった。
「ごめん、なんだかお腹空いていなくて・・・・・・」
「えっ、大丈夫・・・・・・?ちゃんと食べて休まないと、体壊しちゃうよ」
「う、うん」
彼女は手を止めて、心配そうに見つめている。
食べなきゃいけないのは、分かっているのだが・・・・・・。
外で1人のディアナさんの事を考えると────。
慣れているから大丈夫、と気丈に振る舞っている彼女だったが・・・・・・。
何か自分に出来る事はないだろうか。
俺にも見張りを、手伝えないのだろうか。
そんな言葉が頭をよぎる度に、ますますお腹の張りが強くなっていき、食欲が無くなっていく。
「すいません、ごちそうさまでした」
もうこれ以上、パンが喉を通らない。
残っていたスープを全て飲み干して、そう言いながら手を合わせて、頭を軽く下げつつ席を離れた。
「兄ちゃん若いのに、随分食が細いな。もういいのか?」
スープを飲みながら、マンソンさんも心配そうな目を向けながら、俺にそう話しかけてくる。
「ええ、大丈夫です。もうお腹いっぱいで・・・・・・」
「なんだ、食べないのか。じゃあ、もったいないから俺が貰ってもいいか?」
マンソンさんにそう返事をしていると、今度は横で食べていたトミーさんが話しかけてきた。
これ以上、本当に食事が喉に通らなかったので、彼の言葉をありがたく受け取り、残ったパンを食べてもらう事にする。
「よっと。それじゃ、遠慮なくいただくぜ」
笑顔を浮かべながら、俺の手元に1つだけ残ったらパンを彼はむんずと掴み、そのまま自身の手元へと持っていく。
「ほ、本当にもう、お腹いっぱいなの?」
トミーさんを苦々しそうに見つめてから、また彼女は心配そうに声をかけてくれる。
「うん、本当にもう入らなくて。ごめん」
「そうか。若いの、食べられる時に食べておかないと、後が大変だからな。遠慮しなくていいぞ」
お気遣いすいません、と言うように頭を下げてから、一歩後ろに下がる。
「すいません、ちょっと聞きたい事があるんで、外に行ってきます。ごちそうさまでした」
やっぱり、1人で夜回りしている彼女の所へ行こう。
まだ食事の席についている彼らに、もう一度頭を下げてから、側に置いてあった自分の装備を拾って、その場を後にする。
去り際にふっと、リリスの心配そうな表情が目に止まる。
大丈夫だよ、と言うように彼女に笑みを返してから、荷馬車が留め置かれている場所へと、足を進めていった。
-続-




